ステージ6-13 屍王
「俺達が屍王を狙って、そんな俺達に向かって来たハエを処理する……今のところこれが良いかな」
「良いんじゃないかな? 敵は機械的な動きだからこそ釣られやすいもんね。現状を打破するにはそれが良いかも!」
「はい……責任重大ですけど、役割と敵の狙いを分担するのが良さそうです……!」
「ああ。今の状況はマズイからね。ある程度のリスクを背負って行動を起こしたいところだ」
屍王とハエ型モンスターを建物の影から見やり、攻めあぐねている現状、もう一度自動販売機のジュースという名の回復アイテムを使用した俺達は能力値を上げて次の行動を話し合っていた。
隙が少ないので回復アイテムを使用するのも一苦労。だが、何とかなったのでそれは良しとする。
そんな俺達の作戦は、俺とソラヒメが屍王に仕掛け、俺達に迫ってきたハエ型モンスターをユメとセイヤで処理するという単純なもの。
機械的な存在故に単純が一番効果的と判断したのだ。
「行くぞソラヒメ!」
「オーケー、ライト!」
その瞬間に踏み込んで駆け出し、雪を巻き上げて加速。一瞬にして屍王の眼前に迫った。
『『…………』』
『『…………』』
獲物を確認したからか、俺達が二人だけなのも特に気にせずハエ型モンスターが迫り来る。同時に俺とソラヒメは力を放った。
「「“地形生成”!」」
『『『『…………!』』』』
それはギルドメンバー専用アビリティの──“地形生成”。
“停止”ではハエ型モンスターの動きを完全に捉えるのは難しい。なので“地形生成”を使って壁を形成する事で逃げ場を絞ったのだ。
地形はハエ型モンスターを囲い、唯一の逃げ場である上に向かった。
「“ファイアボール”!」
「“火炎矢”!」
『『……!』』
『『……!』』
その瞬間、既にスキルを放っていた二人の攻撃が直撃。位置を予め予測する事でハエ型モンスターのゆっくりに見える視界でも問題無く当てられたのだ。
それによってハエ型モンスターは消滅。光の粒子となって消え去る。俺とソラヒメは屍王に向き直った。
『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!』
「邪魔だァ!」
「どいてよ!」
『……!』
そんな俺達の眼前には巨腕が迫る。しかし俺とソラヒメはその巨腕に向けて光剣影狩を振り下ろし、空裂爪で殴り飛ばし、粉砕して更に迫る。
完全には破壊出来ないが、俺とソラヒメが力を合わせれば一本くらい何とかなる。そこから更に踏み込み、力を込めた。
「──伝家の宝刀・“聖剣戟”!」
「──奥の手・“聖拳”!」
『……ヅァ゛……ッ!?』
必殺スキルへと昇格した二つの聖属性スキル。俺が屍王の肉体を八回斬り付け、その直後にソラヒメが重い拳を叩き込む。それによって屍王の体力ゲージが一気に減り、今一度仕切りに衝突。これで体力が六割は削れた。おそらく敵が回復スキルを使うか使わないかの瀬戸際だろう。
要するに微調整をしたのだ。
『ア゛ア゛ァ゛!』
『『『………!』』』
『『『………!』』』
「また蟲モンスターの群れか……!」
「けど、衝撃波を放出したり回復したりしないね! 一先ず作戦は成功かな!」
屍王は堪らず蟲系モンスターを大量放出。
先程の攻撃も相まり、体力を合計で八割は削れた。おそらくこれ以上削れば回復スキルを使ってくるだろう。
「よし、逃げるぞ!」
「オーケイ!」
なので俺とソラヒメは一時的に離脱し、ユメとセイヤもこの場を離れる。物陰に隠れ、“SP”の自動回復を待つ魂胆だ。
幸いかどうかは分からないが、廃村は数キロに及ぶ広大なボスモンスター専用ステージ。なので逃げ回るだけなら割と余裕がある。後はたった今放たれた蟲系モンスター。そして時折放たれるどこまでも伸びる巨腕や毒の息に気を付ければ上手く行くだろう。
しかし無論、俺達が知らないだけで、あまり待たせるとこの体力でも回復スキルを使ってくる可能性もある。だが、その辺も抜かり無い。屍王の様子はいつでも確認出来るように逃げ回るつもりだ。
『ア゛ア゛ア゛!』
『『……!』』
『『……!』』
「追って来たァ!」
「逃っげろー!」
「ひぃ……! 何で二人ともテンション高いんですかぁ!?」
「まあ、二人は元々こんな感じだしね……」
