第三話「ユート・クノガルド」
入学してから数日。
最初は腫れ物のように扱われていた私だけど、あっという間に女生徒からの人気の的になった。
私の溢れ出る魅力が、淑女達を惑わせてしまっているのだ。いやぁすまないすまない。
「ミア様」とチヤホヤされているわけだけど_
〝アイツら〟の人気より負けているのが気に食わない!
「きゃー!!ユート様のお通りよー!」
噂をすれば、来やがった。
シレーっとした顔で黄色い声をスルーする、ユート・クノガルド。
確か、極度の女嫌いという設定だったはずだ。
ケッ、と内心悪態づきながら、廊下を歩く彼の背中を見送る。
「うーん…どうしよう…」
?、どうしたんだろう。
廊下の隅の方から、困った様子の女生徒の声が聞こえた。
「どうしたの?」
「ミ、ミア様…!」
慌てた様子の彼女に、私は優しく微笑む。
「困っているようだったから。何か手伝えることはある?」
「そんな、ミア様のお手を煩わせることなんてできません…!」
彼女の足元には、段ボールが一箱床に置いてあった。
恐らく、重くて運べないといったところだろう。
「これ、運べばいいの?」
「あ…!す、すみません!」
段ボールを持ち上げると、確かにズシッとした重みが腕にかかった。
こんな重い物を女の子に持たせるなんて…一体何を考えているんだ?
「謝らないで、私が貴女の助けになりたいだけだから。どこに運べばいいのかな?」
「に、西棟の倉庫です…!」
「わかった。じゃあまたね」
まだ申し訳なさそうな様子の彼女に、安心させるように微笑む。
彼女の頬が赤くなったのが見えて、私は内心「ふふん」とご満悦だ。
しかし西棟の倉庫とは、これまた遠い。
…本当にこれは、彼女が正式に頼まれた物なんだろうか?
もしかして、無理矢理押し付けられたのかな…。
うん、これからはあの子のことを注意して見ておこう。
彼女がいじめられている様子があれば、すぐに助けに行けるように。
■■■
西棟は、主に授業を受ける東棟と離れているから、あまり人気がない。
せっかく来たし、探検でもして帰ろう。
荷物を運び終え、プラプラと西棟の庭を歩いていると_誰かが植木の傍にしゃがみ込んでいるのが目に入った。
_誰だろう?
不思議に思って近づくと、そこには…
「か、可愛い!」
小さな子猫が、にゃーんと愛らしい姿で座っていた。
「君は…?」
「あっ、ごめんなさい。急に声を出してしまって…あ」
猫の目の前にしゃがんでいた生徒は、なんとユート・クノガルドだった。
綺麗なサラサラの銀髪に、青い瞳。間違いない。
てかやばい、「あ」とか言っちゃった。
「ね、猫!可愛いですよね、お好きなんですか?」
何か誤魔化さないとと、私は焦って話題を出した。
すると意外なことに、ユート・クノガルドは返事をしてくれた。
「…あぁ」
「そうなんですね!私も同じです」
私も彼の隣にしゃがみ込み、子猫を見つめる。
あぁ、何て可愛いの。生まれ変わったら今度こそ猫になりたい。
「よく、この子のところに行くんですか?」
「…まぁ」
へぇ、そうなんだ。
今もパンの欠片をやっているところを見ると、毎度エサを持ってきてあげているんだろうな。
じーっと手元を見ていたことに気づいたのか、ユート・クノガルドがこちらを見た。
「…やってみるか?」
「いいんですか!?」
ヤッタァ、と内心喜びの舞を踊る。
パンを一欠片もらい、そっと子猫の口元に寄せる。
すると、一生懸命にぱくぱくぺろぺろと平げてしまった。
「本当に可愛らしい…」
うっとりしながら子猫を見つめていたけれど、子猫は食べ終わったらすぐにユート・クノガルドの方へ行ってしまった。
「すごく懐かれているんですね」
「…そうだろうか」
「えぇ。子猫が貴方のことを信頼しているのが、見ていればわかります」
子猫は嬉しそうに、ちょこまかとユート・クノガルドの足元をぐるぐるしている。
「…コイツは似てるんだ、俺と」
「え?」
確かに子猫の毛の色も銀だけど。
「多分コイツは捨て猫だ。人に慣れているし、初めて見た時はもっと毛並みも良かったから」
…そうなのか。
今も毛並みは悪いわけじゃないけれど、“野良猫”という範疇に収まった風貌をしている。
「余計な話をしてしまったな。忘れてくれ」
「いえ、…。」
何も言うことが思い浮かばず、私は口をつぐむ。
微妙な空気が流れる私たちなどお構いなく、子猫はにゃんにゃん鳴きながらユート・クノガルドに「撫でろ」と要求していた。
「ふふふ」
思わず笑ってしまった私を見て、ユート・クノガルドが意外そうな顔をした。
「なんですか?」
「いや、…」
何だろう。意味深だなぁ。
「でも、確かに似てますね。貴方とこの子猫」
「…。」
「人懐っこくて、瞳が綺麗なブルーです」
笑いかけると、ユート・クノガルドは驚いたように目を見開いた。
「…人懐っこいなんて、初めて言われたが」
「そうですか?初対面の私と、こうやって話してくれているじゃないですか」
サァ、と風が吹いて、ユート・クノガルドの綺麗な銀髪を揺らした。
「…君は、」
キーンコーン、と、夕刻を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あら、もう帰らなきゃ。エマに怒られちゃう」
怒ったエマは怖い。
今日のデザートを抜きにされてしまうかも!
「ごめんなさい。先程何か言いかけませんでしたか?」
「…いや、何でもないんだ」
「そうですか?では、失礼いたします」
ペコリとお辞儀をして、私は急いでその場を去った。
…ってか、ユート・クノガルドって女嫌いなんじゃなかったっけ?
私が男装女子ってこと、知らないのかな?
まぁでも、他人にあまり興味なさそうだもんな…。
それよりも、今日の夕ご飯は何だろう!?
ビーフシチューがいいなぁ〜。
■■■
彼女が去った西棟の庭で、俺_ユート・クノガルドは一人立ち尽くしていた。
「…不思議な奴だ」
男子の制服を着てはいたが、華奢な肩に高い声。
口調にも男らしさは微塵も感じられず、それ故気が緩んでしまう。
笑顔はひだまりのようで、無愛想と罵られがちな俺を「人懐こい」などと評する。
…変な奴もいるもんだ。
いつもは一人で、子猫と孤独な身の上を慰め合っているような気分だった。
だけど、今日は_
_心が暖かくなっているような、そんな気がした。
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