14. ルークの覚悟
「そ、そんな……メガルダンド様……!リレーミアさん……!」
絶望と恐怖で崩れ落ちそうなラティエの大きな瞳は、涙でいっぱいになって今にもあふれそうだ。
「ラティエ、大丈夫だ。メガルダンド様達はまだ無事だぜ」
バァンがレイヤカースを指さす。
レイヤカースの身体はメガルダンドの抵抗のためか、卵の飲み込んだ蛇のように大きく膨らんだままになっている。
今はメガルダンドを吸収しようとしているのか、レイヤカースはただこちらを見るばかりで動く様子はない。
だがリレーミアとメガルダンドが離脱してしまった事に変わりなく、ルーク、バァン、ラティエの三人だけでレイヤカースと戦わねばならない。
メガルダンドが、レイヤカースに飲み込まれる直前に言った言葉が、三人の脳裏によぎる。
「レイヤカースの首……。お、俺達だけで狙えるのか?」
ルークが冷や汗を滲ませながら呟く。
レイヤカースの身体からは、今も無数の触手が出ており、周囲でわらわらと蠢いている。
あの触手をかいくぐり、レイヤカースの首に宝剣の一太刀を浴びせなければならない。
バァンとラティエが縋るようにルークを見ている。
宝剣を託された上に、マルディシオンとエテルナの力でほぼ不死身になっている身体。どう考えてもルークが行くしかない状況だ。
だが触手の事もあるが、リレーミアが防ぎきれなかった程の魔弾も再び飛んでくるかもしれない。
そう考えるとルークは中々足が動かせず、まるでその場に縛り付けられてしまったかのようになっていた。
だがレイヤカースはいつまでも待ってはくれない。
メガルダンドの吸収は一旦諦めたのか、いきなり触手を猛スピードでこちらに伸ばしてきた。
「これくらいは任せろ!」
バァンが斧に魔力を纏わせて思い切り振り抜き、何本もの触手をまとめて叩き落とす。だが切れた触手の隙間をぬい、さらに別の触手が飛び出す。
「うわっ!」
「バァンさん!」
ラティエが咄嗟に前に出て、触手を次々といなしつつ魔法で作った盾でガードする。
「ラティエ!」
「ラティエも……とっても怖いけど、でもやれる事はやります!だから……ルーク様……!」
「!!」
ルークは宝剣をぐっと握り締める。
「そう……だよな……。これは、俺しか……」
そしてゆっくり、足を一歩踏み出す。次は反対の足を前に。
触手を切り払いつつ、勇気を振り絞るようにしてルークはレイヤカース目指して前へ進んだ。
だがレイヤカースとの距離を詰めるという事は、それだけ早く触手に反応しなければならないという事だ。
一本、二本と、次々と迫り来る触手を斬り払い、あるいは弾き飛ばしていくが、数が多すぎる。
ルークの反応可能な物量の限界は既に超えていた。
対処しきれず、いくつかの触手がルークの身体を貫く。
「いっ……!大丈夫……、大丈夫……!」
ルークはそう自分に言い聞かせ、自身に備わる呪いの産物を利用して身体を犠牲にしつつ一歩、また一歩と着実にレイヤカースへ近付いていく。
バァンとラティエは自身に向かってくる触手を対処しつつ、ルークを見守っていた。
ルークの肩に、腹に、四肢に、次々と穴が穿たれていく。まるで全身を重火器で撃ち抜かれているかのようだった。
が、その度に身体は元通り再生する。
穴だらけの血塗れの鎧の奥から、ルークの滑らかな白い素肌が覗いている。
「くっ……!何度見ても慣れねえぜ……!」
「ルーク様……でも、あと少し……!」
このまま宝剣の間合いまで行ける。そう思った時だった。
「あっ!!」
頭を守った際に当たり所が悪く、剣ごと右手首を弾き飛ばされてしまった。
「ルーク様!!」
「くそ!あと少しだったのに!」
弾き飛ばされた宝剣がルークから離れた位置に落下し、触手の波に飲まれていく。
触手は直接宝剣に触れる事が出来ないせいか、そこだけぽっかり穴が空いているようになっている。
ルークは手首が元通りになると、宝剣を拾いに向かおうと動くが、触手も攻撃の手を緩める事はしない。
宝剣を持たない内に全力でルークを仕留める為だろうか、バァンとラティエを襲っていた触手までルークの方に伸びていく。
「ルーク気をつけろ!!」
「エアカッター!」
するとラティエが魔法で風の刃を作り出し、ルークに群がっている触手に向けて放つ。だが今この空間には風が無い。
ラティエが放ったエアカッターは一般的なものより強力とは言え、邪竜レイヤカースの触手を相手にするには威力が足りない。今のこの状況を変えるだけの力があるようには見えなかった。
「ラティエ……!そんな威力じゃ……!」
「ルーク様!そのエアカッターに便乗してくださいな!」
「……!!そうか!」
ルークがハッとして、ラティエのエアカッターに向けて手をかざす。
以前、ストンデルス渓谷でも同じ事をした。あの時は確か氷の刃だったっけ。
そんな事を考えながら、ルークも重ねるようにしてエアカッターを唱えた。
「エアカッターっ!!」
ルークの魔力を受けたエアカッターは、眩いほどの魔力を纏い、先ほどとは比べ物にならないほどの勢いで加速する。
空間そのものが震えるほどの風圧を発生させ、周囲の触手を切り刻みながら飛んでいった。
そこには宝剣まで続く道ができていた。
ルークは飛行魔法で一直線にその道を突き進む。
「す、すげえ……!これなら……!」
バァンが期待と感動で目を輝かせる。
だがその瞬間、ルークはグイッと強烈な力で足を引かれる。
「うわっ!?」
身体がガクンと下へ持っていかれ、ルークの姿勢が大きく崩れた。見れば、触手が幾重にも足へ絡みついている。
「くっ……!」
さらに手足、胴体を縛り上げ、最後に喉を絞め上げる。
「……かっは!?」
またエアカッターで触手を切ろうとするが、声が出せないので魔法を詠唱する事ができない。
ルークはどうにか振りほどこうと藻掻くが、守護龍メガルダンドでさえ抵抗できなかったほどだ。
首を絞められながら、成す術なくレイヤカースの方へと引き摺られていく。
「ル、ルーク様まで取り込む気ですの!?」
「それだけはさせねぇ!!」
バァンはそう言うと、ルークとは反対方向に駆け出した。




