新しい朝がくることが辛かったのを思い出した
「新しい朝がくることが辛かったのを思い出した」
目が覚めて今日やるべきことを思い浮かべた俺は、元の世界でそうだったように朝から憂鬱な気持ちになった。
(こんな気持ちは久しぶりだ・・できれば思い出したくなったけどな!)
今日は体に巻く包帯が重い気がしていた、そういえば月曜日の朝のスーツもこれくらい重かったなと俺は思っていた。
俺は簡単な朝食を食べ、クッキーを小分けに袋詰めしてそれをもって家を出た。
門から出るとすでにロノリアがいたのでロノリアの分の他にヨールとレソートの分の袋を渡して届けてほしいとお願いした。
ロノリアの店を裏口から出た俺は昨日来た道をまっすぐ戻ってカリファーの借りた店舗へ移動した。
裏口から入るとちょうど表の扉が開く音がした。
店スペースに向かうと青いワンピースにエプロンを付けたナコとなぜかタキシードを来たカリファーがいた。
「おはようナコ」
「おはようございますリーシェ様」
「ナコ、様付けじゃなくていい。俺とお前は職場仲間なんだからな」
「はい、リーシェさ・・さ・・さん!」
俺は視界にナコだけしか入れないようにして今日やることをナコに説明しようとするとカリファーが声をかけてきた。
「リー、俺には挨拶はないのか?」
「おはー」
そっけなく挨拶して、すぐにナコに向きなおした。
「つれないなリー。俺の恰好を見てなにかないのか?」
「これからパーティーかなにかか?」
「僕は今日は商人ギルドに開店に関する資料を提出しにいくんだ」
「その恰好の意味は?」
「昨日のリーの言葉を聞いて俺も考えたのさ。常に店にいるナコは店の顔になる。ならば外回りをする俺は商会としての顔だ、つまり舐められないようにこの恰好をしているのだ」
(バカにされるに決まってるだろうが!ってツッコミたいけどもう相手にするのも疲れた)
「ところでその服、いい服だな」
「そうだろう?俺も磨きがかかって見えるだろう」
「ああ、肌触りの良さそうないい材質だな・・・また使ったのか?」
「問題ない、必要経費だ」
本気でそう思っているであろうカリファーを俺は睨みつける。
「いいかカリファー?商人ギルドに行っても資料の提出とそれに関係する話以外は全部聞き流せ、それが儲け話だとしてもだ。これは絶対守れ、もし今日少しでも金が動くような取引してきたら俺は手を切らせてもらう」
「わかった、わかったからそう睨むな、言う通りにする」
そう言い残すとカリファーは俺の視線から逃げるように店を出て行った。
「リーシェさん、あまり御主人様を怒らないであげてください。御主人様は御主人様なりに一生懸命なんです」
「一生懸命なのはわかる、でもなナコ。ナコはまだ知らないかも知れないがあいつは頭の回転が速い」
俺の言葉にナコは最初「え?」と首を傾けた。
「カリファーは頭がいいんだ。俺も1度しか見たことなかったがその時は心からあいつと仕事ができると喜んだんだ。だから1度でも認めた男が馬鹿やってる姿が悔しくてしょうがないんだ」
「そ、そうなんですね・・」
「ああ、だから俺はあいつが馬鹿なことをすれば怒る。それは辞めないなぜならあいつは出来るやつだからだ」
そこまで語るとナコは目を輝かせて「わかりました」と大きく返事をした。
(これでカリファーが馬鹿やった時に堂々と怒れるな)
「じゃあ気持ちを切り替えて今日の作業の話をしようか」
俺はナコに俺が昨日の夜やっていた、剣だけを選んでその中から折れているものと折れていないものに分ける作業を頼んだ。
「俺は昨日の夜に仕分けた分を砥ぎ直してるからなにかあったら作業部屋まで来てくれ」
「はい、わかりました」
「あと扱うのは武器なんだから気をつけてな、もし少しでも切ったりしたらすぐに俺に行ってくれ。錆びた刃もいくつか見えた、そういうのはかすり傷でも危ないんだ」
「はい、気を付けます」
「じゃあご安全に!」
