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大吾と男たちの集会

●前回のあらすじ●

マールちゃんは病み上がりでも可愛かった。



 とある日。

 午前中のミスニーハ某所。

 俺は一人、とある宿屋に足を運んでいた。

 これからここで行われる極秘の集会に参加する為である。

 もちろん極秘なのでマールやヴィヴィ、スズランには内緒で来た。

 マールちゃんも元気になって最近はクエストにも復帰したし、今日スズランは受付嬢の仕事中だがヴィヴィと二人フルもっふ族同士きっとどこかの店でフルもっふするのだろう。

 さて。

 俺が来たこの宿屋。

 某所と表現するだけあって裏通りも裏通りのミスニーハの街を知り尽くしてるような人でないと見つからない場所に建っている。

 看板などもないし正に知る人ぞ知る隠れ宿。

 その用途は様々で、学生にはまだ早い関係の男女の密会だったり、国家やギルドには知られたくない裏取引が行われているとの噂もあるほどだ。

 あくまでも噂なので本当かどうかは知らないけどね。

 そんな宿の受付には白髪の立派な眉毛と髭を生やしたおじいさんが座っていた。

 めっちゃプルプルしてるけど大丈夫かしら?

「‶明日の天気は何だと思う?″」

 おじいさんはプルプルしていたが、俺の言葉を聞いてピタァっとその動きを止め鋭い視線を向けて来た。

「‶明日は、雪だ″」

 渋い声。

 おじいさんの応えを聞いて俺は宿の奥へと入って行った。

 宿代は既に払ってあるとの情報。

 そして今のやり取りも極秘集会の相手と事前に決めていた部屋案内。

 ナンシーさんの宿と同じくらいの大きさだが、状態的には主人の差なのかこっちの宿の方が悪い。

 しかしそれでも全室埋まらない日はないとの話なので利用者が後を絶たないのだろう。

 今日の俺もその一人。

 全五室ある部屋で手前から数えて四番目。

 そこが目的地。

 天気が晴れ、曇り、雨、雪、雷の順で部屋番を決めており、集会の相手が受付のおじいさんにそう伝えていたのだろう。

 これなら第三者にはどこの部屋か分からないし違う部屋に行けば入れてもらえない。

 その理由は第二、第三の合言葉。


 コンッコッココッコンッ!


