ステージ6-11 回復
『ア゛ァ゛!』
屍王が次々と腕を伸ばし、毒の息を吐き付け、怒濤の攻撃を嗾ける。
俺とソラヒメは今一度その側にまで近寄っているが、相変わらずの隙の無さで攻めあぐねていた。
これなら専用アビリティの“停止”を使うのも良いかもしれないが、隙の無さというのはスキルやアビリティを使う隙すらないという事。
次から次へと仕掛けられる攻撃。本当に厄介な相手だな。
「だったら……別の専用アビリティだ。“転移”!」
「あ、そっか!」
高い建物の上へと避難し、その瞬間に屍王の背後へとワープした。
“停止”の場合は敵を捉え、その敵に向けて仕掛ける必要があるが、“転移”は別。一度見ればその場所には自由自在に向かえる。だからこそこれを使えば死角に回り込めるのだ。
「“炎剣”!」
『ア゛ア゛ァ゛……!』
背後から首に向かって斬り付け、同時に発火させる。
屍王がどんな種類のアンデッドかは分からないが、ゾンビなら頭を破壊するか首を砕いて動きを止める事が正しい倒し方。なので首を狙ったのだが、やっぱりこの世界じゃ再生するらしく効果は薄かった。
次の瞬間に巨腕が首の後ろを覆う。俺はもう一度“転移”を使って移動し、今度は近くの建物へと移動した。
「弱点らしい場所が見つからないな。肉体と首が駄目なら残るは頭か」
『ア゛ア゛!』
その建物は屍王が粉砕。俺は飛び退いて躱し、そのまま屍王の頭に剣を突き刺した。
おっと、火属性を付与するのを忘れたな。それでもダメージは受けたが、怯みは見せなかった。やっぱり火属性が弱点なのは合っていたな。
「そうだ、ラディン達と何度か共に行動したし、聖属性スキルを覚えているかもな」
独り言を呟きながら思案し、頭から剣を抜いて着地。比較的安全な場所に移動しつつスキルを確認する。そして見つかった。
「これか。“聖剣戟”!」
『ア゛ア゛ア゛!?』
見つけた瞬間、俺は間髪入れずに嗾けた。
剣が白く輝き、俺の身体も軽くなる。成る程な。“剣戟”ってだけあってこれは連続で仕掛ける系のスキルか。
刹那に俺は屍王の元へと踏み込み、白い光の聖剣で連続して斬り付けた。
手始めに脇腹を裂き、回転して更に深く抉る。同時に斬り上げ、跳躍して頭から足元まで降下斬り。まだ必殺スキルとして使っていないからこんなもんか。
しかし屍王は今まで以上の怯みを見せ、苦痛によって絶叫のような声が発せられる。思った以上に効いたな。体力ゲージも火属性のスキルで仕掛けた時よりも大きく減り、屍王は縦横無尽に暴れ回っていた。
「凄い、ライトー! 一体どうやったの!?」
「ああ、聖属性の攻撃をしたんだ! 火属性も弱点だけど、聖属性の攻撃が一番有効みたいだ!」
「本当ー!? それは良い発見だね!」
屍王の怯みを見やり、ソラヒメが少し離れた場所から俺に向けて訊ねる。距離があるので俺もなるべく大きな声で返し、それを聞いたソラヒメは理解したみたいだ。
なのでソラヒメも自身のスキルを調べる。その間に俺は屍王の気を引くか。
『ア゛ァ゛ァ゛……』
「怯んで動きが止まったなら……“停止”!」
『……!? ……!?』
その瞬間、今度は“停止”を用いて屍王の動きを止める。
先程の攻撃で大きく怯んだので仕掛けられたのだ。
首謀者のアップデートによって自分よりもレベルの高い相手への停止時間には制限が掛けられているが、数秒でも稼げれば十分だろう。
けど、制限を掛けるだけでギルドメンバー専用アビリティ自体は使えるようにしているのが気になるな。
推測ならゲームシステムの一つとして取り入れている事だと考えているが、本人に会ってみなくちゃ何も分からない。まだ置いておいて良いだろう。
まあ、そんな事より今は屍王の方が重要だな。どこに居るかも分からない首謀者の事を考えるより、眼前の事態を収めるのが最優先だ。
「どうだ、ソラヒメ。見つかったか?」
「ちょっと待って……あ、見つけたよ!」
“停止”を掛けて数秒後、どうやらソラヒメも聖属性のスキルを見つけ出したらしい。
俺は当然その間も屍王に向けて仕掛けていたが、止められる時間からして二、三撃しか与えられなかった。
何となく、ドンドン間隔が短くなっているような気がするな。気のせいかもしれないが、ギルドメンバー専用アビリティにも何かしらの制限が掛かる可能性はあった。
『ア゛ア゛ァ゛……!』
「動いた瞬間すぐに仕掛けてくるか……!」
“停止”が解除され、その瞬間に屍王が通常攻撃を仕掛ける。
俺とソラヒメはそれを避け、背後からユメとセイヤの援護射撃が放たれて怯ませた。
「今だソラヒメ!」
「オーケー! “聖拳”!」
