大和三山は結ぶ⑥
香久山。
香久はまだ案山子に話しかけていました。
「良い風です。遙か昔から、ここに吹く風は変わっていないように思えます。 懐かしい感じが致します」
香久の言葉の間、案山子は風でグラグラと揺れていました。そして、ついに倒れてしまいました。慌てた香久は、案山子を大事そうに抱き起こします。
「だ、大丈夫ですか! 人間様!」
香久の大きな声を聞いて、近くにいた農家の男性が駆けつけてくれました。
「どうか、したんか?」
香久はビックリして、目が回りました。
「ほ、本物の人間様!? そんな所にいらっしゃったなんて!?」
香久は、大事に抱えていた案山子を、慌てて乱暴にも地面へ放り投げました。
「何でもありません! 出来損ないの案山子が倒れただけです! すみません!」
香久は泳ぐかのように手足をばたつかせ、そのまま空へと昇って行きました。驚いた男性は幻でも見ているように息を呑んで、空に昇る香久を見上げました。それから有り難そうに手を合わせました。
畝傍山。
「日が暮れてきました」
畝傍は右手の指先に、火を灯しました。同じように左手にも。畝傍は火を生み出したり、操ったりする力があるのです。そこに若い男女が二人、やって来ました。一人の女性がいいました。
「遅くなっちゃったね」
懐中電灯をもった男性がいいました。
「もうこんなに暗いぞ。引き返そうぜ」
女性が言います。
「お参りしたら、すぐ帰るから」
そんな会話をしながら、畝傍山の山頂に、二人は登ってきました。畝傍もその気配に気がついて、歓迎します。
「こんばんは、人間様」
若い男女は悲鳴を上げました。
「ゆ、幽霊!?」
目の前に火の玉を持った女の子(畝傍のこと)がいたのです。それは驚きます。しかし、畝傍は驚かれたのは自分の事だとは分からずに、後ろに幽霊がいると思って振り返りました。
「ゆ、幽霊ですか!? いいえ、この神聖な畝傍山には幽霊などおりません。見間違いでしょう。それに、もし幽霊がいたとしても、私が除霊します! 悪霊退散!」
畝傍は気合いを入れて、誰もいない山奥に向かって叫びました。若い二人の姿はもうとっくにありませんでした。畝傍は残念そうに、首を傾げながら言いました。
「やはり悪霊の気配はありません。何かと見間違われたのでしょうか?」




