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大吾と異世界①



 異世界、と言ってもその種類や世界線は様々で、人間界天界魔界がある世界だったり、数多くの種族が共に生活する世界だったり、星と星とを個人で移動できるほど文明文化の発達してる世界などがあるらしい。

 俺とマールもその数ある異世界の一つにやってきた。

 ファンタジー世界だと聞かされていたので大体の予想はついていたが、世界観は王道の中世ヨーロッパ風。まだ電気も機械もない緑豊かな場所だった。

 俺たちは開けた草原に降り立つと遠くに街が見えたので、早速異世界の街に行ってみようと全力で走っていた。



『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』



 そして鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの雄叫びを上げながら俺たちと共に走る巨体。まぁ共に走ると言っても実際は逃げてるんですけど。

 逃げてる相手、こいつはゲームなどでよく見かける獣型モンスターのミノタウロス。牛の足、バッキバキの体格、怒り狂う牛頭の口からは涎を垂れ流し俺たちを追ってくる。

 何をそんなにお怒りなのかと言うと、俺たちが異世界の地にいざ着地! しようとしたら足元でこのミノタウロスが気持ちよさそうに口開けて寝ていたところを、そのお目目の上にズドンと落下したのだ(両目)。

 瞼は閉じていたのだろうが平均の成人男性の体重と、体重は分からないが二十歳の成人女性の体重を不意打ちで両目に喰らえばそれはもう激痛だろう。怒りもごもっともだった。

 そんな訳で俺たちは絶賛逃走中なのだ。

「マール早く! マール早く! マール早く!」

「大吾さん待って! 大吾さん待って! 大吾さん待って!」

 俊敏性が高い俺はマールの手を引いて全力で走る。

 確かに事前にマールから『転移して速攻モンスターと出会うかも』って話は聞いたよ? それにしたって早すぎでしょ。距離的な意味も込めて目の前過ぎでしょ。

 てかいきなりミノタウロスって。ミノタウロスて。普通レベル1冒険者が最初に出会うモンスターっていうのはスライムか精々ゴブリンって相場は決まってるのにミノタウロスって。いきなり中堅モンスターじゃん。

「ちなみになんだけど、俺この世界で死んだらどうなるの!」

「寿命を全うするまではまた別の世界に行くはずですが、正直創造神様の気分次第なので一概には言えません! 最悪天国です!」

「天国なのに最悪なのかよ!」

 マール逃げて! 俺も逃げるけど!

 ミノタウロスもまだ視界がまだぼやけているのかそれ程早く追って来れてない今が逃げ切るチャンスなんだ! ――って、あら?

 気づいたら俺たちはミノタウロスを振り切っていたらしく、遠くにポツンといるだけで追って来なくなっていた。

「ゼェゼェゼェ…、い、いきなり詰んだと思ったけど、何とか、なる、もんだな…」

「さ、さっきのミノタウロスですが、足を怪我してたようで、AGIが低下してたのが幸いでしたね。普通は、レベル1のわたしたちは見つかった瞬間ぺったんこ、です…はぁ、はぁ」

 マジかよ…。運がよかったんだな。俺に運は無いからマール様々だ。ありがとうちっぱい天使。

「とにかくまた変なモンスターに襲われない内に街に行こう。さすがに冒険者や騎士がいるだろうし、モンスターも近づいてこないだろ」

「そうですね。そうしましょう」

 開けた草原なので周りを見渡せるのには都合がいいが、逆にモンスターに見つかりやすいっていう欠点もある。

 怖ぇよ…モンスター怖ぇよぉ…。

 よく異世界転生、転移ものでいきなりモンスターと戦う場面に出くわす主人公が難なく立ち向かうシーンがあるけど普通無理だからね?

 スライムくらいなら興味本位で突いてみようかなって思う程度で、夏の深夜によくキッチンで高速移動してるGにさえ恐怖してる現代人に人の背丈以上もあって、それでいてこっちに敵意を持って向かってくるモンスターなんかとは戦えないからね?

