ステージ7-10 敵モンスターの卵
『『『…………!』』』
「相変わらず無表情の虫達は邪魔だな……!」
『『『──』』』
襲い来る虫達をバラバラに切り刻んで仕留め……何か悪人みたいな言い回しだな。
襲い来る虫達を斬り捨てて打ち倒し、敵の元に今一度加速。光剣影狩を横に薙ぎ払い、エンプレス・アントの頭を狙った。
『フン、バカみたいに突っ込みおって。少しは考えたらどうよ』
「ハハ、脳があるかないか分からず、機械的に動く虫にそう言われるとはな。いや、虫にも一応脳はあるんだったか」
が、当然のようにそれは防がれる。
両刃なので剣の腹を抑えなきゃ斬れる筈なんだが、やっぱり虫だけあって硬い皮膚だな。
『この程度か?』
「ああ、今の俺ならな。レベルがレベルだ。仕方ない」
エンプレス・アントの片脚を払い、一旦距離を置く。
『距離を取ったくらいで躱せるものか!』
「だろうな……! 毒液があれば中距離も補える……!」
距離を置いた瞬間に毒を噴出。俺はそれも避けた。
蜂類の毒は基本的に三つ。それは何れも消化液などじゃないので皮膚に掛かったとしても問題無く、基本的に体内に入ると厄介なものだが、この世界の毒は作用が違うから浴びたらどうなるか分からない。浴びないに越した事はないだろう。
もしかしたら一度食らうだけでアナフィラキシーショックを引き起こす可能性もあるからな。この世界の毒は何があってもおかしくない。
『ちょこまかと面倒な相手よ……!』
「お互いにな!」
壁を伝い、飛び回るように移動。この世界の肉体は身軽で良いな。元の世界で俺だけがこの力を使えたらあらゆるスポーツで世界一になれただろうな。
取り敢えず、今の場所ならエンプレス・アントも最初に見せたような目視出来ない程の速度で動く事が出来ないらしい。攻撃を躱す事くらいは出来ていた。
「操られている虫の方は大方カタが付いたよ。後は無数の卵とエンプレス・アントくらいだね」
『ほう? この短時間で片付けたか。なかなかどうして、それなりの実力を有しているようじゃな。殺すのではなく傀儡にするのも悪くないやも知れぬ……』
「ハッ、まだ倒された方がマシだな。いや、意識がないなら死んだも同然か」
俺とエンプレス・アントの数十秒の交戦中にソラヒメ達が操られていた虫達は倒した様子。それでも何匹かは残っているが、数を減らせたので十分だ。
問題は俺達が殺されず、操ろうかと思われているところ。殺られるつもりはないが、仮に殺られたらコンティニューからの“星の光の剣”でケリを付ける事が出来る。しかし、“操られる”というのは意識が薄まり、生きながら死ぬという事。医学的には生きているが、エンプレス・アントを倒せる機会がぐっと少なくなる。それだけは避けたいところだ。
「だから、アンタを倒す!」
『その威勢がどこまで続くか、見物だな』
踏み込み、高所から飛び降りるように加速。エンプレス・アントに向けて光剣影狩を振り下ろし、またもやそれが受け止められる。だが、今はもう問題無い。
「やあ!」
『小賢しい!』
──他の仲間が居るからな。
ソラヒメが側面から拳を叩き込み、俺を受け止める別の脚にて防ぐ。そこにユメとセイヤ、ソフィアの三人も仕掛け、一気にエンプレス・アントへと畳み掛けた。
「“ファイアボール”!」
「「“火炎の矢”!」」
『“守護呼吸”!』
先程の炎は容易く防がれたのでユメは火球を放ち、セイヤとソフィアが燃え盛る矢を射出。エンプレス・アントはスキルへと昇格させた呼吸を用いて腹部から二酸化炭素を放出。炎を消し去り、矢を吹き飛ばした。
「……っ。やっぱりそう上手くはいかないか……!」
「そうみたいだね……!」
その凄まじい空気によって側に居た俺とソラヒメの身体も吹き飛ばされ、強制的に距離を置かされる。
攻撃にはならないが、あの守護スキル。ただの呼吸によって生まれる空気の膜はとんでもないな。理論上なら、虫系ボスモンスターが全員使えてもおかしくない技だ。
まあ、それを使って来なかったスパイダー・エンペラーも居たけど、持ち前の強靭な肉体があったから必要としなかったんだろうな。
『地上に降りたな?』
「残念。ここは地下だ」
『戯れ言を……!』
「「……ッ!」」
瞬間、高低差が無くなった事で女帝蟻が加速。目にも止まらぬ速度にて俺とソラヒメを吹き飛ばし、俺達二人は壁に激突して数メートルの小さな穴を空けた。
……ッ。痛いな。反応出来なかったからか、吹き飛ばされた瞬間は混乱して何が起こったか分からず、後から痛みが効いてきた……!
