馬車を引いてみた
村に向かう街道に面した門の外でニムがギギギ……と扉を開く。そこには一台の貸し出し用の馬車(馬無し)がしまわれていた。
「これ、ですけど……」
「よし、これ借りるわ!」
「は?」
「ニック、乗って。君は御者台ね。道案内が必要だから」
「う、うん……」
「みんなはどうする?」
「乗っていいなら、乗るぜ」
「じゃ、乗って」
「あ、あのっ!どういうことですかっ?」
茜が仕切るのをさすがにニムが咎める。
「さっきも言ったように、オーク討伐依頼、私とミキくんが受けます」
「それは……特例で認めてもいいんですが、馬車だけって?!」
「あ、そうか。そこ、説明してませんでしたね」
そう言って、茜が幹隆の手を引いて、馬車の本来馬がいるべき場所に立たせると、自身は御者台へ。
「えーと、これは?」
「やあねぇミキくん。簡単な話よ。ミキくんが馬車を引っ張るの」
「「「はぁ?!」」」
「そんなことだろうと思ったよ」
一同が、本日何度目かの驚愕の声を上げる中、幹隆は悟ったように本来馬を固定するための棒に手を掛ける。
「って、それ馬車ですよ?人も乗ってるんですよ?」
「ええ、まあ……」
ニムに答えながら、ゆっくりと力を込める。
「とりあえず、急がないとマズそうだし、行ってきます」
「は、はあ……」
少し力を込めると、ガタリと音がして馬車が進み始める。
「「「へ?!」」」
何となく流れで乗った塚本たちと、野次馬根性で見に来ていた衛兵たちもニムと共に間抜けな声を上げる。
「うん、行けるな」
「さっすがミキくん♪」
そんなやりとりの後、幹隆がさらに力を込め、馬車を引っ張っていく。ガラガラと。馬が引くのと遜色ない速度で。
「な、何なの……あれ……」
「獣人ってあんなに力があったっけ?」
「お、おい、俺は夢を見てるのか?誰か俺をひっぱたいてくれ!」
「お、おう!」
「痛え!だがもっと!もっとだぁ!」
ガラガラと軽快に馬車が進んでいく。
「なんてコメントすればいいのかわからないんだが……」
「ああ、うん……えーと……ミキくーん」
「ん?」
「どうしよう?話しちゃっても大丈夫かな?」
「まあ……いいだろ」
長くなりそうなので茜に丸投げすることにした。
「わかった。ニック君、道案内、よろしくね」
「あ、はい」
村まではほぼ道なりだという話だが、念のためニックに案内を任せて車内へ移る。
「んーと、何から話せばいいかな……あ、これかな?」
川合茜
ハーフエルフ・斥候 レベル311 (234408/311000)
HP 4736/4736
MP 5171/5171
STR 61
INT 74
AGI 205
DEX 142
VIT 42
LUC 70
茜が自身のステータスを読み上げる。
「スマン……何が何だかさっぱりなんだが……」
「うん、だからね、レベルが……」
「いや、レベルって三百とか行くんだ……」
「えーとね……ミキくんはもっと上なんだけど」
「は?」
馬車の中からは見えないが、幹隆の現状はこんな感じである。
村田幹隆
狐巫女 レベル498 (4337/4980)
HP 17230/17230
MP 74/17230
STR 1723
INT 1723
AGI 1723
DEX 1723
VIT 1723
LUC 1723
昨日のゴブリンの群れ討伐でかなり上がったのだ。
「そりゃ、馬車も引けるわ……」
「あ、あはははは……」
「そこまで上がった理由は?」
「ミキくんの能力なんだけど……説明が難しいな」
「それなら!」
何となく話が聞こえていた幹隆が声を上げる。
「実際に体験してもらった方が早いと思う」
「あ、そだね」
「体験?」
「オーク討伐レベル上げツアー、みたいな?」
「なんだかよくわからんが、すごいことなんだろうな」
「うん、すごいよ!」
説明になってない説明なのだが、なんだか色々理解出来たような気になる辺りが不思議である。
幹隆が馬車を走らせ始めてから約三時間、日が傾き初めて来た頃、村が見えてきた。
「アレか?」
「ううん、あれは隣の村」
「そっか。そのまま通過するぞ」
「いいよ」
獣人の美少女が馬車を引っ張って走らせているという状況にすっかり慣れた一行はともかく、通過していかれる村人たちはというと……
「な、なんじゃありゃああああ!」
「魔物だ!馬車を引く魔物だ!」
「逃げろ!逃げろおお!」
軽いパニックである。
「何か酷くね?」
「気にしたら負けだよ、ミキくん」
「……そうだな」
今はニックの村に急がねば。
「疲れた……」
ニックの村の手前で馬車を止めると、ガクリと幹隆が崩れ落ちる。
