0:16 昔話⑦ 遭遇戦 開始
昔話⑥ ”騎士との遭遇”で追記した文章があるので読んでください。本来は、この話で載せるつもりだったのですが、話を展開させるのに不自然になってしまうので、失礼ながら、前話に追記させていただきました。
次の日の夜
夕飯を取るため、止まった場所でジニーが座りながら一人で食べていると、ジェルマンが歩み寄っって来た。
「隣に座ってもよろしいかな?」
そのジェルマンの問い掛けに無言なジニー。
無言を肯定の意思と感じ取ったジェルマンがジニーの対面にがちゃがちゃと音を立てて座り込む。
「今日は、月が綺麗だね。そうは思わないかい?」
「……」
「彼女が作る料理は本当に美味しい。君もそう思うだろう?」
「……」
「君は、何を飲んでーー」
「なぁ、この茶番をいつまで続けるつもりだ? さっさと本題に入れよ」
その言葉にそれまでの優然と微笑んでいた表情が一変し、真剣なものへと移り変わっていった。声の抑揚を抑え、サーラに聞こえない様に声を細めた。
「そうか、やはり気付いていたか」
「あぁ、とっくの昔から気付いてたさ」
「ならば、付いて来い。彼女を巻き込みたくないだろう」
そう零すと、それまで談笑していた仲間に合図を送った。それを受け、サーラとの談笑を辞め、ジェルマンの元に集まって来た。サーラに断りを入れ、ジニーとジェルマンを含めた一同は、森の奥へと消えって行った。
森の開けた平地に出ると、騎士達とジニーは間を空けながら向かいあっていた。
そして、ジェルマンが周囲に向かって叫んだ。
「出て来なさい、居るのは分かってますよ」
すると、ジェルマン達を囲む様にぞろぞろと木陰から斧や刀を持った男達が這い出てきた。
全員が武装しており、下卑た表情でこちらを見つめている。
「よく分かったな、俺らがいるって事がよ」
その問いかけにジニーが答えた。
「そんな野臭い匂いを出してたら嫌でも気づくさ。……お前らの狙いはサーラが持つ証券か?」
「あぁそうさ、あの嬢ちゃんが担保にしている千年桜は、その周囲に住まう者に繁栄をもたらすとされている木だ。貴族や金持ちなどそいつを欲しい奴はごまんといるさ。それに闇市でも全く手に入らねぇ秘宝級のお宝なんだぜ、狙うのは当たり前だろ」
証券とは、ゼルナート商会が発行する担保の証明書だ。これを担保の品の代わりに貰い、契約に記された条件(サーラ達の場合は、荷馬車の使用料金を払うこと)を達し、証券を支部へ持ち込むと、担保の品を返して貰えるという仕組みとなっている。もちろん担保なので条件を達せなければ没収となる。
「どうして、こっちを狙う? サーラの方を狙う方が得策だと思うが」
「それは、俺たちが盗賊だからだよ。確実に奪うためには、護衛の奴らを消した方が良いからだよ」
「奴らね……」
「お喋りはそこまでです。全員、戦闘準備」
「いくぞ、野郎ども。誰一人生かしておくじぁねえぞ」
こうして野盗との遭遇戦が始まった。
数の利は盗賊側にあったが、こちらの練度が高いため優勢となっていた。
ジニーは、斬りかかってきた敵の斬撃を紙一重で躱し、カウンターで一撃を入れ斬り伏せた。
同様に、ジェルマンを初めてとすると騎士達も次々と斬り伏せていった。その様子に恐れをなしたのか、盗賊のリーダー格が仲間に撤退の指示を出した。
「くそ、なんだ、こいつ強えぞ。無能だったんじゃあねえのかよ!? あれだけの数の差がありながらこっちが劣勢になってやがる」
「頭、もう駄目です。仲間の大半がやられました」
「ちっ、撤退だ。俺たちじぁこいつらに敵わねえ」
「ジェルマン、追撃するか?」