「半分持ってかれたか……」
「うぅ……痛い……“AOSO”の世界から後半の装備を持ってきていて良かったね……“普通の服”じゃ死んじゃってたかも……」
涙を目に浮かべ、少し声を震わせながら話すソラヒメ。俺も目に少し涙が溜まっている。痛いんだ。仕方無いだろう。強固な壁が陥没する程の痛みをただの一高校生が体験するなんて世界中で一握りだ。
ともかく、Lv450のエンプレス・アントの攻撃に俺達の素の防御力はあまり意味がなく、本当に“AOSO”から装備を調達していて良かったと熟思うよ。うん。
『フン、殺し切れなかったか。やはり傀儡にした方が有効活用出来そうじゃな』
「お断り……! 私達は人形になんかならないよ!」
「ああ。……ま、もし操られたとしても、手を焼く事になるぞ? 物理的にな。何なら全身火だるまも覚悟した方が良い」
『世迷い言を。人間風情に何が出来る』
「抵抗かな?」
『下らん』
俺達の言葉を一蹴し、またもや目にも止まらぬ速度で移動。だが、背後は壁。つまり空か正面か。女帝蟻が来る方向は予測出来ている。地面を掘る時間も無さそうだしな。
後の問題は俺達の逃げ場も無いのでどうやって迎え撃つかだ。
「ソラヒメは上を頼む!」
「オーケー!」
──その瞬間、俺の正面に重い衝撃が走った。同時に天井が崩れ落ち、それは構えていたソラヒメが砕き防ぐ。
「エンプレス・アント自体は正面から来たか……!」
「土とは言え、移動の衝撃で天井が崩れ落ちるなんてねぇ」
『ほう……受け止めたか……!』
来ると分かっていれば防げない事もない。ガード扱いになっているから衝撃によるダメージもさっきよりは少ない。体力が更に半分削れたが、まだレッドラインには入っていない。まあ、このゲームはピンチになっても赤ゲージにはならないんだけどな。
「“ファイアボール”!」
「「“炎の矢”!」」
『……! ぬぅ……貴様ら……!』
俺が受け止めた事で隙が作られ、背後からユメとセイヤにソフィアが炎のスキルを放って女帝蟻にダメージを与えた。
そのダメージ自体はレベル的に相変わらず少ないが、それによって注意が逸れる。
「今だ!」
「そうだ……ね!」
『……ッ! 貴様ら……!』
その隙を突き、俺がエンプレス・アントの頭に剣を突き刺して怯ませ、ソラヒメが頭を殴り付けて吹き飛ばした。
吹き飛ばされたエンプレス・アントは粉塵を巻き上げながら進み、壁に激突して更なる土煙を舞い上げる。
『妾の美しき肉体に何度も傷を付けおって……! やはり死刑の方が良いか……!』
「コロコロ考えが変わるな。数十秒前は傀儡にした方が良いとか言っていたのにさ。それに、アンタの肉体はそのまで傷付いているようには見えないけどな」
『貴様の目は節穴か? しかと見よ。この脚の付け根。数ミリもの深い傷が付いているであろう!!』
「そっちかよ……さっき……頭の前に斬り付けた時のやつか」
今更だが、かなり傲慢な性格のエンプレス・アント。まあ、フィクションの世界に居る悪の女王はそんな感じだな。いや、悪役令嬢か? それにしては高齢だから違うか。令嬢って言うのはあくまで若い娘の事を言う。そもそも他者の娘を指し示す言葉。エンプレス・アントは他者。だが娘は産めど娘ではない。
まあ、どうでもいいか。要するにますます本気で怒ったって感じだな。
『死を以て償うが良い……!』
「さっきから似たり寄ったりな言い回しだな」
エンプレス・アントは加速。俺とソラヒメは跳躍し、今一度高所に避難してそのスピードを封じる。
既に操られた虫達は片付いているので後は無数に存在する卵から蟻が孵らないのを祈るだけ……って考えるのはよそう。こういうのを考えると大体フラグを回収してしまうからな。取り敢えず孵るなら孵る。今は目の前のエンプレス・アントに集中していた方が良いに決まっている。
「“ファイアボール”!」
「“火炎の矢”!」
「“炎の矢”!」
『小癪な……!』
俺達が上に移動した事でエンプレス・アントの動きが停止。そこにユメ達が仕掛け、エンプレス・アントはそれを呼吸だけで防ぐ。
今度はスキルへと昇格させていないただの呼吸。使う使わないの差はなんなんだ、一体。まあいいか。
「“SP”を回復させたいからなるべくスキルは使いたくないけど、近付くとやられる危険性があるから大変だな」
「そうだね。どうしようか?」
【ライトは炭酸飲料を飲んだ。体力が回復した。追加効果発生、攻撃アップ】
【ソラヒメは硬水を飲んだ。体力が回復した。追加効果発生、防御力アップ】