巨腕が迫り、大地を抉りながら加速。その後ろから蟲モンスターが大量に迫り来る。
中には液体を吐き出したりして仕掛けてくる存在も居るが、単純な速度は俺達の方が速い。主にハエなどの害虫が多いので、純粋な速度が優れているトンボ系のモンスターや蜂系のモンスターは居ない。逃げるだけなら簡単だった。
『……!』
「ん? あれは……アレか」
「……ん? ひ、ひぃっ!?」
そんな中、一際高速で動く黒光りの蟲を発見。確かにあの中に居ても違和感はないな。陸上ではかなりの速度だ。
人間大の大きさなら新幹線並みと言われているが、今現在のこの世界で考えれば新幹線の倍は速い。下手したら追い付かれるな。訂正しよう。逃げるのも結構面倒だ。
「“ファイア”!」
『……!』
故に、今回はユメが焼き払った。
私怨にも思えるが、取り敢えず助かったな。切羽詰まっていると魔法の放出速度も高まるのか。
今ので何匹かは焼失したが、まだまだ存在がある。屍王の巨腕からも逃れたいので建物の影に隠れたい気持ちもあるが、建物の影は寧ろ蟲達の独壇場。専売特許。逆に不利になる可能性の方が高かった。
「さて、どこに隠れるか……!」
「隠れないで走り続けていた方が良いかもしれませんね……虫は隙間ならどこまでも潜り込んで来ますから……うぅ……気持ち悪い……」
「普通に走るだけなら戦うより体力の消費が少ないからね、この世界。数キロの廃村を走って逃げれば残り体力が二割程の屍王を倒せるだけの“SP”が回復するかも」
「してくれなきゃ困るね。それと、それまでに逃げ延びられるか気になるところだ……!」
俺達は瓦礫の山と化した廃村を奔走する。隠れる場所は多いが、多い方が困るなんて滅多に無い体験だ。向こうにとっても隠れる場所が多いって事だからな。
敵が蟲モンスターというのが一番の理由。蟲はどこからもどこまでも入っていく。現実の場合はその大きさもあるのだろうが、平べったい蟲モンスターも多いし瓦礫の隙間くらいには簡単に入れるか。
『『『…………!』』』
「先回りされた……! じゃなくて、グルっと回って来ただけか……!」
『『『───』』』
逃げていたら正面からやって来た蟲達。そのまま斬り伏せ、光の粒子とさせて消し去る。
この世界の生物が光の粒子じゃなけりゃ、本来の蟲はバラバラになってもしばらく動く。身体全体に脳があるみたいなもんだからな。しかしまあ、この世界なら倒せばその時点で消滅する。その点は面倒が少なくて良いか。
「逃げるにも“SP”を温存して逃げなくちゃならないのは面倒だな。倒せる追っ手の数が限られている」
「範囲が狭いですからね……。私の魔法も通常攻撃なら“SP”は消費しませんが、ある程度は魔力を消費するので温存したいです……」
「ユメちゃんの場合は必殺スキルが魔法だから“魔力”も“SP”も使用するもんねぇ。範囲で言えば私の攻撃が一番短いし、逃げるだけってのも楽じゃないね」
「距離的な意味なら僕の矢が一番の範囲かな。まあ、倒せるのは正面の一匹からその後方の数匹だけだし、どちらにしても楽じゃないか」
蟲モンスターの数が多い。それだけで面倒な理由は達成される。……うん、さっきから“面倒”としか思ってないな、俺。実際それくらい面倒だから仕方無いだろう。
ともかく、建物に隠れる事はしなくても建物を利用して逃げるか。
「範囲かぁ……じゃ、この建物を利用しようか!」
「おっ。ソラヒメ。俺もそう考えていたところだ。取り敢えず屋根を伝って跳んで行けば……」
──その瞬間、ソラヒメがまだ倒壊していないレンガ造りの家を持ち上げ、そのまま放り投げて大きな粉塵を巻き上げた。
「……。利用するってそう言う事かよ……」
「アハハ! 普通にパンチするよりは広範囲を狙えるからね!」
「いや、まあ確かにその通りだけど……」
「まあ、取りこぼしも出るから確実じゃないけどねぇ~。目眩ましにはなるかな?」
何はともあれ、確かに目眩ましにはなった……のか? 粉塵が蟲に効果があるかは分からない。視覚はあるんだろうけど、触覚とかを始めとして感覚器官が人間と違うからな。
まあいいか。一先ず距離を置いて“SP”の回復が優先だ。そう言や、この世界じゃまだ“SP”回復のアイテムを見つけていないな。それがあるだけでボスモンスターの相手も一気に楽になるんだけどな。