 知ってる人が聞けば何の意味か分かるリズムだが、ここは異世界なので恐らくは皆知らないだろう。

 雪だるまを作るドアノックだから。

 そのノックを受け、部屋の中から男の声がした。

「合言葉は?」

「‶大は小を兼ねぬ″」

 ガチャッっとドアのロックが外される。

 第二、第三の合言葉が合っていた証拠だ。

 俺はもう一度周囲を確認しその部屋の中へと入った。

「遅かったな」

「すまん、ケイ」

「やあ、ダイゴくん」

「遅れてすみません。オリオンさん」

 部屋の中にはケイとオリオンさん。

 何とも不思議な組み合わせだが、その理由はCMの後すぐ。

 で。

 その二人と一緒にもう一人。

 四角いテーブルを囲うように座っていた人物がいた。

「今日もダイゴくんの可愛い話が聞けるのかと思うとウキウキしてのぅ。儂一番乗り」

 ブイッと右手でピースをするこの人はジョージアおじいさん。

 俺が異世界の地で初めて受注した『コーコー鳥の卵の殻納品クエスト』の依頼主だ。

 クエストの依頼主コメントが凄くフレンドリーな内容だったので以前から一度会ってみたいと思っていた人。

 さて。

 そんなジョージアおじいさんも入れての俺とケイ、オリオンさんの四人だが、こうなるといよいよ繋がりが無いように見えるが実はそうではない。

 大きく見れば冒険者繋がりなのだが、それ以上に俺たちは――

「ではこれより『ちっぱいをこの上なく愛でる会』を始めたいと思います」

 ――ちっぱい好き仲間だった。



 事の始まりは先日、俺がケイの店にドアの修理代を渡してお詫びをした日まで遡る。

 元々がフレンドリーなケイはドアの事を別段気にしてる様子もなく修理だけしてくれれば全然構わないと言ってくれた。

 何て優しい。しかもイケメン。そして嫁(候補)持ち。許さん(本音)。

 俺とケイはお詫びのカステイーラと呼ばれる焼き菓子と一緒に持ってきたちっぱい可愛い土産話に花を咲かせた。

 それはもう他の客いたの? 状態になる程に。

 その時にたまたまケイの店にいたのがオリオンさんとジョージアおじいさん。

 オリオンさんは怪我が完治へ向かい、剣の手入れをしようと砥石を買いに来たらしい。

 ジョージアおじいさんさんは聞けば可愛い女冒険者を見に来たんだとか。ただのエロジジイだった。

 その二人が俺とケイのちっぱい可愛い話に興味を持って開かれたのがこの『ちっぱいをこの上なく愛でる会』。

 還暦クラスのジョージアおじいさんはまぁ百歩譲っていいとしてもオリオンさんは大丈夫なのだろうか?

 嫁のコメットさんもいるし、二人の子供サンとルナもいる。

 まぁちっぱい可愛いたまらん! って話をするだけなんだけど父としていいのかしら、と思っていると、

「コメットも小さいと言えば小さいからセーフ」

 との事。

 そういえば以前、オリオンさん一家護衛クエストの時にシルヴェストリの街で感動の再会を果たした時はいい話なシーンだったので言わないでおいたがコメットさんのちっぱいレベルは72だった。

 オリオンさん曰くBカップに限りなく近いCカップとの事。

 ふむ。よいでしょう(上から)。

 それに聞けばジョージアおじいさんの嫁さんも若い頃はそれはそれは立派なちっぱいだったという。

 俺は会った事が無いし、還暦クラスのマダムにもちっぱいスカウターの効果が発揮されるのかは分からないが、ちっぱい好きが言う事に間違いはない。

 ちっぱい好きに悪い人はいないからね。

 さて。

 それじゃあそろそろ始めよう。

 場所をケイの店ではなくここにしたのも誰にも聞かれないようにする為だし、あまりケイの店を閉めておくわけにもいかないからね。

 俺も早くマールちゃんに会いたいけど、ちっぱい好きが集うこの会には参加しないといけない(使命感)。

「ではまず一人ずつちっぱい可愛いエピソードを話していきましょう。まずは俺から」

「いきなりの大本命だな、ダイゴくん」

「お前の後は話づらいんだよな」

「ありがたやありがたや」

 俺の話に息を呑むオリオンさんとケイ、手を合わせるジョージアおじいさん。

 ちっぱい可愛いエピソードなのでもちろんちっぱい天使マールちゃんのお話。

 そんなちっぱいマールの可愛い話をする事によりちっぱい好きが増え、そしてマール教の信者が増え、既に信者の人にはより強い信仰を抱く。

 そう考えるのならこれは言わば布教活動と言っても差し支えないのだ。

 てな訳で話を始める。

「あれは数日前、俺たちがクエストを受けようと宿を出てギルドへ向かう時だった。その日は快晴で、クエストもきっといい結果になると言ってくれているようだった」

「天気が悪い日のクエストは気が滅入るからね」

「クエストの日のマールさん…、オーバーオール…、うっ…頭が…」

「はよ続きはよ」

「俺たちは二日分の資金を一日で得れるくらいの収集クエストをいつも受けるので昼飯は用意しないといけない。半日だけではそれほどの量を収集出来ないし、一日かけないとそれだけの成果が得られないから。…だが!」

