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第54話 どんぶり革命!〜器と薬膳で世界を結ぶ〜

「……世界平和サミットの、メイン料理に……私のラーメンを、ですか?」

美月は目を丸くしたまま、目の前に立つ男性を見上げた。年の頃は三十代後半、鋼のような風貌に光る小さな丸眼鏡。名を、クルス=シュタインといった。

「ええ。私は、ゼメルツァン王国陶芸技術研究院の使者、クルス=シュタイン。現在、我が国では“最高のラーメンの器”を作る国家プロジェクトが進行中でして。ぜひ、あなたのご意見を仰ぎたいと参上しました」

「器……?」

「美味なる料理に、最高の舞台を。あなたのラーメンには、ふさわしい玉座が必要なのです!」

突然、椅子から立ち上がり拳を握るクルスに、美月はちょっとたじろぐ。

「わ、わかりました……。でも、それにしてもサミットって――」

「ええ。各国の王族、貴族、知識人が一堂に会し、文化と平和の共存を語り合う場です。料理はその象徴……あなたのラーメンに、世界の未来がかかっているのですよ」

「おおげさすぎません!?」

 

後日、ゼメルツァン王国に招かれた美月は、陶芸と金属加工の都と呼ばれる中心都市・トルカフェルを訪れた。

「すっごい……!町中が、工房と窯元だ……」

「ようこそ、器と火の王国へ!」

案内役はクルスに加え、彼の姪で器デザイナーを目指す少女・ピーニャ。金髪三つ編みの活発な少女で、美月を見てすぐに「わたし、あなたのファンなんですー!」と叫び、手を握って離さなかった。

「ラーメンに最も似合う“口当たり”と“香りの立ち上り”を生む器を作りたいんです。材質、深さ、縁のカーブ、すべてにこだわって……!」

「私の専門は金属です。金属と陶器の融合技術で、適度に保温しながら、口元だけは優しく触れる……“二層構造どんぶり”などどうでしょう?」

職人たちの熱意に、美月の探究心も燃え上がる。

「よし、やってみましょう。器にふさわしいラーメンも、私が作ります!」

「おおおおおおおおっ!!」

工房に歓声が上がった。

 

試作の日々が始まった。美月は、ゼメルツァンで手に入る香り高い木の実や、薬効のある根菜、さらにミネラル豊富な火山灰塩を使い、新たな“ゼメルツァン式薬膳ラーメン”を開発。

「ベースは白湯だけど、焦がし木の実オイルで香ばしさをプラス……スープの温度が下がると、とろみが出てくるようにしたい」

ピーニャは器のスケッチを何枚も描き、試作器に次々と新素材を使っていく。

「縁は厚すぎると唇に熱が伝わっちゃうから、少し絞ってカーブさせて……ほら、このくらい!」

「ほうほう……液体の“すする角度”まで計算された器……」

クラリーチェもリリアーナも同行しており、クラリーチェは木の実をひたすら割る係、リリアーナは職人たちに指示を飛ばし、半分現場監督のようになっていた。

「火加減が強すぎます!そこは焦がしではなく“炙り”なんですよ!」

「さすがリリアーナさん……もう、完全に現地スタッフより動いてる……」

 

ついに完成した器は――

見た目は美しい黒曜色の碗。手に持つと陶器の質感、しかし口元に当てると金属のひんやりした感触が消え、柔らかに熱を伝えてくれる魔法のような器。

名付けて、《アークわん》。

その器に注がれた《焦がし木の実白湯・ゼメルツァン薬膳仕立て》は、深いコクと甘やかな香り、そして火山塩の引き締まった後味が絶妙に調和していた。

 

「この一杯が……世界平和サミットで出るんだね……」

「ええ。しかも、“世界を和える一杯”として、主賓王族に最初に供されるとか!」

美月の胸に、ぐっと熱いものが込み上げてきた。

――ラーメンは、国を越え、心を結ぶ。

それを証明する瞬間が、もうすぐやってくる。




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