大吾と異世界➂
日も傾き始めた夕方。
クエストから帰還した冒険者たちは街の正門をくぐり、まずはギルドを目指す。成功しようと失敗しようとギルドへは報告して報酬を得なければならないからだ。
俺たちは、ギルドから出てきた冒険者たちを物陰から観察していた。
理由はもちろんちっぱい教改めマール教へ入ってもらう事。
マールは女神へのランクアップの為、俺はステータス向上とちっぱいの良さを全世界に広げる為。
しかし、こうして眺めていると本当に色々な冒険者がいるなと改めて実感させられる。
まずは何といっても職の多さだろうか。
剣を持っている冒険者だけでも片手剣と盾を持つ騎士タイプの冒険者、剣を二本持つ双剣タイプ、巨大で横広な剣を背負う大剣タイプなど実に様々。
そこから更に槍やハンマー、弓、魔法使い、武闘家などパッと見で分かるだけでも相当な職種があるようだ。
そういえばマールは魔法使いだが俺はどの職種に分類されるのだろうか。
一応どんな人でもある程度は扱えるようだが、人によって適性が違う。ステータスを見てもSTRが低いマールには武闘家や重い大剣などは適性が低いだろう。
俺はINTやDEX、LUKが低いので魔法使いや弓などの支援、遠距離系は向いてないような気がする。こうなって来ると残りは近接系だけどモンスターには近づきたくねぇなぁ。
あくまでもゲームの知識なので本当にそうなのかはギルドで適正を見てみないと分からない。明日、採取クエスト(確定)を受けるのに当たって適性も見てもらった方がいいのかもしれない。
それよりも、今は――
「大吾さん、大吾さん。あの方なんてどうでしょうか」
マールがヒソヒソと言って指差す先にはいかにもなプリーストの女の子がいた。
ちなみに俺たちは壁から『B』の字で顔だけ出しており、はたから見ると怪しい事この上ない。
「いや、あの子はダメだ。プリーストは既に神に仕える身として今まで来ているわけだがら、いきなり知名度の低いマールへ鞍替えするとは考えにくい」
「知名度の低いっ…!」
俺の目からはマールの後頭部しか見えないが、それだけでもプルプル震えてるのが分かるので優しく撫でてフォローしておく。
「もっと信者が増えれば今仕えてる神様よりマールの方がいいってなるかもしれないからそれまで我慢だ」
「…そうですね。信仰も人々の自由ですから」
優しさの塊マルチテン。マールの半分は優しさで出来ている。
「それにしても意外な答えでビックリしました。てっきりプリーストの方が巨乳なので勧誘しないと言い出すものかと」
「…」
「え?」
「ち、違うよ」
まぁ確かにあのプリーストの子、服の上からでも分かるくらいパッツパツのメローンなお乳をなされているが。それとこれとは話は別だ。ホントだよ?
「あっ。大吾さん、あの方なんかいいんじゃないですか? わたし的に成功する未来しか見えないです」
そう言ってまた指差す先には先程のプリーストとは一転、腰に巨大なハンマーを下げた筋肉モリモリの大男だった。
2メートルはありそうな巨体に筋肉がガッチリ逆三角でついた脳筋冒険者タイプである。
「ほぅ。マール、いい目をしているな。ああいう男は小さい子に対しての擁護欲が人より秀でていて小さい子大好きか、逆に自分より強い屈強な女冒険者にいいようにされたいと内心思っているかのどちらかの奴が多いからな」
「今の話を聞いて一気に布教する気なくなりましたよ!」
「大丈夫だマール。お前は小さい。何も問題ない」
「どこが小さいのかは敢えて聞きませんけど、その小さいのジャンル大丈夫なんですか!? もっとこう年齢的なものじゃないんですか!?」
「俺の見立てではあの男はどっちでも行ける。何も恐れる事はない。むしろ勝ち確のいいカモだ」
「恐れしかないですってば! それにわたしの信者になるかもしれない人をカモって言わないで下さい!」
ガウガウ怒ってたマールだったが、意を決して『いってきます!』と飛び出して行った。
度胸のある子。ちっぱい天使マールちゃん。
「あ、あのっ」
「ん? なんだいお嬢ちゃん。俺に何か用かい?」
よし、取り敢えずは怪しまれていない。
服装も天使服(俺命名)から普通の白ワンピにブラウンの皮サンダルと逆に天使感が増してしまって危ないかと思ったが、何とかスムーズに入れたようだ。
わかってるな、マール。あくまで自然にだぞ。小ささを前面に押し出しつつ、あくまでも自然―――
「ち、小さい女の子は…、好きですか?」
はい、アウトオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
俺は高速移動してマールを掻っ攫ってその場を後にした。
―――
「マールのアホ! バカ! ドジ! ちっぱい!」
しばらく走り回った後、再び別の物陰に隠れてマールを怒鳴りつけた。
「大吾さんがあの人が小さい子大好きだって言うから正直に言ったのに! それに悪口の中にわたしの胸についての事が入ってた気がするんですけど!?」
「あっ。それは違います。最後は褒めようと思って言ったのでちっぱいは悪口じゃなくて誉め言葉です」
三回も悪口言っちゃったからね。アフターケアは忘れない。飴と鞭を使いこなす男、それがこの俺青木大吾だ。
「あんな事言ってもしあいつに捕まって路地裏なんかに連れて行かれたらどうなってたと思う!」
俺がそう言うとマールはサァ…と顔を青くした。
