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大吾と介護

●前回のあらすじ●

マールちゃんは弱っても優しさの塊で可愛かった。



 ちっぱい天使マールちゃんの朝は早い。

 早朝、宿屋の女主人であるナンシーさんが炊いたご飯の匂いで目を覚ます。

 炊飯器などがない異世界。

 当然タイマー機能なんてないわけで、ご飯を炊くのも手仕事。

 マールの朝はナンシーさんよりその分だけ遅くスタートするが、それでも結構な早さである。

 さて。

 普段の俺はこの後に行われるお楽しみタイムに備え寝たふりを決め込むんだ。

 この前寝てるマールちゃんをぷにぷにした時に寝たふりはダメ的な事を言った気がするけど、マールちゃんがダメなだけで俺はいいの(横暴)。

 で、そのお楽しみタイムとは『マールの早朝ちっぱいチェック』である。

 ちっぱい天使マールちゃんは毎日欠かさず朝一にちっぱいの大きさを測るのだが、今日はそのお楽しみタイムがない。

 何故なら昨晩の黒い霧調査クエストで体調不良になったマールは今現在いつも使っている寝袋ではなく俺が使っているベッドで寝ていて、そのベッドを見張るようにいつもは窓際にあるテーブルと椅子を傍に寄せて俺がそこで座って寝ているから。

 聴覚が最大限まで研ぎ澄まされている今の状態なら多少の物音でも起きそうなものだが、いつもの癖で寝たふり実行中です。

「昆布…と、高菜…」

 マールちゃんはまだ寝ぼけているようです。

 しかしその中でも恐らく今日の朝食であるおにぎりの具材を当てる嗅覚はさすが。

 ウトウトしながらクンクンしてるもんね。

 バニラ並の嗅覚を持っているのかもしれない。

「…と、大吾さん?」

 ハテ? するマールちゃん目覚め可愛い。

 いつもは寝袋で寝てるから自分の匂いで気付かないだろうけど、今朝は俺のベッドでお目覚めですもんね。

 一応は風呂にも入ってるしニオイには気を使ってる方だと思うんだけど臭かったかしら。

「わたし、昨日…あっ」

 と、ここで自分がベッドで寝ている事に気づくマールちゃん。

 それからテーブルに突っ伏して寝ている(寝たふり)俺を見る。

 いかん。

 寝たふりをしているがマールちゃんに見られてると思うとドキドキしちゃうの。

 寝ている人間が本当に寝ているのか、それとも寝たふりなのかの見分け方は喉が動いたり瞼が動いたりの差らしい。

 マールが知っているかはともかく、喉は腕で隠しているし瞼も耳に全神経を集中させているので動いていないはずだ。

 つまり俺は寝ているんだ(自己暗示)。

「――って思っている大吾さん、おはようございます」

「マールちゃん本当に心を読めるスキル持ってるんじゃないの?」

 もしそうなら俺の今までのマールに対する口には出さないまでも邪な気持ちにも気付かれている可能性がある。

 そうなったらもう終わりだよ。

 俺の人生はもう終わりだよ。

「昨夜から朝方まで看病してくれていたのを夢うつつながら覚えています。大吾さん、ありがとうございます」

 にぱっと笑うマールちゃんもう元気いっぱい可愛い。

 やっぱりマールちゃんは笑顔でいてくれるのが一番可愛いたまらん。

「もう何ともないのか?」

「もう本当に何ともありません。昨日の夜が嘘のようです」

「何だったんだろうな。マールだけに悪影響があるあの黒い霧現象」

 俺も多少ながら気持ちが悪くはなったけど、全然耐えられないほどじゃなかったし、スズランも言葉にはしなかったが平気そうだった。ヴィヴィもいつも通りだったしね。

「何かあの霧に触れていると‶負″の感情が自分の中に入ってくるようでとても苦しかったです」

「負の感情?」

 ハテ? する俺。

 どういうこと?