『ア゛ァ゛……!?』
ソラヒメのスキル、“聖拳”。
聖属性の拳によって屍王の顔が殴り付けられ、吹き飛ぶように建物を粉砕して仕切りのような壁に激突。雪の白塵を巻き上げた。
「効いているみたいですね。ライトさんとソラヒメさんの放った聖属性攻撃……!」
「ユメ。来たのか。まあ、確かに屍王との距離は離れたけどな」
「僕も居るよ。場所はちょっと高いけどね」
「あ、セイヤー! 敵を狙いやすい位置にいるんだねぇ!」
ソラヒメの一撃によって屍王は数十メートル吹き飛んだ。なのでユメとセイヤの二人も狙いを定めやすくする為に近付いてくる。
セイヤに至っては既に狙いやすい位置で陣取っていた。
「さて、そろそろ起き上がって来そうだな」
「攻撃速度は速いからねぇ。確かにそろそろ来るかも……!」
「動き自体は僕達にも見切れるんだけどね」
「来ました!」
雑談している暇はない。屍王は怯ませても吹き飛ばしても即座に立て直して仕掛けてくる存在だからだ。
そう言っている間にも巨腕が迫り、俺達四人はそれを躱す。そのまま踏み込んで駆け出し、俺とソラヒメは仕切りのある場所に居る屍王の元へと迫った。
「この腕、切り落とせないか?」
『ア゛ァ゛……!』
仕掛けてくる腕に向け、俺は試しに光剣影狩を振り抜いた。
即座に再生するとしても、一時的にでも攻撃を防げれば戦況は一気に楽になる。そこから今一度“停止”を掛ければ連続して攻撃を与える事も可能。なので利点は多いのだが、
「まあ、上手くはいかないな」
「分厚いもんねぇ~」
完全に切断する事は叶わず、本体を少し怯ませた程度だった。まあ、こんなもんか。
「……と言うか、頭に通常攻撃を仕掛けた時は怯まなかったのに、腕を斬ったら怯むのか。完全に切断出来ないにせよ、案外効果的みたいだな」
「弱点では無さそうだけど、攻撃の度に怯むならそこを突けば戦いが楽になるかもね!」
弱点とは違うようだが、腕に攻撃を仕掛けると怯みを見せる。それを上手く利用出来れば戦闘を有利に進められるかもしれないな。
けどまあ、体力ゲージを見た限りダメージ量は胴体や頭に比べて少ない。あくまでゲームの世界だからこそ、ボスモンスターの隙を生み出す為の処置という事だろう。
「お陰で距離は詰められたな!」
「そうだね!」
『ア゛ァ゛……!』
俺達の速度なら数十メートルを詰め寄るのに数秒も掛からない。迫ると同時に屍王の左右から光剣影狩と空裂爪を打ち付け、更に体力ゲージを削った。
これでようやく十分の一程度。やっぱりレベルがレベルなのであまり食らわないが、これを後十回繰り返せば勝てると考えれば割と余裕がある。
俺達は更に仕掛け──
『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!』
『『『…………』』』
「……っ。体内から虫が……!」
──ようとした瞬間、屍王の絶叫と共に体内から虫が放出され、左右に居る俺とソラヒメ。そして遠方に居るユメとセイヤ目掛けて一気に進み行く。
屍王もアンデッド系モンスター。体内で飼っていた、もしくは勝手に棲み着いた蟲を放したのか。中々に気味が悪い存在だな……。俺は、昆虫や蜘蛛などは比較的大丈夫だが、そう言った類いのものが密集するのはかなりキツイものがある。
一匹一匹が一気に流れて行くので詳しくは分からないが、一匹辺りのレベルは80前後。先程のゾンビと同じ、もしくは凌駕する存在もチラホラ居た。
「……ったく、気持ち悪いな……!」
「うぇぇ……私、ムシ相手にパンチやキックで攻めなきゃならないのぉ……」
光剣影狩を薙いで降り掛かる蟲を切り捨てる。Lv80前後なら一撃で倒せる程度でしかない。精神的な疲労と肉体的な疲労は生じるだろうが、倒す事自体は簡単だ。
まあ、職業柄素手で倒さなくちゃならないソラヒメにはなんか同情するな……。
一番の心配はユメ達の方に行った蟲達だな。
「ひ……キャアアアァァァァッ! ──究極魔法・“火災旋風”!!」
『『『──!』』』
心配なのは、蟲達の安否。
確実に消滅するだろう。そもそも敵モンスターなので倒されても何の問題も全く無いが、何となくユメによって一気に消滅させられるのは無駄死にという感じで気の毒だな。うん。
炎の必殺スキルによって蟲達は焼き払われ、そのまま光の粒子となって消え去る。
その旋風はしばらく滞在し、残る蟲達と屍王を巻き込んで更に炎上した。
『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛……!!?』
蟲は完全に消え去り、残った屍王も藻掻き苦しむ。
