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大吾と休日②

マールはとにかく可愛いちっぱい天使だった。



 工房『トールハンマー』



 父娘親子二代からなる新鋭の石作工房。

 掌サイズの置物から大型モニュメントまで何でも承ります。

 最近娘が頭角を現し工房を盛り立ててはいるが、まだまだ新鋭なため知名度は低い。

 父娘揃って金より出来を優先する職人で、その出来栄えは目の肥えた商人を唸らせる程。

 ちなみに親方である父は、娘が石だけしか触ってないため浮いた話が全然ないのが悩みの種なんだとか。



 

「ごめんくださーい」

 そんな工房へ来た俺とマール。

 朝食とちょっとした食休みを挟んだが、まだ早い時間なのでもしかして開いてないかと思ったが、工房からはカンカン音が聞こえるしとりあえず人はいるようだ。

 今日ここに来た目的はマール教のご神体である女神像の製作依頼をするため。

 と言っても家計が少々、いや大分火の車なのですぐに依頼出来るとは思っていないが、大体の見積りというか、モデルのご紹介というかそういうのを確認しようと思ってやってきた。

 先程宿でナンシーさんからミスニーハには色々な職人がいると話を聞き、石工職人を探してもらったのだが、女性職人という条件がなかなか難しかったらしく、やっと見つけてくれたのがこの工房なのだ。

 ありがとうナンシーさん。そしてその情報をくれた叩き起こされたギルさん。

 ところで何故女性職人なのかというと、俺は美術系には詳しくないがデッサンだったり型だったりを取るのに、マールちゃんのフルヌード(妄想)を俺以外の男どもに見せる可能性があるので女性縛りをさせて頂きました。マールの裸は俺だけのものなの。いつか拝みたい。

「はいよー」

 そんなマールのちっぱいヌードを託せるかもしれない女性の石工職人さんが出て来た。

 その子は黒髪セミロングの髪をポニテで纏め、『働く男』で売ってそうな作業ズボンにTシャツの袖をくるくるに肩まで巻き上げての職人姿でそして何より――、ちっぱいだった。

 ちっぱいスカウター発動。

 ちっぱいレベル‶81″。強い。

 ついでにマールも確認。

 初日の夜に測って‶98″だったから変わってないと思うけ…‶99″!?

 バカな!? 1上がってやがる! 何があった!? 初日から今までの間に!

 あ、あと1でカンストだ。つまり俺好みの究極のちっぱい。もし100と表示したら、した瞬間にマールのちっぱいに告白しよう。と、ここまでを職人が出てくる数秒で測定する俺凄ぇ。あ。もう職人さん目の前だ。

