15.守護竜の試練 ①
「了解だぜ守護竜様、何をすりゃいい?」
「『無料より高い物は無い』とお母様からよく言われてますもの」
流石商売人を親に持つ二人。何をやらされるか分からない不安はあるが、これくらいの事は想定済みだ。
切り替えの早さに、メガルダンドとリレーミアは感心する。
「それならば話が早い。すまないが、加護を与えるにふさわしい人間か試させてもらいたい」
言い終わるや否や、二人もルークの時と同じように海底へと吸い込まれた。
バァンはパニックになり、息を止めたままもがく。
しばらくもがいていて、息が続かなくなり、ついに溺れてしまう……と思った瞬間、息ができる事に気付いた。
横を見ると、ラティエが引き気味でこっちを見ている。いつの間にか鎧を脱いで、下に着ているワンピースのみの姿になっている。
「な、何だよラティエ、息ができるなら教えてくれたっていいだろ!
それにしても、何でお前鎧脱いでんだよ?」
「ラティエは、何度も声はお掛けしましたわ!あと、鎧を脱いでるのは、バァンさんもです!」
なんと、バァンの鎧も、いつの間にか無くなっていた。おまけに武器も。
鎧の事は分からないが、武器はどこかに落としてしまったのだろうか?
ラティエのハルバードは市販の物なので替えがきくが、バァンの斧はアクストゥアの王様直々に賜った特別な物だ。
バァンは冷や汗をダラダラ流しながら、焦った様子で辺りを見回す。
それにしても、ここは何処だろうか。真っ暗な海の中に引き込まれたというのに、ここはとても明るい。
目の前には草原が広がり、空は青空ではなく、ただ真っ白な空間が広がっているだけだ。
遠くには小川が流れ、穏やかな雰囲気の場所である。
大振りの斧が落ちていれば、すぐに見付けられそうなものだが、何度見ても見当たらない。
「ど、どどどうしよう!!!」
バァンが頭を抱えつつ、足元の草を掻き分けていると、正面に何かの気配を感じた。
それは、二体の竜だった。片方の竜は、体格の良い人間のような立ち姿。もう片方は二本足で立ってはいるが、ガマガエルのように丸く太っている。
どちらも淡く光るオーラを放っているが、不思議と嫌な感じはしない。
メガルダンドの言う『試し』の相手だろうか?
「試すって言ったって、こっちは丸腰なのにどうするんだ!?負けたら話が進むのか!?」
「バァンさん、武器になるものがあるかもしれませんわ!今は逃げつつ周りを探索しましょう!」
身軽になったのを良いことに、ラティエが思い切り反対方向へ走り出す。バァンもそれに続こうとするが、それより先に、細身の体格の竜があっという間に横を通り過ぎて行った。
「ラティエ!!」
急いで追いかけようと足を踏み出すが、何かが足に絡んで盛大に転んでしまった。
見ると、ガマガエル型の竜の舌が長く伸び、バァンの片足に巻き付いている。
「俺の相手はお前って事かよ……!」
そのまま上に振り上げられ、地面へと力一杯投げつけられる。
「ぐうッ!!」
鎧が無いせいで、衝撃がダイレクトに身体を侵食する。
全身がビリビリと痺れるが、次の攻撃に対応しようと必死に身体を起こす。
すると、また舌が飛んでくるので、バァンは片腕を身代わりに差し出した。
奇妙な綱引きが始まった──と思えば、バァンは投げられる前にあえて相手の懐に潜り込んだ。
「模擬戦最強の俺を甘く見るなよ!」
そう言ってガマガエル竜の腹部を拳で滅多打ちにした。
だが、竜の表情は変わらず、むしろ涼しげであった。ブヨブヨの肉体に、パンチの衝撃は全て吸収されてしまっている。
ならば他の方法だと、今度は竜の脇腹へローキック。しかし、結果は同じであった。
「……そういや、ここは魔法は使えるのか?」
指先に魔力を集めてみると、チッと小さな火花が散った。魔法は使えるようだ。
必死に呪文を唱え、火の玉を作り出すと、竜目掛けて野球のピッチングのようにぶん投げた。
その火球を、竜は舌を伸ばしてペロリと口に含むと、そのままブレスとしてこちらに吐き出した。
それはバァンの顔をギリギリ掠めた為、髪の毛が少し焦げてしまった。
「くそー……、他に何があるよ……」
「バァンよ、苦戦しておるようだな」
声のする方を見ると、半透明のメガルダンドが手の平サイズで浮いていた。海に沈んでいて、見えなかった全身がよく見える。
蛇のように長い胴体に腕が何対も付いており、背には魚の胸鰭のような翼が6対。大きさのせいもあり、虫が苦手な人が見ると、少しギョッとするフォルムである。
メガルダンドが、思念体を飛ばして話し掛けているらしい。バァンとラティエの武器と鎧は、今はリレーミアが預かっているそうだ。
「少しヒントをやろう。
これは、自分の得意とする事を探す試練。それに気付けば、ごく簡単に倒せるようになっている」
「得意とする事って言われてもなあ……」
するとガマガエル竜が、まん丸の巨大で押し潰そうとゴロゴロ転がってきた。
バァンは左右にかわしていくが、それでもしつこく追い掛けてくる。どんどん精度とスピードも上がっていくので、ついに避けきれなくなったバァンは、魔力で跳躍力を強化して飛び越えた。
「……もしかして、これか?」
何かを感じ取ったバァンは、意を決し、執拗に追い掛けてくるまん丸な塊を両手で受け止めた。魔力で筋力を強化して。
転がる勢いが失くなってくると、地面へめり込まさん勢いで、魔力を纏わせた拳を振り下ろした。
竜の塊は、その衝撃で柔らかいゴムボールのように跳ねると、ボール形態が解除され、その場にへたりこんだ。
今までの攻撃より、明らかに手応えが感じられた。
勢い付いたバァンは、このまま押し切ろうと魔力で強化した拳や蹴りでダメージを与えていく。
その度に激しく怯んではいるが、どうしてか決め手にあと一歩届かない。
「こんな柔らかい奴、殴るより斬ったり刺したりが早いんだがなあ……」
そう呟いた途端、バァンはふと考えた。
拳を魔力で纏い、打撃力を強化できるなら、『手に持った何か』に魔力を纏わせ、斬撃等も強化できるのではないか、と。
バァンは小川へ向かって走り出した。周りは砂利に囲まれており、大小様々な石が落ちている。
その中の一番平たい石を拾うと、それに魔力を纏わせ、身を翻し、ふらつきながら後を追うガマガエルの腹を目掛け、水切りをするように腕を振り回した。
竜の腹が大きく裂け、そこから光の粒がキラキラと立ち上ぼり、そのまま消えてしまった。
「やった……。これが、俺の得意な事……」
バァンは自分手の平を、自信に満ちた表情で見つめていた。




