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13.初めてのメイド服

美香は部屋に戻るや否やベッドにダイブした。

高そうな服がくしゃっとなるけど、構うもんか。

なんなんだあの王様!連れて来といて自分勝手に話進めるわ、転移させてきた理由は誤魔化すわ、挙げ句の果てには息子の世話をしてほしいって?あほか!一瞬下ネタかと思たわ!


「なんなんだよもう……」

ベッドの上でごろごろばたばたとエネルギーを発散する。あの王様の無駄なイケメンを思い出すだけで腹が立ってくる。イケメン死ね!

くそくそくそくそ!

「あの、すいません」

でも逆らえないし、どうすれば元の世界に帰れるかも分からないしーー。


「すいませんっ!ミカエル様!」

「うわあっ!」

美香は突然聞こえてきた声に驚き飛び跳ね、その全力の勢いのまま後ろ壁に頭部をぶつけた。

「~~~~っ!」

「だ、大丈夫ですか!?」

なんか昨日にもこんなことあった気がするんだけど……。

「驚かせてしまって申し訳ありません……」

「ま、マリーいたの?」

「はい、ずっと。声をかけるタイミングを失ってしまいまして」

「……なんかごめん」


美香は先ほどまでの自分の行動が見られていたことを知り、真っ白な顔がかぁっと赤くなる。

あの、息子とか、下ネタとか、ヘンなところとかは声に出してなかった、よね……?

「で、どうしたの?」

「アルヴィン様の方にもご挨拶に向かえとの事でしたので……」

「あー……息子の方か」

どうせあんな奴の息子だ。ロクでもない奴に決まってる。そもそも母親がいなくなって父親の手を煩わすほど塞ぎ込むって、完璧にマザコンじゃないか。僕と同いだから十七だろ?十七でマザコンってだいぶヤバいぞ。


「ミカエル様のご都合がよければ、今からでもと思うのですが……」

都合が悪かったらずっと顔合わせなくてもいいーーなんてことはないよねぇ。

会わないわけにはいかないんだよな。ここはあいつの城なんだから。なんだか客人っていうか奴隷みたいな気分だ。いや、使用人になる予定なんだけど、さ。


美香はしぶしぶ重い腰を上げた。

「じゃあ、今からでいい?早く済ませたい」

「その前にお着替えになった方がよろしいかと思います。くしゃくしゃになってしまいましたから」

「あー……」

こんなことならベッドダイブするんじゃなかった。胸も圧迫されて痛かったし、マリーには見られるし、本当やるんじゃなかった。

「何に着替えればいい?」

「それなんですけど……」

マリーはそそくさと部屋の外に出て行った。

また着せ替え人形タイムが始まるのかとうんざりしていた美香だったが、意外なことに、戻ってきたマリーの腕に掛けられていた服は一着だけだった。


「その、アルヴィン様のお世話役をなさるんですよね……?」

「んー……そう、だね。たぶん、そうなると思う」

「でしたら……」

そう言ってマリーはその一着を広げた。するとそれはたった今マリーが身につけている服と全く同じデザインであった。大きなリボンタイにロングスカート、黒と白のコントラストがまた可愛らしい。

つまりーーメイド服だ。

「こちらをお召しになってはいかがでしょうか?」


これを、僕が?

このヒラヒラのを?

いやいやいやいや。

元男ですよ?僕。

「えっと……使用人の服って、それしかないの?」

「やっぱり、メイド服は少し恥ずかしい……ですか?」

「う、うん。これはさすがに……」

少しどころじゃない。だいぶ、恥ずかしい。

ロングスカートだし、シンプルだとはいえ、やはりメイド服であることには変わりない。むしろ本来の機能性を重視したこのタイプの方が、むしろ恥ずかしい。ネタにもならない。

「ですが、執事服を着るわけにもいきませんし……」

「ズボンタイプとか、あったり、しないの、かな……?」

「いえ、その、あるにはあるんですが……」

「じゃ!じゃあそれで……!」

美香は一も二もなくそれに飛びついた。股がすーすーしないのであれば、何倍もマシだ。


しかしマリーは言いづらそうにもじもじしていた。

「あ、あの……」

「?」

「その……ミカエル様の……む、胸のサイズに合うメイド服はこれしかないんです……」

「えっ……あっ!」

胸のサイズーーまじか。

もしかしてワンピースドレスも女の子女の子したやつしかなかったのは、そのせいだったりするのか?

「僕が着れるやつがこれしかないってこと……?」

「はい、申し訳ないのですが、このタイプしかありません。で、でも、きっとミカエル様ならすごくお似合いだと思いますよ!」

「うっ……」

マリーはダメ押しのように美香にメイド服を押し付けた。諦めて、早くミカエル様のメイド姿を見せてくださいと、無言ながらにして主張しているかのように。


「……マリー、着替えるから外で待っててくれる?」

マリーは疑問の表情を浮かべたが「はい、分かりました。終わりましたらお呼びくださいね」と言って素直に出て行った。

さきほどは着せ替え人形にされていたためあまり気にならなかったのだが、やはり女の子の前で着替えるのは抵抗があるのだった。美香も心は立派な高校男子なのだ。

着替えるにしても、全く似合わない女装をしている気分になる。出来るだけ何も考えないようにして、美香は淡々と着替えを済ませる。


「マリー、いいよ」

「はい!……わあっ、とってもお似合いです!可愛いですっ」

「……ありがと」

美香は微妙な心境でそう返事をした。

本物のメイドさんに会えるとは思っていなかったが、まさか自分がそのメイドさんになることになろうとは。

笑えない。全くもって、笑えない。


「では、さっそく参りましょうか」

「お願いします……」

美香は陰鬱な気分で部屋を出る。

王様の息子、ということは王子になるわけか。

王子と聞くとどうしても高飛車で我儘で自分勝手で、でもイケメン、みたいなイメージだ。

加えてあの王様の息子。

正直、不安しかない。

クラスにそんなやつがいたらまず話しかけない。そもそも僕は人付き合いが苦手なのだ。初対面の人と同じ空間にいるだけでもお腹が痛くなってくるレベル。それなのに、この数日でもう何人と初対面したことか。とっくにキャパオーバーだ。


「ここです。少し待っていてください」

マリーがまたもノックもせずに中に入っていった。その扉は王のときと同様、他の扉となんら変わりない質素なものだった。

美香は憂鬱のあまり大きく溜め息を吐いた。

……ついに来てしまったか。

白の国の王子ーー僕が仕えることになるかもしれない人物。

同い年の男と聞けばまだ話せる気もするが、今までの常識が通用するのかどうか。相手は異世界の王子様なのだ。異世界というだけでもアレなのに、しかも王子様。

殺すならいっそさっさと殺してくれ!という感じで焦れったく思いながら待っていると、すぐにマリーが戻ってきた。

「ミカエル様、お入りください」


美香は気の進まないまま中に入ると、視界に入ったのは椅子に腰掛けた一人の青年だった。髪は銀髪で肌も白い。それでいて強い意志を持ったような真っ直ぐな瞳が印象的だった。

その瞳の奥が、美香を見た途端に揺らいだ。まるで信じられないものを見たとでも言う風に。


「……母、さん…………?」

青年の口からぼそっと言葉が零れた。

美香はそれを聞いた瞬間、昨晩小さな中庭で出会った青年が脳裏に浮かんだ。

この白さ、この声、この言葉ーー。

間違いない。


昨日の夜のーーマザコンだ。

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