「初めまして、青木大吾といいます。こっちはマール」

「マールです! 初めまして」

「アタシはイチカ! よろしく」

 ギュギュッと握手を交わす俺たち。

 その後イチカさんは『えっと…』みたいな感じで俺たちを見て来たので早速本題に入らせてもらう事にした。

「飯屋のギルさんに聞いて来たんですけど、イチカさんは凄腕の石工職人でいらっしゃるようですね」

「アタシ? …アハハハッ! 全然全然! まだまだ親父に頼ってばっかだし、アタシ個人で依頼された事もないしね」

 明るく笑いながら手首を振るイチカさん。

 この子は多分将来姐さんタイプになるに違いない。年はいくつなのかわからないけど。多分年上ではないと思う。

「実はイチカさんに像の製作依頼をしたいのですが」

「え」

 ピタァっと、イチカさんは完全に時が止まった。

 そしてJOJOに時は動き出す。

「ホ、ホントに!? アタシに依頼してくれんの!?」

 ガァァァ! と肉食動物のように迫って俺の両肩をガクガク揺する。

 おぉぉぉぉ…やめてくれ。俺今日、二日酔いなんだから。キラキラリバースするから。

「い、依頼と言っても全然まだお金がないのでどの素材でどのくらいの大きさならいくらくらいとかって言うのを聞こうと思って」

「見積りだね! ちょっと待ってて! 親父に聞いてくるから!」

 スッタターと工房の奥へ消えて行くイチカさん。

 危なかった。あと数秒遅れていたらダイナミックリバースするところだった。

「いくらくらいで出来るんですかね?」

 ハテするマール。

 異世界に来る前にちょろっと女神像のモデルをお願いしたけど、その時は我関せずみたいな感じだったから、今更だけど改めてお願いしないとな。

「まぁピンキリだろうな。でもギルさんの話じゃこの工房の親子は金より完成度に拘るらしいから」

 その分時間もかかるかもしれないけどね、と付け加えておく。

 金の関係もあるし正直まだ信者が片手で数える程度しかいないので、急ぎじゃないんですけどね。

 しかし見積りを出しておくくらいはした方がいいだろう。

 金を貯めるモチベーションにもなるし、信者が一気にボン! と増える可能性もないわけじゃないからな。

 そんな事を考えているうちにスッタターとイチカさんが帰って来た。

 さて、どのくらいの値段になるのだろうか。

 出来れば目玉飛び出ない程でありますように。


「ダメだって!」


 ……ん?

「……ん?」

 予想外の答えに台詞も地の文も一緒になってしまった。

 マールちゃんも固まっちゃってるよ。ポッカーンって口開けるマールちゃん可愛い。開いてる口にマシュマロ入れたい。

 え? ダメ? 見積りだけは出来ないってこと?

「『テメェには像作りはまだ早ぇ! いい加減な物しか出来ねぇ仕事受けんじゃねぇぞ!』って!」

 ってって! ってて!

「えっと、それってつまり、仕事は受けれないという事ですか?」

「そういうことになる」

「…」

 えぇぇ…。これは予想外デス。

 金の都合で造れない事はあっても、職人の都合で造れない事があるとは。

 いや、完成度に拘り持ってるのは知ってたよ?

 でもそれは納得いくまで仕上げに時間を掛けるって思いますやん。

「あ、あの…。どうしてもダメでしょうか?」

「んー。アタシは全然いいんだけど親父がなぁ」

「そこを何とかお願い出来ないですか? 時間なら」


「アンタがお客さんかい?」


 え?

 俺の言葉を遮って工房奥から出て来たのは、これまたザ・職人の親父って感じの筋肉モリモリの男だった。

 もう何も言わないでも親方オーラを醸し出しているし、イチカさんはさっきこの人に見積りを聞きに行ったのだろうと分かった。

 その男はイチカさんの隣に来ると『ちょっと外してくれ』と言い、イチカさんは工房の奥へと戻らせた。

 何とも言えない圧があるし、やはり親父さんで親方さんなのだろう。

「はい。是非イチカさんに女神像を造って頂きたいと思い、今日は伺いました」

「残念だがイチカには像造りなんてとても出来やしねぇ。像、それも神像となりゃあ崇められる大切(てーせつ)なもんだ。アイツにはまだそれを造れる力がねぇ」

 そう言われるが、実権握ってるであろう親方さんに直接断られたとしても簡単に引くわけにはいかない。

 俺とマールの未来の為に!

「ギルさんからイチカさんは商人にも目を置かれる程の石工職人だと聞いたのですが」

「なんでぇ。こんな若ぇあんちゃんがどーしてイチカを指名してくんのかと思ったらギルの紹介か」

 やっぱりギルさんとは知り合いか。

 年も近そうだし、飲み仲間かギルさんが冒険者時代に付き合いがあった人なのかもしれない。

「はい。お二人が出来を優先するという話も聞いています。お時間はいくらかかっても構いません。何とかお受けしていただけませんか?」

「時間の問題じゃあねぇのよ」

「え?」

「イチカが凄腕っつーのはオレだって分かってる。むしろアイツぁ天才よ。親の欲目抜きにしてもアイツよりいい物を造れる石工なんかいねぇんじゃねぇのかと思うくらいにな」

「……? ではなぜお任せ出来ないんですか?」

「今のイチカが造れるのは魂のねぇ物だけだ」

 人工物しか造れねぇのよ、イチカは、と。

「神像っつーのは神の姿をして信者たちに崇められるもんよ。その人達に魂が入ってねぇすっからかんな石人形を拝ませるわけにはいかねぇ。イチカが凄腕として商人に贔屓にされてんのは全部生きてねぇ‶物″なのよ」

「…」

 いかん。全然わからん。

 職人は作品に魂を宿す的なやつか?

