ステージ6-7 海渡り
「「──“地形生成”!」」
「「──“地形生成”!」」
その瞬間、俺達は地形を空に生み出して夜の空を渡った。
傍から見たら空を歩いているように見えるのだろうが、雪の反射からも遠ざかり少しでも気を抜いたら足場を見失いそうで危険だな。
一応月と星の光である程度は見渡せるが、それでも万全じゃないな。幅をもう少し広げるか。
「後は真っ直ぐ走り抜けるだけだな。何も遮る物がないから、県内を通り抜けるよりは早く行けそうだ」
「そうですね。けど、こんな世界ですから空にもモンスターは居そうです」
「居るんだろうねぇ。巣を作れそうな場所は無いけど、この世界の野生動物は渡り鳥とか海を渡る動物以外にも長距離移動出来る動物が居ると思うからね」
「ま、今の僕達の速度に追い付けるモンスターなら相応の力を秘めた存在という事になっちゃうけどね」
「ハハ、そうなるな」
確かにセイヤの言う通りだ。
県内ではアイテム捜索や雪道だからこそという理由で速度を落として進んでいたが、特に障害物が無いここなら遠慮無く全速力で進める。
このままの調子なら後数分で陸地が見える事だろう。
『ギャアッ!』
【モンスターが現れた】
「ま、大方予想通りだな……」
が、そう上手く行かないのがゲーム。否、人生だ。
全速力の俺達に追い付けるモンスター。ボスモンスターではないにせよ、かなりのレベルはありそうだな。
「取り敢えず、まずはステータス確認だな」
見た目は鳥。まあ、空を襲えるのは鳥か虫。竜か龍くらいだろう。この世界なら他にも居るかもしれないが、龍やその様な能力を扱える者を除いて翼は必要だ。
俺はステータスを確認した。
『“雷隼”──Lv100』
「雷のハヤブサ。Lv100か。元々のハヤブサ自体が基本的時速100㎞。瞬間速度で400㎞近くに到達するんだったか」
「名前からして雷属性かなぁ。この世界なら倍以上の速度になるし、雷が上乗せされて更に速くなりそうなところだねぇ」
「ああ、そうだな。敵が俺達の全速力に付いて来れるなら基本速度で時速700㎞は軽く超えているんだろうな」
「私達もレベルが上がって全速力なら音速の半分は出ているだろうからねぇ。Lv60前後で時速300㎞くらいだとして……倍以上のレベルになっていて、素早さにもステータスを割り振っているから今の全速力は時速700㎞くらいかな。それを超えているなら追い付いて来てもおかしくないね」
レベル自体はLv125前後の俺達より低いが、速度は敵モンスターの方が上。雷属性なら相応の力も使うだろうし、“地形生成”の上だとしても空で戦う以上俺達が不利かもしれないな。
『ギェア!』
「早速か……!」
話しているうちに加速し、俺達の間を通り抜ける。
何とか直撃は免れたが暴風と雷が迸り、その直後に風を切る音が響いてきた。……って、つまりそういうことかよ……!
「ハヤブサは獲物を捉える時だけ速度が最速に達するんだっけか……それで音が遅れて聞こえてきた……つまり、この雷隼の速度はその瞬間だけ音速に達するみたいだ……!」
「速いですね……。基本的に獲物を捕獲する精度は高いと思いますけど、どうやって避けたんでしょうか……。私達……」
「それは勿論“運”のお陰かな。私、魔力は基本的に使わないからその分を物理攻撃力とか以外に運にも振り分けているんだ」
「今回の件はそのお陰で助かったって言うのを否定出来ないかもね。けど、レベルが低くても今回の雷隼が強敵なのは確定みたいだ。レベルが低いのに僕達よりも速いんだから」
レベルは100。俺達はLv125前後。俺とソラヒメはそれをも越えている。
だが、この雷隼がそんな俺達全員よりも速いのは明白。瞬間最大速度がほんの少しだが音を越える事も分かった今、確かに確かな強敵となりうる存在だろう。
スピードに特化した雷隼。その攻撃力は速度に比例していないと思うが、雷属性と鋭い嘴。それに速度が加わる事で予想以上の破壊力になるかもしれない。
『クキュルル……!』
「……っ。今度は遠距離属性攻撃か……!」
雷隼から無数の霆が迸り、それが周囲に広がって大きく発光した。
その光一つ一つは雷。触れるだけで感電する程の威力は秘められているだろうな。随分と不自然な軌道の雷だ。確かに雷はジグザグだけど、根本的な何かが違う。
【スキル“雷羽”】【スキル“雷牢”】
そしてそれはスキルの一つだった。いや、二つあるみたいだな。
「“雷羽”に“雷牢”……! 成る程な。雷を蓄えた羽か! その羽を一つ一つ撒き散らして不自然な軌道の霆を放出。避けにくい雷が雷速で俺達を襲う。もしくは牢のように周囲に展開させて動きを止めるって訳だ……!」
