ステージ6-9 アンデッド型モンスター
「お? 街が見えてきたぞ!」
「本当だ……!」
“氷雪の大地”にて攻略を進める途中、俺達四人は数時間進んで街を見つけ出した。
時間で言えば夜更け。そろそろ丑三つ時かもな。周囲には樹氷の森がある。ようやく自然が見えてきたな。そして街はあったが、俺達には一抹の不安も感じた。
「……。けど、明かり……光源が一つもないな。それに街はあまり発展していないみたいだ。街というより村……それも廃村だな」
「この様子からしても元々あった村とかじゃなくて、この世界になった瞬間に生まれた村かな。生まれた瞬間から廃村なのか、この三週間で廃村になったのか……。もしも前者なら、昼間は問題無くても今の時間帯はちょ~っとばかし、マズイかもしれないねぇ」
「ああ、そうだね。少し面倒な相手になりそうだ」
「元々が廃村なら……も、もしかして……アンデッドタイプのモンスターの縄張りですか……?」
「ハハ、そうなるな。まだ遠目だから明かりがないただの村の可能性もあるけど、全体的に建物がボロボロだ。てか、今更だけどこの世界、視力とかを含めた五感も大きく発達しているな」
アンデッドの巣窟である可能性を考え、ユメは畏怖する。
幽霊型のモンスターは怖くなかったみたいだが、まだ姿や形が分からない“未知”の存在に“夜”という現在。廃村らしき不気味な景観も相まり、恐怖心が刺激されてしまっているようだ。
まあ、確かにあそこは不気味な雰囲気だな。それに今は丑三つ時……幽霊とかがよく出没する時間帯だ。
「このルートなら避ける事も出来るけど、進むか? その場合は近くにある森を通る事になりそうだ」
「私は当然、正面突破かな! アンデッド系のモンスターとは幽霊以外戦った事ないし、良い経験になりそう!」
「一理あるね。炎や聖なる力が弱点なのは従来のRPGと同じなんだろうけど、この世界でのアンデッドがどこまで前知識で相手出来るか気になる」
「み、皆さんやる気満々ですね……けど、この世界でのアンデッドはゲームの敵ユニット……幽霊型モンスターと同じく、一度見てしまえば怖くない筈。……それなら私もやります!」
雰囲気によって恐怖心が煽られたが、この世界の大前提を考えれば特に問題無さそうとユメも含めて全員が廃村らしき村へと行く事になった。
まあ、もう目の前にあるので、その村の入り口までは到達しているんだけどな。
「近付いてみたけど、やっぱり人の気配が無いな。物音無し、明かりも無し、人影も無し」
「ここが廃村なのは確定みたいですね……最近まで人が生活していた形跡もありませんし、一つのダンジョンやステージのような感覚? で作り出された村のようです」
「そうみたいだねぇ。やっぱりアンデッドの巣窟なのが正しいのかな。時間的にもアンデッドの活動が活発になる時間だから、そろそろ何かが起こるかもしれないね」
「あまり嬉しくない推測だね。それがほぼ確実に現実になるんだろうし、憂鬱だよ」
俺達は自然と警戒を高める。
廃村と言うとイメージでは木造建築の家がボロボロになって荒れ果てた大地、畑などがある和風のイメージだが、この廃村はレンガ造りの家に苔が生えたり荒廃した教会があったりと洋風なもの。つまり和風アンデッドモンスターではなく、洋風アンデッドモンスターが現れる可能性が高い。
まあ、明らかに洋風の景観で落武者とかが出てきたら一周回って笑っちまいそうだけどな。
『ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!』
【モンスターが──】
「ひっ……! きゃあああ!? “ファイア”!」
【──モンスターを倒した】
その瞬間、ユメの足が地面から生えた手に掴まり、驚愕したユメの炎魔法が大地を焼き払って焼失させた。
手が生えた小さな穴に炎が入り込み、俺達の足場だった大地を炎で爆散させる。オイオイ……。咄嗟に反応しなかったら巻き込まれていたな。
「やっぱり現れたか! そいつは完全に消え去ったけど……!」
「ビックリ系は本当に駄目なんです! すみませんライトさん! ソラヒメさん! セイヤさん!」
