ーーーー 屍の丘に立つ者 ーーーー
「全滅、だと………?」
戦が始まって三日目の朝。
伝令からの報告を受けたハイウェル辺境伯は、愕然と目を見開いたまま、暫く固まっていた。
「せ、戦場には数えられる物で、五千以上の我が軍の兵達の死体と、その……肉塊や鎧の残骸が転がっているばかりで、敵兵と見られる死体は………確認、出来ませんでした」
「………八千だぞ? それほどの兵が、一矢報いるどころか、撤退すら許されず、たったの一晩で全滅? ………ありえん。ありえんありえんありえええええんっっっ!!??」
「「「っっ………」」」
狂ったように絶叫し、頭を掻きむしるハイウェルの姿に、天幕に集まった軍師や残った将校達は、鎮痛な面持ちを隠せなかった。
客観的に見れば、半数を失ったとは言えまだ一万の兵を温存しており、尚且つ敵は自ら攻め込んで来る気配も無い。
侵略者は敵の方なのだから、罠を張って籠城戦に持ち込めば、戦力、物資の面で優位にあるハイウェル軍の方が勝機はある。少なくとも、絶望するような段階には無い。
………もっとも、初めから籠城戦を選択する事こそが、最善だったのだが。
ハイウェルは自身でも気付かぬ内に、レウ・ドロスの言葉に踊らされていた。否、操られたと言っても過言では無い。
勝利を確信しているかの如き自信に溢れた物言いに、自尊心を挑発された。
『夜行楼』と言う幻の暗殺部隊の存在を匂わせられた事で、恐怖と焦りが生まれた。
そして、以前から敵愾心を抱いていた女王の言葉を聞かされ、その存在が常に頭の片隅にチラついていた。
結果として、初手から先遣隊と言う必要の無い攻勢を仕掛け、壊滅。
第二陣では、街で起きた暴動が波及する不安と、部下の信頼を失うまいとする焦りから、必要以上の戦力を無闇に投入。これも全滅。
冷静に考えれば打てる手などまだ幾らでもあると言うのに、ハイウェルとその部下達は、まるで見えない悪魔の手に怯えるように、刻々と近づいて来る敗北の恐怖で思考が支配されていた。
今この時、自分達が視野狭窄に陥っている事すら、敵の術中だとも知らずに。
「で、伝令! 伝令!」
……と、その時。天幕の外から、別の伝令役の騒がしい声が響いた。
「今度は何だと言うのだ!?」
「は、はっ! て、敵軍の指揮官、ドロス伯爵を名乗る者が、ハイウェル伯爵に“面会”を求めております!」
癇癪を起こして叫び散らかすハイウェルに怯えながらも、伝令は必死に状況を伝える。
「面、会……? 進軍して来た訳では無いのか?」
「い、いえ! 部下と思われる者達三名以外、周辺一帯に敵軍の影はありません! ドロス伯爵を名乗る者は、こちらから手を出さなければ、この場でハイウェル伯爵を攻撃する意思は無い、と申しているようですが……」
「何がどうなっている………?」
あまりにも意味不明な要求に、ハイウェルの頭は激しく混乱する。
一万の軍勢に囲まれる事が分かっていながら、正面から堂々と、それもたった三人の部下だけを連れて乗り込む……?
常軌を逸したその行為に、一体何の意味があるのか。また、自ら宣戦布告し、既に一万もの兵を殺しておいて、今更どんな話があると言うのか。
どれだけ考えても、混乱の渦に呑み込まれた思考では、何の答えも出ない。
……ただ、酷く不快な胸騒ぎだけは、確かな予感に思えた。
狙いは分からずとも、何の保険も無く万軍の前に自ら姿を現すとは考えられない。
もしここで要求を跳ね除け、数の暴力に任せて襲い掛かれば、何かとてつもない災厄が自らに降りかかる。
ハイウェル辺境伯は、そんな漠然とした恐怖に突き動かされ、気付けば掠れた声を漏らしていた。
「………通せ。話を聞こう」
*+++*
「ご機嫌如何かな? ハイウェル殿。約十日ぶりか。随分と久しぶりに顔を見た気がするが、少し痩せたのでは無いか?」
第一声。俺は敢えて爽やかに微笑み、世間話をするような調子でハイウェルに話しかける。
「戯言を……。のこのこと殺されに来たか。女王の犬め」
ご立派な虚勢で応じているが、ハイウェルの顔は屋敷で最後に顔を見た時と比べ、酷くやつれている。忙しなく貧乏ゆすりを繰り返し、目も充血していた。
困惑、警戒、恐怖……様々な負の感情に、思考が支配されている証拠だ。
「はははっ! それこそ戯言だろう。そちらの雑兵共が、勇猛な我が軍の兵に悉く蹴散らされた事は、貴殿とてもう知っているのでは?」
