19話 開店ラッシュ!そして学院第2期、始まる!
女男爵となったとはいえ、美月の一日は変わらない。
いや、むしろ、さらに目まぐるしいものとなった。
風見亭での厨房を卒業した今――
彼女のラーメン人生は、“四十の支店”へと広がっていた。
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◆転移ゲートで全国視察!
冒険者ギルドが運用する転移ゲート――
それは、各支部同士を繋ぐ強力な空間魔法であり、美月の新たな「足」となった。
「本日は西部ルートの十店舗ね。よし、準備OK!」
チグーは旅用の小さなスリングバッグに入り、鼻をくすくす動かしていた。
「チグー、今日は香り担当よ。スープの微妙な違い、嗅ぎ分けてちょうだいね」
「ぐるっ!」
この日も、美月は朝の7時に出発し、転移ゲートを使って支店を一軒ずつ回った。
店長たちは緊張の面持ちで迎え、美月が厨房に立つと、息を呑む。
「……昆布だしの煮出し時間、少し長いかも。この香りだと、後味に渋みが残ってる」
「火霊草の処理は素晴らしいわ。でも、煮込み前に干しておくと香りが立つの。チグーがくしゃみしたのはその証拠」
チグーがふんふんと鼻を鳴らせば、それは味や香りへの何よりのフィードバック。
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◆毎週開催、店長会議 in 美月の街
週に一度、美月の街のギルド本部では「美月薬膳拉麺店長会議」が開かれる。
転移ゲートを通じて、全国の店長40名が勢揃いする場だ。
「スープの塩加減、気候によって変わりますね。北の店舗では薄めが好まれる傾向が」
「現地の山菜との組み合わせで“郷土風”も開発しました!」
「この間の限定メニュー、“ギルド鍋ラーメン”大当たりでした!」
各地の試行錯誤、創意工夫、美月のレシピの進化系――
それぞれが切磋琢磨し、笑顔と熱気が飛び交う。
美月は一人ひとりの声に耳を傾け、時にはチグーの鼻判定も入りながら、きめ細やかなアドバイスを加えていった。
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◆そして学院、第2期へ
一方、美月薬膳拉麺学院では、ついに第2期生の入学式を迎えた。
今年の生徒数は前年度よりも倍以上。
リリアーナ助手が整然と式次第を取り仕切るなか、美月は壇上に立ち、いつもの笑顔で語る。
「ラーメンは、人の命を育てる料理です。……この世界に、それを伝えていく仲間が、また増えたことを本当にうれしく思います」
「ひかえめな表現ですけど、“味の女神”としては、もう少し自信持っていいと思いますわ、美月さま!」
「ちょっと! スピーチの途中!」
笑い声と拍手に包まれながら、新しい季節が始まる――
ラーメンを通じて、健康と笑顔と、世界を繋げる旅のような日々が、再び。