取り敢えず目は眩ませた俺達は一旦駆け出し、一気に加速してその場を離れた。
次々と迫ってくる巨腕を避けながら移動するのはRPGとは違うアクションゲームみたいだな。まあ、RPGにもアクションゲーム要素はある。そもそもアクションロールプレイングゲームというジャンルもあるしな。
『『『………!』』』
『『『………!』』』
『『『………!』』』
「ハエにムカデに蛾に蜘蛛に蛇に黒光りのアレ……昆虫益虫爬虫類、大衆が嫌うような生き物を大量に集めたって感じだな」
「あれ全部が屍王の体内に潜んでいたって事ですものね……うっ……考えるだけで鳥肌が……」
「あの巨体なら何の不思議もないねぇ。屍王は外傷が再生するし、本体が強いから中に棲む蟲達にとっては衣食住揃った快適な場所だろうね」
「僕達からしたらただひたすら気持ち悪いだけだけどね……」
様々な蟲達を前に、一撃で粉砕して前に進む。もとい、逃げ回る。
生理的に不快な気持ちにさせる蟲系モンスターが多く顕在しているので反射的に打ち倒す。けどまあ、結構逃げ回ったしそろそろ“SP”も回復する筈だ。
『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!』
「……! 自ら追い付いてきたのか……!」
その瞬間、屍王が雪と瓦礫を散らしながら俺達の前に自ら躍り出た。
まあ、別に変じゃないな。体力が減っているが、回復する術があるなら積極的に仕掛けてきても問題無い。
後一回の必殺スキルが使えるまでの“SP”回復にはもう少し掛かりそうだが、今の状況を耐え抜けば必ずチャンスが訪れる筈だ。
『ア゛ア゛ア゛!』
「ただ闇雲に暴れているように思えるな……!」
躍り出るや否や、巨腕を振り回して瓦礫や大地を巻き上げる。
暴走にも近いその動き。俺は何となく、どちらかの存在が直後に消え去る事を思った。
残り数秒。数秒で勝負は……決まる。
『『『…………』』』
「……! 見境無しか……!」
腕に巻き込まれ、近くの蟲達が消滅する。まあ、モンスター同士の同士討ちは別に変じゃない。脳があるにはあるが、腐っている屍王の知能はそこまで高くないだろうからな。
ダメージを負った事で暴走した……と言ったところか。それによって生じる結果を簡潔に述べるなら、この数秒を切り抜ければ勝てる。って事だな。根拠はない。当たらない俺の勘を信じるだけだ。
「ここからが正念場だ……! 数秒稼いで、一気に仕留める……!」
「はい!」
「そうみたいだね!」
「了解……!」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
縦横無尽に暴れまわる屍王。この行動パターンは急変にも思えるが、実はそうでもない。
体力が残り僅かにまで減り、蟲を放ったが俺達は捕まらない。内蔵AIがあるのかは分からないが、もしあるなら“回復”よりも“戦闘”を中心的に思考するルーチンが組み込まれている筈。残り体力から、ピンチになったら暴れる。それ以上食らえば回復するという事になっているようだ。
要するに俺達が残り体力を二割まで削ったのは間違いではなかったという事。一割なら回復され、三割なら倒し切れるか分からない。かなり絶妙なラインを進めたようだ。
『ア゛ア゛ア゛!!!』
「まあ、かなり厄介なのは変わらないけどな……!」
「隙の無さは相変わらずですからね……!」
「あ、逃げ場も無くなってる……」
「後ろは仕切りか……厄介だね」
暴れる屍王の攻撃を避け続けているが、その速度と攻撃力からして一瞬の油断も出来ない。油断したらその瞬間に消滅だろう。
まあ、コンティニューは出来るが、それを使うのは今ではない。もっと重要な時に、居るという魔王や首謀者を相手にする時まで命は取って置きたいところだ。
しかし背後は仕切り。眼前に巨腕。体感回復速度残り一秒。この一撃を防げれば、勝率が高まる……!
『ア゛ア゛!!』
──その瞬間、屍王が絶叫を上げながら巨腕を俺達に振り下ろした。
「だけど、これなら……! “地形生成”!」
そんな屍王の攻撃に向け、咄嗟に地形を生成して守護する。一撃は確実に防げる。戦闘に置いては一瞬の守護以外で即座に砕けるが、何とか耐えれば……!