「昔っから‶他人″に興味がなくってな、イチカは。物心ついた時から石ばかり弄ってたのよ。オレも自分の娘が石いじりが好きになってくれりゃあと思って好き勝手やらせて育てちまったのがいけねぇんだが」

 だから魂の入った像を造りだすことが出来ないという。

 魂が入った入ってないは正直素人目には分からないが、職人からすれば全然違うらしい。芸術は深い。小中高で美術の最高成績が2の俺じゃ一生無理かも。

「そのせいでもう20になるっつーのに男の一人も出来やしねぇ。男でも出来りゃあアイツの冷めた金槌も生きてくると思うんだがな。そんなわけだ、悪いがこの仕事は受けれねぇ」

 そう言い残し、親方さんも工房奥へと消えて行った。

 結局最後まで何がダメなのかが分からなかった俺(と恐らくマール)だった。

 …あっ。まだ名前聞いてなかった。親方さんの。




  ―――




「あれ。ケイの店閉まってるじゃん」

 俺とマールは工房『トールハンマー』を後にし、ケイの店まで来ていた。

 しかし店の扉に付いている営業を知らせる看板札は‶CLOSED″になっている。店の二階は住居らしいがまだ寝てるのだろうか?

 街では朝一に出る冒険者が急遽アイテム補充や、装備の確認に来るって事もあると思うが大丈夫なのだろうか。

 もしかして昨日の十死に一生が原因で起きて来られないのかもしれない。

 つっても扉には鍵がかかっているし、ゲームみたいに勝手に他人様の家に入る事は出来ないしなぁ。

「ケイはいないか、まだ寝てるな」

「そうですか。装備一式のお礼をまだちゃんとしてなかったので残念です」

 シュンとするマール。

 くっ…! マールをここまで可愛く落ち込ませるとは、ケイ絶許。でもまたマール見たら吹っ飛び死しないかアイツ。ワンピース姿のマールとは普通に会話してたから大丈夫か。

 それにしても今日は朝から災難だ。

 朝一の工房の親方といいケイといい、まぁ職人には職人のやり方があると思うから何も言えないけど。

 それに落ち込んだマールをこのままにしておくわけにはいかないので、街デートして気分転換しないと!

 まずは一度別れて街の中央広場で待ち合わせ。

 その際にはお約束の『すみません。お待たせしちゃいました?』『俺がマールと離れたら5分しか生きてられないの知ってるだろ』をやって、その後はアクセサリー屋や服屋を巡ってお昼にはマールの大好きなものを食べて、飯のあとはちょっとゆっくりベンチでお話ししたりなんかして、夕日で街が赤く染まるとマールも何故か赤くなってモジモジしだして、俺が『どうしたの?』と聞くとマールは『今日は楽しかったです。ありがとうございました』


「ケイさん!」


 そうそう。ありがとうケイさん、と。…は?

「マママママママママママママールちゃん? 今今今今今まっままっままままなっ、なななんて?」

 走りながら撮ってる動画レベルでガクガク視界を揺らしながらマールを見る俺。

 なんで俺とマールのいっちゃいちゃデート(妄想)にケイが入ってくるんだよ。


「あれ。ダイゴ、マールさん。また装備の買い出しか?」


 あ、本物のケイおる。

 外出してたのか『店空けて悪いな』と言っていそいそと扉を開けてくれた。

「ギルドにクエスト依頼してきてな。すまんすまん」

「クエスト依頼?」

 そう言えばギルドは依頼をしてくれれば誰でも募集の張り紙を出してくれるってユリさんから聞いた、ような気がする。

 ジョージアおじいさん然り。もちろんケイでも受けてくれるだろう。

 そのクエストを受ける受けないは冒険者の判断だが、割が良ければ即受注されるかもしれない。

「どんなクエスト依頼したんだ?」

 明日でよければ俺たちが受けるよ、と付け足して。

「あ、いや、その」

 テレっと頬を染めるケイ。

 腐の女子が近くにいたら薄い電子書籍で使われるシーンになりかねない。

 しかし大丈夫だ。近くにはちっぱい天使マールちゃんしかいない。マールちゃんはノーマル。男が好き。俺が好き。マジで?

「恥ずかしい話で信じてもらえないかもしれないんだが」

 モジモジするケイ。

 …見た目がいい好青年なのでその仕草も様になってるのがちょっと腹立つな。

 でもそんな目でマールちゃんを見ても無駄だぞ。マールの心は既に俺が盗んでいるからな。今日から俺が四世だ。

「て、天使…を捜してほしいって依頼だ」

「…」

「…」

 …。

 …。

 ………え?