「怒り、妬み、恨み、憎悪などがぐちゃぐちゃになって心が潰れそうでした」

「それは」

 なんとなく、分かる気がした。

 俺も少なからずイライラするっていうか、気持ち悪い感じはしていたから。

 でも俺なんかとは比べ物にならない純心なマールちゃんはその影響を大きく受けてしまったのだろう。

「でも大吾さんがわたしの事をおんぶしてあの場所から離れてくれた時からちょっとずつ気分も良くなって、その後は記憶がないのですがぐっすり寝れました」

 改めて、ありがとうございます、と笑うマールちゃん儚い可愛い。

「俺も無我夢中だったし、それにケイから薬……あっ」

 やべっ。

 ケイの店の扉ぶっ壊したままだった。

 お詫び兼修理代渡しに行かないと。

 俺が途中で言うのを止めたのでマールちゃんはハテ顔可愛くなってる。

 でも本当の事を言うとマールちゃん気にしちゃいそうだから、嘘は言わないまでも濁しておこう。

「ケイがビックリして二階から転がり落ちて来たから薬売ってもらったんだ。それも飲ませたから良くなったのかもな」

 よし、大丈夫。

 嘘は言ってない。

 真実も言ってないけど。

「そうだったんですか。ケイさんにもお礼を言わないといけないですね」

「今日は念のため安静にしておいた方がいい。ケイの店には明日以降行ってお礼をしよう」

「大丈夫ですよ。わたし全然元気です」

「病み上がりの大丈夫ほど信用ないのはないんだよマールちゃん」

 それに無理してまたフラフラになられたら今度こそ俺の心が潰れそうだ。

 弱ってるマールを見るのはもう二度と御免だからね。

「でもヴィヴィさんやスズランさんにも心配かけちゃいましたし」

「ヴィヴィやスズランにこそ元気になった姿を見てもらうべきだ。って言うか」

「え?」

 ちらり部屋の天井隅へと目線を上げる。

 マールも俺の視線を追って見上げるとやっぱりと言うべきかヴィヴィが大の字で張り付いていた。

「ちなみにいつからいたの?」

「ダイゴが薬をなかなか飲まないマールちゃんに薬を塗った指を『ほーらマールちゃんご飯だよ~』って言ってちゅぱちゅぱ舐めさせてる辺りからかな」

「最初の最初じゃねーか。この部屋帰って来てすぐだぞマジで」

 ヴィヴィちゃん闇に融けすぎでしょ。

 そして気配消し過ぎでしょ。

 これは狩りも成功しますわ。

 ステルスからの光速ハイキックでどんな相手もイチコロですわ。

 でも出来ればもっとオブラートに包んで欲しかったかな。

 嘘を言わないのはいい事なんだけど、真実を言ってしまったばっかりにマールちゃんの視線がさっきまで感謝の眼差しだったのに今はもう言葉に出来ない眼差しになっちゃったよ?

「スズランは?」

「ちょっと前に見て来たけどユリさんと一緒に寝てたよ」

「無事か?」

「え? うん。多分」

 本当だろうな。

 黒い霧よりユリさんの方がスズランには毒なんだぞ。

 もしかして黒い霧クエストを受注した事が百合さんにバレて、それで心配のあまり帰ってきたスズランをそのまま…なーんて事あるわけないか! あはは!

「スズランちゃんのほっぺをユリさんがはむはむしてたけど、マシュマロみたいだから皆やっちゃうもんね」

「全然無事じゃねーじゃねーか。今すぐ助けに行かねーと」

 スズランの花が散らされる前に。

 俺はヴィヴィにマールを任せて宿を飛び出した。

 まだ朝は早いからミスニーハの街中は薄暗いけど、黒い霧は出てないし穏やかな早朝だった。

 やっぱり深夜だけ出るようだ。

 これからはより一層夜以降に街へ帰還するクエストには注意しないとな。




  ―――




「で、大吾さん。何故スズランさんをお姫様抱っこしてるんですか?」

「違うんだよマールちゃん。俺がスズランの家ドーン! 入ります。百合さんバーサクしてます。俺に気づいて襲い掛かります。その隙にスズランが睡眠薬盛ります。うまく逃げて来れます。みたいな?」

「なるほど」

「わかってくれたんだね。やっぱりマールちゃんは俺の」

「で、大吾さん。何故ヴィヴィさんをおんぶしてるんですか?」

「違うんだよマールちゃん。俺がスズランを抱っこして宿に帰ってきます。一階でマールの朝ごはんのおにぎりを運ぼうとしてたヴィヴィに会います。シャッっと背後を取られます。スズラン抱っこしてるので振りほどけません。みたいな?」

「なるほど?」

「わかってくれたんだね。やっぱりマールちゃんは俺の」

「で、大吾さん。何故わたしの着替え中に部屋に入って来て、いえ、一緒の部屋なのでそこは何も言いませんが何故そのまま普通に居座っているんですか?」

「見たいからに決まってる」

「正直! ヴィヴィさん! スズランさん! 懲らしめてあげて下さい!」

 そんなご老公様!

 何卒! なにとぞぉー!

 今まで無かったラッキースケベがとうとう俺にも舞い込んで来たのにこれを堪能しない手はないだろ!

 俺はちっぱいの神だ。

 ちっぱいを愛する神だ。

 ちっぱい女子からの攻撃はどんなものでも耐えられる。

 例えヴィヴィのハイキックであろうともな。

 俺は諦めない。

 俺はマールの生着替えを見るのを諦めない。

「だいご。さっきは助かったわ。お礼を言わせて。でもそれ以上うるさくするとその口を塞ぐわよ」

 そういうスズランの顔はさっき見た百合さんのようだった。

 あっ。この子ら間違いなく姉妹っすわ。

 ふぇぇ…スズランちゃん怖いよぉ…。

「ん~…。ダイゴの背中広いから好きだよ~。それにいい匂い」

 ヴィヴィは俺の背中に抱き着くと猫みたいにゴロゴロ言うんだよね。

 パンサーもネコ科だからね。

 あとで猫じゃらし取って来てあげようね。

 マールは俺の腹の上がお気に入り。

 ヴィヴィは俺の背中がお気に入り。

 スズランは俺をいじる(意味深)のがお気に入り。

「大吾さん。お顔がふにゃふにゃになったり恐怖で青ざめたりと表情がコロコロ変わって凄い事になってますよ」

「マールちゃんのおへそ可愛」

「ぐさ」

 ぎやあああああああああああああっ!!!

