第54話 どんぶり革命!〜器と薬膳で世界を結ぶ〜
「……世界平和サミットの、メイン料理に……私のラーメンを、ですか?」
美月は目を丸くしたまま、目の前に立つ男性を見上げた。年の頃は三十代後半、鋼のような風貌に光る小さな丸眼鏡。名を、クルス=シュタインといった。
「ええ。私は、ゼメルツァン王国陶芸技術研究院の使者、クルス=シュタイン。現在、我が国では“最高のラーメンの器”を作る国家プロジェクトが進行中でして。ぜひ、あなたのご意見を仰ぎたいと参上しました」
「器……?」
「美味なる料理に、最高の舞台を。あなたのラーメンには、ふさわしい玉座が必要なのです!」
突然、椅子から立ち上がり拳を握るクルスに、美月はちょっとたじろぐ。
「わ、わかりました……。でも、それにしてもサミットって――」
「ええ。各国の王族、貴族、知識人が一堂に会し、文化と平和の共存を語り合う場です。料理はその象徴……あなたのラーメンに、世界の未来がかかっているのですよ」
「おおげさすぎません!?」
◆
後日、ゼメルツァン王国に招かれた美月は、陶芸と金属加工の都と呼ばれる中心都市・トルカフェルを訪れた。
「すっごい……!町中が、工房と窯元だ……」
「ようこそ、器と火の王国へ!」
案内役はクルスに加え、彼の姪で器デザイナーを目指す少女・ピーニャ。金髪三つ編みの活発な少女で、美月を見てすぐに「わたし、あなたのファンなんですー!」と叫び、手を握って離さなかった。
「ラーメンに最も似合う“口当たり”と“香りの立ち上り”を生む器を作りたいんです。材質、深さ、縁のカーブ、すべてにこだわって……!」
「私の専門は金属です。金属と陶器の融合技術で、適度に保温しながら、口元だけは優しく触れる……“二層構造どんぶり”などどうでしょう?」
職人たちの熱意に、美月の探究心も燃え上がる。
「よし、やってみましょう。器にふさわしいラーメンも、私が作ります!」
「おおおおおおおおっ!!」
工房に歓声が上がった。
◆
試作の日々が始まった。美月は、ゼメルツァンで手に入る香り高い木の実や、薬効のある根菜、さらにミネラル豊富な火山灰塩を使い、新たな“ゼメルツァン式薬膳ラーメン”を開発。
「ベースは白湯だけど、焦がし木の実オイルで香ばしさをプラス……スープの温度が下がると、とろみが出てくるようにしたい」
ピーニャは器のスケッチを何枚も描き、試作器に次々と新素材を使っていく。
「縁は厚すぎると唇に熱が伝わっちゃうから、少し絞ってカーブさせて……ほら、このくらい!」
「ほうほう……液体の“すする角度”まで計算された器……」
クラリーチェもリリアーナも同行しており、クラリーチェは木の実をひたすら割る係、リリアーナは職人たちに指示を飛ばし、半分現場監督のようになっていた。
「火加減が強すぎます!そこは焦がしではなく“炙り”なんですよ!」
「さすがリリアーナさん……もう、完全に現地スタッフより動いてる……」
◆
ついに完成した器は――
見た目は美しい黒曜色の碗。手に持つと陶器の質感、しかし口元に当てると金属のひんやりした感触が消え、柔らかに熱を伝えてくれる魔法のような器。
名付けて、《アーク碗》。
その器に注がれた《焦がし木の実白湯・ゼメルツァン薬膳仕立て》は、深いコクと甘やかな香り、そして火山塩の引き締まった後味が絶妙に調和していた。
「この一杯が……世界平和サミットで出るんだね……」
「ええ。しかも、“世界を和える一杯”として、主賓王族に最初に供されるとか!」
美月の胸に、ぐっと熱いものが込み上げてきた。
――ラーメンは、国を越え、心を結ぶ。
それを証明する瞬間が、もうすぐやってくる。