「気にする事無いよぉ~。一体だけじゃなくて、何体か巻き込まれて消えたみたいだからね!」
「ああ。広範囲の炎魔法はかなり重宝する力だね」
炎から飛び退いて逃れた俺達は廃墟になった家の屋根に跳び移り、下方が炎上する様を眺める。
確かにユメが幽霊型モンスターを怖がらなかった理由は特に驚く要素が無かったからだっけ。さっきみたいに急に足を掴まれて絶叫に近い声を聞かせられたら俺もビクッてなるな。うん。
まあ、広範囲を焼き尽くしたし、ある意味掴まれたのがユメで良かったと言うか何と言うか。ともかく潜伏しているモンスターも何体かは倒せただろうな。
『ァ゛ア゛ア゛……』
『ウァア゛ア゛……』
『ア゛ーヴ……』
【モンスターが現れた】
「まだまだ居るみたいだな。モンスター。さしずめアンデッド型モンスターの群れか。レベルは相変わらず80前後だし、割と大変な相手かもな」
「団体さんの御到着だねぇ~。ううん、この状況なら私達がお客様かな?」
「丁重におもてなしされているみたいだね」
「うじゃうじゃ居ます……」
建物の周りを囲うアンデッド型モンスターの群れ。全員のレベルは80前後。一撃で倒せるレベルではあるが、そのレベルの群れは少し厄介だな。
さっき【モンスターを倒した】の表記があったが、一定の距離を離れるとまた新たに表記されるのかもしれない。
まあ、敵意があるのは明白。アンデッド型モンスターの場合は領域を荒らされたとかではなく、死ねなくなってしまった迷える魂が永劫の苦しみから助けを求めているような存在。なので遠慮無く消滅させるとするか。
そう言や、この世界の人間は“NPC”も含めて死んだら光の粒子になって消えるけど、どう言った経緯でアンデッド化するんだろうな。
「“炎剣”!」
『『『…………!』』』
その瞬間、屋根から飛び降り、そのままの勢いでアンデッド型モンスター。種族・“ゾンビ”を焼き切った。
腐敗した肉体が燃え上がり、身体から放出されているメタンガスに引火して爆発。周りのゾンビをバラバラに吹き飛ばした。……てか、今更だけど腐敗臭がキツいな……。
『ァ゛ア゛ア゛ア゛……!』
「ん? うわっ! 気持ち悪っ……!」
爆発と炎から逃れたゾンビが俺に向かって飛び掛かる。その顔を見た俺は失礼な事を言ってしまった。魂が不本意でこうなってしまった存在なのだろうから悪い事を言ってしまったな。
ゾンビには蛆虫が湧いていたのだ。つまり死後数日、放置されてアンデッド化した存在という事が分かる。
火葬されなかった死体には昆虫やハエが卵を産み付けてそれが孵化する。本来ならその死体を食して成長するが、成長途中でアンデッドになってしまったが為に蛆虫との共存を強いられているようだ。
まあ、数日経てば肉体は完全に食い尽くされてスケルトンにでもなりそうだけどな。
「この蛆虫はハエ型モンスターの幼虫……この世界の成長速度は分からないけど、どちらにせよ生かしていたら後々の敵が増えるな……! “炎剣”!」
『ア゛ア゛……!』
そのゾンビは切り捨てる。同時に爆発。人のみならず生き物の死体はしばらく経つとメタンガスや硫化水素を放出する。それが内臓を膨張させたりし、何かしらの要因からたまに爆発する事もある。今現在は、だからこその腐敗臭と爆発。倒せるのは良いが、色んな意味でキツいな……。
ゾンビ映画の主人公達はよくもまあ、こんなキツい世界を生き延びているよ。たった数十体のゾンビでこの悪臭。世界中がゾンビで溢れ返ったら何よりも世界が腐敗臭で包まれるのがキツいだろうに。
「私……こんな存在を殴る蹴るしなきゃならないの……。ううん、魂を救い出して上げる為だもんね! 私の汚れはお風呂に入れば落ちるけど、倒さなきゃずっとこのままのゾンビ達! 多少の……主に多の汚れも何のその! ──“炎拳”!」
『ア゛ッ……!』
俺の一方でソラヒメが悩んだ挙げ句に屋根から飛び降りて殴り付ける。腐肉のグチャッという音が響き、通常スキルによって発火。ソラヒメの眼前で爆発が起こってその炎がソラヒメを飲み込んだ。
てか、近距離で爆発を受けて大丈夫なのか、アレ?
