第20話 ◆女男爵、美食貴族会に招かれる!?
春の陽射しがふんわりと差し込む学院長室。 美月が朝のスケジュール帳を眺めながら、コーヒーをすすっていたとき――
「美月さま!たいへんですわ!」
扉を勢いよく開けたのは、もちろんリリアーナ。 両手には金箔押しの分厚い封筒。
「またお取り寄せラーメンの注文が殺到したとか?」
「いいえ、こちらですの!」
差し出された封筒には、紋章入りのシーリングワックスが押されていた。
『貴族美食同盟主催:春季宮廷食卓競宴会 女男爵ミヅキ殿、謹んでご招待申し上げます』
「……なにこれ怖い!」
その場にいたチグー(ちびグレイベア)が「ぐる」と鼻を鳴らした。
「とうとう女男爵の肩書きが本格的に稼働し始めましたのね……!」
「えっ、そういうものなの!? チグーも驚いてるよ!」
◆お屋敷、そして優雅の始まり
数日後。 美月はリリアーナに連れられて、町外れの高台にある白壁のお屋敷を訪れていた。
「……これ、住むの? 私が?」
「はい、美月さま専用の邸宅ですわ! フェルナンデス家が長年管理していた空き屋敷ですが、魔改造も可能ですの!」
「“魔改造”って言った!? そっち方面の語彙、どうしたのリリアーナ!」
「じつは最近、ギルド長から“現代用語辞典”をお借りしまして……ふふふ♪」
広い中庭には花が咲き乱れ、館には由緒ある香りが漂っていた。 厨房には広々とした調理スペースと、薪の石窯。 チグーは敷地の端から端まで探索して、「ぐるぐる!」と大はしゃぎ。
「ここならラーメンの研究も捗りますわね。ですが、美月さま……お忘れではございませんか?」
「……えっ、なに?」
「貴族作法特訓でございますわ!これより1か月、午後はすべて“上品訓練”に充てていただきます!」
◆地獄の優雅週間、始まる
「それでは第一課題、“貴族式おじぎ”の練習をいたしましょう」
「またこれ、膝ががくがくする……」
「背筋は垂直、顎の角度は15度、笑顔は“愛され微笑”の第二形態!」
「第一形態と何が違うの……!」
台所では、学院生ティナがこっそりのぞいていた。
「学院長……いつもと雰囲気ちがう。すごく“高貴”だ……」
レオン(料理科助教授)は手を組んでうなずく。
「だが、顔が必死すぎてラーメン煮詰まった時と同じ表情してるぞ……」
さらにはグラウ(筋肉戦士)まで差し入れに来て一言。
「……美月、優雅すぎて一周して戦士に見える」
リリアーナの指導は、まるで軍隊の教官のようだった。
「違いますわ美月さま、その手首の角度では紅茶ではなくスープを注いでしまいます!」
「紅茶とスープ、似てるけど違うでしょ!?」
「ラーメンどんぶりを運ぶ腕と、ティーカップを持つ手首は、まったく別物ですのよ!」
「そんな分類あるの!?」
ティータイムのレッスンでは、リリアーナが本気でスプーンとフォークを構えて立ちふさがった。
「美月さま、これは模擬貴族ランチバトルですわ。わたくしが“料理のマナー破壊者”役をつとめますので、優雅さで打ち勝ってください!」
「何その役! ってか、優雅さで打ち勝つってどういう意味!? 投げ技できないんだけど!?」
二人は真剣に(?)テーブルの上でナイフとフォークの動かし方について議論し、ドレスの座り姿について激論を交わし、ついには一緒に泥だらけでバランス練習までやった。
◆それでも、美月はやり遂げる
一か月後――
「美月さま……! 完璧ですわ……!」
リリアーナがうっとりと微笑んだ。
美月はすっと立ち上がり、背筋を伸ばし、完璧な角度で優雅にカーテシー。
「お招きいただき、光栄に存じます」
「美月さま……それはもはや“貴族スープ”のような深みがございます!」
「どういう意味!?」
ふたりは顔を見合わせて、ついに吹き出してしまった。
「ありがと、リリアーナ。ほんと、あなたがいなかったら、途中で逃げ出してたかも」
「うふふ、美月さま……わたくしも、あなたと過ごすこの時間が、なにより幸せですわ」
「じゃあご褒美に……今夜は特製の“紅茶白湯ラーメン”作ってみる?」
「それは……! 新しい時代の味ですわね!」
中庭にはラーメンの湯気と、紅茶の香りが混ざり合い、そこには笑い声と友情が満ちていた。
美月とリリアーナの絆は、少しずつ、確かに深まっていったのだった。




