ゴブリン討伐(根こそぎ)
翌朝、ギルドの食堂で早めに朝食を済ませると、早速仕度を調える。
「あら、お出かけですか」
「ハイ!」
ニムが声を掛けてくると、茜が答える。
「どこへ行くかは詮索しませんけど、くれぐれも気をつけてくださいね」
「お気遣いどうも」
「ちなみに駆け出し冒険者の一割は初日で命を落としてますので……」
「気をつけます!」
二人が外に出ると、酒場にいた数名の男が立ち上がる。
「先輩として、きちんと指導しないとなぁ」
「手取り足取り、な?」
ガハハハと笑いながら外に出るが、二人の姿は無い。
「アレ?どこに行った?」
「ん?おかしいな……結構目立つ二人だから見失うなんて事は……」
正解:まだ朝早くて人通りが少ないのをいいことに二人とも全力疾走で門に向かったから
森へ入っても二人は速度を落とすこと無く十分ほど進み――さすがに門の付近では歩いたが――街道から全く見えなくなったあたりで立ち止まる。
「さてと……この辺でいいか?」
「うん。周りに誰もいないから大丈夫」
「よし」
昨夜、狐火魔法になんか便利なものが無いかずらりと並んだ一覧を探したのだ。
狐火の探知 狐火十個消費
熟練度 0
狐火による生命反応探知をする。
熟練度が上昇すると、持続時間が延びる。
ボッと、狐火が集まって幹隆の左目を覆う。
「まんまス○ウターね」
「はは……」
昨夜試した時は、酒場で飲んだくれている冒険者の人数や大まかな強さまで把握できた。
今日はこれが大活躍する……ハズだ。
「んーと、こっちだな。距離は二キロくらいかな?数は……結構いる。重なってるから数えるのは無理」
「よし、行ってみよう!」
二人とも、群れだったらとか、巣を見つけたらとか、そういう注意事項は完全に頭から抜け落ちている。
「行くぞ!」
幹隆の誘導で走り出す。
走ること数分。ゴブリンの巣というか集落を発見した。
数は五十ほど。街道から入り込むこと四キロほどならば、よくあることらしく、基本的にはベテラン冒険者五、六名のパーティが対処する規模だ。
「ゴブリンリーダーがいるな」
「他の上位種は……ホブゴブリンが五匹ね」
「茜、準備はいいか?」
「いいよ!行こう!」
それぞれ武器を手に木陰から飛び出して、一気に距離を詰めていく。
突然の出来事に錯乱し、大騒ぎしているゴブリンたちを片っ端から叩き潰していく。
あちこち逃げ惑うゴブリンリーダーに少しだけ手間取ったが、全て狩り尽くすまでにかかった時間は五分ほど。
「倒すより、耳の回収に時間がかかるねぇ……」
「ま、討伐証明イコールランクアップのためのポイントだからな。我慢して集めようぜ」
ゴブリンリーダーはどうすればいいのかわからなかったので、とりあえず耳と体内から出てきた魔石を回収しておく。
「この短剣、いい感じじゃ無いか?」
「ん、そうね」
ゴブリンリーダーの短剣を回収。言うまでも無くレアな武器。そして、茜が持つにはちょうどいいサイズの武器だ。
「あとこれ、小屋の入り口に置いてあったけど……エルフの短弓?」
「ボロボロね……」
「エルフが襲われて……戦利品?」
「でも、他にエルフの物が見当たらないわね」
「じゃあ、何かの拍子に落としたのを拾ったのかな?ま、いいや。茜の武器って事で」
「うん!」
中古屋で買った武器より遙かにマシというか、比較にならない上に、ぱっと見では差がわからない武器が手に入った。
「よし、もう少し狩るか」
「目標は?」
「今日中に二百匹」
「それはちょっと難しいかもね」
耳の回収にかかる時間を考えるときつそうである。
「疲れたな……」
「うん」
「腹減ったな……」
「うん」
「ギルドまであと少しだから頑張れ」
「……モフモフのために頑張る」
「もう少し違う方向で頑張れないか?」
真剣に茜の将来が心配になってきた。
この世界に良い医者はいるだろうか……頭の。
日が沈みかけた頃にギルドに到着すると、少しだけ周囲がざわついた。理由はもちろん、二人が無事に戻ってきた事なのだが、何故かヘロヘロになっているのも気がかりなのだろう。
受付の列に並ぶこと十分。幹隆たちの番になった。対応するのはニムだった。朝からいたのだが、一体何時間働くんだろうか?
「お疲れ様です。無事で何よりですが……大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと走り回りすぎて疲れただけなので」
「そうですか。それでご用件は?」
「ゴブリン、討伐してきたので、その報告を」
「わかりました。では討伐証明をお願いします」
「はい」
よいしょっと二人がそれぞれ持っていた袋をカウンターに乗せる。
「あ、えーと……説明しませんでしたっけ?ゴブリンの討伐証明は左耳だけでいいんですけど」
どう見ても数匹のゴブリンをまるごと入れてきたかのような袋を前にニムが言う。
「ははっ、嬢ちゃんたち、まるごと全部持ってきても意味ないぞ?どうせ捨てるだけなんだからよ」
「そうそう。明日からは俺たちが手取り足取り教えてやるからさ」
幹隆たちが最後と言うこともあり、野次馬で集まっていた数名の冒険者たちが絡んでくるが、二人とも意に介さない。
「耳だけですよ」
「え?」
全員の動きが一瞬止まる。
「だから、これ、耳だけです」
「え?」
「これ、全部耳だけですってば」
「は?」
話が進まない。ラノベのやれやれ系主人公の心労が少し理解出来たところで、幹隆が袋の口を縛っている紐をほどく。
でろでろでろっとあふれ落ちてくるゴブリンの耳。子供が見たら絶対泣く。ホラー映像でしか無い。
「ふぇっ?!」
「は?!」
「え?!」
それを見て固まるギルド職員に冒険者たち。
「ゴブリンの討伐証明、確認をお願いします」
「あ、こっちの袋も似たような感じです」
「二人で狩りまくったので、数は二で割ってもらっていいですよ」
にこやかにニムに伝える二人。
「えっと……あちらで少々お待ちください」
「あ、あと……」
さらに小さめの袋を一つ。「これ以上何があるんだ?」という視線を集める中、袋を開ける。
「ゴブリンリーダーの耳と魔石。五匹分です」
「「「「えええええええっ?!」」」」
全員が驚愕の声を背に、酒場の手近な席に着く二人。
「すみませーん。この煮込みセットと果実水、二つずつお願いします」
「お腹ペコペコ~。急いでね~」
空気を読まずに注文。そしてニムに向かって一言。
「ニムさーん、固まってないで数えてください」
「あ、ハイ!はい……この数……誰か手伝って!」
受付カウンターは軽くパニックに。そして野次馬をしていた冒険者たちは目の前に積み上げられた耳を前に呆然としている。
全員の心は一つ。
「あの二人、一体何者なんだ?!」