「そ、そうですね。わたしが迂闊でした。もしそうなっていたらわたしは大吾さんの持ってた薄い電子書籍のようになるところでした」
「おい。お前マジでどこまで見た」
「ひっ」
再びどすが利いた声を出す。
マジでマールちゃんどこまで読んだの? 興味津々かな? しかも何だよ薄い電子書籍っていうパワーワードは。
「まあいい。それより今は布教が先だ。今度は俺が行こう」
「大吾さんの本気を見せて下さい」
ちっぱい胸の前で両手でグッと握り拳を作るマール。やる気が300%向上した。
そして再びB字で顔を覗かせる俺たち。もう息はぴったりだった。
「大吾さん大吾さん。あの方は? 杖持ってる女の子。お胸も大吾さんの好みど真ん中で小さいですよ」
「好みど真ん中ってお前…、あれはただ年齢が低い、つまりロリなだけだろ」
「ロリ=ちっぱいなんじゃないんですか?」
「はぁ。全然わかってねぇなお前は」
やれやれと首を振る。まさかここから話すことになるとは、全く最近の子ときたら(年下)。
「いいか? そもそも俺はちっぱいが好きなだけであってロリコンってわけじゃないんだよ。よく言われるんだが、俺はただ単にちいさい胸が好きなんじゃない。子供の胸なんてのはこれから成長するにあたってどんな変化をもたらすか分からないだろ? 小さいうちは好きだったのに大きくなったら好きじゃないなんてのは最低の屑野郎だ。人によるだろうが俺の定義からすると、ちっぱい=完成された究極の形なんだ。発展途上の胸をちっぱいとは呼ばん。ロリ≒ちっぱいなんだよ。それをロリを指しては、やれちっぱいは正義だのステータスだの言ってるのは二流三流のちっぱニストさ。一流こそ成人女性のちっぱいを求めるものなんだ。分かったかマール」
「はいこれ美味しいよー。女神マールをよろしくねー」
「ありがとーマール様!」
「マーーーーーーーーーーーーーーールッ!!!!!」
マールはいつの間にかそのロリっ子の所に行って串焼きをあげてた。
お前その串焼きの300コーン全財産だから取っとけって言ったじゃねーか何してんの。
「だって何言ってるのか分からないんですよ大吾さんは」
やたら長いし、とジト目を向けるマールちゃん可愛い。
しかもちゃっかり信者も3になってやがる。悔しい。でもこれ3人とも物で釣ってるだけじゃね? いいのかなこれで。札束で殴るゲームになったりしない? 廃課金のみ人権があるソシャゲみたいになったら嫌よ?
「と、とにかくそこで隠れてろ。俺の本気を見せてやるから」
俺は目を付けた女冒険家の元へ確かな足取りで向かっていく。
何かを探しているのか、それとも待ち合わせか周りをキョロキョロしているのが可愛らしい。
その子は武闘家で、赤髪で、短髪で、そしてなにより―――、ちっぱいだった。
「やぁ! 君、いい胸してるね!」
次の瞬間、俺の顎をその子の拳が打ち抜いた。
―――
「前が見えねぇ」
いやー、マジあの武闘家の子パないわー。顎打ち抜かれて脳が揺れたと思ったらそのままマウントで顔面ボコボコに殴ってくるとかパないわー。
ちっぱい女子からの攻撃はHP1で耐えれる俺だから良かったものの、あれ他の奴だったら普通に死んでてもおかしくないレベルの重いパンチだった。あれはいい冒険者になるぞ(上から)。
俺は給食のおばちゃんにボコボコにされた嵐を呼ぶ幼稚園児みたいな顔になって公共の風呂場へと向かっていた。
もちろん顔が膨れ上がって前が見えないのでマールに手を引いてもらっている。
「大吾さんの方がバカじゃないですか。お胸の大きさは女性にはデリケートな問題なんです。気にしてる方が多いのにあんな事を言うなんて」
「何故皆、ちっぱいに誇りを持たないんだろう」
「わたしに聞かないで下さいよ」
はぁ、と溜息を吐きつつも心配そうに見てくれるマール。マルチテン。
「ちっぱいに誇りを持てる時代が来る。俺はそう信じてる」
「ばい菌に水かけられて濡れちゃったアンパン顔して言っても説得力ないですから」
いいからホラ、と今度は腕を取って歩いてくれた。つまりはちっぱいが当たっている。一瞬で心の傷が全快した。
その後、暫く歩いているとマールの足が止まった。どうやら風呂に着いたらしい。
「あっ…、だ、大吾さん…そのぉ…」
「ん?」
「お、お風呂なんですけど、わたしお金さっき全部使っちゃいました…」
あぁ。あのロリっ子に串焼き買ってたしな。
「大丈夫だ。ここは俺が出しとくから。ありがとな」
「顔もう大丈夫なんですか? ちゃんと前見えてますか? 間違っちゃった~って言って女湯に入って来ませんか?」
「…」
信用がないらしい。ジト目が可愛いちっぱい天使からの信用がないらしい。
「大丈夫だって。またボコボコにされたらさすがに死にそうだ。風呂入ったらまたここに集合な」
「はい。大吾さん。ではまた後で」
ありがとうございます、と頭を下げてマールは女湯へと消えて行った。
お礼は欠かさないマールちゃんマジいい子。嫁にしたい。
公共風呂の使用料は一人100コーン(100円)か。
俺は受付のおばちゃんに『さっきの子と二人分ね』と言って200コーン払った。
この風呂には何でも体力やスタミナ回復の効果があるらしく、冒険者はクエストの行き帰りで二度入るのが普通らしい。
つまり風呂にゆったりと浸かれば筋肉痛の足と数倍に腫れあがった顔を癒せるのか。
明日からも今日に負けず劣らず過酷な日が続くかもしれないし英気を養わなければ。
出来れば何事もなく平和に過ごしていたいんだけどね。
平日は投稿が遅れます。