「そう言えばマール」

「はい?」

「俺たちこの格好でいて大丈夫なのか? 世界観合わないって多方面からクレーム来ない?」

「それならご安心下さい」

 俺の質問にマールはにっと笑った。可愛いかよ。




  ―――




 街に着いた俺はマールの言葉を理解した。

 街並みは中世ヨーロッパ。しかし所々現代の物も混じっている。

 電気などはないので車やバイクはないが、パーカーやジーンズなどの衣類を着ている人も全員ではないが少なからず見かけられた。

 マール曰く、この世界に降り立った転移者は俺が初めてではないらしいし、先駆者が何かしらの能力で生み出した現代商品が色々広まっているのだろう、との事。

 正直ファンタジー感ぶち壊しだが、便利なものが広まるのはいい事だ。俺たちも買えるかもだし、変に目立たなくて済むしね。

 そしてこの街はどうやら『ミスニーハ』という名前らしい。

 大都市ではないが地方都市くらいの大きさで近隣の町や村から人々が集まる商業街だ。

 飲食店も見つけるのに困らなそうなレベルであるし、屋台なんかの出店も普通にある。

 武器や防具を扱ってそうな店もあるし、集客数が多い為か宿屋もたくさんあった。ここを拠点とするなら寝る場所は確保しておかないといけないから、後で予約しに行かないとな。

 なによりギルドがあるのが大きい。ここに登録すればクエストを受けられるし、資金の調達にもなる。でも討伐クエストは絶対に受けない。絶対にだ! 採取クエストだけにしよう。

