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ステージ6-12 蟲系モンスター

『ア゛ア゛ァ゛……!』

「くっ……!」


 回復した屍王の攻撃の勢いは先程よりも更に増した。

 次々と仕掛けられ、廃村の建物も多数が砕け散る。その瓦礫も案外バカにならない。現実に基づいた世界なので勢いよく瓦礫に当たればダメージも負う。

 それらも何とかかわしながら仕掛けたいところだが、前述したように元々隙がなかった屍王の勢いが更に増しているので難しいところである。


「廃村がただの更地になりそうな勢いだな。七割はもう瓦礫の山だけになっているしな」


「更地になったら隠れる事が出来る建物も無くなっちゃうから私達が不利になるかもねぇ」


「射撃用の場所が減るのも問題だね。厚着だから防御力は少し高いけど、普通の服とあまり変わらないからね」


「み、皆さん!? そんな呑気に話している場合じゃないでしょう!?」


 建物の物陰に隠れ、屍王の様子を窺う。敵の射程距離に安全圏はない。少なくともこの廃村内なら端から端まで届く事だろう。

 村の大きさは数キロ。厳密には分からないが、おそらく十キロはいっていない。

 その全てに届く腕は色々と厄介だな。この世界での質量保存の法則はモンスターの体内にある光の粒子で補えている。なので距離が伸びても腕の太さは変わらない。だからどうしたという事も無いが、それに伴った相応の重い一撃があるだろう。


「ハハ。まあ何はともあれ、ここもすぐに破壊されるだろうし屍王との距離を詰めなくちゃな。回復すると分かったし、畳み掛けるように仕掛けなくちゃならなそうだ」


「回復の準備に入ったら僕の矢も簡単に弾かれる程の衝撃波を放出するし、その中を進める存在がトドメの一撃を放たなくちゃならないかもしれないね」


「それならみずからで進む私かライトかな。この世界なら力を込めれば衝撃波も耐えられるかもしれないからね! “停止ストップ”を仕掛けるのも効果的かも!」


「それでも危険は多いですね……私の魔法も弾かれてしまいそうですし、ライトさんとソラヒメさんに頼りっ切りになるというのは……私自身の力の無さが情けなくなります……」


「大丈夫だ、ユメ。ユメは十分にやっているからな。今回はたまたま俺達が適任ってだけさ」

「ライトさん……」


 回復すると分かった以上、やれる事は回復するよりも前に連続して仕掛けて倒す事。もしくは倒せる直前に“停止ストップ”を放って回復の隙を消し去る事くらい。

 探せば他にもやれる事はあるのだろうが、一番分かりやすいのはこの二つだろう。要するにただひたすら仕掛ければ良い訳だからな。

 その適任は俺かソラヒメ。ユメは自身の力の無さを嘆いていたが、俺達はそんな事を全く思っていない。ユメには何度か助けられているしな。

 とにもかくにも、やれる事がそれならそれを実行するまで。体力も多いので話している時間が勿体無い。俺達は建物の影から──


『『『…………!』』』

「……! また蟲か……!」

「ひっ……!」


 ──動こうとした瞬間、ブンブンと連続して聞こえる大きな羽音と共に巨大な蟲が現れた。

 まだ居たのか。全部ユメが焼き払ったかと思ったが、確かにあの数。全てを焼き消す事は出来なかったらしい。


『……!』

「速いな……!」


 蟲。おそらくハエ型モンスター。

 そのハエ型モンスターは縦横無尽に飛び回り、俺達の様子を窺うように滞空する。

 確かハエは人間の動きがゆっくりに見えるんだっけか。この世界でモンスターと化し、能力が更に向上しているハエなら反応速度は今の俺達よりも高いかもしれないな。さっきのユメみたいに広範囲のスキルならいくら速くても問題無いが、単体を相手にするのは逆に難しいな。


「き、気持ち悪いです……! “ファイア”!」

「近距離過ぎて逆に狙いにくいね……! 的自体は大きいんだけど……!」

「僕の弓矢も当てにくいな……! むしろ矢を得物のように扱った方がやりやすいかも」


 俺達はハエ型モンスターを追い払う。しかし中々攻撃は当たらない。

 数は三匹で少ないが、だからこその当てにくさだ。普通のハエよりも大きいのだが、素早いので当てるのが難しいと言ったところだな。


「それに加えて屍王の腕も俺達を探しているし、攻めにくいな……!」


 ハエ型モンスターに気を取られているが、屍王の腕も相変わらず俺達を狙って廃村を破壊している。ボスモンスターの時に現れる通常モンスターの存在が一番厄介だな。


「ハエの攻撃方法ってなんだろう……体当たりとかかな?」


「まあ、ハエは積極的に攻撃するような生物じゃないからな。寄生とか繁殖とか食事とかそっち方面に長けている。攻撃しようとしなければただ五月蝿うるさいだけの存在だし、放っておけば良いだけかもな」