「貴様っ!? 身命を賭して戦った我が軍の兵達を愚弄するか!」
「それは仕方ないだろう? 見てわかる通り、俺の配下は雄々しく、気高く、美しく、そして強い。ろくに戦えもせず死んで行っただけの貴殿の雑兵共とは、比べるベくも無い」
俺は悪魔でもにこやかに、されど一切の遠慮容赦無く言葉の刃を振り翳す。
そして宝物を自慢するかの如く、これ見よがしに引き連れて来た同僚達を手で指し示した。
俺の背後には、狭苦しそうに筋骨隆々な巨体を天幕に収めるレヴェルト、厳しい顔つきで周囲へ視線を配るウルスが立っている。
更に傍には、清廉な新緑のドレスで着飾った森の姫君レイラが、まるで伴侶のように侍っていた。
「ふんっ」
レヴェルトはつまらなそうに鼻を鳴らしながらも、満更でも無い顔でそっぽを向き。
「然り」
ウルスは誇らしげに蹄を鳴らし、腰に手を当てて胸を張り。
「………」
レイラは無言ながら意味深な微笑みを浮かべ、俺の胸元にそっと寄り添う。
「どうだ? 羨ましいか?」
そして俺は、見せつけるようにレイラの華奢な肩を抱きながら、口の端を吊り上げた。
「くっ、小癪なっ! 正々堂々と戦った我が軍の兵を、その様な“異形の化物共”と争わせるとは!? 神聖な戦に『人外』を持ち込むとは、何たる恥知らずか!?」
茹で蛸の様に頭へ血を上らせたハイウェルは、醜く歪めた口から罵詈雑言を吐き散らかす。
………その瞬間、それまで道化に徹していた俺の仮面が、砕け散った。
「……おい。口を慎めよ、銭豚」
自分でも驚くほど、冷たい声が出る。いつもなら思いのままに動かしている表情筋が、今はピクりとも反応しない。
声音とは裏腹に熱く滾る激情が、心臓にドクンッ! ドクンッ! ……と、強かな鼓動を刻ませた。
鏡を見ずとも、自身の瞳が醜悪な血染めの紅に染まっていると分かる。
「ひっ!? な、何だその瞳はっ!? まさか、貴様も人外かっ!? し、正体がどんな化物か知らんが、今私に手を出せば、万軍が貴様等に襲いかかるのだぞ!?」
「上等だ。そんなに死にたいなら、一人残らず……」
不味いな。頭ではまだやる事があると分かっているのに、限界まで膨れ上がった殺意で身体が勝手に動き出しそうだ。
そう言えば、今日に至るまで忙しくて『発散』する暇も無かった。このままじゃ………っっ!?
「ふぁっ!?」
と、その時。唐突にギュッと尻の肉を摘まれ、思わず変な声が漏れる。
「……馬鹿者。自分で挑発しておいて、我を忘れるでない」
気が付けば、胸元に顔を埋めるようにして寄り添っていたレイラが、呆れた目でじっと俺の顔を覗き込んでいた。
「うっ……コ、コホン! ……失礼。お互いに、配下を罵るような発言はここまでにしておこうか」
「なっ!? 元はと言えば貴様が仕掛けて来たのであろう!?」
いや〜全くもって仰る通り。うーん。最後の一押しに挑発しまくってまともな判断力を奪う算段だったのだが、ちょっとばかし狙いとは違う感じになってしまったな……。
ま、まあ、この様子なら混乱させる事は出来たようだし、結果オーライだな。うん。
「まあまあ。それより、挨拶はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろう」
「くっ……何を要求するつもりだ?」
よしよし。しっかり自分が『要求される側』、つまり実質的に『敗者』だと認識してるな。
やはり決め手は、第二陣が全滅した事だろう。
敗走すら許さず皆殺しにするのは、こちらとしても自軍の兵や物資を必要以上に消耗するリスクがあった。
だが、蓋を開けて見ればあっさり完勝で終わった。同僚達の期待以上の優秀さと、ハイウェル軍の予想以上の練度の低さに助けられた結果だ。
「要求なら十日前に言ったようなものだが、まあ証人は多いに越したことは無い。敢えてもう一度、はっきりと告げよう。……ハイウェル伯爵。爵位を返上し、その首を自ら俺に差し出せ」
飄々とした態度と笑みを今度は意図的に消して、俺は神妙な声音でハイウェルに審判を叩き付ける。
「なっ!? 領地を奪うだけで無く、私に只人として死ねと申すか!?」
「そうだ。お前は重大な反逆行為を犯した。辺境伯と言う国防の要にありながら、わざわざ必要以上に隣国に物資を貢ぎ、見返りに自らの懐を潤すなど愚の骨頂。この豊穣の地の恩恵を、いつ裏切るとも知れない隣国に売り捌いた結果どうなるか、想像出来なかったのか?」