「あ。大吾さん。お金渡しておきますね」

「おぉ。そうだった。俺の貯金こっちでも使えるって言ってたもんな」

 確かこの前近くの七が付くコンビニで下した時は五十万切ってたような気がした。

 以前気になって調べてみたが、二十代一人暮らしの平均貯金額は百万~百二十万程らしい。とすると俺は少ない方だ。何に使ってるってそりゃあ…、うん。

「貯金と財布合わせて33万1000円、あ。この世界の通貨なので331パルフェです」

 はいどうぞ、とマールから小さい布袋に包まれたお金を受け取った。そう言えば財布がないから今日からこれを使わせて貰おう。

 中を見ると金貨三枚、銀貨三枚、銅貨一枚が入っていた。円安! と思ったが、物価がその分安いのだろう。

 そしてこの世界ではお金はパルフェと言うらしい。まぁこの国だけかもしれないけど。

「マールはお金あるの?」

「もちろん。創造神様より頂いてまいりました」

 マジかよ。てっきり拳骨だけされて追い出されたと思ったのに。

 何だかんだマールの事が心配なんだな。可愛い子には旅をさせよ的なやつか。厄介払いじゃなかったんだな。

 まぁこんなに可愛いし、そんな事ないよね。

「300コーンも頂きました!」

「コーン?」

「300円です」

「少なっ!」

 子供の遠足かよ。

 マールの手にはゲーセンで使うメダルのような硬貨が三枚あった。

 つまりこの世界の通貨は日本で言う紙幣はパルフェ、硬貨はコーンと呼ぶって事か。

 でも300円て。

 ロープレの国王だってもっとくれるぞ。人によるけど。神界は財政難なのかしら。

「あ! 大吾さん見てください! 美味しそうな串焼きの屋台があります! 一本300コーンですって!」

「やめろやめろ! 全財産突っ込む気か! 俺が出すから取っとけって」

「えっ…、いいんですか?」

「まぁ一応これでも社会人やってきたしな。ちょうど昼時だし可愛い後輩に奢ると思えば安いもんだ」 

「ありがとうございます。…あの」

「ん?」

「…二本」

「大食いキャラ追加入りましたー! おばちゃん! 串焼き三本!」

「はいよー」

 その後俺たちは近くのベンチに腰を下ろして串焼きを食べた。うん、うまい。牛肉か? まぁうまいならなんでもいいけど。

 隣を見てみるとマールも口いっぱいに肉を頬張り美味しそうに食べていた。ほっぺたがパンパンだった。可愛さで殺す気かよ。

「……ん?」

 美味しそうに食べるマールばかり見ていて気づかなかったが、小さい子供が俺たちをじっと見ていた。

 男なのか女なのか分からないが、痩せていて服もボロボロで裸足の子だ。

「腹減ってるのか?」

「むふぇ? も、もふぃふぁしてふぁいぼふぁん! もっふぉふぁってふれりゅんでふふぁ!?」

 落ち着けちっぱい天使。お前に言ったんじゃない。目の前の子供に言ったんだ。あと喋る時は飲み込んでから喋ろうね。

 俺と目が合ったのでそれで子供も自分に向けられた言葉なんだと理解し、小さくコクンと頷いた。

 俺はまた屋台のおばちゃんにお願いして串焼きを二本追加で焼いてもらった。

「…いい、の?」

「気にすんな」

「……ありがとう!」

 子供はにぱっと笑うと美味しそうに串焼きを食べ始めた。余程腹が減っていたのか子供とは思えぬスピードだ。一本目余裕の完食。

 しかし子供は二本目はじっと見つめるだけで食べようとはしない。どうしたのだろう。

「…妹、いるから。持って帰っても、いい?」

 なるほどな。裕福な日本ではあまり話は聞かないが、現代の地球にだって貧困問題は世界で起こってるし、今日を生きるのに精いっぱいな人もいる。

 それはこの異世界でも同じなのだろう。さっき街の外にいたミノタウロスのようなモンスターがいる世界なら尚更だ。親を無くし、子供だけが生き残るのも珍しくないのかもしれない。

「じゃ、じゃあこれも持って行っていいよ」

「え?」

 隣を見るとマールが奇跡的に手つかずの状態だった串焼きをずいっと子供に差し出した。

 いいのかマール。誰が見ても分かるレベルで顔が拒絶反応を起こしているが子供は「ありがとう! お姉ちゃん!」と言って受け取ると、小さく笑った。

「あなたに、神のご慈悲があらんことを」

 こういう時だけは一端の天使だった。

「…あなたに、女神マールのご慈悲があらんことを」

 そしてちゃっかり言い直した。抜け目ないちっぱい天使である。

 でもお前その言い方だと自分でこの子にご慈悲与えるんだぞ。もう与えたけど。

「マール様?」

「そうだよ。とっても優しい女神さま。困ったときはいつでもお祈りをすればマール様は聞いてくれます」

 あれ。いつの間にか布教の話になってない? 気のせい? てか誰? それにマールよ。自分で優しいってお前。女神ってお前。

「ありがとう、マール様!」

 そう言うと子供は俺とマールにペコペコと頭を下げて走り去って行った。

 マールは子供が見えなくなるまで手を振っていたが、

「やりました大吾さん! わたし女神っぽい仕事が出来ました!」

 と満面の笑みで振り向いて来た。

 正直ある事ない事言いだしたので拳骨の一つでもかまそうと思ったが、元はと言えば俺がマールにけしかけた事なので今はただ褒めておこう。

「そうだな。ちょっと女神っぽかったぞ」

 俺がそう言うとマールは照れくさそうに『えへへ』と笑った。女神であって天使の笑顔だった(混乱)。

「さて、飯も食ったし先に宿の予約するか! 住む所がないとおちおち寝てもいられないしな」

「あの…大吾さん」

「ん?」

「串焼き…」

「おばちゃん! 串焼きちょうだい!」

「…二本」

「二本ね!」

 その日の昼飯代は2パルフェ1コーン(2100円)だった。

 美味しそうにほっぺたパンパンにしながら食べるマールを見てると安いもんだ。

 俺が貯金出来ない理由が少し分かるような気がする。が、直す気はもちろんない。お金はちっぱいに捧げるもの。


マルチテン

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