44 話・君が笑ってくれるから
自信なさげにする婚約者に、ノアは噛んで含むようゆっくり言い聞かせた。
何故か自分を過小評価するきらいのあるサフィールには、こういう時ちゃんと言葉で説明してやらねばならないとノアは知っている。
「テオくん、アルくん」
ノアが子供達に声をかけると、二人が揃って顔を上げた。
「二人とも、サフィーのこと好き?」
その問いかけに二人は最初きょとんとして、それからすぐに、
「大好きです!」
と、声を揃えた。
「なんでそんなこと聞くんですか?」
「なんでもないよ、ちょっと確認したくて」
答えの決まりきった質問にアルヴィーが首を傾げる。
それをノアは笑ってごまかし、向かいのサフィールへ視線を戻した。
「ほらね?」
「……」
笑顔のノアにサフィールは無言だったが、その小さな耳が赤く染まっているのをノアは見逃さなかった。
「二人とも、ここは食べ物や紅茶でいっぱいだから、本を読むならあっちの大きいテーブルを使うといいよ」
「はい!」
ノアの提案に二人は同じタイミングで立ち上がり、両手で本を大事に抱えて足早に移動する。
するとメイド達がお菓子などを取り分けて、そちらのテーブルに運んでいった。紅茶も新しく淹れ直してやっている。
しかしそれには目もくれず、二人は本の内容に夢中になっていた。
「あんなに夢中になってくれると、こっちまで嬉しくなるね」
「そうですわね。きっと今夜は夜更かしをして見てしまうんじゃないかしら」
くすくす笑うサフィールを見て、ノアは笑みを濃くする。
サフィールが喜んでくれることで、ノアは更に嬉しくてしあわせな気持ちになれる。
サフィールの笑顔で、ノアもまた笑顔になれるのだ。
「ねえ、サフィー」
「はい?」
「好きだよ」
子供たちに向けられていた視線がノアを向く。
そして告げられた言葉に、サフィールは数度瞬きをし、ふ、と笑った。
「知ってますよ」
少し勝ち気に見えるその笑顔に、ノアはただ「うん」と頷く。
出会ってから何度も何百回も何千回も、もしかしたらもう何万回も告げている言葉。
あまり何度も言うと言葉の重みがなくなってしまうと聞いたことがあるが、ノアはそれでも言わずにいられなかった。
自分がサフィールを愛しく思っていることを常に伝え、知っていてほしかった。
「もう耳タコですわ」
「まだまだ足りないよ」
苦笑するサフィールにノアが言う。
「今日は久しぶりのお泊まりだね、楽しみ」
「そうですね、アル達は私の部屋で一緒に寝ることにしましょうか」
「え、ズルい私も一緒に寝たい」
当然、唇を尖らせて不満を口にするノアにサフィールは「ベッドが狭くなりますね」とくすりと笑った。
その予想外のリアクションに、ノアが「え」ときょとんとする。
「……私も一緒に寝ていいの?」
自分で催促しておいて顔を赤くするノアに、サフィールはおかしくなってくすくすと笑う。
「あの子達を真ん中にして、ノア様がくれた本の読めない部分を読み聞かせてあげましょう」
「……あ、そういう」
「あら、何を考えていたのでしょう?」
「い、いや、べつに何も」
「そうですわよね。婚姻前の婚約者に……、それも小さな子供がいる場所で手を出そうだなんて考えませんよね」
「あ、当たり前だよ! 私だってそのくらいの節度はあるよ!」
顔を真っ赤にして慌てるノアに、思わずサフィールは「あはっ」と声を出して笑ってしまった。
「わかってますよ、そんなこと」
屈託なく笑うサフィールの顔を見てノアは一瞬ぽかんとして、次に胸がしあわせでいっぱいになって満面の笑顔になった。
「楽しみだねえ」
「どうしたんです、急に笑顔になって」
「だって、サフィーが楽しそうに笑ってくれたからさ」
「なんですのそれ」
くふ、とまた笑うサフィールに釣られてノアも笑う。
今夜は夜更かし決定だね、他には何をしようかと言って、二人は悪戯を考える子供のように笑っていた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
今回はノアとサフィールのイチャイチャ回ですね(笑)。
ノアはサフィールを誰より理解しているので、自己評価の低いサフィールにきちんと言葉で伝えるようにしています。
愛の言葉も例外ではありません。
サフィールは自分への好意に鈍いので、ノアは昔からことある事に「好きだよ」「愛してるよ」と言いまくっていたことでしょう。
なので、サフィールはノアの好意は現在すんなり受け止めています。きっと昔はノアの気持ちも伝わらずやきもきすることもあったと思います。
そういう話も書きたいですね。
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