「うっ、裏切られる事など有り得ぬ! 隣国との親密な外交は、先先代の辺境伯である我が祖父の代から受け継いでいるのだ! 貴様のようなどこの馬の骨とも知れん新参者の貴族などより、余程信頼出来る!」
「呆れたな……。数十年に渡り辺境伯の地位に甘んじておいて、世界情勢も碌に把握出来ていないとは」
「何……? 貴様、何を言って……」
狼狽えるハイウェルに、俺は勤めて淡々と、現実を突きつける。
「裏切らなかったんじゃない。“数年前までは隣国が我が国より弱かった”から、機を伺って大人しくしていただけだ」
「っっ!?」
先ほどまでの剣幕はどこへやら、ハイウェルは目を見開きたじろぐ。
「この『カロリナ地方』から海を挟んだ向かいに位置する『モニフレ大陸』。その沿岸に、貴様が物資を横流ししている隣国、『ホンガ公国』は存在する。……いや。正確には、“存在していた”と言う方が正しい」
「な、何の話だ!? ホンガ公国とは現在も盛んに貿易を行っている! その証拠に、大使も我が屋敷のすぐ近くに駐在しているぞ!?」
「名前だけは残っているからな。間抜けな辺境伯から甘い汁を吸い上げる為なら、お飾りの大使くらい幾らでも用意するさ」
「なっ……」
呆れたように肩を竦める俺に、ハイウェルは絶句する事しか出来なくなる。
「『モニフレ大陸』は、数年前から国家間で同盟を組み、事実上の巨大な連合国家となっている。まあ同盟なんて物は建前で、内情は大陸の中央に座す大国が、『ホンガ公国』のような力の無い弱小国家を根こそぎ吸収しただけだがな。……そう言う訳で、隣の大陸が事実上丸々一つの大国家となった今、万が一戦争になれば、被害はこの『カロリナ地方』だけじゃ済まない。最悪の場合、我が国が侵略される事も有り得る」
懇切丁寧に説明してやってようやくことの重大さに気付いたのか、ハイウェルの怒りに赤く染まっていた顔から血の気が引く。
「そんな……そんな馬鹿な!? もしそれが事実であれば、私がやっていた事は……」
「やっと理解したか? 貴様はただでさえ最大の脅威となっている隣国に豊かな物資を提供し、更に肥え太らせ続けていたんだ。大方、大使とやらの言葉を鵜呑みにして、ろくに密偵も送らず現状を把握出来ている気になっていたんだろう?」
「ぐっ!? それは……」
どうやら図星らしいな……。何十年と大きな戦争も体験せず安穏と過ごしていれば、危機感が薄れるのは当然と言えば当然か。
だが、それは血税を納める領民のみが享受出来る怠惰であって、税を受け取る側の為政者に、平和ボケなど断じて許されない。
「言っておくが、爵位の返上は情けでもあるんだぞ? 裏切り者の辺境伯として、歴史に汚名を残さずに済むのだから」
「………私にその温情を掛けて、貴様に何の得がある? 仮に、貴様の言葉が全て正しいとするなら、国賊を討ち取った英雄としてその名を轟かせれば良いでは無いか」
ある意味もっともなハイウェルの疑問を、俺は嘲るように鼻で笑い飛ばした。
「ハッ! 英雄なんて、言葉面が綺麗なだけの名誉に興味は無い。女王は問答無用でお前の首を討ち取れと俺に命じたが、辺境伯が国を裏切り、あまつさえ領民の血と汗の結晶である生産品を横流ししていたなどと市井に知れ渡れば、ハイウェル家だけで無く国政そのものがこの先疑われ続ける事になる。……それはこれからこの地を支配する俺にも都合が悪い。ただそれだけだ」
「若造がぁっ!? 本気で辺境伯となるつもりか!? 力づくで私を退けたとしても、議会が、他の大貴族が黙ってはおらんぞ!? いくら女王の後ろ盾があろうと、そう簡単に守護者の栄誉に預かれると思うな!」
分かり切っていた事だが、やはりこの男は『辺境伯』、『守護者』という地位に何よりも執着している。……だからこそ、煽るのはとても容易い。
「議会など知った事か。俺は俺の覇道を行く。辺境伯の地位なんて、その過程でしかない。もし、他の貴族が俺のやり方に文句を付けるなら、その貴族の領地も、地位も、また奪うまでだ」
尊大に、既に勝者であるかの如く、俺は振る舞う。
今はとにかく少しでも、こいつの頭に血を上らせる事が重要だ。
「き、貴様……っ、どこまで守護者の誇りを愚弄すれば気が済む!?」