「いや、止めておこう。少なからず此方にも損害が出ている。それに、余り彼女から離れるべきではない。馬車へ戻るぞ」
ジェルマンの掛け声に、従う騎士達。
しかし、ジニーはその場を動かず俯いている。
「おい、ジニー。聞こえているのか?」
そう騎士の一人が声を掛けるが何も返さない。不審に思い、ジニーに近づきその肩に手を伸ばそうとした瞬間、騎士を一本の刀が貫いていた。
「ぐっ、なにを……する」
突然の事に硬直する騎士。その隙を見逃さず、近くにいたもう一人の騎士の首目掛けて斬撃を放つ。血飛沫をあげながら倒れこむ騎士。
「残り、3人」
そこで、ジェルマンを含む3人はジニーに刺突を繰り出した。それを後方に跳ぶことで回避するジニー。
ジェルマンは突然の裏切りに怒り心頭に発した表情でジニーに問い掛ける。
「どういうつもりですか」
「どうもこうもねぇ、敵を倒したんだよ」
「敵⁉︎ 敵だと。ふざけるないでください、共に戦った仲間を敵を裏切る真似をしておいてなんですかその言い草はっ」
「いい加減、その下手な芝居を辞めたらどうだ、ジェルマン。お前達の正体は分かってる」
「何を言ってるのですか? 我々は騎士ーー」
「盗賊騎士」
そのジニーの言葉に言葉を詰まらせるジェルマン
「それが、お前達の正体だろ。この襲撃も茶番で、そして、お前達が倒した盗賊達もそれほど怪我を負ってないだろ。お前らは、倒してるフリをしていただけだからな」
「何を言って……」
「その証拠に」
そう言いながら、懐から投擲用のナイフを取り出し、騎士達が倒した盗賊の死体の1つに向けて放った。ただの死体ならそのまま刺さるだけだが、その死体は、横に転がるようにナイフを避けた。それを見やると、それまでの騎士のような雰囲気が一変し、それまで戦っていた盗賊と同じ雰囲気を醸し出した。
そして、ジェルマンは頭を掻きながら、粗暴に言い放った。
「チッ、……いつから気付いてた? 」
「出会った時から既にな。お前達があの魔獣供を俺にけしかけたんだろ?」
「あれで、お前がくたばってくれたら嬉しいかったけどな。お前が、しぶとく生き残っちまったからこうして俺達が出て来きゃいけなくなちまったじぁねぇか……けどお前はここで死ぬからいいけどな」
「死ぬのはお前達だ。騎士の私闘制度を悪用するなんて、この下衆が」
私闘制度とは、騎士のみに許された制度であり、騎士道に則り、弱者を救済するためのものである。
しかし、盗賊騎士は、騎士の身分であるにも関わらず、この私闘制度を悪用し、公益商人や富豪から金品などを奪い取るという事をしている。
「ほう、お前が言った通り俺らが倒した奴らは生きてるし戦えるぜ。おい、起き上がれ野郎供」
その掛け声と共に起き上がる盗賊達
「さぁ、どうするんだこの戦力差で」
「それはな」
と言い切るのと同時にそれまで平地を照らしていた月明かりを遮るように雲が動き、徐々に暗闇に包まれていった。
「こうするんだよ」
そうジニーが零すと、闇夜に次々と悲鳴が轟いた。
「ぎぁぁぁぁ」
「ひいいっ、ぎゃっ」
「やめぇっ、誰かぁぁっ」
「どうしたっ? 何があった‼︎」
「奴です。奴が暗闇に紛れてこっちを奇襲してっ ぐぅぁぁぁぁ」
「クソ、なんで奴はおれたちの場所が分かる? この暗闇じぁ互いにまともに見れやしねぇのに。……フランツ、匂いで奴の居場所を探れ」
とジェルマンが同じ狼人族の中で屈指の嗅覚を持つフランツに匂いによってジニーを見つけるように言うが
「ダメだ、辺りに強烈な酒気が漂っていて、場所が特定出来ねえ」
こうして、盗賊騎士との戦いは、ジニーの優勢で戦いの火蓋は切って落とされた。