 ドンッ! と、テーブルを叩く俺。

 ビクゥッ! とする三人。

 驚かせてごめんなさい。でも演出も大事かなって。

 ジョージアおじいさんも結構な歳だし心停止しないか心配だったけど大丈夫そうですね。

 そしてひと時の静寂。

 ゴクリッと息を呑んで俺の言葉を待つ三人。

 俺は当時を思い浮かべながらテーブルを叩いた右手をプルプルと震わせて言葉を出した。

「俺たちが贔屓にしている『串や』の屋台が――、休みだったんだ」

 俺の言葉を受けた三人は驚愕、そして悲愴な面持ち。

 当然だ。

 先日のケイとのちっぱい可愛いエピソードで皆にはマールちゃんがどれだけ串やが大好きなのかこれでもかと言うくらい聞かせたからな。

 そんな可愛いマールちゃんが大好きな串やが閉まってたらそんな顔にもなりますわ。

 てな訳で話の続き。

「それを見たマールはそれはそれは泣いちゃってな。実はマールは泣くと何かに抱き着く癖があって、その時隣にいた俺にきゅっと抱き着いてビービー泣き出したんだ」

 たまらんかった、と。

「だが俺も金を稼がないといけない手前いつまでもそこにいるわけにも行かず、かと言ってマールを放ってはおけず、仕方ないから泣いてるマールをおんぶして昼飯を買いに行ったんだ。これなら一応は抱き着いてるし」

 たまらんかった、と。

「でも正直行く宛てが無かった。クエストの昼飯って言ったらいつも串やだったし、他の候補がパッと出てこなかったんだ。背中にはマールちゃんがいるし思考回路がショート寸前だったんだ」

 たまらんかった、と。

「もはやこれまでかと思ったその時、奇跡が起こった。別の串やの屋台が営業してたんだ。忘れてたけど串やは本店から商品を持ってミスニーハ各地で屋台で販売していたんだ。それを見つけた時のマールはそれはそれは嬉しそうだった。背中から俺の事ギューッと抱きしめて体ゆさゆさ揺らしたりなんかしてな」

 たまらんかった、と。

「こうして俺とマールは串やで昼飯を買う事が出来、無事クエストもこなすことが出来たのだった。…という、お話」

 …。

 …。

 …パチ。

 パチパチパチ…。

 パチパチパチパチ!

 ガタッ!

「素晴らしい! 相変わらずダイゴくんの話は素晴らしい!」

「おいおいダイゴ。この後話す俺の気にもなってくれ。しかし素晴らしかった。マールさんはやはり素晴らしかった」

「可愛いのぅ可愛いのぅ」

 ワーーーッ!!! と、御三方からのスタンディングオベーション。

 やったよマールちゃん。

 マールちゃんの可愛さは世界に通用する。

 これなら国教をマール教に出来るのもそう遠くない未来なのかもしれない。

 その後はケイ、オリオンさん、ジョージアおじいさんの順でちっぱい可愛いエピソードで盛り上がった。

 決して話が思い付かなかったから割愛したわけではない。決して。




  ―――




「そろそろお開きにしましょうか」

 俺たちがこの宿に来てからちっぱい可愛い話に花を咲かせてそこそこいい時間になった。

 朝飯食っての集合だったが、マールがいれば可愛い体内時計がキュルキュル鳴りだす頃だろう。

 今頃はヴィヴィと一緒に買い物をしてギルドの集会場でスズランも交えてのフルもっふ大会が開かれているかもしれない。

「今日も素晴らしい話を沢山聞けた。ありがとう」

「俺もみんなのちっぱい可愛い話を参考に仕入れをもう一度考えてみるよ」

「ばあさんが待っとるばあさんが待っとる」

 俺たちは席を立ち、そして別れの言葉を口にする。


 ‶人は小さいを愛でる事の出来る唯一の生物である″、と。


 この場合の『小さい』と言うのは子供や赤ちゃんのような幼子を愛でる母性父性からくる小さいを指すのではなく、それとは別の言葉では言い表せないがもっとこう完全な小さいだ。

 分かるかな。幼い小さいではなく、大小の小さい。

 全ての生物界において『大きい』は力の象徴であり、個体が大きい雄は雌にその力をアピール出来る大きさこそ最大の武器であり、逆もまた然り。

 太古の昔、力の弱い草食恐竜も体を大きくすることでその命を次の世代へと繋げて現在に至る。

 もちろん進化の過程で体を小さくした生物もいるし小さい方が生きやすい事もあるだろうが、その種族の中でも大小の力の差はあるはずである。そしてその中で大が優位であることも。

 なので人は体の大きさで優劣を付けず、更には小さいを愛でる事の出来る唯一の生物なのだ。

 圧倒的巨漢のキングではなく、ひょろっとした兵士。

 どこから出て来たのかと思うほどの重量感の爆乳クイーンではなく、きゅっと可愛らしいちっぱい女子。

 それこそが人が人である証明。

 これからも我々ちっぱいをこの上なく愛でる会は全てのちっぱい女子を応援します。

 俺たちはその事を胸に刻み、互いに握手をしてその宿屋を後にした。









 はずだったの、だが。


 コンッコッココッコンッ!