「うぅぅ……我慢我慢……」
「あ、大丈夫みたいだな。汚れたけど」
爆発によるダメージはない。聴覚も発達しているなら近距離爆発の音によってショック死する可能性もあったが、本当に無傷。なんとも無いようだ。
強いてダメージを挙げるならバラバラに飛び散った肉片や腐った血液がソラヒメの顔や身体を濡らして悪臭を放っているくらい。……あ、髪とか皮膚に蛆虫とか蟲の幼虫が何匹か乗り移ってるな。ウネウネ動いてる。ソラヒメの動きなら直ぐに振り落とせるだろうけど……うん。色んな意味で可哀想だ。同情するよ……。俺、剣士で良かったかも。
因みに、普通は装備が汚れる事は無いのだが、こう言う余波や敵の攻撃を受けた時には汚れてしまう。精神的な意味での辛さが上だな。今回の戦闘。
「地味にあの爆発が厄介ですね……ここが廃村で良かったですけど、少しばかり被害が出てしまいます……“ファイア”!」
「ああ、そうだね。僕達は建物の上で比較的安全だけど、ライトやソラ姉には苦労を掛ける。“火炎矢”!」
建物の上からはユメとセイヤが援護。俺達から少し離れた場所に居るゾンビ達を打ち倒してくれていた。
お陰で俺とソラヒメは近場のゾンビに集中出来る。建物にも囲まれているが、引火しにくい素材からなる建物なので周りのゾンビを倒したら建物が火事になる心配も無さそうだな。
『『『ア゛ア゛ア゛……!』』』
「“炎陣剣”!」
周りの様子を窺っている俺に向けて複数のゾンビが囲むように攻め来る。なので俺はまたいつの間にか覚えていた新スキル“炎陣剣”によって薙ぎ払うように焼失させた。多分多くの群れモンスターを倒していたから何かの実績が解除されて覚えたんだろうな。自分の周囲限定の範囲技。色々と重宝は出来そうだ。
これを必殺スキルとして使ったら範囲も更に伸びるかもしれないしな。
それによって俺の周囲も爆発するが、確かに倒したモンスターの爆発によるダメージは少ない。俺の場合は全てを焼き払っているからソラヒメみたいに肉片や血液が飛び散る被害も無さそうだしな。……臭いはキツいけど。
「もう! ライトずるい! 私ばかり汚れ仕事になっちゃって!」
『『『ア゛ア゛……ッ……!』』』
攻撃方法が攻撃方法なのでソラヒメは少し怒りながら八つ当たりの感覚でゾンビを殴り付けて打ち倒す。
そしてまた汚れた。全身が肉片と血で赤く染まるソラヒメ。少し怖いな……。
「ハハ……この戦闘が終わったら一度ギルド支部に向かって温泉にでも入るか。ここを仮拠点にすれば戻ってこれるし、あまり汚れていないだけで俺も少しは汚れているからな」
「賛成ー! みんなで一緒に入ろう! 混浴だね!」
「ソ、ソラヒメさん!?」
「ちょっと待てソラヒメ! それはなんかアレだ!」
「やれやれ……」
ソラヒメの言葉に俺とユメが大きく反応を示す。セイヤは呆れるだけで特に何も言わなかった。本当に慣れているな……。いや、俺とユメがチョロいだけか? まあいいや。
ともかく、混浴云々はさておき、このアンデッドの群れモンスターを倒したらこの廃村を仮拠点にして一度ギルド支部で汚れと疲れを落とす事には賛成。死亡フラグ感もあるが、何となく今回はそう言う事も無さそうだ。
「取り敢えず、こんな場所に長居はしたくないな。臭いや見た目、攻撃はまだ受けていないけど、精神的な方面にかなりダメージが与えられている……!」
「賛成……! 肉片と血で汚れるのは何か嫌だ!」
「私もです……こんな怖いところ、早く立ち去りたい!」
「全員、帰る事に賛成みたいだね。まあ、確かに色んな意味で厳しい……僕も賛成だ」
幸い? ゾンビ達の群れは全員が俺達の元に向かって来ている。なので大技を叩き込めば勝てる。
全員一度戻って温泉にでも入りたいし、さっさと力を込めた。
「──伝家の宝刀・“長剣焔”!」
「──究極魔法・“巨大火球”!」
「──奥の手・“炎拳砲”!」
「──リーサルウェポン・“火炎の矢”!」
一ヶ所に纏まったゾンビ達に向け、俺達は必殺スキルを放出する。
長剣焔は炎となった剣尖を伸ばして広範囲を斬り付ける必殺スキル。ユメの巨大な火球が多くを焼失させ、飛ぶ炎の拳がゾンビ達を焼き砕く。最後に一掃するよう、尾を引く炎の矢が焼き払った。
【モンスターを倒した】
そして表記されるモンスター討伐の証明。
これで終わりか。やっと戻って温泉に入れるな。割と身体も汚れたし、早いところ──
【モンスターが現れた】
「「……!」」
「「……!」」
その瞬間記された、再びモンスター出現の表記。
それは“モンスターが進化しました”ではなく、“モンスターが現れた”の表記。
同時に廃村全体に仕切りのようなモノが現れる。ここ全てがそのフィールドか。
実に一週間振りだな。今までは二、三日でこう言った存在と出会っていた。これでも十分早い方だが、俺達の間隔からしたら久し振りだ。
「ボスモンスターか……!」
「……っ」
「久し振り……!」
「まあ、居てもおかしくないね……!」
『ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛……!』
耳を劈くような絶叫。現れたボスモンスター。
俺とユメ、ソラヒメとセイヤの四人はその存在に向き直る。コイツを倒してからゆっくり寛ぐ事になりそうだけど、それを考えるのは止そう。わざわざ死亡フラグになりそうな事を考える必要はない。
俺達四人は、久し振りにボスモンスターと相対した。