「なんて?」

「いや、だから天使を捜してほしいって」

「天使っつーのはアレか? マールちゃんみたいに尊い存在の女の子の」

 まぁマールはマジちっぱい天使なんだけど、面倒な事になりそうなので言うのは控えておく。

「いや、確かにマールさんが天使と言われても驚かない程尊い存在であることは認めるが、俺が捜しているのは本物の天使だ。神の使いとされている天使だ」

「へぇー」

 などと適当に相槌を打ったが、正直驚いている。

 マール以外の天使がやっぱりいるようだ。昨日の夜マールからいるかも、と話は聞いていたがこんなに近くにいるとは思ってなかったし。

「ちなみにどんな姿をしてる天使なんだ?」

 天使は天使でもさすがに見た目が違うだろうからね。

「えっとな、まず金髪で髪は長い」

 うん。まぁこの辺りは天使の定番だな。

「背中に白い羽が生えている」

 そうだな。天使と言えば羽だもんな。

「頭の上には天使の輪もある」

 あるある。天使にはあるよな。

「スレンダーな体型で手足なんかも細くて綺麗で」

 おいおい。そんな天使がマール以外にもいるのかよ。神界の天使どもは化け物か(誉め言葉)?

「笑った顔とかちょっと恥ずかしがってる顔とかすっげぇ可愛いんだよ」

 …ん?

「あまり人慣れっつーか男慣れしてなくてすぐ赤くなるところとかな」

 …んん?

「それにちっぱいだ!」

 …んんん?

「昨日クエスト帰りの冒険者が話しているのを聞いたんだが、何でもエメラルドマウンテンに‶白い羽で飛ぶ金髪の女の子″を見たそうだ」

 …。

「俺は昨日の記憶は曖昧なんだが、これは間違いねぇと思って今日朝一でギルドに捜索依頼を出したってわけ」

 と、話終えたケイ。

 うん。

 何かその天使すごく見覚えあるー。むしろいつも見てる。

「そう言えばダイゴは何か知らないか? 昨日エメラルドマウンテンに行ったんだろ?」

「いや、その、なに。知ってるっつーかなんつーか」

「まぁ何か分かったり思い出したら教えてくれよ」

「あ、あぁ」

 そんな俺たちのやり取りを見ていたマールちゃんは話が終わるのを待っていたのか、ケイにペコリと頭を下げた。

「ケイさん。装備一式ありがとうございました! お陰で無事クエスト達成出来ました!」

 大吾さんと一緒ですけど、とエヘヘ笑うマールちゃん大天使。

 でもそんな大天使でいるとすぐマールが大天使だと分かってしまうのでは?

 マールには自分が天使である事は内緒にしておいてと言ってあるので、今の話には触れてこないのだろう。マールちゃんマジ有能ちっぱい天使。

「いやいや。俺が言い出した事です。気にしないで下さい」

「それでも、ありがとうございます」

「…」

「…?」

「…あ、いや、何でも」

 ケイはうーん? と首を傾げながら店に入って行った。

 その際小声で『似てるんだよなぁ』と言ってたが、この時だけは難聴系主人公になった。

「それで? 今日は何を買いに来た?」

「ヘアゴムとヘアピン」

 ケイの質問に俺は間髪入れずに答えた。




  ―――




 ギルドはいつでも賑やかだ。

 多くの冒険者がクエストボードを確認しに集まるし、集会場というか、酒場でこれから向かうクエストの士気を高めてるのか騒いでる冒険者もいる。

 今日はギルドにはこれといって用事はなかったのだが、ケイが言ってたクエストがどのように貼り出されているのか気になったので確認しに来たのだ。

「捜索依頼だからな。緑の葉っぱスタンプだ」

 と隣のデニムキャップを被っているマールに話をする。

 サラサラの金髪ロングが全部収めてあるキャップはちょっと大きくなっていたが、それがまたマールの可愛さを更に高めていてたまらん可愛い。

 クエスト用の装備一式は全部洗濯し、現在お日様乾燥中なのだがこのキャップだけは早く乾いていたので急遽持ってきたのだ。

 して、そのキャップの理由は。

「いいかマール。その天使=マールであると世間に知られる前に依頼を受けなければならない」

「異世界でも珍しい天使ですから領主の方や王家の方に目を付けられるからですよね?」

「そうだ。もしそいつらにマールの存在がバレて連れて行かれてみろ。どうなると思う?」

「ど、どうなるんですか?」

「俺は用無しになって毎晩ベッドの上でワンワン涙が枯れるまで泣きじゃくる」

「ひっ」

「言っとくけど俺の涙の量は0点しか取れない小五の眼鏡野郎の比じゃないぞ。未来のロボットが押し入れにいる奴。年一でしか会えない彦星にでもなったら毎年催涙雨で天の川溢れだすレベル」

「あわわわわ…、わ?」

 マールはガクガク震えだし…、あれ?

