再会と言えなくもない
今回、ステータス表記が多いので、文字数が多くなってます。
ステータス表記がないといつもとそれほど変わらないんですけどね。
「なかなかうまいな」
「何の肉かな……豚?」
煮込みセットをつつきながら査定を待つ二人。
この煮込みセットは、このギルドの酒場兼食堂の名物料理で、他のテーブルにも酒と共に並び、冒険者たちが舌鼓を打っている。肉だけで無く野菜もバランス良く入っており、暴飲暴食と肉オンリー食のコンボを繰り返す冒険者の健康を考えたメニューでもある。
「それはオークの肉だよ、村田幹隆くんに川合茜さん」
「へえ……」
「オークの肉ってこんな感じなんだ」
「見た目通りの豚肉みたいな感じだな」
「そうね。柔らかいのはよく煮込まれてるから?」
「かもな」
納得して食事を続ける二人。
「あー、出来ればその……」
「ん?」
「二人の本名を言い当てたことについて何かリアクションが欲しいんだが」
そう言えばそうだなと二人で顔を見合わせる。
「うわーすごいなー(棒)」
「ホントだねー(棒)」
「それはそれでひどくない?!」
そう言いながら塚本がテーブルのすぐ脇に立つ。その後ろにはここまで同行してきた六人が並んでいる。
「やっと追いついたよ。二人とも足が速くてなかなか大変だった」
「……誰?」
「え?」
「茜、知ってる?」
「ううん、知らない」
ガクリと塚本が崩れ落ち、慌てて他の者が駆けより、「大丈夫か?」「傷は深いぞ、気をつけろ」と励ましている。
「わかってた。この展開は予想してたんだよ、うん」
「……なるほどね」
「ん?ミキくん何を納得してるの?」
「茜、よーく聞いてみろ。こいつら、日本語で話してるんだ」
「あ」
「つまり、勇者候補か」
幹隆の表情が険しくなる。連れ戻す、あるいは始末すると言った用件なら容赦はしない。王国に戻る気は無いし、剣聖ともてはやされる男をもう一度前にしたら、急所を蹴り飛ばすだけでは済まないだろう。
「えーと……場所を変えようか?」
「食べてる最中なんだが」
「いいだろう。僕らはもう済ませたから……そうだね、外で待つことにするよ」
塚本たちが外へ出て行くのを見送り、食事を再開する。
「ミキくん、どうするの?」
「放置」
「え?」
「場所を変えると言ったけど、外に出るとは言ってない。外で待つというのは聞いて一応同意したけどいつ出るとも言ってない。そして、俺らはここに泊まっているから外に出る必要も無い」
「うわー、ミキくん鬼畜~」
そういう茜も立ち上がるそぶりすら見せていないのだから似たような者だが。
食べ終えて、果実水をすすっていると受付から呼ばれた。
「確認、終わりました」
「はい」
「ゴブリン百九十七、ホブゴブリン十四、ゴブリンリーダー五」
「お疲れ様」
「ホントですよ。一日でこんなに狩ってきたなんて……この支部どころか、この国のギルド全体での記録を大幅に更新です。おまけにリーダー込みなんて」
「あはははは」
「これだけの討伐結果なら一気にランクアップ、と言いたいのですが、ランクは一度に一つしかあげられませんので……お二人はEランクまでしか上がりません。申し訳ありませんが」
「いいですよ」
「え?」
「とりあえず、冒険者としてやって行けそうだって感触はつかめたので」
「そ、そうですか……」
ギルド側としては素直に従ってくれるのはありがたいことである。時々いるのだ。「俺の実力はこんなもんじゃ無い!」と暴れる輩が。
そしてこの二人の場合、たった一日でゴブリンリーダーを含む三桁の討伐数。実力が未知数過ぎて、もしも受け入れられなかった場合、二人を止められる戦力は無いだろうから、受付係としてはまさに恐る恐るだったわけだ。
「それでは……こちらが討伐報酬です」
「おお、何か袋が重い!」
「うわ、ホントだ。ずっしりって感じ!」
「一応、ゴブリンリーダーの魔石は買い取りとしておりますが……」
「どうぞどうぞ」
魔物から採れる魔石はいろいろな使い道があるため、ギルドで買い取るよりも専門店に持ち込めば高額で取り引きされることは珍しくない。ましてやゴブリンリーダーともなるとかなりの額になるのだが、二人は取引相手を探すのが面倒という理由でギルドでの買い取りにした。
ギルドにしてみれば、取引相手を探す手間こそかかる――ゴブリンリーダーの魔石ともなればすぐに買い手は見つかるだろうが――ものの、倍以上の額で売れることもあるため、ホクホクである。
冒険者証の書き換えを終えると、そのまま部屋へ上がっていく。出来れば風呂に入りたいが、外に出ると面倒くさい話が始まりそうなので今日は我慢だ。幸い、お湯をもらうことは出来るので、体を拭くことは出来る。
「明日は、服でも買いに行くか」
「そだね。さすがにちょっとこの格好じゃ……ね」
着飾るつもりは無いが、少しはマシな格好になりたいものだと話して明かりを消す。
「じゃ、お休み」
「うん、お休み」
ドンドンドンドンドンドン!
