壊された安寧5
36話 壊された安寧5
「何で......何で、お父さんと、お母さんを、殺したの?」
私は、男に問いかける。
「何で、ナツを殺したの?」
「何で......あなたたちは、村の人を殺したの?」
「何で?何で何で何で何で何で!!お父さんとお母さんが、村の人たちが何をしたっていうの!!」
無意識に涙を流しながら、私は男に怒鳴り散らした。
すると、男はこちらに笑って見せた。
「俺はな。異世界から来た、勇者なんだよ」
……この人は、何を言っているの?
「俺は、俺たちは、国の魔術師のやつらにこの世界に連れてこられたんだよ。正直、呼び出された時はムカついたよ。俺にだって元いた世界での暮らしがあるんだ。なのに急に呼び出して、魔族を殺せとか言い出すんだからな......」
あまりに訳のわからない内容に、頭がついていけない。
「でも、俺は気づいちまったんだよ。この世界の素晴らしさに。全てが力で決まるこの世界の美しさに」
美し、さ……?
「もともと俺のいた国ではな、人を殺したり暴力を振るったりしたら牢屋に入れられたんだ。誰かを好き勝手に殺し回るなんて体験、元いた世界ではとてもできないものだった」
「でも、この世界は違う。どれだけお前らを殺しまわっても、好き勝手に犯しても、責められるどころか褒美を与えられるんだぜ?俺がお前の両親を殺したことは正義であり、褒められることなんだ」
正義?私達は何も悪いことなんてしていない。それなのに......そんな私達を殺すのが正義だって、本当に、本当にそう思ってるの......?
「なあ、嬢ちゃん。大人しく捕まってはくれねえか?俺は面倒事はしたくないんだよ。それに、大人しくしててくれるなら、命だけは助けてやるぜ?なんなら特別に、俺が個人的に匿ってやってもいい。嬢ちゃんはかなりべっぴんになりそうだからな」
男が、不敵な笑みを浮かべる。その表情を見た瞬間、私の心は完全に決まった。
もう……いい。こいつは、何も悪かったなんて思っちゃいない。私がここで、殺さなきゃ。
「どうだ?悪い話じゃないはずだが......」
早く。1秒でも早く、こいつを殺す。
私は剣を空中に浮かせ、男の方に剣先を傾けた。
「……そうか。お前の気持ちはよく分かった。その体、じっくり堪能したかったが、もういい。両親と同じように、気持ちよく首を跳ね落としてやるよ!」
もう、言葉を交わす必要なんてない。右腕も、左腕も、右足も、左足も、全部切り落とす。一思いに首を跳ねる?私はそんな簡単にはあなたを殺さない。殺してあげない。全部、全部切り落として……
ぐちゃぐちゃにしてやる。