『ア゛ア゛ッ!!!』
「「……ッ!」」
「「……ッ!」」
瞬間、地形が崩壊した。同時に多少は威力の弱まった巨腕が迫り、俺達の身体を吹き飛ばして仕切りへと激突させる。
そして俺達の体力は──まだ残っていた……! 同時に“SP”が通常スキルを使えるくらいに回復。この一撃。実質四撃。必殺スキルでもないそれが残り二割を削れるかどうか、大きな賭けだ。
「行くぞ……! ──“聖剣戟”!」
「──“聖拳”!」
「──“聖なる光”!」
「──“聖なる矢”!」
『ア゛ッ……!』
刹那、俺の剣が白く目映く光輝き、俺自身が加速して肉迫。その間に空から聖なる光が降り注ぎ、屍王の身体を包み込んだ。
そこに矢が通り過ぎて風穴を空け、俺の身体が屍王の身体と急接近した。
「オ━━ラァ━━!」
『……!』
即座に振り抜いて斬り上げ、胴体を縦に切断。同時にしゃがみ込んで横に切り裂き、跳躍して貫通。それを軸として屍王の身体を駆け上がり、脳天から一気に振り下ろして深く深く切り裂いた。
通常スキルの“聖剣戟”はこれが関の山。残る体力、一割未満。ソラヒメの攻撃が速いか、屍王の回復が早いかだ……!
「行くよ……!」
『アァ……!』
ソラヒメ自身も既に俺の背後から迫っていた。同時に駆け出したのだから当然だろう。今は本当に一分一秒、ほんの一瞬の刹那の時が惜しい。
屍王は体力が削れた瞬間に衝撃波を放出。一瞬早く、ソラヒメの身体が到達するよりも前に回復の態勢に入っていた。
「……っ……まだまだ……!」
「ソラヒメ……!」
衝撃波によってソラヒメの身体が少し後退る。俺は背後からその背を押し、“地形生成”で壁を形成。一瞬だけ吹き飛ばぬ空間が形成された。
「今だ! 踏み込め!」
「オーケー……ライト!」
踏み込み、俺ごと地形生成の壁を蹴って加速。一瞬だけ速度と力が上昇し、衝撃波の壁を抜けた。
ここまで一秒も経過していない。体感時間は数十秒だが、まだ一ミリも屍王の体力は回復していない。
「これで……終わり!」
『……!?』
──刹那、踏み込んだソラヒメの拳が屍王の身体を深く貫き、聖なる力を注入。キャパシティオーバーになるまで注がれた聖属性は後に屍王の身体が噴出し、その肉体を白く目映い光で染める。
それによって辺りの瓦礫と雪が消え去り、ソラヒメが最後に込めた力と共に屍王の身体が数キロ吹き飛び、廃村の端から端まで瓦礫と雪を巻き上げて突き抜けた。
その直後に遠方で大きな光の粒子が飛び散り、俺達の背後にあった仕切りが消え去る。そして、
【モンスターを倒した】
【ライトはレベルが上がった】
【ユメはレベルが上がった】
【ソラヒメはレベルが上がった】
【セイヤはレベルが上がった】
俺達の脳内に届き、表記された文字と言葉。その後に追加の文は無く、進化も何もしなかった。
「や、やった……んだね……」
「あ、ああ……そうみたいだ……!」
「やったー! やったよライトー!」
「うわぶっ!?」
状況確認。それの返答。数秒後に俺の身体へソラヒメが飛び掛かり、俺の顔に柔らかい何かが当たる。そして押し倒され、息が……。って、マジで苦しい……!
地面に倒れ伏せる俺の耳に聞こえた足音からして、ユメとセイヤも後ろからやって来る事が分かった。
「やりましたね、ライトさん! ……ってまたソラヒメさんが抱き付いていますね……」
「ハハ……ソラ姉。ライトが窒息しているよ」
「え? あ、ごめーん! ライトー!」
「あ、ああ……良いよ……気にするな……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「ああ、問題無い」
ようやくソラヒメから解放。いつもの四人のやり取りも相まり、戦闘終了の実感が湧く。見れば周りに居た蟲系モンスターも余波で消滅したらしく、何も残っていなかった。
「……ん? あ、ライトさん! ソラヒメさん! セイヤさん! 空が……!」
「ん? 空……?」
周りを見渡す中、ユメが空を指差す。俺達もそれを見上げ、そこには──
「おお……!」
「うわ~……綺麗……」
「成る程……」
──天幕を覆うような、色鮮やかな現象。“オーロラ”が埋め尽くしていた。
さながら星の天井に降ろされたカーテン。ゆっくりと動き、氷点下の温度も忘れる程に俺達の視界は奪われる。
確かに氷雪の大地。つまり北海道では、太陽風や気候など様々な条件が揃えばオーロラが見える事もあるという。それがたまたま今に合わさったようだ。
闇の世界を照らす星に掛かったオーロラ。これはボスモンスター討伐の報酬みたいなものだな。
アンデッドのボスモンスター、屍王。その存在を倒した俺達を包んでくれるオーロラ。後は一旦ギルド支部に向かうが、もうしばらくだけこの光景を見ていたい。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人は屍王を打ち倒し、しばらくこの光景を目と記憶に焼き付けるのだった。