 考えてみれば、まだ様子を窺っているだけのハエ型モンスターを倒す必要はないかもしれない。無駄な労力を消費するだけだからな。

 気持ち悪いのは確かだが、今優先すべき存在は屍王。まだ病原菌を運んだり汚れた肉体で触れようとしていないし、無視するのが一番かもしれないな。


「……よし、まだ害はないし無視するか。対処方法は屍王を倒した後で考えよう」


「それもそうだね。この世界のハエに不潔要素があるのか分からないから見た目以外にわざわざ倒す理由も無いし、屍王を優先した方が良いかも」


「そうかもしれないね。ハエ型モンスターが居るなら倒し損ねた他の蟲系モンスターも居るだろうし、こちらに仕掛けてくる存在以外はスルーしよう」


「はい。生理的には色々と無理ですけど、何とか無視してみます」


 もしかしたら気を取らせるのがハエ型モンスターの目的かもしれない。なので俺達はそいつを放置し、改めて建物の影から飛び出して屍王の元へと向かった。


『……!』

「……っと、一応仕掛けては来るのかよ……!」


 その瞬間にハエ型モンスターが加速し、俺達の間を通り抜けるように直進。そのままの勢いで建物の瓦礫を粉砕した。

 破壊力はそこそこだな。廃村のボロボロだった建物とは言え、それを粉々に砕いたんだ。ちょっとした大きさの岩か何かをこのモンスターと同じ速度で投擲したくらいの威力か。


『『……!』』

「もう! 来るのか来ないのかどっちなのぉ!?」

「近いとより一層気持ち悪いです……」

「やっぱり屍王に付き従っているみたいだね。まるで配下のようだ」


 一匹のハエ型モンスターに伴い、他の二匹が俺達を囲む。最初に突撃してきた一匹も再び飛び上がり、三匹が編隊を組んで今一度様子をうかがってきた。

 どの程度の知能があるのか気になるな。蟲にしては頭が良いのか、機械的とも言えるな。まあ、モンスターも“NPC”。専用のAIも組み込まれているだろうし、動きに規則性があっても別におかしくはないな。


「こうなってくると倒さない訳にはいかないか。動きを捉えられれば“停止ストップ”で止められるんだけどな」


「本来のハエは叩く時、逆にゆっくり動けば逃げないんだっけ。けど、この大きさのハエじゃそんな力で叩いてもダメージを負わないよね、きっと」


 飛び回るハエ型モンスター。うざったらしいのに上手く対処出来ない牴牾もどかしさはまさしくハエその物だな。

 その直後、俺達の背後にある建物が粉砕した。


「……屍王にも見つかったか……! もうこうなりゃ強行突破しかないな……!」


「そうですね……! 一々相手にしていられません!」


「賛成!」

「異議無し……!」


 瞬間、俺達四人は全速力で屍王の元へと駆け出した。

 ユメとセイヤは近付く必要も無いのだが、距離を置いてもハエ型モンスターのような蟲系モンスターが居る。なので取り敢えず屍王の元に迫ったのだ。

 そちらの方が危険な気もするが、長期戦が確定している今、なるべく早くに終わらせたいというのが全員の心境なのだろう。

 無論、俺もそう思っている。故に時速700㎞以上で直進した。


『『『…………!』』』

「ま、やっぱ追ってくるよな……!」


 そんな俺達に向けてハエ型モンスターが迫り来る。

 予想通りだな。俺達を阻止するのが目的だろう。本当に従順みたいだ。


「来ないで! “ファイア”!」

『『『……!』』』


 ユメがそんなハエ型モンスターに向けて炎魔法を放つ。範囲を広げ、後方のハエ型モンスター全てを焼き払ったが、どうやら更に上空へと移動してそれを避けたらしい。

 熱によって生じた上昇気流に乗って移動したのか。下手したら自分が消滅するが、地味に賢いAIみたいだな。


『……!』

「……っと、他にも居るのか……!」


 何はともあれ、ハエ型モンスターは一時的に離れた。すぐに戻ってくるにしてもその点は上々だが、建物の瓦礫からムカデ型モンスターが姿を現して俺達に飛び掛かってきた。

 まあ、他の蟲系モンスターも居るとは思っていた。けど、いざ前にすると厄介だな。もう位置はバレているのでなるべく早く屍王の元に行きたいが、次から次へと邪魔が入る。


「まあ、ハエに比べたらやりやすい!」

『……ッ!?』


 その瞬間に斬り伏せ、ムカデ型モンスターを打ち倒す。

 ハエ型モンスターはとにかく逃げるので面倒だが、地に脚を着けて存在するムカデの相手はしやすい。


『ア゛ァ゛!』

「やっと近付けた……!」


 刹那に屍王の元に到達。屍王は巨腕を振り上げて叩き付け、俺達を押し潰そうと試みるが俺達はそれをかわしてその身体を斬り付けた。っと、スキルを使うのを忘れていたな。まあ今回はしょうがない。

