第46話 死闘
ゴブリンキャプテンは私の放った矢を軽々と避けた。
「……っ!!」
その瞬間、わかっていたようにロナさんが攻撃を放つ。
しかし、それもゴブリンキャプテンは後ろに引くことで回避をした。
ゴブリンキャプテンが忌々しそうに私の方を見る。
『もうここまで来たら倒すしかない!』
『ゴブリンキャプテン自体に遠距離攻撃はない!』
『ひたすら攻撃加えるんだぞ!』
『負けるんじゃないぞ!』
いいコメントがあった、どうやらあいつは遠距離攻撃ができないらしい。
だったら、ロナさんのフォローをするようにひたすら矢を撃つだけだ。
ちらっとこちらを見たロナさんに返すように頷く。
ロナさんがハンマーを振りかぶり、攻撃をする。
二人での戦闘が始まってから結構な時間が経った。
ゴブリンキャプテンは始めは、私の矢もロナさんの攻撃も避けていたんだけど、次第に私の攻撃があたるようになってきた。
ひょっとして疲れてきた?
『魔物もつかれるとかあるのん?』
『あれだけのAIなら多少はあるはず?』
『GM、そのあたりのところどうなん』
GM『うーん、少々ギリギリの質問ですが、結論から言うと、魔物も疲れます。段々と精度が落ちるはずです』
『そうなんだ、でもあんまり感じたことがないな?』
『単純に戦闘時間の問題じゃね? もう結構戦ってるぞ?』
GM『お察しの通り、普通はプレイヤーの方が先にスタミナが尽きます。弓は控えめですが、確実に消費してるはず』
『つまり、アリスちゃんもロナちゃんも疲れてる?』
あたりまえだ、これだけ緊張の中で戦闘してて疲れないはずがないじゃない!
だけど、あいつは意地でも倒す、その一心で矢を撃ってるだけだ。
それに、ゴブリンキャプテンにはまだ余裕があるのがわかる。
私の攻撃は当たるようになったけど、ロナさんの攻撃だけは確実に避けている。
つまり、私の攻撃はダメージが少ないからまだ当たっても平気ということだろう。
だけど、一本が弱くても、積み重ねれば強くなるんだよ!
なんてコメントを返している余裕はない。
ロナさんも致命傷は受けていないだけで、攻撃は受けている。
ロナさんが倒れれば、私だってすぐにやられるだろう。
これは、どっちが先に相手を削りきれるかの戦いになっているのだ。
あとどれだけ続くかもわからない戦闘が続く。
しかし、均衡は崩れた。
私の放った一撃がゴブリンキャプテンの目を貫いたのだ。
流石のゴブリンキャプテンも、動きを止めてよろめく。
その瞬間を見逃さず、ロナさんがハンマーで連撃を叩き込んだ。
『いいの入ったぞ!!』
『あの攻撃力ならかなりダメージ行ってるはず!』
『やったか!?』
『フラグやめろ!』
一瞬、ロナさんの連撃でそのまま倒しきれるかと思った。
しかし、突然、ロナさんの攻撃がゴブリンキャプテンの身体に弾かれた。
これまでになかった反応に私とロナさんの動きが止まる。
見ると、ゴブリンキャプテンが顔を伏せ、身体からは黒いオーラが立ち上っている。
『暴走来たぞ!』
暴走!?
『HPが残り2割切った時に始まる最後の馬鹿力だ!』
『これまでに比べて相手の速度と攻撃力が上がる分防御力と回避力が下がる』
『プレイヤー的には、後は削り切るだけなんだが……』
速度と攻撃力が上がったら困るよ!
顔を上げたゴブリンが、これまでより早いスピードでロナさんに襲いかかる。
「くっ……」
なんとか攻撃を受けたロナさんが、弾かれる。
ゴブリンキャプテンは、それに追撃をするように攻撃を続ける。
まずい! ロナさんは耐えるので精一杯だ。
私は矢をつがえ、撃つ。
なんとか、私が倒し切るしかない!
『ダメージは倍くらいまで上がってるはず』
『2割ってことは、残り400は切ったはず!』
『削れ削れ!』
さっきよりも更に速度を増して、矢を撃ち続ける。
ゴブリンキャプテンはもはや、私の攻撃を一切避けない。
これならばいけるか?
なんて希望は、すぐに打ち砕かれることになった。
「……っ?」
矢をつがえようとした私の手が空振った。
見ると、あれだけあった矢がなくなっている。
急いでインベントリも見る。
しかし、そこには、矢の残りが尽きていることだけが示されていた。
「矢……尽きた……」
思わず、つぶやいてしまった。
『くっそっ! ここまで来たのに!』
『嘘だろ! もうちょいなのに!』
『射った数からして、残り100は切ってるはず』
『アリスちゃん!?』
矢がなくなった、そのことがわかった私の集中力は限界に達した。
「あっ……」
身体に力が入らない、膝から崩れるように堕ちる。
眼の前が真っ暗になった。
…………
「……い!」
…………?
「おい!」
崩れ落ちたはずの私の身体が何かに支えられていた。
「おい! アリス大丈夫か!」
声に釣られるように、視界を取り戻す。
私を支えていたのは、相変わらずの強面。
「……ギルマス?」
「大丈夫か!」
どうやら私を支えてくれていたのは、ギルマスのようだ。
私の口に、見覚えのあるビンから液体を流し込む。
こくりと反射的に、喉が鳴る。
これは、ポーションかな?
「ダメージではないが、多少の効果はあるだろう。大丈夫か?」
なんとか、まだちょっと朦朧としている気がするけど、視界は戻った。
「……ギルマス!? どうして!?」
ギルマスがどうしてここにいるかわからない。
いや、そうじゃない!
「ロナさん! ロナさんは!」
そうだ、私が倒れたらロナさんが!
「大丈夫だよく見ろ!」
ギルマスが指差す先を見ると、ロナさんを守るように立つ、人影が、いくつも。
「あれだけじゃないぞ」
更にギルマスが指を指す、その先には、こちらに向かって走ってくる冒険者達が。
「二人が必死こいて戦ってるのに、大人が何もしないわけにいかないからな。少し説得に時間がかかっちまったが」
弾かれても何度でもロナさんの前に、立ちふさがるタンク達。
ロナさんはもう立っているのも限界みたいだ。
「後は任せておけ」
そう言って、ギルマスは私を寝かせるように横にする。
「これでも、元冒険者だ。引退はしたが、守るくらいはできる」
「俺達だってこの街を守るぞ!」
「そうだ! 俺達だってやるんだ!」
そう言って、かけつけてきた冒険者達もゴブリンキャプテンに向かっていく。
『アリスちゃん! 無事か!?』
『倒れた時はもう駄目かと……』
『ギルマス、説得して来てくれたのか、イケオジだな』
『アリスちゃん、よく、頑張ったよ』
そうか……私はもう……やりきった。
…………
……わけがない!
この街の冒険者が弱いなんてことは最初から聞いてる。
だからこそ、まともに戦わせず、爆弾で封殺する手段を考えたのだ。
まともに戦わせたら死者が出る。
暴走を始めたゴブリンキャプテンを相手にするなんて死ににいくようなものだ。
それじゃあ、やってきたのが無駄じゃないか。
何か、何かできることはないか。
死地に向かう冒険者達の背中を目に、何かできることがないか必死で考える。
開いたままのインベントリ。
当然そこには矢が0本であるのは変わらない。
矢で攻撃はできない。
爆弾も当然残ってない。
私の攻撃手段は……
そして、私は見つけた、インベントリに燦然と輝く起死回生のアイテムを。