「はい、ご安全に?」
自然に口にした元の世界の仕事開始の挨拶。
ナコにはわからないだろうと思ったが説明する必要もないかなと考えて俺は作業部屋に向かった。
作業部屋には昨日選別した折れてない剣が作業台に並んでいた。
(カリファーの時みたいに薄くしたら売れなそうだし形を整えるだけにしていこう)
最初の1本で方針を決め、1本、また1本と砥いでいく。
しばらく作業を続けていたが太陽の位置をみて昼休憩にしようともった俺は、砥ぎ終わった剣を持って作業部屋を出た。
店のスペースではナコが一生懸命作業していた。下着姿で。
「なぁ、ナコ?」
「あっ、リーシェさん休憩ですか?」
「いやそれもなんだけど。どうしたその恰好?」
「お洋服が汚れてしまうので」
「そうか・・・。まずは服を着てくれ。昼飯を食べに行くぞ」
「はい、わかりました」
「あとナコの作業用の服を買うぞ。目のやり場に困る、俺の為だと思って受け取ってくれ」
俺はナコが断れないように捲し立てると服を着たら呼ぶように言って作業部屋に戻った。
しばらくするとナコが呼びにきたので戸締りを確認して店をでた。
昼飯は店のある通りに出ていた出店で串焼きの肉と果物の飲み物を買ってその場で食べた。
その後大通りの中古の衣類の店でナコに動きやすく少し厚手の服を上下と3人分の厚手の手袋を買って店に戻った。
「リーシェさんありがとうございます」
「午後からはこっちに着替えて作業するように!汚れてもいいやつなんだから勿体ないとか言って脱ぐなよ?あと危なくないように手袋を買ったけど滑って危なそうなら使わなくてもいいからな」
「はい、わかりました」
「作業に戻る前に少しいいか」
「なんでしょうか?」
「そのカウンターのとこに置いたやつが砥ぎ終わったものなんだが」
「もうこんなに終わったんですか!?すごいです・・」
「ありがとう。でな?これを店に置くとなるどういうふうに並べたらいいのかなと思ってな」
「そうですね・・。値段で分けて安いものは樽を用意してまとめて入れて、高いものや売れそうなものを並べるといいと思います」
「値段別かぁ・・。ナコわかるか?俺、鉄かそうじゃないかくらいしかわかんないんだけど」
「わかりました。それは私がやりますね」
「おっできるのか?それは助かる」
「元は武器を扱う商会の娘でしたから。と言ってもこれくらいのことしかできませんが」
「そうだったのか?」
「はい、御主人様もそういう経緯を聞いて私を選んでくださいました」
「そうだったのか・・。うん、じゃあ店の方も任せるよ。まぁその山が片付いてからになるけどな」
「はい!がんばります」
「じゃあ俺はまた作業部屋に籠るよ。これは貰っていくから引き続き頼むよ」
俺は選別された折れてない剣を抱えるとそのまま作業部屋へ向かった。
しばらく作業をしているとノックする音が聞こえた。俺が返事をするとナコが扉をあけて入ってきた。
「剣の仕分け終わりました」
「そうか、じゃあそれを作業部屋に運んだら少し休憩にしようか」
俺とナコは折れてない剣を作業台にそして折れた剣を作業部屋の片隅にすべて運ぶと2階の休憩室で軽く休憩をとった。
ナコがお茶を入れてくれたので俺は持ってきていた昨日作ったクッキーもどきの余りを出す。
ナコは最初不思議がったが1つ口に入れるとと幸せそうな顔をして味わって食べていた。
休憩が終わる頃ナコはやる気に満ち溢れていたので、一緒に休憩室に広くスペースが取れるように片づけて下の残りの武器を種類別に分けてここに運ぶように指示を出した。
「店のスペースが空いたら商品の置き方を考えて必要なものを決めておいてくれ」
ナコは「はい」と元気よく答え、休憩室の家具を動かし始めた。
俺は作業部屋に戻り作業を再開した。
カリファーが帰ってくる頃、店のスペースはちゃんと店に見える程度に商品が並んでいた。
ちなみに俺がこの日砥いだ剣は200本を超えていたという。




