第1章21
朝っぱらから余計な事をしていたので、出発は随分と遅れてしまった。
3人は、山道をさらに分け入って、奥へ奥へと進んでいた。このくらいの高地になると、植物もほとんどなくなり、岩肌が露出した急斜面がひたすらに続いている。
「遺跡はこの方角で間違いなさそうだな。」
オルソは、うんざりといった表情で呟いた。
「そうらしいな。」
ダンの声音も、オルソと似たようなものである。
何故、遺跡はこちらで間違いないのかというと、魔獣の出現率が半端ではなくなってきたからだ。
初めは魔獣化ネズミ、次に魔獣化カラス、魔獣化スズメバチに魔獣化大蛇。
次から次へと現れた。
と言っても、これらを相手にしたのはカナ1人である。
ダンとオルソがやり合っていたのに、自分だけ仲間外れにされたようで、面白くなかったカナは、魔獣相手に一暴れして憂さ晴らししていたのである。
魔獣化スズメバチの時は、さすがに多勢に無勢で、ダンも援護しようとしたのだが、それもすべてカナが1人で斬り捨ててしまった。それでも1ヶ所も刺されなかったのだから、大したものである。
「お前らと一緒に来て、本当に良かったぜ。」
オルソは心底、そう漏らした。自分一人であったなら、間違えなくここまで来られなかっただろう。
「ん?ダン!オルソ!あれじゃないのか!?」
カナが、岩肌にぽっかりと口を開けた洞穴を見つけた。しかも、ただの洞穴でない事を示すように、その入口には明らかに人工的に作られた1体の像が鎮座している。
3人はその入口までやってきた。
「変な像だな。何だこれ?」
石造りの像は、動物を象った物のようだ。カナが興味津々と、つつきまわす。
「これはキメラだな。」
ダンも像を眺めながら、答えた。
「キメラ?」
「よく見ろ。ライオンの頭に山羊の胴体、蛇の尻尾を持っているだろう。これをキメラと言うんだ。」
「神話の中の生き物って、とこか。」
オルソもしげしげと像を眺める。子供の頃、聞かされた物語に、こんな生き物が出てきたような気がする。
「まぁ、一般的には空想上の生き物という事になってはいるな。」
ダンが意味深な言い方をした。
「‘一般的には’って、どういう事だよ?」
オルソが訊き返す。
「一部の魔術師の間では、キメラは実在したと言われているんだ。古代魔術師の魔法は、生物を遺伝子レベルで操作出来たと言われている。DNA配列すら、自在に組み替えたと言うから、もはや神の領域だな。」
カナとオルソは、ダンの言葉の意味が理解できない。
「イデンシ?でぃーえぬえー?何だそれ?」
「手っ取り早く言えば、古代の魔術師は、こんな奇妙な生物を作り出すような魔法も知っていたという事だ。」
長々と説明するのが面倒だったので、本当に手っ取り早く、ダンは答えた。
「ふうん、古代の魔術師ってのは、凄かったんだな。」
カナは感心したように言った。
「前にも言っただろ。現代に残っている魔法は、古代魔法の中のごく一部だけだ。古代の魔術師と同等の魔法が使える魔術師が、現代に存在したら、世界なんて簡単に征服できるさ。」
古代魔法の多くが現代までに滅びた理由には諸説あるが、今のところ定かなものはない。
「カナ!ダン!入口でくっちゃべってても、始まらねえだろ。早く中に入ろうぜ。」
オルソは遺跡を目の前にして、気が急いているようである。オルソに急かされるように、カナとダンは遺跡の中に入っていった。




