高取は現る③
高取の町。
人々にある噂が飛び交っていました。
― UFOを見た! ―
小学生の男の子達三人は、興味津々にUFOの話をしていました。帽子をかぶった少年、子嶋タツミが意気込んで言いました。
「宇宙人を見つけたら取っ捕まえて、退治してやる!」
一番大柄である上小島ヒカルは自身満々に言いました。
「いいや、やっつけるのは俺だ。力なら俺の方が上だもんな」
植村ナマコはかけている眼鏡の淵に手を添えながらいいました。
「馬鹿だな、君たちは。テレビに出てお金儲けするんだよ」
タツミとヒカルは頷きました。
「そりゃいい!」
口々に好き勝手な事を言う男の子達。彼らと同い年の眼鏡を掛けた女の子、明日香は非難するように口を少しふくらませて、彼らを少し離れた所から見ていました。
宇宙人の秘密基にて。
「ニンゲントハ ナニモノナノカ(人間とはどのような生き物なのだろうか)」
色々と考えている宇宙人の目は七色に光っていました。
ある日。
宇宙人はついに高取の町に姿を現しました。農作業をしていた人達に宇宙人は名乗りました。
「ワレワレハ ウチュウジンダ(私は宇宙人である)」
しかし、人々に反応がないどころか、動きすらありません。
「コレガ ニンゲン(これが人間という者か)」
農作業をしていたのはすべて案山子でした。あまりに反応がないため、宇宙人は不思議に思って場所を変えました。
町の通りまで行くと、今度は人々に反応があり、騒がしくなっていました。
「ワレワレハ ウチュウジンダ(私は宇宙人である)」
見た事もない生き物に、町の人々は子ども達だけではなく、大人達まで騒ぎ立てました。さっきと違い、思った以上に反応があった為、なんだか宇宙人は嬉しそうにも見えます。
「コレガ ニンゲン(これが人間という者か)」
逃げる人がいる一方、おかしな姿の宇宙人をからかう人々もいました。
「サルみたいな宇宙人だ!」
「何だ、あの顔! 面白い!」
「変な顔!」
散々に言われても、宇宙人は冷静に高取の人々を見ていました。
「ジツニ コッケイダ(人間とは実におかしい)」
タツミは棒を持ってやってきました。
「俺が退治してやる!」
タツミは恐る恐る宇宙人に近づいて来ます。
「ジツニ コッケイ!(そんな棒で私に向かって来るとは実におかしい!)」
タツミが棒を高く上げた時、宇宙人の目の前に走ってきて、庇うように両手を広げる者がいました。明日香でした。
「弱い者いじめは駄目!」
得体の知れない宇宙人の前で背中を向けて立つ明日香に、タツミ達は驚きました。
「明日香! 食われるぞ! そいつは悪者だ!」
タツミの言葉に、明日香は驚いて振り返ると、宇宙人の目(と思われる部分)と目が合いました。『悪者』だと言われた宇宙人ですが、何もする様子はありません。明日香はタツミ達に向き直っていいました。
「宇宙人さんはそんな事しない! 一方的にひどいこと言って、悪いのはみんなの方だよ!」
タツミは叫びました。
「どけ!」
明日香は首を振ります。動かない明日香に、タツミは悔しそうに棒を手放すと、ふて腐れたように言いました。
「明日香は目が悪いんだ。よく見えないから、宇宙人の前でも怖くないんだろ?」
明日香はショックを受けました。思わず力を込めて叫びました。
「私だってちゃんと見えるよ! 私だって怖いよ!」
そう言った瞬間、明日香はハッとしました。そして、とっさに後ろの宇宙人の顔を見ました。つい『怖い』と本当の気持ちを言ってしまったのです。宇宙人は感情のないロボットのように立っているだけでした。タツミ達は諦めて帰っていきました。明日香は肩の力が抜けるとすぐに宇宙人に謝りました。
「ごめんなさい! ひどい事言って! 本当は全然怖くないから!」
実際、明日香は小刻みに震えていました。宇宙人は何も言わずに去っていきました。
秘密基地にて。
宇宙人は巨大なガラスケースの少女を見て言いました。
「ニンゲントハ ナニカ(人間とは何だ?)」
宇宙人は(答える事ができないと分かっていても)少女に問いかける事がよくありました。それから、おもむろに宇宙人はガラスケースと連動している機械を操作します。しかし何も起こりませんでした。
「ダメダ オマエ ウゴカナイ(駄目だ。お前は動かない)」
宇宙人は手を止めると、少女を見ました。正座をして座っている長い黒髪の少女。彼女の表情はずっと苦しそうでした。




