大吾と難関クエスト
●前回のあらすじ●
マールはお土産フルもっふ可愛かった。
初? の一話一万文字超え。
どこかで切って二話にしようと思ったけどマールちゃんがおっと。
「黒い霧の正体を探れ?」
とある日。
俺とマール、ヴィヴィとバニラがギルドの集会場で食事を取っていると、スズランがクエストの用紙を持って入って来た。
今日はスズランが受付嬢の日で白い制服を着ているので全身真っ白。
つか真っ白じゃないスズラン見た事ない。
白は膨張色として知られているが、その白を以てしてもちっぱい華奢に見えるスズランさすが。
おっとまたちっぱい見てしまった。カウントされちゃう。
そんなちっぱい女子のスズランは弁当を持っているのでどうやら休憩時間らしい。
冒険者を相手にしてるので、その冒険者が昼食中で受付に来ることが少ないためか時間を合わせているのだろう。
で。
スズランが弁当と一緒に持ってきたクエストの用紙は折り目一つなく真新しいものだった。
ミスニーハのクエストボードはコルク作りで画鋲のようなピンでクエスト用紙を留めているので、クエストを受けようとボードに貼り出されている用紙を取ると穴が開いているはずだ。
しかしこの用紙は正に新品そのもの。穴一つない。
「これから貼り出す予定のクエストなの。一応だいごに聞いて興味無さそうならボートに貼るわ」
「えっ。こんなフライング受注いいのか?」
「全然。ギルド員がいるクランの特権ね。私が受付嬢の時は‶おいしいクエスト″はキープしておくわよ」
「おいしい!?」
「落ち着けマール。味が美味しいんじゃなくてクエスト内容の割に報酬がおいしいって事だ」
「美味しくないんですか…」
「美味しくないんだね…」
しゅんとするマールとヴィヴィ。流石の大食いツートップであった。
「クエストの種類としては討伐では無いし、かと言って収集クエストでもないから『調査クエスト扱い』になるわ」
「調査クエスト? でもそれって自ランクの一個下までしか受けれないんだろ?」
俺Dランクになったばかりだから調査クエストでもEランクフィールドのエメラルドマウンテンくらいしか行けない。
しかしその事をギルド員のスズランが知らない筈がないので恐らくはエメマンなのかな。
「ところがこのクエストはランク設定されてないのよね。フィールドって言うか調査場所がここミスニーハなの」
「ほーん?」
スズラン曰く、調査クエストはフィールドを熟知していて危険度が低くなるランク下が対象だが、このクエストはミスニーハの街が対象なのでモンスターの危険が無い事からランク設定されていないとのこと。
「最近深夜になると黒い霧が出るようになったのは知ってるわよね?」
「ぜーんぜん知らん」
何それ。
黒い霧?
全てのステータスを元に戻す技のやつ?
折角積んだのに何してくれんすか。俺の小さくなるを返せ。
「あたし知ってるよ。って言うかその中歩いてた」
「えっ。大丈夫なんですかヴィヴィさん?」
「多分? 何ともないし」
いや、多分ステータス元に戻ってますよ。
でもいくら積んだバフを元に戻した所で、その元がチート級のヴィヴィには関係ないと思うけどね!
…まぁ冗談はこれくらいにして、ヴィヴィは全状態異常・デバフ効果無効のスキルがあるから大丈夫なんじゃないのか?
普通の人だったら何かしらの影響を受けそうだな。
「でもこれまで体調不良を訴えている冒険者や商人はいないらしいわ。寧ろ体の調子がいいだの、気分がスッキリしただのの話もあるみたい」
「マジか。じゃあ無害、なのか? それなら手分けして探せば」
「発生場所は不明らしいの。街全体から深夜突然現れるって噂よ」
「えぇぇ…。じゃあどうやって原因探すの」
「普通霧って水蒸気が水粒になって浮かんだ状態の事を指すわよね? 風でも吹かない限りはその場に留まりやすくなるけど、この黒い霧は風が無くても何かに吸われているように流れているらしいわ」
「ほーん? じゃあその吸引力が変わらないただ一つの何かを探せばいいって事か」
流れる先に何があるのか見つけるだけでもしかしたらクエストクリアになるかもしれないし、そのクリア報酬は…100パルフェ(10万円)!? マジでおいしいクエストじゃないですかスズランさん!
