45 話・第二王子・エーリッヒ
しばらくすると、夕食の準備が整ったということで部屋を移動することになった。
オーガストの部屋に案内してくれた執事がまた先導してくれている。
アルヴィーがノアに聞いたところによると、彼はノア専属の執事で名前をハンスというらしい。
広く長い廊下を歩いていると、前方から誰かがこちらに向かって来るのが分かった。
何人かのメイドや執事を従えたその人物は、真っ直ぐアルヴィー達に近付いてくると、悠然とした態度のままサフィールの目の前で立ち止まる。
間近で見ると、それは少し釣り上がった目元に、アンダーリムの細い眼鏡が印象的な整った顔の青年だった。美しく長い金髪を後ろで纏め、左肩から前に流している。
「やあ、サフィール嬢。お久しぶりですね」
「これはエーリッヒ様。こちらこそ、お久しぶりでございます」
サフィールに声をかけてきた青年に対しサフィールは丁寧に挨拶を返し、ドレスの裾を摘んで片足を後ろに引き膝を曲げる。
カーテシーと呼ばれる最敬礼だ。
「サフィール嬢が来ていると聞いてね。ぜひ挨拶をと思ったんだ」
「それは光栄ですわ」
「相変わらず美しい。ノアが羨ましいよ」
「お上手ですこと。エーリッヒ様は隣国の王女様との婚約が決まったとお聞きしました」
おめでとうございます、とまたサフィールが頭を下げる。
その様子から、この青年はかなり地位の高いひとなのだとアルヴィーは判断した。
青年は眼鏡のブリッジを押し上げて「ありがとう」と言った。
「といっても、政略結婚だけどね」
そう言って、エーリッヒという青年はノアを見て口の端だけで笑う。
「想い人と結婚できるなんて、この家ではお前くらいのものだ」
その表情はただ微笑んでいるようにも、自嘲しているようにも見えた。
「【神の贈り物】……ギフテッドであり、自分の愛する相手を生涯の伴侶にできる。お前は本当に、全てに恵まれているな」
「エーリッヒ兄さん……」
「それに比べ、何の才もない私はせいぜい国のため隣国へ婿入りするくらいしかできん」
そこまで言ったあと、エーリッヒは「いや、いかんな」と被りを振った。
「愚痴っぽくなってしまってすまない。これは受け入れるしかないことだからな」
そう言ってエーリッヒは苦笑した。
知的な印象を受けるその顔は、ほんの少しだけノアに似ているようにアルヴィーには見えた。
「ではサフィール嬢、私はこれで。お会いできて良かった」
「こちらこそですわ、エーリッヒ様。貴重なお時間をありがとうございます」
そうしてエーリッヒはノア達の隣を入れ違う形で歩き去って行った。
彼は最後までアルヴィーとテオドールについては何も触れなかった。
「……さあ、さっさと行こう」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
今回の新キャラは、ノアの二番目の兄・エーリッヒです。
見た目はインテリ眼鏡のイメージ。
王族なので政略結婚が当然の中、ノアだけが意中の相手であるサフィールを婚約者としている事に思うところがあるようです。
彼はまた登場させる予定です。
そして、第二王子がいるという事は、第一王子がいるという事!
その内、第一王子や、王や王妃も登場させたいですね。
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