第四話 歪んだ鏡像
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・事件等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「俺のタチカキを見せてやる」
男の身体からは、まるで別の生き物のような存在感が放たれていた。肉体は鋼のように研ぎ澄まされ、瞳の奥には一切の迷いがない。それは、蓮が学んできたものとは真逆の、純粋な闘争の塊だった。
「なぜタチカキを知ってる?お前は誰だ?」
蓮は狼狽しながらも男との距離をはかりながら叫んだ。
「俺の名前は九条凱だ。蓮」
凱が動いた。予備動作は全く無く、蓮の「天地人」を遥かに凌駕する、無駄を削ぎ落とした足運び。同時に、凱の拳が蓮の顔面めがけて突き出された。
「・・・!なぜ俺を知っている」
蓮は、これまでで最も完璧な「清流」で受け流した。相手の力を流し、衝突を避けた。しかし、凱の拳は流れなかった。蓮の掌に触れた瞬間、凱の筋肉が僅かに収縮し、まるで槍のように突き進む。
蓮は弾き飛ばされ、石畳に叩きつけられた。追撃が来た。凱の蹴りが、蓮の胴体へと叩き込まれる。これも「天地人」の理を応用した、最速の体捌きからの強打。蓮は必死に腕で受け止めたが、その衝撃は背骨まで響き、内臓が揺らされた。
「お前の『雷鳴』は、ただの震動だと言っただろう!」
凱の右拳が、蓮の腹部に深く突き刺さる。 それは槍のようだった。物理的な衝撃と、神経を焼き切るような痛みが、蓮の全身を駆け巡る。視界が白く点滅した。
意識が薄れていく中で、蓮は感じた。凱の技は、純粋な破壊。純粋な闘争。これこそが、思想を捨てたタチカキの完成形。
「……これで終わりだ、蓮」
凱が最後の「雷鳴」を放とうとした瞬間、パトカーのサイレンが鳴り響くのが聞こえた。
「ちっ!」
凱は舌打ちし、闇の中に消えていった。
朦朧とする意識の中、蓮は凪に抱えられ、境内に横たわっていた。自分の不甲斐なさに、歯噛みする。
あの時の凱の拳には、一切の迷いがなかった。それはまるで、自らが信じる正義のために、全てを捨て去った者の輝きだった。
「大丈夫か蓮。」
父である神官が、静かに蓮を見下ろした。
「あぁ、だがアイツは誰なんだ?俺のことを知ってるが、俺はアイツをしらん。」
「、、、また改めて話をしなければならんな、だが、まだタチカキについて、お前は知らないことが多すぎる。」
父は、蓮の頭に手を置き、遠く北の空を指差した。
「北の果て、雪深い山の神社に、岩戸巌鉄というやつがいる。まずは、彼のもとで、タチカキとは何かを学んでこい、こっちは何とかしとく、」
「おい学校はどうすんだ?」
「それも何とかしとくから安心していってこい。」