 チェックアウトは俺がすると言って最後に残ったはいいが、三人が帰った後にちぱ愛会(略称)が開かれた部屋をノックされた。

 …誰だ?

 ケイが忘れ物でもしたのだろうか?

 しかし見渡してみてもそれらしきものは無いし、かと言って来訪者が全く違う第三者って事は限りなくゼロに近い。

 俺たちが決めたノックパターンだったしそれでも一応は合言葉を確認しようと思い俺はドアの傍まで寄って聞いた。

「合言葉は?」

「‶大吾さん。お昼ご飯を食べに行きましょう″」

 息が止まった。

 俺の聞き違いでなければ今の声はちっぱい天使マールちゃんのもの。

 聞き違えるはずはないのだが、聞き違いであってほしかった。

 何故マールちゃんがここに?

 今朝ナンシーさんの宿を出る時も怪しまれるような行動は何一つしていないはずなのに。

 例の警備会社のセンサーにだって細心の注意を払ったぞ。

 この部屋にももちろんそのセンサーは付いてな…あっ。

「…」

 何か大の字で張り付いとる。

 ちっぱい可愛い魔王が大の字で張り付いとる。

「…ちなみにいつからいた?」

「『大は小を兼ねぬ』から」

 だから一番最初っからじゃないですかやだー。

 どんだけ死角から警備してんだよ。

 白バイかよ。

 部屋に入る時だって周りを注意して尚この部屋にはさっきまで八個の目で監視されてたんだぞ。

 途中から『ちっぱい可愛い!』大喜利みたいになって周り見えてなかったけど。

「ヴィヴィ、取引しよう。マールは今この部屋で行われた密会の話を知っているのか?」

「まだ知らないよ。ダイゴがここにいるのを知ってるだけ」

「ヴィヴィに昼飯を無性に奢りたくなった。マールと一緒に奢らせてくれないだろうか?」

「いいの? この前もうご飯を奢るのは御免だって言ってたのに」

「今日は特別なんだ。話を聞いてたヴィヴィなら分かると思うけど、可愛いちっぱい女子には何だってしたくなるものなんだ」

「ふーん。別にいいけど」

 シャッっと背後を取られる。

 は、はえぇ…。

 相手はパンサー。俺は産まれたてのプルプルガゼル。勝ち目はない。

「さっきの話が全部マールちゃんの話だったから‶うっかり″喋っちゃいそう。夜もいっぱいご飯食べれば忘れるかも」

「交渉上手なのねヴィヴィちゃん」

 その後は逮捕された容疑者みたいに部屋から出された俺氏。

 マールは何してたんですか? とハテ顔可愛かったけどヴィヴィが昼と夕飯を俺が奢るって話をしたら目をピッカピカに輝かせた可愛い。

 助かったけど俺は今から不安だよ。

 財布の中身をどれだけ持って行かれるか不安だよ。

 そんな事を思ってガクブルしているとマールから朝、宿屋を出る俺はそれはもう不審者のそれレベルで挙動不審だったという話があった。

 だからヴィヴィさんに後を付けてもらいました、と。

 だって楽しみだったんだもの。

 マールちゃんの可愛さを皆に知ってもらうのが楽しみだったんだもの。

 そんな事があってやって来た食事処。

 ちなみにその日の昼代は三人で5パルフェ500コーン(5500円)。

 夕飯はスズランもいるのかと思ったがユリさんが家で作っているそうなのでまた三人で食って6パルフェだった。

 俺は財布の中もスズランの貞操も心配になった。

 今度からはもう少し感情を抑えて集会に臨まないといけない(反省なし)。

 あとで聞いた話だがマールがやったあのノックパターンは宿屋の廊下で会ったケイがつい話してしまった事らしい。

 ケイこの野郎。

 俺を売りやがったな。

 お詫びにカステイーラ買って来い。

 美味しそうにフルもっふするマールちゃんとヴィヴィが見れるぞ。


趣味好みが合う友達知人がいる事は素晴らしいと思うの。

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