「でもちょっと気になる事もあって」
「あっ。やっぱり裏がある系ですか?」
まぁこんな散歩のついでみたいなクエストに100パルフェ出すギルドはないでしょうからね。
「杞憂であればいいんだけど、以前噂であったじゃない? ‶黒い翼の悪魔を見た″ってやつ」
「あー」
なるほど。つまりその黒い霧はその悪魔が吸収というか引き寄せている可能性があるので、バッティングすると危険って事か。
「だから一応だいごに聞こうと思ってね。報酬的にはおいしいけど、こういう危険な感じのクエストには行きたくないでしょう?」
さすがスズランちゃん。俺の事よく分かってるね。
確かにいくら金がよくても怖い思いをしたくないが為に討伐クエストを受けないわけだからなぁ。
これはどうなんだろう。
黒い霧ってだけで危険臭半端ない気がする。
後ろ向きながらめっちゃトラップしそうな気がする。三つ輪のクローバーは鹿島のサッカークラブを応援します。
「ヴィヴィ。もう一度確認なんだけど、黒い翼をした魔族はいないんだよな?」
誰に聞かれてるわけでもないけど、一応は小声で。顔を近づけて。
いきなり俺が迫って来たのでヴィヴィちゃんちょっと驚いてます。可愛さ魔王かよ。
「う、うん。翼って事は鳥人族だと思うけど、少なくてもあたしの国にいる人たちは無いかな」
「そうか。ありがとう。それからマールにも聞きたいことがあるから先にそのパンパンほっぺの中身を食べてもらっていいかな?」
「ふぁい」
食事しながらスズランの話聞いてたからね。
マールちゃんの場合は食事は急に止められない、だもんね。
今日のお昼はスパゲッティナポリタンでフォークに巻き付ける量がアニメだった。マールちゃんはアニメだった。
「んむんむ…」
「…」
「んむんむ…」
「…」
「んむんむ…」
「…おいしい?」
「おいひーでふー♡」
やれやれ。
どんな時でもマイペースなマールちゃんだけど聞きたい事があるから早く飲み込んくっそ可愛えええええええええええああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
はぁはぁはぁ…、あっ。お口の周りソースだらけ。拭き拭きしましょうね。
「んん…。ありがとうございます、大吾さん」
「いいよ。で、聞きたいんだけど、地獄的なところはあるかないか分からないって言ってたよな? 前に」
「はい。あるかも知れませんが、わたしは聞いた事ありません」
「もう一つ。もしかして黒い翼を持つ奴って転移者の可能性はあるのか?」
「可能性はありますね。創造神様、と言いますか最高位の神様のお力なら黒い翼だろうが天使の羽だろうが生やせるはずです」
確かに一般サラリーマンである俺を『ちっぱいの神』にするくらい力がある神ならそれくらい余裕のカットよっちゃんアタリくじ無しだろうな。
駄菓子が大好きな社長令嬢が異世界転移したらアタリくじ復活させる力を授かりそう。
「ねぇ。さっきから聞いてると神だの地獄だの転移だの一体何のことなの?」
「言い忘れてたんだけど俺ってこの世界の人間じゃなかったりする」
「それは知ってるわ。変態星から来た変態星人なんでしょ?」
「フォッフォッフォッ…よくぞ見抜いた、って違ぇよ。いや、違う星って言うのは違くないかもしれないけど変態星ではないよ」
「本当かしら? 変態星には小さい女の子が大好きな大人がいたり、JCやJKと呼ばれる女の子にお金を払って私利私欲の限りを尽くすおじさんがいるって聞いたわ」
「ごめんなさい。俺の星は変態星でした」
「ダイゴやっぱりヘンタイだったんだね!」
「ヴィヴィちゃん? やっぱりってどういう事? 事と次第によっては俺が変態と呼ばれる所以を一晩かけてじっくりじっくり体に教えてやらないといけないよ?」
「ひっ」
母星が酷く言われているけど、確かに変態多いからね。
変態星でも強ち間違ってはいませんわ。
変態じゃないの俺くらいじゃないかな。俺ってばほら。紳士だから。紳士と言う名の変態だから。変態だった。変態星人だった。
でもスズランちゃんそんな話誰から聞いたのかな?