「えっと、あの? それだけですか?」

「それだけってお前、そんな事になったら俺の涙で天上人もビックリのノア計画が遂行されるんだぞ。それに七夕の売り上げだって落ち込むし、何と言っても一緒のベッドで寝る事も出来なくなるんだ。それにご飯の時に口の周りに付いたご飯粒を食べてあげれないし、拭いてあげれない。酔った時おんぶも出来ない」

「えっと、いつ私が大吾さんとベッドを共にしたのかを知りたいですけど」

「マールは俺の生きる希望だっていう自覚が足りない」

「なんでしょう、この何とも言えない感情は」

「それに王家入りなんかしたら毎日朝から晩までフルコースの料理出されたり、王家の権力で天使の存在が知れ渡って信者が急増したり、皆に崇め奉られる事になるんだぞ」

「…」

「ちなみに俺と一緒にいればマールちゃんの大好きなだんだん焼き食べさせてあげられるし、朝ごはんのおにぎりも半分あげちゃう」

「…」

「あ、あれ? マールちゃん? 何で帽子取ろうとしてるの?」

「いえ。何か最近暑いな~と思って。それに室内ですし、帽子は失礼かなって」

「待ってお願い。それ取ったらサラサラ金髪が皆の前に晒されるの。感のいい冒険者は『アイツ天使じゃね?』ってなっちゃうから」

「大吾さんにわたしのポニテ姿を見てほしくて」

「とても魅力的な申し出だけど、その姿を最後にマールが遠くへ行っちゃうくらいなら全力で断る」

「…」

「…」

「……はぁ。ほら、大吾さん。早くクエストの紙を探しちゃいましょう?」

「…! ありがとうマールちゃん! 大好き!」

「ちょっ…!」

 ボフンっと湯気出して真っ赤になるマールちゃん可愛い。

 それにまだ俺と一緒にいてくれるマールちゃん可愛い。惚れ直した瞬間であった。

 ぷすぷす湯気出てるマールをずっと眺めていたいけど、いち早くクエストの用紙を見つけなくては。

 そんなわけで俺とマールは手分けしてクエストボードを捜し回った。

 依頼の数が尋常じゃないくらい多いし、何より人も凄いので見つけるのに苦労しそうだが、そんな事は言ってられない。俺とマールの未来の為に!

 クエスト確認。狙いは緑の葉っぱスタンプ。

 エメラルドマウンテンの天然水納品。違う。

 コーコー鳥3羽納品。違う。てかコーコー鳥って食えるのか。

 ベルベアのハチミツ納品。違う。

 ミノタウロスの尻尾の毛納品。絶対やりません。

 天使の羽、来たっ! これだ! 天使の羽のように軽いコーコー鳥の羽毛納品。紛らわしいんだよこの野郎。依頼主は誰だクソ! またジョージアおじいさんじゃねぇか!

 ちくしょう見つからない。

 ここでも運の低さが出てしまっているのかもしれん。

 だとすれば運が高いマール頼みなんだけど、人が多くて最早どこにいるのか分からない寂しい死にそう。

「…ん?」

 一度クエストボードから目線を切ったのが幸いしたのか、一枚だけちょっと新しめな紙が貼ってある。

 今日の朝一で依頼したってケイは言ってたし、もしかすると…!


『天使を捜しています』


 見つけた! これだ間違いない! 依頼主もケイになってる!

 よし即回収だ! それでケイに言いに行こう。マールは俺のだ! 絶対にやらん! と。

 そう思い、用紙に手を伸ばした瞬間。

「「あ」」

 ちょうど同じタイミングでそのクエストを受けようとしていた冒険者と鉢合わせた。女の子だ。

 そして一気に噴き出す汗。俺以外にこのクエストを受けたいと思ってる奴がいた、というのもあるのだがそれだけではなかった。

 その子は武闘家で、赤髪で、短髪で、そしてなにより――、ちっぱいだった。

 運命の再会でした(白目)。

 体があのボコボコにしてくる重いパンチを思い出したようで震えが走るが、ここは穏便に行かなくては。俺とマールの未来の為に!