「ハハッ! 笑わせるな! 売国奴の分際で何が守護者だ!? そんなに誇りが大事なら、肥溜め番の奴隷にでも堕としてやろうか? その空っぽの頭で守れる物なんて、それくらいがせいぜいだろう! ハッハッハッハッ!!」
俺はこれでもかとハイウェルを煽り、高笑いを響かせる。……すると、とうとう我慢の限界に達したのか、奴は腰に佩いた装飾塗れで品の無い宝剣に手を掛けた。
「許さんっ……! 許さんぞっ! この私を、守護者を悉く侮辱した罪、その首で贖わせてくれるっっ!!」
「良いのか? 万軍が控えている外ならともかく、この天幕の中なら俺の配下が貴様の首を落とす方が早いぞ?」
「構う物かぁっ! 貴様のような下郎にこの地を踏ませた事が、私の最大の失態だ! 相打ち覚悟で成敗してくれる!」
「お、お止め下さいハイウェル伯爵!? 貴方様を失ったら、我々臣下はどうすればよいのですか!?」
ハイウェルのすぐ後ろでビクビクと怯えていた軍師の男は必死で止めに入るが、心配しているのは忠誠を誓った主人では無く、自身の身の振り方らしい。主人が主人なら、配下も大概だな。
俺はそんな彼らの三流喜劇のようなやり取りを無視して、大仰な仕草で肩を竦めて見せる。
「それは残念だ。細やかだが、せっかく“手土産”まで用意したと言うのに。渡す相手が死んでしまっては、無駄になってしまうな?」
「この後に及んで世迷言か!? 命乞いなら額を地面に擦り付けてほざけっ!!」
軍師の制止を振り切り、ハイウェルは俺に向かって突撃して来る。
だが、俺はその場から一歩も動く事無く傍観していた。……何故なら、動く必要が無いからだ。
「ひぐっ!? がはっ!?」
俺の目の前で、まるで自ら地面に突っ込んだように見えるほど、見事に顔からすっ転ぶハイウェル。
……まあ実際には転んだんじゃ無くて、転ばされたんだけどな。
「おいおい、大丈夫か? そんなに慌てて転んだら、うっかりその剣で自分を刺してしまうぞ? まあ自害すると言うなら止めはしないが、しっかり公衆の面前で爵位の返上だけは宣言してくれよ?」
「くっ!? 何が!? 今のは誰の仕業だ!?」
ガバッと顔を上げたハイウェルは気が動転しているのか、やたらめったら宝剣を振り回す。
俺は軽く一歩下がって難なくその刃を躱すと、まるで今気付いたかのようにポンと手を打ち合わせ、あっけらかんとした声で今の一幕の“犯人”を呼び込んだ。
「おお! どうやら『お使い』に行かせていた配下が到着したみたいだ。ハイウェル殿、どうせ無謀な突撃をするのなら、せめて手土産を一目だけでも拝んだ後にしてくれないか?」
「何をっ!?」
「ほら、お前達! ハイウェル殿がお待ちだぞ! さっさとご覧に入れて差し上げろ!」
ハイウェルの言葉を遮って強引に俺が大声で呼び込むと、ズサッ! と砂埃を巻き上げて、外套で姿を隠した四人組の少女……『夜行楼』が、天幕の上から降って来た。
「「「「御意」」」」
「なっ!? 何者だ!?」
綺麗に声を揃えた怪しい少女達をようやく認識して、ハイウェルはどこに切先を向けるべきか迷うように宝剣を振り回す。
「う、上から現れただと!?」
「どこに潜んでいた!?」
突然目の前に現れた怪しい四人組に、ハイウェルだけでなくその配下達も動転していた。
……だが、本番はここからだ。
「我ながら中々気の利いた物を用意したんだ。……是非、その目に焼き付けてくれ」
俺がそう言うと、四人組の中で一番小柄な少女……コットが、抱えていた風呂敷を地面に置き、その封を解く。
「「「ひぃっっっっっっ!?」」」
ハイウェルの配下達はその中身を目にした瞬間、天幕の布に縋り付くような勢いで後ずさった。
そして、当のハイウェル本人は、と言うと………、
「ぇぁ………………………………………………………………………………………?」
声とも言えないほど掠れた息を漏らし、絶句したまま硬直した。
「実に良い反応をありがとう。驚いて貰えたようで何よりだ」
俺は心底満足げに、にっこりと微笑む。
風呂敷の上に転がる、『ハイウェル家親族全員の生首』を、見下ろしながら。
「………うぼぁっ!? げぇっ!? げぇっ!? ひぅっ!? はっ、はっ……!!」
硬直が解けたハイウェルは盛大に胃の中の物をぶちまけ、ぜえぜぇと肩を激しく上下させて荒い呼吸を繰り返す。
現実が脳髄に染み込むと共に、身体の方が先に拒否反応を起こしたようだ。
妻、長男、次男、長女、次女、三女。
