20.思い出は画面と心に
「……お、おう。」
俺はこう返事するしかなかった。花園にも何か罪悪感のようなものがあったのだろうか。王様ゲームとはいえども。
もしも番号が逆だったら、花園は王様の命令に従っただろうか……。って何考えてるんだ俺。
皆ガヤを入れるのかと思ったら、やりきってしまうと逆にそうでもなくて、終わった後も余韻か何かが残っていて黙っている。
こんなことだったらむしろガヤを入れてくれた方が……と思うが開登が強引に進行する。
「お、おっし、じゃあいいムードになってきたところで3回戦目行くぞ!」
いや、いいムードってなんやねんと突っ込みたくなってきたが、ここにきて謎の尿意が押し寄せてくる。
「あ、待って。俺トイレ行ってくるわ。」
参加したいのは山々だが、抜けるタイミングはゲームとゲームの合間しかない。前から行きたかったトイレに行くのはここしかない。
「おうよ。じゃあ修抜きで進めとくぞー。」
「……?」
俺がトイレを済ませると、何やらバルコニーみたいなものが店の奥にあることに気づいた。ファミレスでバルコニーとは珍しい。
せっかくなので行こうとして、ドアの近くまで来たところで外で既視感のある後ろ姿があることに気づいた。
もう辺りは暗くて、髪の色までは分からないものの、後ろで1つに結んだポニーテールと小柄な後ろ姿、それに、ピンクのトップスに水色のスカートを履いていたのは1人だけだった。
が、俺は誰だか分かっていつつもドアを開けた。
「何やってんだ?花園。」
やはり花園だった。突然俺の言葉が聞こえてきたせいか、ビクッと反応して、振り返る。
「かっ、神谷君!?何でここに!?」
「いや、こっちが聞きてえよ……。」
俺はバルコニーの柵に寄りかかって立っている花園と、少し距離を開けて立つ。
「実は以前、家族で昼を食べにここに来てね。そのときここ知ったから、夜だったらどうなのかなあ……って。」
家族、か。そういえば我が家は家族で外食なんてもう何年行ってないんだろうか。
「……そっか。俺は偶然見つけたから来たけど、まさか花園がいたとは。」
……この言葉は嘘だ。本当は外にいる人が花園だと確信した上で、ドアを開けた。話したいことも色々あったし、何よりお礼をしなければならない。
「後……、さっきはごめんっ。」
その流れで花園はそう言って、一方的に頭を下げる。
「……何で花園が謝るんだ?」
「いやだって、だって……ってあれ?」
「何で私謝ってるんだろ……。」
俺はその言葉を聞いて思わずぷっと吹き出してしまった。基本的にはしっかりしている花園も、こういう面もあるのだな、と。
「まあ王様ゲームと言えども多少はこっちの融通が効くはずだからな。あの場面で断らなかった俺が悪いかな。」
「そ、そんなことはないよ。あれはしょうがなかったってことにしよう、うん。」
俺は急に顔が赤くなるのを感じた。しょうがないってことにしたら急に恥ずかしさがこみ上げてくるのだ。
思い返して見ても、女子の頭を触って、しかも撫でるなんて初めてやったぞ俺。
「……そうだな。」
俺はそう言って丸い月を見上げた。とても綺麗で、幻想的だった。
「ねえ、神谷君。私って……やっぱり自分に自信がないのかな。」
俺は突然そう言い出す花園を見つめた。花園は俺の方を見ていなかった。幾度も道行く人に踏みつぶされる草を見ているようだった。
急に聞かれて驚く気持ちもあったけども、俺はなるべく正直に答えた。
「そうかもしれないな。花園はあまり表に出るってタイプの人間じゃないと思うし。」
「そう……。やっぱり……。」
「でも。」
切り出すとしたらここしかない。俺はただのんびりと喋りにここのドアを開けたわけではない。目的があってここに来たのだ。
「体育祭のリレーのときの花園は自信たっぷりって感じだったぞ。特にリレーとか。」
リレーの話をし出した瞬間に花園の華奢な体がビクッと反応して、苦い顔をする。早くも花園の中ではあれは黒歴史となっているようだった。
「いやいやいや!あの応援は私も体育祭の雰囲気に押し出されたというかなんというか……。」
俺はめちゃくちゃに弁解する花園を遮るかのように、ゆっくりと言った。
「……ありがとな。応援。」
温かい風が2人の間を駆け抜けた。花園は恥ずかしがる素振りを一切見せなかった。そしてその代わりに俺をずっと見つめていた。
「……どういたしまして。」
そしてニッコリと笑った。今日の花園も基本的にはいつもの花園なのだが、今日はどこか根本が違った、そんな気がした。
「はいはいお2人さん。いいムードなところ悪いんだけど、そこまでそこまでっ。」
ここで俺と花園の会話を中断したのは菜月だった。俺と花園はすっかり会話に夢中で後ろの方を全く気にしていなかった。
「いいムードとかそういう話をしてたんじゃ……!」
「集合写真撮るってよ!」
俺はそう慌てる花園を見てなんだかほっとした気持ちになる。やっぱりいつもの花園栞だった。
「しゃーねぇ。この話はまた今度だな。」
俺からしたら何気ない一言だった。
「……またいつか、絶対続きしようね。」
そのはずだったのに俺はドキッとしてしまった。やっぱり今日の花園は何か違う。具体的なことまでは掴めないけども、
いつもより自分に自信があるような……。
「おせーぞ修!どれだけトイレ行ってんだ!」
テーブルに戻るやいなや打ち上げリーダーの開登からお叱りの言葉を受ける。その開登は近藤に肩車してもらって集合写真の中でも異彩を放っている。主に悪い意味で。
「全員揃ったー?」
女子を束ねるリーダー的存在は菜月らしい。俺たちの正面でスマホを持っているが、セルフタイマーの機能で撮るらしいので、しっかり全員映るということ。
「ちょいちょい!近藤バランス悪いって!」
「男1人抱えるってかなり重いんだぞ!」
「それくらいなんとかしなさい!俺は言わば体育祭のヒーローだからな。」
いやそれ自分で言っちゃうんだ……と誰しもが心の中で突っ込む。
「全員いるようだからボタン押すよー!」
俺と花園がバルコニーから合流したときには既に皆並んでいたので、花園は端っこの方に、俺は皆に割り込む形で真ん中に入った。
「3!」
3秒後にシャッターを切るように設定したらしい。この段階で既にポーズを取っている人もいれば、まだふざけあっている人もいる。
「2!」
「体育祭のヒーローは800mでほぼ最下位を取りません。」
「今それ言う!?」
直前まで馬鹿やっている近藤と開登の会話でクラス全体が笑いに包まれる。いいところばっかり目立っている開登だったが、やはり開登だった。
「1!」
そして皆、お約束のピースサイン。目をつぶらないように、瞬きをせず……。
パシャリ。
菜月のスマホに2年7組、最初の思い出が刻まれた。
これで1章は終了です。
章と章の間は短い外伝を挟みますので、ご了承ください。