エンプレス・アントの様子を窺いつつ、減った体力を回復させる。俺も硬水を飲んだ方が良かったか? まあいいや。攻撃力も足りないしな。
他にも飲み物を飲み、取り敢えず態勢は立て直した。どうやら追加効果は一つしか発動させられないみたいだからな。残りの体力回復に割り当てたのは何の追加効果もない飲み物だ。
「どうも出来ないな。やるだけやるしかないか」
「オーケイ。まあ、最初から決まっているもんね!」
自身のステータスは上昇させた。後は仕掛けるだけ。寧ろ折角向上させたのに仕掛けないのは勿体無いだろう。
まあ、“SP”回復を待つなら防御力を上げてひたすら耐えるか、素早さを上げて逃げ回るのが一番の得策なんだろうけどな。“戦闘”は、考えられる線ではどちらかと言えば愚策に近いかもしれない。けどまあ、その辺は完全に俺の感情論。何もせずに逃げ回るのはあまり好きじゃない。……屍王の時はひたすら逃げ回っていたけど。
感情論なんてものはその場でコロコロと変わるからエンプレス・アントに言えないな。俺も。
とにもかくにも、俺達はエンプレス・アントの元に肉迫する。
『距離を置いては攻めて来る。面倒な戦い方をする奴らよのぉ……!』
「そうしなくちゃすぐにやられちゃうからな!」
「そう言う事!」
左右から迫り、俺の光剣影狩とソラヒメの空裂爪で仕掛ける。
逃げてはいないが、ヒット&アウェイのやり方で戦う今の場所ならやり方にも牴牾しさはあるが、四の五の言っていられないだろう。俺達にとってはエンプレス・アントの一撃が致命的だからな。
『……──KYIEAAAaaaaa!!』
「「……!?」」
仕掛けた瞬間、出会い頭のような絶叫を上げて俺達の動きを封じる。いや、よりモンスター感が増しているな……!
ただ五月蝿いから止まったのではなく、絶叫によって空間が揺れ、俺達の足場が覚束無くなったのだ。それによって新なに天井が崩れ落ち、中には大きめの土塊もあって落石並みの破壊力になっている。声だけで及ぶこれ程の影響。ただの鳴き声がもはや音響兵器だな。
「ただの威嚇……! 動けない事もない!」
「うん……!」
『──aaaaaaaaa!!!』
大地は揺れ、天井は崩れる。だが動けない事はない。走りにくいが、跳躍するだけならまだ楽だ。
動きを止めるのが目的ならまたすぐに向かってくる可能性もある。なので跳躍して距離を置いた。
「……っ。ユメ! セイヤ! ソフィア! 大丈夫か!?」
「はい……! 土塊が落ちてきましたけど、何とか当たりませんでした……!」
「同じく。遠距離にまで影響が及ぶなんてね。直線なら中距離程度の距離だけど……!」
「私も平気だ! その、心配してくれてありがとう……」
距離を置くと同時にユメ達の確認。どうやら全員無事な様子。衝撃波はあれどそれによってのダメージが無いなら一安心だ。
俺達は改めてエンプレス・アントに構え──
「……マジかよ……」
「ひっ……」
「うへぇ……」
「……っ」
「うっ……」
『『『…………』』』
『『『…………』』』
『『『…………』』』
──無数の蟻達を前に戦慄した。
考えるまでもなく、今の音波で子蟻達が卵から孵ったのだろう。
白い卵から這い出てくるワサワサと動くそれには鳥肌が立ち、一気に戦意が削がれる。
『フフフ……可愛い子供達が孵ったのぅ。子蟻は即座に成長し、レベルも向上する。今の子供達は──Lv200じゃ……』
「……っ。俺達よりも上か……」
「何だか……かなりマズイ事になってきましたね……」
「どういう原理で孵った瞬間にレベルが上がるんだろう……」
「まあ、単純に考えればエンプレス・アントが基準になってのレベル向上かな……前までのボスモンスターは下級モンスターに比べて1.6~2.5倍高い法則。屍王でそれは崩れたけど、ここでのレベル差は2.25~3倍……って事になるんじゃないかな……」
「ほう……君達は色々考えて行動していたみたいだな。確かに私が倒したボスモンスターも、近くに居たモンスターとのレベル差がそれくらいだった気がする」
無数の蟻達。Lv200。アリの巣探索で上昇した今の俺達、俺のLv157。ユメのLv156。ソラヒメのLv157にセイヤのLv155。そしてソフィアのLv157。
最大レベルが三人と過去最高に多い今だが、その何れも越す存在が無数に居た。
俺達とボスモンスターにして魔王軍の幹部、エンプレス・アントの戦闘。それはより大きな波乱が予感出来た。