何かの間違いであって欲しいと願うように、ハイウェルは無様に膝を突いて、生首一つ一つを抱え上げ、その顔を凝視する。
「なっ、ぜ………何故だぁっ!? 何故このような事を!? 首を狙うなら、私だけで良いでは無いか!? つ、妻や子供達が、何をしたと言うのだ!?」
血を吐くように叫ぶハイウェルに、俺は慈愛に満ちた微笑みで答えた。
「俺なりの“配慮”さ。未練が残っては、潔く首を捧げる気にならないだろ?」
「なっ………!? そん、な……そんな事の為だけに、何の罪も無い我が妻と子供らを手に掛けたと言うのか!?」
「良かったじゃないか。これで、あの世に行っても家族と一緒にいられるかもしれないぞ?」
「っっ!? あ、悪魔めっ………………!!」
勿論、本当の理由は別にある。
占領した後にハイウェルの親族を処分するのは簡単だが、そのタイミングで処刑しては、俺が報復を恐れたのだと勘繰られる可能性があるからだ。
貴族社会は、舐められたら終わり。ましてやここは辺境だ。国内だけでなく隣国にまでそんな噂が流れては、これからの外交にも響いてしまう。だから、今だった。
一万の軍勢を撃破した俺と、一万の軍勢を温存しているハイウェル。
現場に居ない者達がこの状況を知れば、拮抗している、或いはやや俺が優勢といった認識になるだろう。
そんな勝負を決める大一番のタイミングで、『ハイウェルを動揺させる為だけに親族を皆殺しにした』、という話が知れ渡れば、俺は悪虐非道の伯爵として名を轟かせる事が出来る。それこそが狙いだ。
俺の覇道に、正義はいらない。
必要なのは、この国に、世界に、恐怖を刻みつける圧倒的な暴力。それだけだ。
「さて、ハイウェル殿。領民を裏切り、家族を失った貴殿には、もう何一つとして守る物など残っていないだろう? すっきりした所で、潔く爵位を返上し、贖罪の証に只人として首を捧げてはどうかな?」
「……………………っっ、っっ……」
俯き、黙り込んだハイウェルは、小刻みに肩を震わせる。地に突いた膝を持ち上げようとしているのか、爪先が何度も地面を掻くが、上手く踏み締める事が出来ないようだ。
……さあ、クライマックスだ。ここで終わりでも構わないが、どうせなら最後まで踊ってくれ。あいつらの為にもな。
「………………やる」
「ん? 何だ? よく聞こえないぞ?」
言葉の体を成していない震える声が何を言いたいのか、容易に察する事は出来た。
だが、俺は煽るようにわざとらしく自らの耳に手を添えて問う。
………と同時に、背中に回した手を動かし、背後に控える同僚達に合図を出す。
「殺してやるっっっっ!! レウ・ドロスッッッッッ!!!!」
跳ねるように地面から飛び上がったハイウェルは、なりふり構わず宝剣を振り上げ、血走った目で俺を睨みながら斬り掛かって来た。……そうだ! それで良い!
「正気か貴様っ!?」
俺は驚いたフリをしながら、剣線の乱れた刃を何とか躱したように見せかけ、天幕に寄りかかる。
レヴェルト、ウルス、レイラ、そしてコット達『夜行楼』の四人は手を出さない。
代わりに彼らは、俺とハイウェルに他の連中の視線が集中している隙に、天幕の布を一気に引き裂いた。周りの目には、ハイウェルの勢いに俺が押し出された拍子に天幕が裂けたように見えた事だろう。
そして、剣すら抜いていない俺と、悪鬼の形相で襲い掛かるハイウェルの姿が、周囲を取り囲む一万の軍勢の前に晒される。
「乱心したかハイウェル!? “国賊”に堕ちたばかりか、停戦交渉の場で一方的に剣を振りかざすなど、貴族の誇りはどこへ行った!?」
「戯言をっっ!? 貴様を殺せるのなら誇りなどドブに捨ててくれるわっ!! 何をしているお前達っ!? 目の前にいるのは憎き敵将だぞ!? 早く加勢せんかぁぁ!?」
「「「っっっ!!!???」」」
俺の白々しい物言いにハイウェルは更に逆上し、視界に入った兵達にも怒号を飛ばす。
だが俺の言葉が聞こえた兵達は、我を失ったハイウェルの姿も相まって混乱しているようで、反応が鈍い。レヴェルトやウルスが周囲をそれとなく威圧しているのもあるだろう。
「既に大勢は喫した! 潔く女王の使者たるこのレウ・ドロスに首を捧げろ! そうすれば、ここに居る兵達や領民には手を出さないと誓う!」
「今更そのような下らぬ事、どうでも良いわっっ!! 貴様さえ、貴様さえ殺せれば、それで良いのだっっ!!」
