神隠し
「この一ヶ月で十二人も?」
「ええ」
ランプルから馬車で二日の距離にある村で、この一ヶ月、というか直近二週間で言えば行方不明者が八人も出ており、その原因調査と可能ならば原因の排除、解決をするのが依頼内容。いかにも冒険者への依頼っぽいのだが、
「無理だと思う」
「うん」
「ですよねー」
「……って、無理だとわかってて勧めてんのかい!」
「いえいえ、違いますよ。この手の調査ごとの場合、腕っぷしだけでは解決出来ませんけど、原因調査の結果次第では実力行使があり得ますからね。そのための要員としてお二人を、と」
「原因調査は誰がするんです?」
「お二人ですよ?」
「さっきと言ってることが矛盾してね?」
「いいえ」
ニムの言ってる意味が全く理解出来ず顔を見合わせる二人。
「あれか、ここ数日色々とありすぎてとうとう精神を病んでしまったとか?」
「ちょっと責任感じちゃうね」
「えーと、こそこそ内緒話しないで続きを聞いて下さいね」
冒険者ギルドに持ち込まれる依頼には魔物討伐、素材採取、護衛といった戦闘能力を問われるもの以外に、今回のような事件の調査もある。だが、基本的に冒険者は大半が脳筋で現場の調査や細々した事柄同士を結びつけて考えたりと言ったことが苦手である。そのため、基本的にギルド側もそうしたことが苦手な冒険者にこうした依頼を斡旋することはしない。
基本的には。
「と言うことで私が同行します」
「ニムさんが?」
「はい。ギルド職員として、この手の事件に関する資料には目を通していますし、地形や魔物に関する知識もありますからね。それらを駆使して『これが怪しいですね』とか『ここを調べてみましょう』というようなアドバイスができますよ」
「それって……」
「大丈夫ですよ。ギルド職員が同行したからと言って、報酬が下がるとか、評価が下がると言うことはありません。勿論、あまりにも酷い事……例えば、ギルド職員に暴力を振るうとか、そう言うことがあれば話は別ですけれど」
「んー、ちょっと相談しますね」
「はい」
茜に引っ張られて少し受付から離れる。
「ミキくん、受けましょう!」
「別に良いけど、妙にやる気だな」
「そりゃそうよ。ここから馬車で二日の距離、往復だけでも四日間よ?」
「四日間……うん、そうだな」
「ミキくん、何とも思わないの?」
「は?」
「四日間もニムさんのモフモフといっ……っ痛い!」
デコピン一発。
「いきなりデコピンは酷くない?」
「お前は何を言い出すんだよ」
「何って……」
「ほら行くぞ、受けるんだろ?」
「あ、うん」
依頼を受けると伝えると、すぐに出発するので東門のところで待ち合わせましょう、となった。ついでに塚本たちへ依頼のためにしばらく留守にするという伝言を頼んでおく。
「で、門で待ち合わせなんだが……その村までどうやって行くんだ?」
「さあ?」
冒険者ギルドから門までの道はたくさんの商店が軒を連ね、店の無い隙間には露店が並び眺めているだけでも楽しめる。
「お、アレなんか美味そう」
「依頼が終わったら食べてみよっか。あ、アレ可愛い!」
「可愛いけどなー、宿屋暮らしじゃ買うわけに行かないんだよな」
「ぶー……そっか、ミキくん、狐火の収の「却下」ちぇー」
「お前、俺を便利道具だと思ってないか?」
そんな話をしながら歩いていたら、「幹隆さん!茜さん!」と後ろから声をかけられた。
「ニムさん……って、馬車?」
「追いついちゃいましたね。はい、馬車ですよ」
ニムが乗っているのは一頭立ての小型の馬車。荷物もそれほど積めそうに無く、人が乗るとしてもせいぜい四人くらいだろうか。
「さ、乗って下さい」
「あ、はい」
言われるまま乗るのだが、釈然としない。
「あの、この馬車は?」
「私のものですよ」
冒険者ギルドの建物と買い取り品を保管している倉庫は程々に距離があるため、個人で馬車を持っている職員も珍しくないという。馬車ってそこそこ高価なはずで、もしも幹隆たちが社会経験豊富なら、「冒険者ギルドってひょっとしてかなりブラック?」と思ってしまうレベルである。
「……オーク討伐の時に使っても良かったのでは?」
「あはは。よく見て下さい、この子、結構高齢なんでスピードが出せません。この馬車も中古で結構ガタが来てますから、オーク討伐の移動手段に使ったら崩壊しちゃいます」
なるほど、確かに。比較的綺麗に整地されている街中でもかなりガタピシ言ってるし、木が腐りかけてボロボロに崩れている箇所もある。
「そろそろ修理しようと思ってるんですけどね」
