第45話 誤算
ゴブリンキャプテンがこちらを睨んでいる。
「ギルマス! 残りの爆弾は!」
「これで全部だ!」
おかしい、爆弾は全部投げきったはず。
それならなんで、キャプテンがまだ立っているのか。
固まって動けない私。
ボスが生きていることがわかり、戸惑う冒険者達。
それを見て、笑うキャプテン。
「うあぁああああああああ!!!」
悲鳴を上げて逃げる冒険者達。
「落ち着け! タンク、味方を守りながら後退だ!」
わかったのは、私の作戦が失敗に終わったということだった。
『ボス生きてる!?』
『数間違えた!?』
『昨日から見てた、ありえん! GMから聞いてたHPでちゃんと計算したはず』
『じゃあ、GMが間違えた?』
『おい、サンセイ!?』
視聴者さんも混乱しているみたいだ。
GM『そんなばかな! 敵の数と敵のHPからして足りてたはずだ!』
『間違えて……ない?』
『ならなんで倒せてねぇんだよ!!』
『何か……何かが……』
逃げ惑う冒険者達を見守ることしかできない。
『おい! あいつ!』
『ん? あれ、自称勇者じゃね?』
声に釣られて見ると、逃げ惑う冒険者の一人に、あの自称勇者がいた。
鼻水を垂らして、恐怖に顔を真っ青にして、逃げている。
『まさかとは思うけど、あいつもプレイヤー換算されてる?』
『嘘だろ!?』
『いや、でも確かにあいつの立場って俺達と同じ旅人って設定だったはず!』
『へいGM! 敵の数とHPの仕組みをもう一回プリーズ!!』
GM『敵の数、HPは旅人の数によって増減する! 一人増えた場合は……今調べるから待ってて!!』
『おいいいいいいいいい』
『まさかのここに来て誤算の自称勇者とか!』
『また旅人が原因でアリスちゃん危険とか勘弁だぞっ!』
『アリスちゃん逃げろ!!』
状況は理解した。
前提として、GMさんから聞いていたHPと敵の数は、プレイヤーが私一人だった時のものだ。
しかし、今、戦場に自称勇者である旅人認定のダルスがいる。
それによって、敵の数、HPが想定していたのと違うということか。
GM『来た! 一人増えた場合は、敵の数は、20匹プラス、敵のHPは600プラスだ! 詳細も出す!』
GMさんが、詳細な差も出してくれた。
『ボスのHP計算して!』
『誰か計算早く!』
『不足爆弾数数えろ!!』
『出たっ! 不足数はおよそ33個。ボスの残りHPは990だ!』
『半分も減ってないやんけ!』
不足数33……数としては、大したことがないけど、今の私にとっては遠い数字だ。
『アリスちゃん爆弾の残り素材は!!』
『あるわけねぇだろ!!』
『そもそも、想定数ギリギリで周回したんだぞ!』
そう、素材はもう残っていない。
つまりもう、爆弾は投げられない。
「う、うわああああああああ!!」
悲鳴が聞こえた。
見ると、一人転んだ冒険者が、今にもキャプテンに襲われるところだった。
まずいっ!!!
慌てて、弓を構える。
しかし、矢はさっき使い切った。
手が空を切る。
その間にも、ゴブリンキャプテンは動けない冒険者に向かって持っていた大剣を振りかぶり。
「うごっ!!?」
冒険者の前に颯爽と飛び出した影がゴブリンキャプテンに一撃を加えて引かせた。
冒険者を守るように立つその後姿には見覚えがある。
「ロナさん!?」
『ロナちゃん来た!?』
『かっけえ! ナイスタイミング!』
『武器屋にいた美人NPCやん!』
『ロナちゃんって言うんだぞ、初見のやつ前の放送見てこい』
『街で最強のNPCだぞ!』
そう、ロナさんはこの町でも随一の力の持ち主。
でも、
『弾き返した! どんだけPOWあるねん!!』
『いや、あれは武器の性能があるわけで、本人は普通の鍛冶師だぞ!』
『えっ? それやばくね?』
そう、ロナさん自身のHPなどは他の冒険者達と大差ないのだ。
敵のボスからの攻撃を一度でもまともに受けてしまうと、ロナさんは……
その間にも、転んだ冒険者は逃げ出していた。
戦場に残るは、ロナさんとゴブリンキャプテンだけ。
そして、お互いに武器を構え、戦いを始めた。
『ロナちゃん強い!! けどやばいぞ!!』
『流石にボスと一対一はやばい!』
『アリスちゃん何か! 援護!』
援護、そう、援護しなきゃ。
ロナさんがいくら強いと言っても、一人で戦っていい相手ではない。
私に何かできることをしないと!
「矢の素材! 矢なら作れる!!」
爆弾の素材は、尽きてしまったけど、矢だったら作れる。
でも、今ここで錬金術をしてる余裕なんかない。
「アリス! これを使え!」
私に向かって投げ出されたそれは、大量の矢だった。
「ギルマス!」
「冒険者ギルドの備品だ! 元々お前が作ったもののはずだ使え!」
感謝する!
受け取った矢を弓につがえて……
「駄目! ロナさんに当たる!」
戦っている二人の動きが読めなくて、うまく狙えない。
せめてもっと違う方向からなら……
「ギルマス! 私も出ます!」
少なくとも、防壁の上からでは無理だ。
「なんだと!? ま、待て!」
『アリスちゃん!?』
『ちょ、今の状況で戦場出るのはやばいぞ!』
『俺達の二の舞いになりかねん!』
『誰か、止めてっ!』
防壁の下、戦場へと向かって走り出した私、後ろからかけられた静止の声は無視をした。
少しでも早く、ロナさんを助けないと!
こちらに向かって走ってくる冒険者達とすれ違うように戦場に走る。
門を出ると、戦っているロナさんを見つけることができた。
矢を射るのに最適な場所は……
ロナさんの後方からは離れ、キャプテンの横側に位置づける。
「ここからなら!!」
弓の弦に矢をつがえ、ゴブリンキャプテンに向かって放った。