「止まっていた方が仕留めやすそうだもんね。クモの巣とは少し違うけど、確かに動きを止めるには張り巡らされた電気の檻は丁度良さそうだね」
「けどそうなると、あの羽には微量な磁力が備わっているって事になるね。空中に滞在している。いや、滞空かな。羽同士が互いに引き合う事で滞空し、まるでクモの巣のような電磁の空間が作り出されているみたいだ」
「磁力は大雑把に言えば電子と鉄……あの羽には電子だけじゃなくて鉄も含まれているみたいですね。それに、雷は体内で生み出している様子ではなさそうです。それを自在に撃ち込む事が出来る雷隼……雷のみならず、弾丸のような羽はそれだけで脅威的です……!」
雷隼の肉体の成分が分かってきた。
雷は体内で生み出しているのではなく、身体にある羽に宿らせている。つまり蓄えているようだ。
それを弾丸のように放つだけでそれなりの威力となる。遠距離戦も近距離戦も可能という厄介な存在だ。
「雷に電気を蓄える方法か……。雷も言ってしまえば範囲の大きな静電気。羽毛を擦り合わせて静電気を形成し、そのまま金属の羽に蓄えているのか。そんな身体じゃ高速で飛行する事なんか出来なさそうだけど、何か飛べる理由があるのか? 飛行機とも、野生のハヤブサとも飛行の原理が違うからな……」
「身体に蓄えた電気で飛んでいるのかな……? 地球は大きな磁石みたいなものだし上手くすれば飛べる……いや、無理かな。どうだろう……。どう見ても空を飛べない龍とかが飛ぶのと同じ理由……? うーん……分からないなぁ」
「どちらにしても前例が無いからね。金属を身に付けた生き物は存在するけど、それを用いて飛行する生き物は居ない。プロペラがある訳でもないし特殊な羽の形もしていない。筋力はそれなりにあるんだろうけど、それでもあんな身体じゃ飛べる筈がない……。ラジコンみたいな原理……? それもなんか違う気がするね」
「……っ。来ます!」
『クェア!』
加速し、直進。そのまま通り過ぎる。
俺達はそれも何とか避け、飛行の原理を考える。いや、今回の攻略に当たってそれを考える必要も無いか? ただ純粋に気になるだけだしな。
ともあれ、避けっぱなしじゃ絞まらない。俺達からも仕掛けるとするか。
「考えても分からない事は分からないな。こんな世界だ。元の世界の常識なんて既に崩壊している。俺達がやれるのは障害になりうるこの雷隼を倒すだけだ……!」
「はい……! 何を考えても、行き着く先はこれですね……!」
「同感かな……! 向こうも向こうで私達を餌としてしか見ていないし、抵抗しなくちゃ殺されちゃう!」
「まあ、今の僕達は何回か死ねる身体になってしまったけど、だからこそこんなところで死にたくはないからね」
向こうからしたら俺達はただの餌。少し素早く動いて抵抗するだけの餌でしかない。
しかし食われる訳にはいかない。痛みもあるしな。ただの餌として俺達の罪の証明である命を削る理由は無い。
「そらっ!」
『クルァ……!』
なので俺は足場から跳躍して木刀を振り抜いた。が、それは雷隼に躱される。
さて、何となく手に馴染むから今まで重要な戦い以外は木刀を使っていたけど、そろそろ木刀は卒業する時なのかもしれないな。武器が壊れる事は無いし、切れ味も攻撃力も劣化したりしない。ロマンや愛着以外の理由で使う理由はない。
けどまあ、やっぱり残しておくか。俺は愛着を優先するタイプだ。
「はあ!」
『クルル……!』
俺の攻撃を躱し、距離を置く雷隼に向けてソラヒメが跳躍と同時に拳を放つ。
当然それも避けられてしまい、雷隼は様子を窺うように更に距離を置いた。
「今は中距離……私の番ですね! “アイス”!」
『……!』
次いでユメが氷魔法を放ち、辺りの気温を更に下げる。
今夜は雪が降らないが、元々の寒さも相まり氷魔法の威力が高く思えた。
まあ、雷隼はそれも軽く見切って躱している。やっぱり雷隼にとってはその攻撃速度が遅く思えるんだろうな。雷隼の視覚を体感した事はないから分からないけどな。
「この距離で当たるか……気になるね」
『……キュッ!』
その瞬間、セイヤが矢を放った。
そしてそれも避けられてしまう。矢の速度もセイヤのレベルアップに乗じて上がっているが、それでも足りないみたいだ。
大体時速1000㎞くらいで通常の矢の五倍の速度は出ていただろうが、音速に達していない物は軽く躱せるんだろうな。
『キュオオオ!』
「また仕掛けてくるか……!」
その瞬間、雷隼が大きく翼をはためかせて牽制。風に紛れて雷が俺達の元に迫る。
羽ばたきだけで台風のような暴風。Lv100のモンスター。そのレベルより強力に感じるな……!