JKって響き久しぶりに聞いたよ。
「ここ最近色々ありすぎてちょっとやそっとでは驚かないわ。それこそだいごがワンピース姿のまーるの胸チラを狙えるようポジション取りに余念がないくらいではね」
「待て待て待て。ちょっと待ってマジで。マールちゃん目の前にいるのに今その話します?」
「えっ。大吾さん気付かれてないと思ってるんですか?」
「えっ」
「ダイゴがマールちゃんのおっぱいを見る目は血走ってるからね。状態異常にかからないはずのあたしですら体が金縛りにあったみたいに動かないよ」
「…」
「だから私たちはもう驚かないから大丈夫よ。どんな事でも全て受け入れるから」
「そうか、ありがとう。実は俺、ちっぱいはもちろん大好きなんだけど本当の事を言うとお尻とか足も好きなんだ」
ガタガタガタッ! ドンガラガッシャーン! という音をたててマールたち三人は逃げ出した。
え、あれ、どこ行くの?
全て受け入れるって言ったよね?
嘘なの?
待ってってば。ふふっ。逃げられると思ってるの可愛い(ゲス顔)。
俺はやっぱり変態星出身の変態星人だった。
―――
深夜の宿屋『おやすみぐっすりネンネしな』にて、俺の腹に電流走る。
ぽすんっ!
「おえっ!」
昼間のマールたちとの壮絶な鬼ごっこの後、俺たちは一度解散し深夜皆が寝静まった後にもう一度ギルド前に集合する事にした。
黒い霧クエストはどうしようか悩んだが、危なくなったら速攻逃げると決めて受ける事にしたからだ。
俺とヴィヴィがマールとスズランを守れば被害は俺だけで済むだろうしね。
ヴィヴィの力を以てすればちっぱい女子の一人や二人連れても回避出来そうだし。
何もない事を祈ってますよ俺は。
それにしても昼間の鬼ごっこ楽しかったなー。
スズランはやっぱりと言うか体育会系じゃないので速攻捕まえたし、マールは凄く可愛い泣き顔して逃げてたし、ヴィヴィはさすがの速さだったけど何処に逃げ隠れようとも‶ちぱロケーション″と素早さ100倍の前には瞬殺でしたわ。
そんな楽しい楽しいイベント(主観)があった日の深夜、俺の腹に走った電流の正体。
この位置。そしてこの柔らかさ。香り。暖かさ。間違いようがない!
でもビックリするから寝てる時にいきなりお腹の上に乗らないでねマールちゃん。
「大吾さん起きて。大吾さん起きて。大吾さん起きて」
時間帯が深夜なので声の音量も胸元の揺さぶりも優しい深夜仕様。あぁ…、逆に心地よくてもっと深い眠りにつけそう。
「もうそろそろギルドに行かないと二人とも待ってるかもしれませんよ?」
スズランはともかくヴィヴィはいつも部屋の隅に張り付いているのだが、深夜の街中を出歩くためスズランに付いてもらっているので今は警備センサーは切れている状態だ。
契約の解除の仕方が分からない警備システムなのであった。
警備代かかってないからいいけど、ふと目線を上げると大の字でいるヴィヴィには驚かされるから来るなら普通に来てね。
ちっぱい可愛いし、ヴィヴィの腰ラインはホットパンツでたまらんけど。
で、そのたまらんヴィヴィは現在スズランの警備をしているので今この部屋にいるのはベッドで寝ている俺と、その俺に跨っているマールちゃんのみ。
はぁはぁ。マールちゃんはぁはぁ。
「マールちゃんがほっぺにキッスしてくれればこの重たい瞼も開くかもしれない」
「そうですか。じゃあわたし先に行ってますので瞼開いたら急いで来て下さいね」
「待ってマールちゃん。置いて行かないで。大声で泣いちゃってもいいの? ナンシーさんに怒られてもいいの?」
「何でわたしも一緒に怒られるんですかっ。待ってますから早く着替えちゃって下さいよっ」
「うーん。でも俺もマジシャンじゃないからさ。マールちゃんがお腹の上から降りてくれないと着替えられないんだよね」
「大吾さんのお腹の上って結構乗りやすいって言うか、妙にフィットするので落ち着くんですよね。安定感も抜群ですし」
「今安定した大吾さんと結婚した上で落ち着きたいって言った?」
「いいえ」
「そうか」
でも似たような事を言われた(気がする)。
そう言えば寝る時はキャミ&ショーパン姿のマールちゃんが既に白ワンピ姿だ。
クエスト用のオーバーオールは現在洗濯籠の中かしら。
マールちゃんに気付かれないようにこっそり着てみようかな。絶交されそうだし止めておこう。
てかもう黒い霧クエストはいいんじゃないかな?
