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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
37/78

高取は現る⑩

高取山。

ヤッカイは山頂へと向かい、(自称)宇宙人の周囲は嵐が去ったように静まり返っていました。石化で動けなくなった(自称)宇宙人は、空の星を見上げました。

「キョウダイハ ドコニ(兄弟達はどこにいるのか?)」

暗い山の中腹から、高取の町の明かりが見ました。強力なヤッカイが襲って来ているという今も、普段と同じように家々に光が灯っていました。

「アソコニ ニンゲンガ イル(あそこには人間達がいる)」

家々に灯る明かりを見ながら(自称)宇宙人は明日香達の事を思い出していました。

― 宇宙人さんを馬鹿にしたら私が怒ってあげるから ―

― 宇宙人さんも笑えばいいんだよ。こんな風に、ほら ―

明日香達の笑顔が浮かび、宇宙人の目が綺麗な七色に光りました。

「アノコタチハ ブジダロウカ?(あの子達は無事だろうか?)」

もう首から下はもう石になっていました(と言っても全長が二等身ですので大体半分くらいです)。(自称)宇宙人は突然に小さく笑い始め、段々と大きくなって、ついには腹の底から笑っていました。

「・・・・・・ ジツニ! ジツニ! クックックッ!(本当に! 本当に! ふふふふっ!)」

(自称)宇宙人は笑いながらいいました。

「チキュウヲ ホロボシニキタト オモッテイタ・・・・・・(地球を滅ぼしにきたと思っていた・・・・・・)」

石化は(自称)宇宙人の顔にまで及んできました。(自称)宇宙人は空を見ました。

「ワレワレハ ドコカラキタノカ ドコヘイコウト スルノカ ナニモナノカ(私はどこから来たのか、どこに向かおうとするのか、何者なのか)」

そして今度は、高取の町を見ました。町の光の中に(自称)宇宙人は人々を思い浮かべました。明日香や子ども達、町で見た人々、そして案山子まで。

「(ソンナコトハ モウ ドウデモイイ(そんな事は、もうもうどうでもいい)」

更に笑いがこみ上げて来ました。

「ワレワレハ ジツニ・・・・・・(私は、本当に・・・・・・)」

ふと、(自称)宇宙人の顔に変化が見られました。への字だったたらこ唇口はニッコリと笑い、丸い眼鏡を掛けているような両目はとても穏やかになっていました。そんな奇妙な顔のまま言いました。

「コッケイダ!(おかしな生き物だ!)」

(自称)宇宙人は高取の町に向かって手を伸ばそうとしましたが、目が一際強く光った後、かすむように消えていきました。その動きのまま、(自称)宇宙人は完全に石になってしまいました。

 

ヤッカイは高取山の山頂付近にたどり着きました。

「高取山を制覇した! これで、もう邪魔はいない! あぁ、私ってなんて面白い上に、強くって、おまけに面白いのかしら!」


地下の大きな四角い段ボールに眠る高取。高取は心の意識の、どこか深い所にいました。

「(・・・・・・まだ妾に足があるのなら・・・・・・ また高取の地に立ってみたい)」

かつて高取は毎日のように高取山の山頂に立っていました。人間が築いた立派な城を守る事を何よりも誇りに思っていました。

「(・・・・・・まだ妾に物が見えるなら・・・・・・ また高取の町を眺めてみたい)」

かつて高取は高取山の国見櫓からいつも町をくまなく眺めていました。そこから見える景色は素晴らしく、なにより大好きでした。

「(・・・・・・まだ妾に心があるのなら ・・・・・・ずっと人間様を・・・・・・)」

これまで動く事の無かった高取の口元が僅かに開きました。そして、思いをなぞるように口元が小さく動きました。

「(・・・・・・愛していたい)」

高取の指先が動き、明日香の作った人形をゆっくりと握りしめました。


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