【スキル“雷風”】
「あれもスキルか……広範囲スキルみたいだな」
スキル“雷風”。
基本的に雷風属性だが、他の属性を付与させたりする事も出来るのかもしれないな。いや、通常攻撃に雷を混ぜ込んでいるというのが正しいのかも。
雷を蓄えた鉄の羽に雷の風。まだ直撃はしていないが、こちらの攻撃は当たらずレベル差なんてあってないようなものだな、これ。
「だったら俺達も負けじと仕掛けるか!」
「賛成!」
「分かりました!」
「ああ!」
【ライトは光剣影狩を装備した】
【ソラヒメは空裂爪を装備した】
【ユメは夢望杖を装備した】
【セイヤは音弓を装備した】
攻撃が当たらない。つまり、一撃で決めなければ長期戦は避けられない。
こういう時こその“停止”だが、いつギルドメンバー専用アビリティに不備が生じるか分からない。なので俺達は今回の雷隼を自分の力で倒す事にした。今までが専用アビリティに甘えていただけでそれが普通だけどな。まあ、流石に死にかけたら使うが、今回はこのままだ。
「はっ!」
『……!』
その瞬間、真っ先にセイヤが雷隼を狙う。
装備を変更した事で速度も上昇しており、セイヤの音弓から放たれる矢の速度は既に音速を越えていた。
しかしそれは当たらない。否、わざと外したようだ。
当てたとしても一撃で倒せず、警戒されれば更に距離を置かれてより倒しにくくなる。だからこそ一見大した事が無い技のように、鳥頭でも分かるように見せ掛けて仕掛けたのだ。
「“ファイア”!」
『キュル……!』
その避けた先にはユメの放った炎魔法。眼前に迫った炎によって雷隼は一瞬動きを停止し、一回の羽ばたきで少し後退る。
「そこっ!」
『……ッ!』
その上からソラヒメが回転蹴りを叩き込み、金属の肉体を持つ強靭な身体を拉げさせて打ち落とす。……って、蹴りかよ。空裂爪を装備した意味あるのか? いや、一応全体的な攻撃力が上がるから大丈夫か。
ともかく、そんな雷隼の行き先は俺の眼前だ。
「これで終わりだ!」
『キュオオオッ!』
跳躍して加速。打ち落とされた雷隼は身動きが取れず俺を睨み付ける。
悪いな。俺はモンスターにも敬意を払う。まあ、鳥頭とか思っちゃったけど。
ともかく、Lv100の鳥型モンスター。雷隼。コイツはボスモンスターならずしてかなりの強敵だった。長期戦になっていたら今以上に苦労していた事だろう。
俺はそのまま迫り行き、雷隼の身体を両断した。
『グエッ……!』
【モンスターを倒した】
そして表記され、脳内にも流れるモンスター討伐の文字。
雷隼は光の粒子となって消え去り、その光が俺達に吸収されて俺達に経験値が入る。
【ライトはレベルが上がった】
【ソラヒメはレベルが上がった】
【ユメはレベルが上がった】
【セイヤはレベルが上がった】
それと同時に俺達のレベルが上昇。
成る程な。同じ間隔では上がりにくくなったけど、ここに来るまでに倒したモンスターの数が丁度良くて俺達全員のレベルが上がったのか。
まあ、今回上がったのは1だけ。今はこれでも上々だ。
「良し、順調だな。このままの調子で向かうか」
「はい! 今のところ調子良いですね!」
「そうだねぇ。このままの勢いを保とうか!」
「ああ、そうだね」
雷隼を倒してレベルが上がった俺達四人。後は他のモンスターに注意を払いつつ、目的地である北海道方面に向かうか。
俺達四人は再び駆け出した。それから数分後、特に問題も起きず目的地に到着するのだった。




