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魔王と元始の罪  作者: 長瀬 優太
全ての始まり
25/25

0:25 入院

目がさめると、ユーグはベットに横たわっていた。鼻孔を、消毒液の匂いが擽り、目覚え

のある天井から、ここがガンガルディア唯一のの医院ーーミラルド医院である事が分かった。


そして、消毒液の匂い以外にも、仄かな甘い香りがすぐ側から漂い、また、スースーと規則正しい寝息が聞こえると共に、温かい人肌の体温が身体に伝わってきた。


「この気配は⋯⋯やっぱり」


ユーグが視線を下げると、そこにはベットにうつ伏せになりながら静かに眠るクレアの姿があった。


「ユーグ⋯⋯ユーグさん⋯⋯あなたも⋯⋯私を⋯⋯」


しかし時折苦しそうにそう呟くクレア。

何やら悪い夢でも見ているのだろう。

その様子を見ていられなくなったユーグは、思わずクレアの頭を撫でていた。すると、次第に表情を緩め、心の底から安心しきった顔になっていた。


「ユーグ、入るぞ~」


「ユーグくん、身体の調子はどうだい?」


アボットの一言と同時に戸が開かれ、二人の男性が入って来た。アボットとアルトリウスだ。


突然の来訪者に思わず固まるユーグ。その手は未だにクレアの頭の上にある。


「ユーグ、お前⋯⋯」


「いや、これはーー」


ユーグは続けてこう言いたかった。


クレアさんが夢にうなされ苦しそうにしていたのを見たら、無意識の内に撫でていたんだ


と、しかし、ユーグはその言葉を飲み込み、代わりに深く頭を下げて謝罪した。


「いえ、申し訳ありませんでした。娘さんにこの様な無礼を働いてしまい。護衛の身でありながら馴れ馴れしくし過ぎてしまいました」


ユーグは、護衛の任を解かれる事を覚悟していた。それは、ユーグの行動は明らかな職務違反ーー対象者への余計な私情は咄嗟の判断を遅らせ曇らせる。この事から職務規定では過剰な接触を禁止していたーーであり、公私混同が認められるからである。


それにいくら、護衛の対象者から気安くしてくださいと言われていても、それは態度や言葉遣いであって、身体等の接触を許した訳ではないからであった。


けれども、ユーグは後悔していなかった。

悪夢に苦しむクレアを救えた、それだけで満足だった。

しかし、その覚悟を打ち砕く様にアルトリウスは言葉を放った。


「いや、安心したまえ。私も娘もそれを望んでいる。君には、公私共にクレアと仲良くなって欲しい。この娘には私のせいでなかなかそういった人が出来ないのでな」


それはクレアの日常に起因する。

アルトリウスとクレアは常に旅をしている。世界中を渡り歩き、昔の仲間達を訪ねている。中には、クレアも見知らぬ人もいた。

そんな訳で、定住地も無く、気の合う人がいても二、三日で次の街に向けて出発してしまい直ぐに離れ離れになってしまう。


「本当ですか⁉︎ 」


「ああ、本当だとも。それに君には⋯⋯っとこの話はまた今度にしよう」


何か言いかけたアルトリウスだったが、クレアが目覚めた為、話を中断した。


「ん~~」


クレアは身じろぎをし、ゆっくりとその眼を開いた。しばらくぼーっとしていたがユーグが起きているの事に気づくと嬉しそうに頬を緩めると、笑顔を咲かせたままユーグに抱きついた。


「あっ、ユーグさん。よかった目が覚めて! 傷は治っているはずなのに中々意識が回復しないから心配しました」


「く、クレアさん!」


「あっ、ごめんなさい。嬉しくてつい」


「いえ、こちらこそご心配をお掛けしまい申し訳ありませんでした。この通り⋯⋯痛っ⋯⋯」


体調が万全だと示そうと腕を動かすと鋭い痛が走った。


「大丈夫ですかっ、 まだどこか怪我を⁉︎」


「いえ、ただの筋肉痛です」


「それはつまり、日々の鍛錬不足って事だな。よし明日から猛訓練だ」


その突然の言葉に初めてクレアはアルトリウスとアボットに気がついた。


「あっ、お父様。それにアボットさん、おはようございます」


「えぇ、おはようございます。クレア様」


「おはよう、クレア」


「お父様達はどうしてこちらに?」


「私達は君達の様子を見に来たんだ」


「そしたら⋯⋯なぁ、ユーグ」


その意地悪そうに言うアボットの追求を誤魔化す様に露骨にユーグは話題を変えた。


「い、今更なんですがアボット隊長、自分はどうしてここに?⋯⋯確か自分は⋯⋯メルドの森でヘルハウンドと遭遇して、それで⋯⋯倒したところでしか記憶が無いのですが⋯⋯」


「そりゃあ、俺が担ぎ出してここに運んできたからだよ」


「しかしなぜ、自分たちがあの場所にいるとわ分かったのですか? 」


「そりゃあ、あんなに黒煙が出ていればな。それに、サーラからセルナートの実も採りにいってもらったって聞いていたからな」


「そうでしたか⋯⋯ありがとうございました」


「礼は、サーラとクレア様に言っとけ。サーラがいなかったら早くに駆けつけられなかったし、クレア様が光精霊術で結界を張ってお前を守ってくれてなかったら、あのまま他の魔獣に喰われていたぞ」


「はい、後で必ず!」


「あぁ、そうしとけ!⋯⋯しかしそれにしても、ユーグお前、ヘルハウンドを倒したんだってな、凄いじぁないか! その歳でヘルハウンドを倒すなんて。俺も見たが、あれ程大きいのはそうはいないぞ」


「いえ、自分だけの実力ではないです。クレアさんが精霊術で支援してくれたお陰です」


「さすが⋯⋯」


「何か言いましたか?」


「いや、なんでもない」


「そうですか⋯⋯では、明日の訓練の件、よろしくお願いします」


「お、おいそれは冗談だよ。死力を尽くして戦ったら誰でもそうなる」


「冗談だったのですか?」


(そういや、こいつには冗談は通じなかったなぁ。人の話簡単に信じまうからなぁ)


「まぁ、そうだ。実際にお前、動ける状態じゃないだろ?」


「いえ、大丈夫です。動けます」


「無理をすれば、だろ。いいからせめて今日一日だけでも安静にしてろ」


「しかし、もし自分がここにいたら、その間のクレアさんの護衛はどうするのですか⁉︎」


「なら、私が看病します。そうすればユーグさんはここから動かなくて済みますから⋯⋯それに私を護って、倒れたのですから」


「いや、流石にそれは⋯⋯」


「それはいい名案ですね。よしユーグ、クレア様に看病してもらえ、これは命令だ!」


「⋯⋯っ、了解しました」


「じゃあ、俺達は、もう行くからな。⋯⋯さぁ行きましょうアルトリウス殿」


「そうだな、二人の元気な姿を見に出来たからな。では、二人ともまた明日な」


「はい、お父様。また明日!」


「今日はありがとうございました」


その言葉を受け、背を向けて病室を退出していった。しばらく二人は無言だったがクレアが何かに気づいた様に声をあげた。


「ユーグさん、その右手の甲の痣どうしたんですか?」


そうクレアが指し示すのは、ユーグの右手にうっすらと刻まれた模様の事だった。



「えっ、あっ、本当だ。多分、ヘルハウンドとの戦闘中に何処かでぶつけたのだと思います」


「大丈夫ですか? 痛みませんか?」


「大丈夫です。痛みはありません。しばらくすれば自然に消えると思います」


「それは良かった!」


クレアは、心から安心した笑みを浮かべて喜んだ。

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