「無事に目的地に着ければ問題ないですけど」
「そのくらいなら大丈夫ですよ……多分」
「「今の間は何?!」」
そのまま馬車を走らせ、日暮れと共に村に到着。街道沿いの村だから宿もあるのだが、あいにく部屋が一つしか無く、三人同室となった。
夕食を終え、寝るだけとなり、ニムは馬に毛布を掛けにいった。
「むふふ~」
茜の機嫌が良い。とても。
危険だ。幹隆だけで無く、ニムも。だが、いつものように簀巻きにしてピチピチはねているのを放置して寝るわけにはいかない。
どうする……どうする……
「あ、そうか。簡単だった」
「ん?」
「茜、ちょっとこっちへ?」
「なになに?」
「ほいっと」
毎日やってると簀巻きにするのも手際が良くなる。
「ちょっと!ねえ!さすがに今日は無いんじゃない?」
「そう。いつものようにするんなら……な」
「え?」
「茜!」
「え?何?え?」
「おやすみ!」
ズンッ
「戻りました~。あー、外は寒いです」
「すっかり冬ですね」
「ええ」
「馬は?」
「暖かくしておきましたから大丈夫でしょう」
「そうですか」
「アレ?茜さんは?」
「ああ、コイツ、寝付きが良くて、ベッドに入るとあっという間に寝ちゃって朝までグッスリなんです」
「へえ。健康で良いことです」
「ええ」
「さて、明日もありますから。明かり、消しますね」
「はい、おやすみなさい」
「茜、朝だぞ」
「んあ……ん……えと……ん?朝?」
「おう」
「ふああああ……アレ?」
「ん?どうした?」
「えっと……」
上半身を起こした茜がキョロキョロし出す。
「ニムさんなら馬に餌をやりに行ったぞ」
「あ、そう……アレ?」
「寝ぼけてんのか?しゃんとしてくれ。ほら、朝メシ行くぞ」
「あ、うん……行くよ」
おかしいな。確か昨夜は……ミキくんにまた簀巻きにされて……アレ?そこからの記憶が無い。んー、まあ良いか。
二日目の夕刻、目的地である行方不明者の出ている村へ到着。早速村長宅へ向かい、話を聞く。と言っても、冒険者ギルドに出ていた内容と違いは無く――正確には前日にまた行方不明者が一人出ていたが――本格的な調査を明日から開始するという話をしただけになった。
「また一人行方不明、と……」
「何か、大変なことになってますね」
「ええ」
翌朝――茜はまたしても眠った記憶が無かったのだが――村長の長男ロッソと共に森の中を三十分程歩くと、学校の校庭程の畑に着いた。綺麗に土が耕され、一面に様々な作物が植えられている。
魔物も生息している森だが、この畑の周囲と村までの道は魔物よけの臭いがする草が植えられており、安全が確保されていると言う。
「これは?」
「この村特産の薬草です。この国だと、この辺りの土でしか生育出来ない薬草ばかりで、ちょっとした切り傷から風邪、腹痛など色々と用途のある薬草です」
「行方不明になった人は全員ここで、と」
「ええ」
さて、それでは調査開始……だが、何から調べれば良いんだ?
「行方不明者の共通点は、ここで作業をしていた、ただそれだけ?」
「行方不明になった瞬間を見た人がいないんだよね」
「いつの間にかいなくなっていた……」
「ということは畑の真ん中に何かがある、と言うことは無さそうですね」
「だよなあ」
畑の真ん中だったら誰かの視界に入っているだろうから、いなくなったらすぐわかる。
「じゃあ、畑の隅っこ?」
「でも……特に気になるものなんて……」
畑にしていない、土を耕していない部分は程々に草を刈り取って、踏み固めているだけの地面。所々に休憩用の腰掛けるための大きな石や丸太が置かれている。
「ミキくん、狐火の探知で何か見つからないかな?」
「んー……やってみるか」
と言っても、狐火の探知は見える範囲の生命反応を探るもの。細かくみるように意識すると、小さな虫も探知出来るが、そこまで細かくするとそこら中に反応が出てしまう。
「あんまり遠くまで見ると余分な情報になりそうだから切るけど……周囲五十メートルくらいには何もないかな……」
「そっかぁ……うーん」
「茜こそどうなんだ?斥候って足跡を探ったりする技術がありそうだけど」
「そう思って探してるんだけどねぇ……ん?」
「何だ?」
「ミキくん、そこ。そこの大きな石」
「これ?」
「そう、それ」
茜が石というより岩と呼んだ方が良さそうな大きさの石を示す。
「それに座ってみて」
「え?えーと……こうか?」
腰掛けると同時に幹隆がギュンッと後ろへ吹っ飛んでいった。
「え?」
「幹隆さん?!」
村長の息子とニムが慌てる一方、茜は冷静だった。
「追いかけましょう」




