第二十話 二筋の先
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・事件等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
あの決戦から数年。
どこかの港町。霧に包まれた古い石畳の路地を、一人の男が歩いていた。
長めのコートに身を包み、深く被った帽子の隙間から覗くのは、
九条凱だった。
あの日、蓮と凪を残して立ち去った凱は
現在の彼の左腕は、重厚な戦闘用義肢ではなく、人肌に酷似した精緻な義手へと変わっている。
凱は路地の奥にある小さなカフェに入り、窓際の席についた。
手元にあるタブレットには、世界各地で発生している地域コミュニティの崩壊データが表示されている。
「……このままでは、世界が終わってしまう。」
凱は小さく、呟いた。
今の彼は、かつてのように「力による強制的な管理」をしようとは考えていない。
完璧な予知による統制を目標としていたが、蓮という「今を生きる人間の意志」に敗北したあの日から、
彼の理論は変質していた。
画面をスワイプすると、日本のある神社の現在の様子が映し出された。
楽しそうに境内で笑い合う蓮と凪の姿。
「……どこまで狂い、どこまで世界が壊れるか、見届けさせてもらうよ、神代」
凱が淹れ立てのコーヒーに手を伸ばしたその時、彼のタブレットに暗号化された一件の通知が届いた。
送信元の署名はなく、ただ一つの座標と短いテキストだけが記されている。
『新たな崩壊の予兆を検知』
凱の黄金色の瞳が、一瞬だけ鋭く輝く。
彼はコーヒーを飲み干すと、席を立ち、再び霧の街へと消えていった。
光の当たる場所で世界を繋ぐ者が蓮であるならば、影の深淵で崩壊の予兆を打ち砕く者が凱。
二人の思想は、形を変え、交わることなく、しかし確かに同じ未来へ向かって動き出していた。