 斬り付けると同時に踏み込み、巨腕の上を駆け上る。


「今度こそ! “聖剣戟”!」


 同時に力を込め、次はスキルを放った。

 胴体を切り裂き、そのまま腕も斬る。そして頭を斬りながら進み、そのまま背部を裂きながら背後へと移動して着地した。

 “聖剣戟”の通常スキルは四回攻撃。必殺スキルで倍の八回になる。まだ必殺スキルには昇格させていないが、聖属性の攻撃が有効的なのは変わらない。確かなダメージを与えられた。


「私も! “聖拳”!」

『ア゛ァ゛……!』

「私も行きます! “聖なる光”!」

『ア゛ア゛ア゛……!』

「僕だって! “聖なる矢”!」

『ア゛ア゛ア゛ア゛……!』


 その間にソラヒメ、ユメ、セイヤの三人も仕掛ける。

 ソラヒメの拳が胴体を打ち抜いて貫き、ユメの聖なる光が全身を包んで浄化する。そこに矢が放たれ、屍王の頭を貫通させて撃ち抜いた。

 それらも聖属性付与のスキル。体力が減り、すぐに全体の二割は削れたな。


『ア゛ア゛ア゛!』

「……っ。マジかよ!」

「まさか……!」

「……っ」

「しまった……!」


 その瞬間、屍王が腕を複数に増やし、俺達の身体をその一つ一つで拘束。そのまま力が込められ、俺達の肉体にダメージが及ぶ。

 ……ッ。って、そんな事を呑気に体感している場合じゃないな……! 拘束によってダメージが与えられる攻撃。持続時間は拘束されている間。ジワジワと体力が削られ、徐々に痛みも増した。


『『『『…………!』』』』

「ここでハエ型モンスターかよ……!」

「あ、避けられないかも……!」

「ひぃ……!」

「くっ……!」


 そして飛んできたハエ型モンスター。その数は四匹に増えていた。

 今度は様子を窺う間もなく迫り、俺達の身体に体当たりをしてダメージを与える。拘束ダメージも相まり、地味に効くなこれ。


『『『『…………』』』』

『ア゛ア゛ア゛!』

「「……ッ!」」

「「……ッ!」」


 その瞬間、ハエ型モンスターが俺達に止まって何かしらの行動を取り、そのまま離れる。同時に屍王が俺達を放り投げ、俺達は雪の大地に落下。雪の粉塵を舞い上げた。

 しかし、やっと拘束から解放された。が、本当の悪夢はここからだった。


「……!? こ、これは……!」

「うへぇ……卵だぁ……」

「ひぃ……ふ、孵化しています……!」

「これが狙いか……!」


 先程の何かしらの行動の正体かどうか、俺達四人には大きな卵が産み付けられており、その卵が皮膚を貫き、肩から生えて孵化していた。

 ……ッ。これも結構痛いな……! 俺が産み付けられた場所は肩なので肩からそのまま卵が生えて孵化しているが、ソラヒメは背中。ユメは脇腹。セイヤは側頭部に卵があり、俺と同じようにそれが皮膚を突き破って孵化していた。


 この世界じゃなかったら死んでいたな。確実に。まあ、現実世界にこんな大きなハエはいないけど。

 ハエは基本的に、自分が止まった生物に卵を産み付ける。そこから幼虫が孵化し、生物の皮膚などを食って成長する。

 今現在、まさしく俺達にその様な現象が起きている状態だった。


「クソッ……! こうなったら自傷ダメージを負うけど、こうするしかない……! ……ッ!」


「みたいだ……ね! ……ッ!」

「は、はい……! “ファイア”! あぁ……!」

「あまりやりたくないけど……しょうがないか……! ……くっ!」


 ハエの卵が完全に孵化したら最後、残り僅かな体力が敵の栄養となってしまう。故に、俺達は自分の身体を自分で破壊する事によってその卵を取り除く事にした。

 先程の体当たりと拘束。投げつけのダメージで体力はほぼ無かったが、何とか死なない程度の傷を付けて取り除く。

 俺は剣で肩ごと卵を削ぎ落とし、ソラヒメは拳で自分の胸を貫き、そのまま背後の卵を砕く。ユメは炎魔法で自分の身体を焼いて卵を消滅させ、セイヤは側頭部に矢を突き刺して卵を抉り取った。

 この世界なので血は出ず、外傷はすぐに消える。しかし痛みはあり、ダメージもそのまま。何とかこの場を離れたいところだが、


『ア゛ァ゛……!』

「そう簡単にはさせてくれないよな……!」


 屍王の腕が放たれ、雪の上に居る俺達を狙う。

 俺達は何とかかわして建物の影に戻り、自動販売機のジュースを一気に飲み干して体力を回復させた。

 今の体力からしたら微々たるものだが、後一撃でやられていた今よりはマシだろう。


「屍王……回復する本体に加えて周りの蟲達が思った以上に厄介だな……!」


「やっぱり、まずは周りのモンスターを排除しなくちゃならなそう……!」


「はい……!」

「ああ……!」


 次々と攻撃は仕掛けられる。何とかそれらもかわすが、周りの蟲系モンスターも相まって攻めあぐねてしまう。

 俺達四人と屍王の戦闘。肉体的にも、精神的にもキツイ戦いがまだまだ続くのだった。

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