「何だよ、うるさいなぁ」
仕方が無いのでドアを開けると塚本が疲れた顔で立っていた。
「外で待ってると言ったんだけどね」
「行くとは言ってない」
ガクリ、と塚本が崩れ落ち、ガバッと顔を上げる。
「日本人なら!空気読もうよ!」
「そう言われてもな」
「ここ、日本じゃないしねぇ……」
何気に茜もひどい応対である。
「中、入っていいかな?」
「いいけど……狭いぞ?」
「すぐに済む」
「そうか」
廊下で立ち話よりマシかと、とりあえず部屋に招き入れるが、元々ベッド二つでいっぱいになっている部屋。ちょっと腰掛ける椅子、なんてものすら無いので、適当にベッドに腰掛ける。
「先にきちんと名乗ろう。私は塚本幸子。君たちを追ってきたのは確かだが、別に王国に連れ戻すとかそういうことはしない」
「そうか……って、塚本ってこいつだっけ?」
幹隆が茜に確認を求めるが、茜は首をブンブンと振る。
「それに関して詳しい話はまたあとで。とりあえず私たちの泊まっている宿は……」
必要最小限のことだけ伝えると塚本は去って行った。
「ミキくん、どう思う?」
「どうって……」
塚本から聞いたのは七人が泊まっている宿と、彼らも王国から逃げ出してきたこと。そして幹隆たちと行動を共にしたいという事。
「行動を共に、って言われてもなぁ」
「だよねぇ」
ティアと合流する以外に何か明確な目的を持って行動していたわけでは無いので、何とも返答に困る話だ。
「茜はどうしたい?」
「うーん、異世界に召喚されたって意味では同じ境遇だからね。仲良くするのはいいと思うよ」
「だな」
話を聞くだけ聞く。それで一緒に行動してもいいと思ったらそうするし、ダメだと思ったら別れる。最悪実力行使してでも。そう決めて、寝ることにした。
「ねえミキくん」
「なんだい茜?」
「私、どうして簀巻きにされてるのかな?」
「自分の胸に聞いてごらん」
「両手が動かせないから手を胸に当てられないよ……ハッ、ミキくんの手を私の胸にっ?!」
「おやすみ」
「って、ちょっと!放置しないで!ねえ!相手して!一人でボケ続けるのって、結構心に来るんだよ?!」
翌朝、塚本たちの泊まっている部屋を訪れると七人全員がやや疲れた顔で待っていた。
「一応聞くけど、昨夜ずっと待っていた、なんてことは無いよな?」
「……そのまさかだよ」
「いや、さすがに昨日はもう遅かったし!」
「そうだな、ちゃんと言わなかったこちらも悪かった」
とりあえず互いに何となく頭を下げて解決。日本人同士でしか通じない空気感である。
「さてと……まずはお互いに自己紹介かな」
「そうだな」
宿の食堂の奥に場所を移したところで、塚本が切り出す。
何しろこっちに来た時に姿形が変わりすぎているので、互いに名乗らなければ誰なのかさっぱりわからないのだ。
稲垣健太(本物)
槍聖 レベル6 (2235/6000)
HP 328/328
MP 183/183
STR 18
INT 7
AGI 13
DEX 13
VIT 8
LUC 5
塚本幸子(本物)
ビーストマスター レベル1 (466/1000)
HP 99/99
MP 128/128
STR 7
INT 9
AGI 8
DEX 9
VIT 7
LUC 7
中山徹
猫獣人・斥候 レベル2 (401/2000)
HP 127/127
MP 127/127
STR 7
INT 5
AGI 16
DEX 15
VIT 5
LUC 8
松島浩平
剣士 レベル2 (603/2000)
HP 174/174
MP 88/88
STR 13
INT 5