「くっ!? 聞いたか兵達よっ!? 貴殿らの君主は国を裏切り、あまつさえその命まで蔑ろにしようとしている! このような者に付き従う道理があるか!?」
「聞く耳を持つなぁっっ!? 貴様等は守護者の兵だぞ!! さっさとこの侵略者を排除しろぉぉぉっ!!」
「「「っっ………!?」」」
真剣な表情の俺が語る『糾弾を装った演説』と、狂乱するハイウェルの『支離滅裂な命令』の間で心を揺さぶられる兵達の戸惑いは増すばかりだ。
元々、練度も低く戦に出た経験も乏しい彼らは、忠誠心など持ち合わせてはいない。
兵に志願したのも、平和なこの地で楽に安定した給金を得られるからと言う理由の者が殆どである事は、娼館からの情報や市井の調査ですぐに分かった。
ハイウェルが言うところの『外交』とやらでその平和が保たれていたのだとしても、裏でコソコソ金のやり取りをしているだけでは、兵の忠誠心など保てる筈が無い。
ましてや、それが三代にも渡って何十年と行われていたのなら、尚更だ。
「今にもこの地は隣国に攻め込まれようとしているんだぞ!? これ以上、無意味に兵を消耗して何になる!?」
「五月蝿いわぁっっ!! 隣国なぞ物資をくれてやればどうとでもなるのだっっ! 今までそうだったのだから、これからも問題など無いっ!」
「愚かなっ!? 民の血税を何だと思っているのだ!? 平民や奴隷が命を燃やして生み出した物を、至福を肥やす為に利用していたのか!?」
「黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!」
「「「……………」」」
錯乱したハイウェルは、周囲の兵から向けられる視線の意味に気付かない。
騒ぎを聞きつけ、俺達を囲む人垣は刻一刻と広がっているが、俺の演説を聞いた者の口からハイウェルの悪行が伝播しているのか、兵達は誰も剣を取ろうとはしなかった。
………そろそろか。
「この地は俺が、このレウ・ドロス伯爵が治める! 貴様のような国賊は、ここで潔く散るが良い!」
「くっ!? 小癪なぁっ!!」
俺は高らかに宣言すると、ここに来て初めて剣を抜き、ハイウェルの宝剣と刃を合わせ弾き返す。
装飾過多で派手なハイウェルの宝剣と比べれば、漆黒で統一された柄と刀身に小さな紅い玉石が一つ埋め込まれただけの俺の剣は、酷く見窄らしいかもしれない。
だが、隣国からの賄賂で懐を潤していたハイウェルに立ち向かう無名の貴族、と言う構図には、ハマっているようにも思えた。
「お前達は手を出すな! この愚か者は、俺の手で討ち取って見せる!」
俺は迫真の演技で同僚達に命じる。すると、
「へいへい。ふんっ」
「うむ」
「………はぁ」
レヴェルトは心底どうでも良さそうに鼻を鳴らし、ウルスは無駄に爽やかな笑顔で腕を組んで頷き、レイラは呆れ返ったような半眼で小さく溜息を吐いた。
………いやうん。全然良いんだけど、一応忠実な配下って設定なんだから、もうちょっとノってくれても良くない?
お前らがそんな顔してると、俺だけキレッキレで芝居してて恥ずかしいんですけど? 特にウルスの保護者面が地味に効く! どうせノってくれないならせめて白けた顔で放っといて欲しい……。
「お、おおおおっっ!!」
「小僧がぁぁぁっ!?」
俺は羞恥に震える内心などおくびにも出さず(いやちょっと誤魔化そうとしましたごめんなさい)、叫び声だけは立派なハイウェルとテンションを合わせて斬り合いを演じる。
俺も剣術に自信がある方では無いが、ハイウェルのそれは俺以上にお粗末で、格好だけ付けて適当にいなすのは難しく無かった。だが……。
「この侵略者め!? ハイウェル様っ! 今の内に私ごと、この無礼者の首をお討ち取り下さい!」
「なっ!? 何をっ!? 離せっ!?」
斬り合いの間隙を縫って、それまで一向に手を出して来る気配が無かった兵の一人が飛び出し、俺を羽交い締めにして拘束する。
俺は焦った声を上げジタバタもがくが、兵は拘束を緩めるどころか、よりキツく俺の身体を締め上げ……って、ちょっ!? それは本当にヤバい!?
「良くやった! 覚悟しろっ! 女王の犬めぇぇぇっ!!」
「ちょ待っ!? おい良い加減にっ!?」
醜悪に顔を歪めたハイウェルが、嬉々として宝剣を振り翳し目前に迫る、とか解説してる場合じゃねぇっ!? マジでヤバいヤバいヤバいいいいっっっ!?