 俺が言い終わる前にスズランの奴、俺の両の眼に指ぶっ刺しやがった!

 効果音自分で言いやがった!

 可愛いけど痛いからやめてね!?

 マールちゃんの生着替え見れなくなっちゃったじゃねーかどーしてくれんだ!

 でもそんな痛撃を受けてもスズランを離さない俺さすが。

 あぁぁ…、何か視界が奪われてる間に着替える音が聞こえる。

 待ってマールちゃん。

 そんなに急いで着替えると前と後ろ反対になっちゃうよ?

 そうすると結局また着替え直さないといけなくなるからゆっくり着替えた方がいいんじゃないかな?

「…もういいですよ」

 いや、目を瞑りたくて瞑ってるわけじゃないんだけど、と思ったがマールちゃんがいい方に勘違いしてくれたので乗っかろう。

 まだ視界が涙でぼやけるけど俺はゆっくりと目を開けた。

 そこには毛布を鼻まで上げて恥ずかしそうに寝てるマールちゃんがいた。

 マールちゃんには一度本当にきちんと話しておかないといけないな。

 そんな大吾スレイヤーな仕草ばかりしてるといつか俺がバーサクするという事を。

 もしソシャゲなんかで俺が敵キャラとして登場した場合、ガチャの目玉で出る特攻マールは売り上げランキング一位を余裕で狙える強さと可愛さを誇るよ。

 可愛いは性能を凌駕する。

 性能は廃れる。

 だが可愛さは廃れない。

 この事を肝に銘じてソシャゲをするんだぞ。

 もちろん可愛さと性能を両方兼ね備えてるマールちゃんは課金してでも狙うべき。

「ほらマール。朝ごはんのおにぎり。いっぱい食べて早く元気にならないとな」

 そんな可愛さ爆発してるマールちゃんに俺はおにぎり四個進呈。

 フルもっふ族のマールちゃんなら病み上がりでの朝ごはんでもこれくらい余裕で平らげる。

「大吾さんの分は?」

「俺はちょっと用事を済ませに外に出るからそのついでに何か買って食うよ」

「用事って…、お胸の小さい方とですか?」

「違うけど」

「じゃあちっちゃいおっぱいの子?」

「違うっつの」

「わかったわ。ちっぱいの女でしょ?」

「どれだけちっぱい大好きなんだよ俺は。いや大好きだけど」

 ケイの店にお詫びと修理代持って行くの。

 でも知られたくないから用事って言ってるの。

「ヴィヴィとスズランはマールの話し相手になってくれ。すぐに戻れると思うけど、何か欲しいのあるか?」

「エメラルドマウンテンの湧き水が飲みたいです」

「ぷるっぷるサボテンのジュース!」

「私は焼きプリーンをお願い」

「容赦ないね君たち。今日中に帰れないよきっと」

 エメラルドマウンテン、デザート・キャニオン、シルヴェストリの街って完全にミスニーハを中心に三角形の距離じゃねーか。

「えへへ。冗談です」

「それじゃダイゴが行くよりあたしが行く方が早いもんね。あたしは大丈夫だよ」

「私は焼きプリーンをお願い」

「ありがとなマール、ヴィヴィ。スズランは一緒に行こうか。ユリさんの元まで送っていくよ」

 そこでようやくスズランも『うっ…』と言葉を詰まらせ大人しくなった。

 とりあえず水分は取った方がいいだろうから何か飲み物買ってくるな、と言って俺は部屋を出た。

 その時。

「大吾さん。早く帰って来て下さいね?」

 とマールに言われた。

 俺は体中の穴と言う穴から色々噴き出しそうになるのを懸命に抑え込んで小さく頷きドアを閉める。

 そして駆け込むトイレ。

 そこで便座へ向かって全力絶叫。

 惚れてまうやろおおおおおおおおおおおおおおおおおぃ!!!!!

 ってか惚れ直すやろおおおおおおおおおおおおおおおぃ!!!!!

 これは雑誌に載ってた弱ってる女の子に優しくしたらその後いい感じに発展していくパターンのやつや!!!!!

 はぁ…はぁ…、クッソ可愛じゃねーかどーなってんだ…。

 でもマールちゃんの事だから優しさからくる言葉ってだけかもしれないけどそれでも嬉しいよおおおおお。

 さて(賢者)。

 まずはお詫びの品を選びにどこか店へ行くか。

 そして王道の菓子折りを持って謝りに行こう。

 ケイの好きなちっぱい女子の激かわエピソードを添えて。



何かもうこの四人の掛け合いを書いてるだけで幸せ楽しい可愛い。

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