AGI 11
DEX 10
VIT 8
LUC 7
日野のどか
治癒術士 レベル2 (11/2000)
HP 126/126
MP 155/155
STR 5
INT 15
AGI 7
DEX 9
VIT 6
LUC 9
越智香緒里
猫獣人・格闘家 レベル2 (738/2000)
HP 170/170
MP 88/88
STR 10
INT 5
AGI 14
DEX 13
VIT 6
LUC 5
清水聡子
ドワーフ・重戦士 レベル2 (116/2000)
HP 193/193
MP 80/80
STR 12
INT 6
AGI 9
DEX 11
VIT 11
LUC 6
「稲垣君と塚本さんだけ性別が入れ替わってるんだ」
「そうだね。さすがに慣れてきたけど、最初は大変だったよ……主にトイレが」
「わかる」
幹隆が手を差し伸べると稲垣が握り返す。その上に塚本が両手を重ねる。
「猫獣人と言ってもだいぶ違うんだな」
「ああ。俺はほぼ全身毛皮だけど越智さんは耳と尻尾だけだもんな」
「あたしはひげもじゃドワーフじゃ無くて良かったわ」
幸いなことに清水は背の低い、ややがっちりとした体型の女性で、日本人の感性ならドワーフと気付かないかも知れないレベルだった。
「槍聖って塚本って名前じゃ無かったか?稲垣って?」
「僕から説明するよ」
塚本が経緯を説明する。
「……つまり、あの稲垣を名乗っていたのは偽物で、本物はここにいるが、当初は塚本を名乗っていて……って面倒くさいな、おい!」
「はっはっは」
「余計な混乱を招いてすまなかった」
本物の稲垣、いい奴だ。
「で、聞きたいことが色々あるんだけど……二人はどうして王国を逃げ出したんだい?」
「どうしてって……うーん……」
話して良いものか悩ましいところだがと、少しの逡巡の後、幹隆が口を開く。
「実は、俺たちの前に召喚された勇者候補が、日記を残していたんだ」
「前の勇者候補の」
「日記?」
「そう。そして……その……」
さすがに言いづらく、幹隆が口ごもる。
「あのね……三年くらい前にあった高速道路の大事故、覚えてる?」
見かねて、茜が続ける。
「ああ、覚えてる」
「夏休みにあった奴だろ?」
「すげー事故だったよな」
「ミキくん、その事故で大怪我をしたの」
「……そうなのか……」
高速道路の事故と言っても県外の話。自分には関係ないと思っていたことが急に身近になり、全員が押し黙る。
「ああ。だから俺、みんなより一つ年上なんだ。その……隠してたわけじゃ無いんだ。話す必要、無いと思ってたし」
幹隆が少し引きつった笑みを浮かべながらフォローする。
「いや、話しづらいことだろ?」
「いいって」
「うん」
「それでね……その事故の原因が……王国がやった前回の勇者召喚だったの」
「「「は?」」」
「日記には、トラックの運転中に召喚されたって書いてあったんだ」
「それって……」
「つまり……」
「それでね。前回の人、罪悪感に苛まれて……こう考えたの。『魔王って本当にいるのか?』って」
「「「え?」」」
「実際、不思議だと思わないか?」
幹隆が立ち上がり、皆を見ながら言う。
「あれだけ城の連中が魔王魔王って騒いでるのに、街で魔王の話なんて聞いたか?」
「あ……」
「この国で聞いたことは?」
「そう言えば……」
「本当に魔王が攻めてきているってんならさ……最前線での戦いがどうとか、少しは噂になってるんじゃ無いのか?」
それこそが、前回召喚された勇者候補が疑問に思ったところであり、密かに魔族について調べた理由である。




