第1章20
しばらく、粗い息をついて座り込んでいた2人だが、ダンがオルソに向かって左手を伸ばした。
ダンの剣の切っ先で僅かに傷付き、出血していたオルソの左胸に手をかざすと、その左手は淡い光を放ち、傷は跡も残さず綺麗に消え去った。
「すまねえ。」
オルソはそう言って、天を仰いだ。
「結局、魔法なしで負けちまったな。」
「いや、そうでもない。」
「途中で足をとられたのは、確かに俺の運がなかったがな。勝負の上では運も実力のうちだ。」
そうオルソが言うと、ダンもカナもやや呆れたような顔をした。
「オルソ、気付いてないのか?ダンは魔法を使ったんだぞ。」
「は?」
「お前が足をとられたのは偶然じゃない。ダンが魔法で地面に生えていた草を操って、お前の足に絡めたんだ。」
「へ!?」
オルソは驚いたような顔で、ダンを見つめた。
「そうだったのか!?」
「そういう事だ。」
ダンはやや憮然とした声で答えた。
「なんだ、そうだったのかよ!」
オルソは途端に機嫌よくなった。
「それにしてもオルソ、なんでわざわざこんな本気の勝負をしようと思ったんだ?」
カナが尋ねる。
「そりゃぁ、決まってんだろ。男同士でわかり合うには、飲み明かすか、本気でやり合うかのどちらかだ。ダンは酒は飲めねえって言うから、一戦やってみようと思ったのよ。」
「俺はそういう考え方はしないがな。そういうタイプの男がいる事は知っている。だから、付き合ってやったんだ。」
ダンが疲れたように答えた。
「ふ~~ん。それじゃ、私とも一勝負するか?」
カナがオルソに尋ねる。
「お前とは、1度飲んだだろうが。それに‘男同士’って言っただろ。」
「あぁ、そう言えば、私は男じゃなかったな。私を女扱いする奴は珍しいから、たまに自分でも忘れる。」
真顔でそんな言葉を口にするカナに、オルソはガハハと豪快に笑った。
「お前はいい女だぜ。自覚がないのが惜しいくらいだ。」
これはオルソの本心である。
それを聞いたダンが、複雑な表情をした事にオルソは気付いて、内心おかしかったが、それに関しては何も言わなかった。
「さぁ、出発するとしようや。早くマジックアイテムを手に入れようぜ。」
オルソの疲労感はむしろ心地良いもので、彼は元気よく立ち上がった。