「……ん? がっ、はっ……………?」
と、ハイウェルの凶刃が俺の首を捉える、その寸前。
奴は半歩手前で、突如として動きを止めた。……否、縫い止められた。
奴の身体を貫いた、無数の刃によって。
「お、お母さんを………お母さんを、返せぇぇぇぇぇっっっ!!」
ひび割れたその絶叫は、ハイウェルを突き刺した“『隻腕の奴隷達』”の内、最も幼い少女の口から響き渡った。
「よくもっ、よくも俺達の仲間をっ!?」
「許さないっ! お前の金儲けの為に、何人の仲間が死ぬまで使い潰されたと思ってるんだ!?」
「私の子供達を返してっ! 返しなさいよっ!?」
少女の叫びを皮切りに、ハイウェルを刺し貫いた奴隷達は口々に怨嗟の声を漏らす。
「…………きっ、貴様、ら……?」
穴だらけになった身体から、絶え間なく命の雫を溢し続けるハイウェルは、彼らが何者なのかすら分かっていないようだ。
…………ふぅ。何とか間に合った、か。
「……(おい、良い加減に離れろよ。クロル)」
「(えぇ〜? もうちょっとぉ〜)」
俺はハイウェルと奴隷達に注目が集まっている隙に、兵に変装して俺を羽交い締めにしているクロルに小さく声を掛ける。
だが、兜の下で何故かやたらと嬉しそうに微笑んでいる彼女は、俺の首筋に顔を埋めるようにしてしがみ付き、全く離してくれる気配が無い。
「(今一番大事なとこだって分かってるだろ!? てか何で鎧着てんのに胸当てだけして無いんだよ!?)」
「(サービスだよぉ〜♪)」
背中に当たる柔らかい感触から逃れようともがくが、どう動いてもより強く押し当てられるばかりで、状況は一向に変わらない。
………不味い。非っ常〜に不味い。ただでさえ“暴発”寸前なのに、このままじゃっ!?
「やめんか発情兎」
「はうっ!?」
「た、助かったっ! 恩に着るぞレイラ!」
俺の瞳の色が再び紅に染まりかけた、その時。音も無く背後に忍び寄っていたレイラが、クロルの尻をシバいて引き剥がしてくれた。
「あ、貴方が、敵の伯爵、だったん、ですね」
ようやく解放された俺に声を掛けて来たのは、先ほど絶叫した少女だった。
彼女はあの夜、井戸の前で出会った酒場の奴隷である。
「………嗚呼。そうだよ。あの時は悪かったな。俺が君を引き留めたせいで、お母さんが酷い目に遭ったみたいで」
「っっ………」
俺は彼女を利用するために腕を切り落とした事については謝らない。傲慢であっても、その絶望が彼女に必要だと、信じていたからだ。
そして、彼女は俺が与えた絶望を乗り越え、この場に立っているのだ。
彼女だけで無く、他の奴隷達も。
「………あ、貴方が、戦争を仕掛けたせい、で、私達は、酷い目に、遭いました」
「ああ。そうだな」
「う、腕も無くなって、お母さんとも、離れ離れにっ、なって……!」
「ああ。その通りだ。全ての元凶は、この俺だ」
「っっ………!」
涙を堪え、熱く震える声音で少女が口にする恨み言を、俺は全て肯定する。
言い訳をする資格は無いし、必要も無い。
俺は間違い無く、彼女を利用した。
そして彼女もまた、俺を利用するのだから。
「…………せ、責任を、取って、下さい!」
そうはっきりと口にした彼女、そしてその後ろで、彼女と同じように強い眼差しで俺を見つめる奴隷達に、深く頷いて見せた。
「君は、君達は、俺に何を望む?」
こう問いかける事を、戦が始まる前から、何より望んでいた。
「わ、私達は、わ、悪い領主を、討ち取り、ました。だ、だから、その……っ!」
上手く言葉が出て来ないのか、少女はもどかしそうに口を開いたり閉じたりしながら、懸命に瞳で俺に訴えかけて来る。他の奴隷達も、同じように神妙な表情をしていた。
………合格だ。
「っ!?」
俺はポンと少女の頭に手を置き、不敵に笑って大仰に手を広げた。
「良いだろう! 君達を、『女王アルメリア・カルマ』が名の下、このレウ・ドロス伯爵の臣下として迎えよう! 勿論、今までのように不遇な『奴隷』としてでは無い。この地の領主となる俺の命を救い、国賊を討ち取った『英雄』としてだ!」
俺が高らかにそう叫ぶと、奴隷達は目を見開いて硬直し、周囲を囲む万軍は激しく騒めいた。
俺の覇道に、“英雄の称号”は必要ない。
必要なのは、“俺の後ろに続く英雄達”だ。
『この世界は、己が理想を叶える為だけに存在する』
女王は、自らの理想を叶える為に俺を拾い、『猟犬』へと生まれ変わらせた。
だから俺も、俺の理想を叶える為、彼らを『英雄』として、覇道の道連れにさせて貰う。
「残されたハイウェル軍の兵士達よ! 貴様等が立ち竦んでいる間に、奴隷として虐げられるだけの存在だった彼らは、偉業を成したぞ!」
「「「っっっっ!!??」」」
今までの常識ではあり得なかった事実に兵達は戸惑い、誰も彼もが周囲の者達と顔を見合わせる。
