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二度目の手紙

 何だかんだと紙面を騒がせ、エリオットに身に覚えのない武勇伝を付与させた強盗事件だったが、結局は犯人も捕まらず、迷宮入りとなった。無論、エリオットとしてはありがたいことである。


 事件が終息に向かうと、皆の話題は品評会の方に戻っていった。折しも、審査の日が近づきつつあったのである。


 そして当日。人々は、審査員が作品群を見て回る様子を、新聞の上で興奮しながら追った。

 優勝は多数決で決まる。王宮の宝飾品デザイナーや被服職人などの専門家の他に、抽選で選ばれた匿名の貴族、五十人の票によって、栄光を掴むのに最も相応しい一品が選ばれるのだ。専門家の票は一人で十票分の価値があり、一般票は一人一票だ。


 結果が発表されるのは三か月後だが、皆、その日が待ちきれないようである。サンドリヨン王国では、品評会は、舞踏会と同じくらいの盛り上がりをみせる行事と言っても良いかもしれなかった。ただし、ロマンチックさが足りないせいか、乙女ゲームのイベントとしてはあまり絡んで来ないようだったが。

 

 エリオットのクラスでも皆、最近は品評会のことばかり話題にしている。少し前までは、エリオットに話しかけてくる者は判で押したように、犯人がどうとか、怪我はもう良いのかとか聞いてきていたのに、近頃は、優勝する自信はあるかという話ばかりだ。

 

 ヘレナが急きょ学院へと足を運んだのは、そんな折のことだった。


「これを……」


 ヘレナは何となく顔色が良くなかった。休み時間に、中庭にエリオットとエルティシアを集めて、震える手で、手紙を差し出してくる。中を見た訳ではないのだろうが、彼女はすでに、その内容を知っているようだった。


 最初にエルティシアが手紙を読んだ。途端に、彼女は息を呑む。その訳を、エリオットもすぐに知ることとなった。


 祖母が死んだ。


 手紙は、母の実家のサリヴァン家からだった。数日前から急激に病状が悪化し、今日の明け方、帰らぬ人になったという旨が、伯父のグラントの筆跡で淡々と書かれていた。


「葬儀は明日執り行う……」

 エリオットは、読み終わってからもう一度手紙に目を落とした。エルティシアと顔を見合わせる。


「行かないと」

 ハンカチで涙を拭いながら、エルティシアは呟いた。


「私……あのお見舞いの後、絶対に遊びに行こうって決めていたのに、できなかったわ。だから、せめてお葬式は……」


 前回サリヴァン家に行ったときから五か月が経とうとしていた。サラが案外元気だったので、エルティシアも、再訪をそこまで急いていなかったのだろう。彼女はそのことを後悔しているようだった。


「そうですね」

 エリオットは、エルティシアの背中をさすりながら返事した。本当は明日、人と会う約束があったのだが、日を改めなければならない。


「……ヘレナ、一緒に来て?」

「はい」

 どうしてなのかヘレナは聞かなかった。ただ、自分の肉親が亡くなったときのような沈痛な顔をして、頷いた。

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