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14. 残された二人

「守護竜様ぁ、『エテルナを知る』って言っても、一体どうすりゃいいんだ?」


 バァンの言うとおりだ。エテルナが死んでから、既に何百年という時が経っている上に、人々の記憶からは完全に消し去られている。


 文献等の記録すら一切残されていないものを、どうやって知ればよいというのか。


「世界の記憶を辿れば良い」


 その言葉を聞いて戸惑うルーク達に、メガルダンドは淡々と言う。


「この世界は、生きとし生けるもの全ての歴史を大地に、水に、そして空気に記憶し続けている」


 その中にある、エテルナに関係する記憶をこれからルークに見せるつもりらしい。


 神に近い存在である、守護竜メガルダンドだからこそできる方法だ。


 あまりにもスケールの大きな話に、ルーク達は理解が追い付かず、口が開きっぱなしになる。

 それに、一体どこでどの様にして辿ればいいのか?


 すると、ルークの足元が沈み始め、突然海の底へと吸い込まれてしまった。


 あまりにもいきなりの事だった為、バァンとラティエの反応が遅れた。


「ルーク様ぁ!!」


「どうしたんだよ!!」


 大慌ての二人だが、メガルダンドとリレーミアはいたって冷静で、ルークが沈んだ暗い海の底をただ見つめていた。


「慌てるな二人とも。ルークはエテルナの記憶を辿りに行ったんだ」


 リレーミアが顔面蒼白の二人をなだめる。


 この不思議な海原は、世界が各地で記憶した今までの歴史が全て集まっているそうだ。


 その中のエテルナに関する歴史だけを選びとり、ルークに見せていく。ルークの身体を精神体にして、追体験のようにするらしい。


 それを聞いて安心する二人だが、一人の人間の歴史を追体験で辿るのにどれだけの時間が必要なのか。


 一人だけでも、生まれてから死ぬまで様々な歴史を刻んでいる。それがかつてこの世界を救った英雄とあれば、さぞ濃密な内容となるに違いない。


「ルーク様……。ここでただ待つだけなの、ラティエは辛いですわ……」


「……それならラティエ、頼みがある」


 ルークが沈んでいった場所を悲しそうに見ていると、バァンが思い詰めた表情でラティエに言う。












「ラティエ、俺に攻撃魔法を教えてくれ!」


 突然の内容に、ラティエは翡翠ひすい色の大きな瞳を真ん丸にして、パチパチとまばたく。


 聞けば、バァンはストンデルスとの戦いの最中、自身があまりにも無力なのを感じた。それどころか、無闇に突っ込み、怪我をしてルークの負担を増やすばかりだった。


 苦手なりに、せめて魔法で援護ができないかと、回復魔法にぶっつけ本番で挑戦したが、結局それは自信を喪失するだけだった。


「それであの時あんな事を……」


「ラティエは攻撃魔法が得意だろ?今のままじゃ、あの女に勝てねぇよ!」


 バァンは両拳をギリギリと握り締め、足元を見つめる。


「万が一、ルークの方が上手くいかなかったら、俺達だけで戦わなきゃならねぇんだから!!」


 ラティエはハッとなり、瞳を震わせる。


 その可能性など、頭の片隅にも無かった。

 どこかで、ルークは絶対に成功する。そして、強くなったルークと一緒に戦えると、それが当たり前だと思っていた。


 ルーク抜きでマルディシオーネと戦う……。

 ストンデルスより遥かに強い事は、容易に想像できる。


 勝てるビジョン等、見える訳が無かった。


 それに、ラティエもルークに対して、圧倒的な力の差を感じていた。

 そんな自分が、バァンに魔法を教えたところで、一体何の役に立つというのだろうか。


「そんな……、ラティエだって……。

 ……いっそのこと、マルディシオンを飲んでしまいたいくらいですわ……」


 ラティエも拳を握り締めてうつむいた。










「その願い、聞き届けよう」


 重苦しい空気の中、メガルダンドが口を開く。

 バァンとラティエは、ギョッとして顔を上げる。


「ああいや、勘違いさせたな。

 お主達、かつて我が、衰弱したエテルナに加護を与えたのは知っているな?」


 二人は顔を見合わせると、戸惑いつつもゆっくりと頷いた。


「その加護を、お主達にも与えよう」


 バァンとラティエの目に希望の光が宿る。


「そ、そりゃスゲェや、守護竜様!」


「でも加護を頂戴いたしましたら、一体何がどう変わりますの?」


 喜ぶバァンとは対照的に、ラティエは戸惑っている。人間、不明瞭な事柄に関しては、だいたいが慎重になるものだ。


「ふはは、確かにラティエの言う事はもっともであるな」


 メガルダンドが穏やかに笑う。


 それは、身体能力や魔力を飛躍的に向上させるものだそうだ。

 その加護のお陰で、生まれつき視力の弱かったエテルナも、目が見えるようになった。


「なんか色々強くなるって事だけは、マル……ディシオンだっけ?なんかそれにそっくりだよな!

 魔物じゃねぇけど、格好いい姿に変身したりしてな!?」


 はしゃぐバァンが、険しい顔のラティエを笑わせようと冗談を言う。しかし、ラティエはその言葉を聞いて、不安で顔を歪ませる。


「バァンよ、なかなか鋭いではないか」


「へ?」


 メガルダンドの予想外の言葉に、バァンは目が点になる。


「この力は、マルディシオンと基を同じくするもの。これにレイヤカースの邪気を混ぜ、薬液に込めて凝縮させたものがマルディシオンになる」


「マジかよ……思ってた以上にヤバい物なんだな……」


 これには、ハイテンションだったバァンも青ざめる。


「強くなるのはとっても魅力的ですけど、ラティエがラティエじゃなくなるのは嫌ですわ……」


「安心せよ、身体が変形したりはせぬ。純粋に身体が強化されるだけだ。制約が無い分、マルディシオンより効果は少し劣るが、力の使い方次第で十分に渡り合えるだろう」


 その言葉を聞いて、ラティエは強張らせていた表情を、ようやく緩ませた。

 バァンもホッとしている。


 すると、二人とは対照的に、今度はメガルダンドの表情が険しくなる。


「安心しているところにすまないが、その前にやってもらいたい事がある」

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