このままマールちゃんを俺の上から降ろさないクエストを受注していいんじゃないかな?
「でもいい加減行くか。遅れるとあの二人に怒られそうだし」
「そうですね」
「マールちゃんベッドから降りるのが怖いなら俺が抱っこして降ろしてあげようか?」
しかしマールは俺の問いに答えることなく無言でベッドから降りた。
出発前からクエストリタイアするレベルのダメージを心に負った。
―――
「とっても今更だけど、君らの服って夜の行動に不向きだよね。ヴィヴィ以外さ」
以前シルヴェストリにオリオンさん一家の護衛クエストで向かった時には夕食時には着いたので深夜、と言うか夜のクエストは初の俺とマールであったが、スズランは上下白のパンツドレス姿だし、マールも白ワンピ姿なので街頭などが無い月夜の晩のミスニーハの街でもくっそ目立っていた。
それに比べてヴィヴィは完全に闇に溶けている。
月の光で照らされると輝きそうな銀髪もパーカーのフードで隠されているし、褐色の身体もあって白い二人の間に立つと消えてしまったと錯覚するほど。
そして目? 瞳孔? が赤く光ってるような気がするんですがそれは。
ちなみに動く毛玉ことバニラはお留守番です。
ぐっすりネンネしてたしへっへっへっへっして相手に気付かれちゃうかもしれないからね。
「パンサーは夜行性だからね。暗闇でも獲物が狩れるように目がいいんだよ」
ヴィヴィがシュパパパパと動くとその赤い光がライトパフォーマンスのように暗闇の中を舞った。
「わぁ! 綺麗です! ヴィヴィさん!」
「これは目を奪われるわね」
「君たちは感心してないでちょっとは身を隠すよう努力しようね? 本当に黒い翼の誰かがいたら真っ先に見つかるよ?」
「残念だけど、私は白しか着ない事にしてるの。スズランの花は白だからこそ美しいのよ」
「徹底してますね」
「わたしだって違う洋服を買おうとしたのに大吾さんが『フリル系は胸が隠れるから着ちゃダメだ!』って言ったんじゃないですか」
「そうだったね」
いや、別にフリルが悪いって言ったわけじゃないんだよ。
マールが選んだ洋服がたまたま横に段があるフリル服だっただけで、縦にフリルが付いてたり、肩や襟だけフリルだったりしたら俺も何も言わなかった。
だが二段、三段あるフリル服。テメーはダメだ。
テメーが許されるのはスカートだけだ。
服のテメーはちっぱい見た目を殺す以外のなにものでもねぇ。
「さて。冷えて来たしさっさと元凶を見つけてさっさと帰ろう」
だな。ええ。わかりました! とそれぞれ答える俺たち。
いつもは壁に大の字で張り付いてて凄腕冒険者の片鱗なんか微塵も感じさせないヴィヴィだけど、こういう時にはやっぱり頼りになるな。
なんつーか存在感が違うっつーか、纏う空気が違う。
以前ヴィヴィゲームで対峙した時のようなプレッシャーを感じる。
どんな状況の変化にも対応出来るように‶反応″のスキルを最大限まで展開してるのかもしれない。
そんなヴィヴィを先頭に俺たちは‶クローバー型″の陣形で街中を捜索するようにした。
先頭はヴィヴィ。一歩下がって左右にマール、スズラン。最後尾に俺、の陣形。
これなら死角は俺の背後だけになるし、最悪『*』になるのも辞さない覚悟。
左右は俺やマール、スズランが見ていれば俺が、間に合わない時にはヴィヴィが対応してくれる。マジヴィヴィちゃん頼りになる。おんぶしたい。
―――
その後しばらく街中をランダムに歩き回っていたが噂の黒い霧と呼ばれる現象は見られなかった。
毎日出ているわけじゃないのか?