必殺スキルだけあってダメージも上々。大きな怯みを見せている今がチャンスだな。
「次は必殺スキルに昇格させて使うか! ──伝家の宝刀・“聖剣戟”!」
『……!』
炎を突き抜け、必殺スキルとしての聖剣戟を発動。
一連の流れは先程と同じく、四回目に降下斬りを食らわせる。必殺スキルとなり、そこから更に仕掛ける。
着地と同時に突き刺し、そのまま脇腹を切り裂いて引き抜く。同時に腕を切り裂き、跳躍して頭へ向かう。そのまま頭と首を切断して引き離した。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーッ!?』
それによって更に体力が減る。流石に必殺スキルはかなり効いたなみたいだな。俺とユメの必殺スキルによって十分の一程だった屍王の体力が残り半分にまで減った。
この怯みの大きさなら専用アビリティを使用する隙も生まれたな。
「“停止”!」
『……!』
同時に使用。動きを止める。
このままでも勝てそうだが、最後まで油断はしない。ボスモンスターである以上、進化する可能性も存在しているのだ。
そんな屍王に向け、ソラヒメも嗾けた。
「私もやるよ! ──奥の手・“聖拳”!」
『……ッ!?』
雪道を踏み込み、周りの瓦礫を吹き飛ばしながら加速。そのまま仕切り付近に居る屍王に向けて必殺スキルとした“聖拳”を打ち込む。
それによって衝撃波が巻き起こり、仕切りが砕けんとばかりの勢いで大きな振動が空気を揺らす。
そのままソラヒメの半径数十メートルの雪が消え去り、大地が抉れて廃村の建物も崩壊。衝撃に耐え切れなくなった大地が爆散した。
「マジかよ……」
いつもは思うだけの言葉が遂に口から漏れる。
仕切りが無かったら屍王は何百メートルも吹き飛んでいたんだろうなと思う。
見れば体力が残り僅かにまで減少しており、後数撃で倒せる程の状態になっていた。
「後少しか……」
「そうだねぇ。けど、なーんか簡単過ぎるかも」
「ああ……!」
後少しで倒せるかもしれない体力。しかし俺達には何かしらの懸念がある。
故に、屍王が起き上がるのを待たずに俺とソラヒメはその身体に嗾けた。
「オラァ!」
「やあ!」
『……! ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!』
「「……っ!」」
屍王は絶叫し、衝撃波を放出。俺とソラヒメの二人は一気にユメ達の元まで引き戻され、雪の中を転がってその様子を窺った。
「ライトさん! 大丈夫ですか!?」
「嘘だろ……」
「え? ……。……!?」
俺の心配をして近付いて来てくれるユメはありがたいが、“その光景”を前に俺達は戦慄する。
少し大袈裟かもしれない。しかし今の俺達にとってはそれ程の事だった。
『ア゛ア゛ア゛……』
「体力が……回復している……!」
体力の回復。今までのボスモンスターでその様な存在は居なかった。だが、あり得ない事ではない。俺達プレイヤーが回復アイテムや回復魔法で体力を回復出来るように、回復する存在は居るのだ。
【スキル“セルフヒーリング”】
セルフヒーリング。直訳で自己回復。
魔法使いや僧侶。その他の職業ではないのだが、どうやら屍王は回復スキルを使えるみたいだ。
ゾンビは普通再生などはしない。それが世界のルール。ただ痛みを感じないだけで、ダメージを負えば何れ動けなくなる。医学的に見ても、既に死者である身体が再生する訳がない。細胞が死んでいるんだから当然だ。
だが、屍王はゾンビではない。あくまで“アンデッド”の一括り。だからこそ肉体の回復出来たらしい。
肉体的には死者に近いが、吸血鬼などは自己修復能力を有している。その場合は完全に腐り切っていないから。そして特有の細胞を有しているからこそだろう。屍王もその力を宿しているようだ。
「これは……長期戦は長期戦でも泥試合になるかもな……」
「なとかして回復する前に倒さなくてはなりませんね……」
「回復の際に衝撃波を放つからゆっくり回復出来る……案外理に適っているね……!」
「かなり厄介な相手だね。最初の厄介とは別方向。ベクトルが違う“厄介”だけど……」
勝てない事も無い相手だった屍王。ちゃんとダメージも入れば進化もしない。だが、回復能力。それが一つ付与されるだけでかなり面倒な相手に昇格する。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤの四人が織り成すボスモンスターとの戦闘。毎度毎度の事だが、毎度の事以上に厄介かつ面倒な戦いになりそうだった。