いくらステータスが馬を凌駕していても、馬車は人間が引くように出来ていない。(当たり前)
一つ目の村を越えたあとの道は起伏も多く、馬車の速度が出すぎないように気を配らねばならず、体力の消耗も激しかったのだ。
「お疲れ様、ミキくん」
「ああ……茜……み、みず……」
「ん?わかった。待ってて」
茜が馬車からスコップを持ちだし、近くの地面を掘り始める。
「何を?」
「ミキくんがミミズが欲しいって。きっとお腹が空いたんだよ」
塚本の質問に冷静に返す茜。そして、無言で近寄る幹隆。
「い、痛い!痛いって!ミキくん痛い!癒やしをかけながらアイアンクローは止めて!」
無言のアイアンクローに必死に茜が抗議するが軽くスルーされる。
「意外に元気だな」
「あのステータスだ。回復も早いんだろ」
「ミ、ミキくん、骨、骨が!頭蓋骨がきしむ音が聞こえるっ!」
そんな二人の漫才を余所に、ニックが「父ちゃん!母ちゃん!」と、村の中へ駆けていく。塚本たちも釣られて歩き出す。
「おーい、じゃれ合うのも程々にな」
「先に行ってるぞ」
みんな薄情だ。茜は涙で歪む視界でスタスタと去って行く七人を見送りながらそう思っていた。
「ねえ、頭、指の形に凹んでない?凹んでないよね?」
自業自得という単語は思いつかなかったらしい。
村の中に入ると、ニックがコップを持って走ってきた。
「姉ちゃん、これ!」
「え?あ、うん。ありがとう」
幹隆としては、姉ちゃんという呼び方は止めて欲しいと思うが、今はこの一杯の水がありがたいと一気に飲み干す。
「ぷはぁ……生き返るぅ」
そこへ老夫婦と中年の女性が一人やってきた。ニックの様子からすると、女性はニックの母親だろう。
「あなた方が、ニックの連れてきた冒険者ですかな?」
「そうですが……村長さん?」
「はい」
「一つお願いが」
「何でしょうか」
「あの狐の獣人に、軽くでいいんで食事を」
「食事?」
「ここまで馬車を引っ張ってきたんで腹ペコみたいです」
「は?」
「塚本……説明してくれるのはありがたいんだけど、伝わってるようで伝わってない感じだぞ」
「ありのままを言ってるんだけど」
「それな」
とりあえず、「余り物ですが」とパンと少しばかりの肉、野菜が提供されたのでありがたく頂戴する。
「はあ……うまかった。ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「ま、馬車を引っ張って無くてもここまで走ってきたらお腹も空くわね」
「だな」
「オマケに馬車を引っ張ってるしな」
「意味わからんよな」
「お前ら、少しひどくないか?」
幹隆の扱いが少しひどい件について、と窘めたところで村長が口を開く。
「ところで、オークの件ですが」
「そうね、本題に入りましょう。ミキくん、オークの位置、わかる?」
「見てみよう……狐火の探知」
「「「ス○ウター?!」」」
「その下り、もういいから」
軽く突っ込んでから周囲を探す。
「んーと、こっちの方角かな」
幹隆が指さす方向に村長が頷く。合っているようだ。
「距離は……三キロ弱ってところか?」
「もうそんなに近くまで?!」
「数は……重なってるし、動いてるから数えにくいけど……五十以上いるぞ。もしかしたら百越えるかも」
「な!」
予想よりも早い接近と、予想以上の数に村長の顔色がおかしい。
「それにこれ……でかいのが一匹……リーダーのサイズじゃ無いな……」
「え……」
「リーダーよりでかいとなると、ロードとか?」
「多分。詳しくないけど」
「オ、オークロード……」
「村長さん、魂が抜けそうだから気をつけてくれ」
さすがに葬式を出すには少し気が早い。
「あ、ああ……で、ですが……オークロードなんて……もう、それは……」
さすがに塚本たちもオークロードは想定していなかったので、黙り込む。
「さてと……行くか」
「え?」
「行くってどこへ?」
「どこって……オーク討伐以外に何があるんだ?」
「「「えええええ?!」」」
「いや、そこ驚かれても困るんだけど」
「だよねぇ、そのために来たんだし」
「イヤイヤ、オークロードだぞ?オークリーダーの何倍も強いって奴だぞ?」
「だから?」
「え?」
「倒せばいいんだろ?」
話がかみ合ってない。
「まあまあ、みんな。村田君のステータスなら何の問題も無いだろうから、任せようよ」
「それもそうか……」
「だな」
「塚本がイケメンに見える」
「JKにそれはひどいな村田君」
「細かいことは気にするな」
「ふふっ……それはそれとしてあとでじっくり追求するが、大丈夫なんだね?」
「多分な。一応オーガキングとかも倒してるし」
「……任せた」
「おう」
さて、さっさと片付けようか。