まぁそんな毎晩毎晩出ていたらもっと騒ぎになってもおかしくないか。
しかし、今日は空振りだな、と言おうとしたその時、
「…ん?」
どこからともなく黒い霧というか靄みたいなものが足元に漂い始めた。
「ヴィヴィ、みんな。出て来たぞ! 注意しろよ!」
「分かりました!」
「了解だよ!」
「ん」
この黒い霧は人体には害がないようだが、やはり気持ちのいいものではない。
何て言うかずっとこの霧の中にいると気持ち悪いというか、イライラするというか、意識が朦朧としてくる。
「…ダイゴ。霧に流れがある」
「スズランの言った通りだな。目的は黒い霧の正体を探るって事だし、元凶をどうこうするってわけじゃないんだよな?」
「ええ。今回のクエストは霧の正体を探るだけ。その上で討伐などが必要になったら上位ランカーへの依頼となるでしょうね」
「よし。じゃあ安全第一で行ってみよう」
「うん」
「ん」
「っ…」
「……マール? どうした?」
何かマールの様子がおかしい。
フラフラしてるし気持ち悪そうだ。
もしかしてこの黒い霧に中てられたのか?
ヴィヴィは何ともなさそうだし、俺もスズランも多少の影響は受けているが耐えられない程じゃないけどマールには猛毒なのかもしれない。
「マール。無理するな。調子が悪いなら今回は」
「だ、大丈夫、です。ちょ、ちょっと、眩暈がしただけ、で」
全然元気です、と笑顔を見せるマール。
しかし誰が見てもやせ我慢してるようにしか見えないが、マールが先に進みましょうと言うので俺たちは再び霧の行き先へ歩を進めた。
流れを持った黒い霧は身体に纏わりつく蛇のような形となったり、かと思ったら突然消えたりととにかく不気味な状態になっている。
俺たちはマールと周囲の動きに注意しつつ流れに従って街中を進んで行ったが、
「うっ…」
懸命に歩いていたマールが、とうとう壁に寄りかかって歩けなくなってしまった。
「マールもうやめよう。今回はリタイアしよう。これ以上弱るマールを見ると発狂しそうだ」
「そうよ、まーる。無理しない方がいいわ」
「す、すみません…大吾、さん。スズランさん、ヴィヴィさん。わたしのせいで、折角のおいしいクエストを…」
「うっ、ううっ…うぅぅぅぅ…」
「え?」
な、何だこの呻き声みたいな、マールの声じゃない。
俺たちでもない。
他の人なのか、風の音なのか。
「ダイゴ。あの路地裏の隅に誰かいる」
「何?」
ヴィヴィの視線の先を見ると黒いローブを着た人間? が路地裏に佇んでいた。
黒い霧はそのローブの人物に吸われるように渦を巻き、体内へ吸収されていく。
おいちょっと待ってくれ。
マールちゃんが絶不調なんだ。
ここで例の黒い翼を持つ悪魔とやらと戦闘になったらたまったもんじゃない。
ここは逃げよう。
報酬なんかいらない。マールちゃんの方が大切だから。
ここは逃げよう、そうしようと、したのだが。
「アアアアアアアアアアッ!!!!!」
その人物がこちらに気付き鋭く、刺すような叫声を上げた。
俺は咄嗟にマールの前に出て盾になったが、叫声と共にローブの背から‶黒い翼″が現れた。
「うっそ」
黒い霧は翼に吸収され、翼はその色をより黒く、より漆黒へと染めていく。
コイツヤバイって! マジヤバイ奴だって!
最悪の状況は想定していたけど実際になるとこんなにも震えるものなのか。
「皆! 下がって!」
そんな役立たずな俺とは正反対でヴィヴィが俺の更に前に出てくれた。
マジで頼もしさ魔王クラス。
ヴィヴィは両手で握り拳を作ると、
「ハッ!」
気合いなどを入れるような呼吸法のようなとにかく戦闘素人な俺でも分かるくらいビリビリとヴィヴィの‶気″を感じた。
ヴィヴィの個人スキル『覇気』。
MP値に応じ相手の魔法、スキルを無効化する気を放つスキル。
これを受けて相手の黒い翼は一瞬で消滅した。
「…?」
しかし黒い霧は変化なく未だ黒ローブの周りや俺たちの周りを漂っている。
ヴィヴィの覇気でも消滅しない、という事は魔法でもスキルでもない特殊な現象なのか。
「っ…!」
だが黒ローブの奴も馬鹿ではないのだろう不利な立場になると判断し路地裏に逃げて行った。
ヴィヴィも今回のクエストが『調査』の名目なのを理解し深追いはしない。
今は黒い霧や黒ローブの奴よりもこの弱りきってるマールちゃんの治療が先だ。
「ヴィヴィ、悪いけどスズランを送ってやってくれ。マールは俺が必ず守る」
「うん。わかった。気をつけてね」
行こう、スズランちゃん、とヴィヴィがスズランに話しかけるがスズランは申し訳なさそうに声を絞り出した。
「ごめんなさい、だいご。まーる。ゔぃゔぃ。私が変なクエスト持ってこなければこんな事には…」
「気にするな、スズラン。俺たちが受けないでも誰かが受けてただろうしマールだってすぐに元気になるよ」
よっと俺はマールをおんぶする。
マールのリンゴちっぱいたまらんが今はそんな事言ってる場合じゃねぇ。
俺は改めてヴィヴィにスズランの事をお願いし、ヴィヴィにも注意するよう言ってその場を後にした。