「やぁ! また会ったね! 今日もいいちっぱいだ!」


 次の瞬間、俺の顔面にその子の拳がめり込んだ。




  ―――




「*」

「ど、どうしたんですか大吾さん!? お顔が梅干し食べて酸っぱい口みたいになってますけど!?」

「*」

「え? クエストの紙を見つけた?」

「*」

「でもこの前会った武闘家の女の子もそのクエストを受けようとしていて?」

「*」

「何とか譲ってもらおうと全力で褒めたら前が見えねぇってなった?」

「*」

「大吾さんの事ですからまたその方に失礼な事言ったんじゃないんですか?」

「*」

「だからそれがダメなんですってば! 前も言ったでしょう? お胸は女の子にとってデリケートな問題なんです!」

「*」

「ま、まぁわたしも何故この状態の大吾さんと会話出来てるのか不思議でならないですけど」

「*」

「いや違います。わたし達、心が通じ合ってる恋人でも夫婦でもないです」


 はい。

 現在顔面陥没中の大吾です。

 いやー、マジあの武闘家の子パないわー。さすがに人がたくさんいる中でマウント取ってボコボコにはして来なかったけど、それに匹敵する重いパンチを顔面に一撃入れるとかパないわー。

 何とか息出来るけど吸う度に『ぷーぷー』音するの恥ずかしい。

 でもマールちゃんが俺の顔ペタペタして何とか元の形に戻そうとしてくれてる、と思う。前が見えねぇから分からないけど。

 とりあえずここにいたら他の冒険者の邪魔なのでマールに引っ張ってもらって近くの椅子に座らせてもらった。

 ありがとうマールちゃん。後でお礼させてね。リンゴでいいかな。

「アンパン顔どころじゃなかったですね。これに懲りて反省して下さい」

「*」

「嘘が言えないのが完全に裏目に出る事もあるんですね」

 うーん。正に諸刃の剣。でも嘘は言えない俺。と言うか思った事をすぐ言ってしまう俺。

 そんな俺(の顔)をマールは溜息をつきながらも優しく撫でてくれます。嬉しくて涙が出そうだけど、顔の肉が栓して涙が出ねぇ。でも撫でてくれて嬉しいのは変わりないので心の傷が一瞬で全快した。

「*」

「え? わたし治癒能力とか無かった気がしますけど」

「*」

「はいはい。そういう事はその梅干し顔を治してから言いましょうね」

 マールが撫でてくれてるお陰か、どんどん腫れも痛みも引いて来た。

 マールは治癒能力は無いというが、俺にとってはマールがそもそも治癒魔法のような存在だから、と言ったが素っ気なく返された。つらい。

「ふぅ。死ぬかと思ったぜ」 

 そんなこんなで戻りました。

 今はマールの可愛いお顔も見れます。それにマールちゃんが近いのでいい匂いもする。

「凄い久しぶりに大吾さんの素顔を見た気がします」

 不思議です、とマールちゃんは顔を覗き込んでくる。

「んじゃ昼飯にするか」

「あれ? クエストの件はいいんですか?」

「だってもうあの子受けちゃっただろうし」

 そもそも天使を一般冒険者が見つけられるのだろうか、と疑問が残るレベル。

 夢があっていいとは思うけどね。

 きっとあの武闘家の子は本当はピュアっピュアな性格の子に違いない。ちょっと手が出ちゃうだけで。

 まぁ見つからなかったら見つからなかったでクエスト失敗になってこっちは助かるけど、また再募集とかかけたりするのだろうか。

 なのでこの件が落ち着くまではマールには悪いけど、外を出歩く時は帽子を被ってもらわないと。

 それにしてもマジで今日はなんなんだ。占いなら確実にダントツ最下位レベル。もしかしてマールちゃんの神聖なるちっぱいを揉み揉みしちゃったから罰が当たったのかな。

 でも例え罰が当たるとしても揉みたい触りたい。それがマールのちっぱい。

「今日は昨日食えなかったリンゴを使った料理を食いに行こうか」

「リンゴ! わたしリンゴ好きです!」

「リンをダイに変えて言うと?」

「ダイゴ! わたしダイゴ好きで…って何言わせるんですか!」

 ギャーギャー騒ぎ出すマールちゃん可愛い。

 それに大吾さん大好きって言われて嬉しい(難聴)。

 俺はそんな真っ赤になってるマールを宥めつつギルドを後にした。



皆さんメリクリ!

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