高取は現る⑬
ヤッカイは棒を引き抜いて言いました。
「もういいわ! こっちとしても好都合。後悔しても遅いわよ! わがままで無愛想な御姫様!」
ヤッカイはこっそりと地面に液体を垂らしていました。地面はみるみる内に柔らかくなり、あっという間にドロドロになりました。高取は泥沼と化した地面に足を取られます。一方のヤッカイは宙に浮いていました。
「これで自由に動けないでしょ!」
言うと同時にヤッカイは高取に接近し、蹴り飛ばします。高取は弾き飛ばされたばかりか、泥沼に沈んでいきます。
「なんじゃ!」
「ここはもう底なし沼! もがいても無駄よ!」
一度沈んだ高取は体をくねらせながら、泥の水面に浮かんできました。そして泥の上を走り抜けます。
「なぜそんな事が出来る!?」
「妾は泥遊びが大好きなのじゃ!」
「そんなレベルの泥沼ではないはず!」
ヤッカイは真上から高取に棒を振り下ろすと、高取は棒で塞ぎました。
「ボーっとしているように思ったが、棒立ちで棒を塞いだか!『棒』繋がりで!」
高取はヤッカイの棒を掴み、下へと引っ張るとヤッカイはそのまま泥沼へと顔面から落ちました。ヤッカイが泥だらけの顔を上げると
「プッ!」
高取が初めて笑いました。
「(笑った!? 何で笑ったのだ? 私のジョークか? この泥だらけの顔か? それが問題だ!)」
ヤッカイはすぐさま考え直しました。
「(いや、別にどっちも問題ではない! 今回の私の目的は高取を笑わせる事ではない。泣かせて勝利する事だ!)」
段々と周囲が明るくなってきました。夜が明け始めたのです。
ヤッカイは全身に力を込めました。
「夜が明ける。そろそろ決着をつける!」
高取が扇を掲げると、地面から水が噴き出して、高取とヤッカイの泥をすべて洗い流しました。高取は言いました。
「妾もそう思っておった所じゃ」
朝焼けが水しぶきを照らし、周囲は淡い七色に彩られました。
「行け! 我がペット達!」
ヤッカイが号令をかけると、様々に変異したヤッカイの分子が高取に襲いかかりました。高取は素早い動きでヤッカイの攻撃を交わします。高取の艶やかなに彩られた着物の色彩が光の輝く様に見えました。
「(この動き、以前とは違う! 高取を捉える事が出来ない! 高取に何か宿ったのか?)しかし!」
ヤッカイは全身から超音波のような波動を発しました。高取は思わず動きを止めて息を呑みました。
「感じるか、高取! 恐怖というものを! 私が狙った獲物は、内々に、内から腐る。この超すごい超音波は、お前の心の弱い所に直接届き、心の中のすべてを弱いものに染め上げる! 以前お前が敗れたのは、この私の素晴らしい攻撃によってなのだ! 絶望の中では、どんなに力を持とうとも、何も出来ない! さぁ、消滅させてやろう! 今度こそ、確実に!」
高取は身動き一つしなくなりました。ヤッカイは心で笑いました。
「(ふん、諦めたか、高取。高取山など所詮、小山にすぎなかったのだ)」
周囲の変異した草木が、動かない高取をあっという間に取り込んでしまいました。目の前には奇怪な植物達の大きな塊が出来きて、うねうねとしばらく動いた後に、ピタリと動かなくなりました。ヤッカイはそれを見届けると、身を返して、今度こそ人間の町に向かおうとしました。そこにふと、小さな白い光が舞い降りて来ました。ヤッカイは不思議に思いました。
「雪? この季節に雪?」