マールちゃんマールちゃんマールちゃんマールちゃん。
俺はマールをおんぶして全速力で走っていた。
マールに対してSTR100倍になっているので全然重さを感じない程軽かったのだが、それが余計に弱ってるマールを象徴するようで不安になった。
さっきスズランやヴィヴィには気丈に振舞ってはいたが、内心マールの事で頭がいっぱいだったので何を言ったのか覚えていない。
今はとにかくマールちゃんを急いで黒い霧の無い場所へ、遠くへ。
マールちゃんマールちゃんマールちゃんマールちゃん。
マールちゃんマールちゃんマールちゃんマールちゃん。
マールちゃんマールちゃんマールちゃんマールちゃん。
「だ、いご…さん」
マールちゃんマールちゃんマールちゃんマールちゃん。
マールちゃんマールちゃんマールちゃんマールちゃん。
マールちゃんマールちゃんマールちゃんマールちゃん。
「スズラン、さんの、こと、悪く、思わないで、ください。ヴィヴィさんも、わたしの事、守ってくれて」
マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶。
マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶。
マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶。
「わたしが、夕ご飯の時、大吾、さんが、止めてくれたのに、カップラーメン、四個も、食べたから」
マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶。
マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶。
マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶マールち‶ゃ‶ん‶。
「だから、わたしが、悪いんです。気分が、悪いのは。スズラン、さんは、悪くありません、だって、みんなで、クエスト、受けるって」
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
「大吾さんも、わたしの為に、一生懸命に、なってくれて」
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
「ありがとう、ございます」
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶。
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶!
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶!!
マ‶ー‶ル‶ち‶ゃ‶ん‶!!!
マ‶ ー‶ ル‶ ち‶ ゃ‶ ん‶ ! ! !
バゴォン!!!
という音と共にドアを蹴り破った俺。
向かった先は、
「ケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイッ!!! 起きろコラ急いで来てくれえええええええええええええええええええっ!!!」
ケイの店だった。
ポーションなども扱っているケイの店には今のマールに効く薬もきっとある。
だって『ねぇもんはねぇ』んだから。
ドアの修理代を多く上乗せするからとにかくマールちゃんを早く元気にしたい。
そんな俺の声を聞いたケイは二階から転がるように降りてきてくれた。
「お、おま、ダ、ダイゴ、ど、どうした、こんな夜遅く」
「マールちゃんが調子悪そうなんだ! 薬置いてあるだろ!? 売ってくれ!」
「なに!? それは大変だ! ちょっと診せてくれ!」
「ちっぱいは見せない!」
「見るかアホ! 顔診せろってことだ!」
「紛らわしいんだよ!」
「こんな時でもブレないなお前は…どれどれ? …ん?」
ピタっと動きが止まるケイ。
え、何どうしたの。
思わせぶりな事はいいからスパッと言ってくれ。
「マールさん、今は顔色も良くて普通に寝てるだけなんだが…」
「え?」
俺はおんぶしているのでマールの顔は見えなかったが、試着室の鏡で見ると確かにさっきまでの苦しそうな表情とは違って寝息も整ってぐっすり眠っているマールの姿があった。
よかったよマールちゃああああんっと一気に脱力感に見舞われたが、ここで崩れるとマールも一緒にぺたーんってなるので踏みとどまる。
一応ケイに薬を売ってもらい、ドアの修理代は後日でいいとの事で今日は宿へ帰った。
やはり持つべきものは親友だ。
修理代と一緒に騒いでしまったお詫びもしないとな。
そんな訳でケイの店を出た俺とマール。
ミスニーハの街中にはもう黒い霧は綺麗に消えていて、月夜で照らされた静かな光景があるだけだった。
マールちゃんは優しさの塊可愛い。