「女王は予言した! 長く続いた我が国の平和は終末を迎え、再び戦乱の世が訪れると! その時になっても、貴様等は無惨に死んで行った一万の兵達と同じように、ただ蹂躙されるだけの雑兵となるつもりか!? はっ! 見下していた奴隷にすら先を越された貴様等には、お似合いの末路だな!」
「「「っっ…………!!」」」
嘲りに塗れた俺の問いに、兵士達は憤怒を漲らせ、拳を握り締める。
「戦を知らず、碌な修練も積まず、ただ平和に胡座をかいて血税を貪って来た貴様等は、そこに転がる死にかけの豚と同じだ! ………このまま変わろうとしなければ、戦乱の世を待つ事無く、女王の手によって粛清されるかもしれないぞ?」
「………ぅっ……ぉ、おのっ………れぇっ……っ!」
「「「っっっっっ!!??」」」
俺が指差した先で無様に地面をのたうち回るハイウェルの姿を見て、兵士達の顔色が憤怒から恐怖へと変貌する。………頃合いだな。
人の思考は、感情が乱高下を繰り返すほどに鈍く単純化されて行く。
そして、単純化された思考ほど、操り易い物は無い。
「それが嫌なら……この俺、レウ・ドロスの軍門に下れっっ!!」
「「「っっっっ!!」」」
逃げ道を塞ぎ、無意識に選択肢を絞らせ、俺が望む結論へと、誘う。
「我が覇道は修羅の道! 立ち塞がる者は、その悉くを踏み潰す! ……言っておくが、俺はたかが辺境伯程度の小さな器で終わるつもりは毛頭無い。どれだけの命を踏み躙り、どんな悪行に手を染めようとも、必ずや戦乱の世を勝ち抜き、この国を、世界を手に入れる! 俺が焼き尽くした荒野で最後まで立っていたいのなら、この背に続けっ! さすれば、貴様等にも果てしない栄光をくれてやるっ!!」
生々しい恐怖を植え付け、幻想の甘い蜜を垂らす。
そうすれば、思考を止めた人間共は、用意された穴へ自ら進んで転げ落ちる。
たとえそれが、後戻りの出来ない奈落の底だとしても。
「「「………お、おおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」」」
恐る恐る、兵士達は剣を掲げ、やがて雄叫びを上げる。
すると、ウルスが俺の隣に進み出て、最後の仕上げと言わんばかりに大砲声を轟かせた。
「我らが君主! レウ・ドロス閣下に栄光あれっ!!!」
「「「レウ・ドロス閣下に栄光あれぇぇぇぇぇ!!!」」」
そうすれば、兵達の中に残っていた混乱は、たちまち高揚へと変わる。
「………さあ、仕上げだ」
俺はそう呟き、文字通り虫の息となったハイウェルに歩み寄る。
「……る、さん………き、貴様……だけはっ……許っ、さんっ………!」
「ほう? 戦では歯応えが無かった割に、意外としぶといじゃないか。……だが、もう終わりだ。言い残す事があるなら、最後に聞いてやる」
「くっ!?」
俺はハイウェルの胸ぐらを掴んで無理やり起き上がらせ、漆黒の刃をその喉元に当てがった。
「のっ、呪って、やるっ! き、貴様もっ……そのっ、し、子孫も! え、永遠に!」
「それが最後の言葉か? だが残念だったな。お前の願いは叶わない」
「なっ……に………?」
俺はハイウェルの耳元に口を近づけ、声を落として呟く。
「………俺は、もう呪われている」
そして同時に、限界を超えた殺意を、解き放つ。
「お前さ……十五年くらい前、奴隷の子供達を森に放って、家族で狩りの真似事をしたの、覚えてるか?」
「ぅ……ぁ?」
俺の問い掛けにハイウェルは目を見開き、言葉にもなっていない掠れた息だけを漏らす。
紅の瞳に映ったその顔は、恐怖に染まっていた。
「馬に乗って追いかけ回した挙句、下手くそな矢を何度も何度も撃ち込んで、痛めつけたよなぁ? 『日が暮れるまでに誰が一番多く狩れるか競争だ』、とか言って、ガキ共とそれはもう楽しそうに。………でも一人分だけ、お前が殺したはずの奴隷の死体、見つからなかったろ?」
「っっ……!? ぁ、ぁ、ぁあああああっっっ!? んぐぅぅぅっ!?」
発狂したように叫びながら、ブンブンと首を振って逃れようとするハイウェルの顔を俺は鷲掴みにし、頭蓋骨が軋むほど強く、万力の如き膂力で締め上げる。
「地獄で待ってろ。今度は俺が、お前らを狩りに行ってやる」
返事を待たず、俺は漆黒の刃を走らせた。
絶望に歪んだまま、胴体と別れを告げた生首は酷く醜悪で、今にも投げ捨ててしまいたい衝動に駆られるが、残念ながらまだ使い道がある。
「領主ハイウェルは敗れた! これよりこの地を治めるのは、この俺、レウ・ドロスだ!!」
俺はハイウェルの首を掲げ、天に向かって高らかに勝利の雄叫びを上げる。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」」」
俺の宣言に続いた兵士達、そして奴隷達の雄叫びもまた、果てしない蒼穹に木霊した。
少し長くなってしまいましたが、今話もお読み頂き、ありがとうございます。




