葛城は咲く⑫
祈るような安らいだ葛城の心の奥底に誰かがいました。葛城は不思議に思い、声を掛けました。
「誰ですか?」
暗闇の中に電球が一つ。そのすぐ側で葛城と最初に出合った頃の青年であった渉が、ツツジの髪飾りを作っていました。何度も試行錯誤を繰り返しています。
「あれは・・・・・・ 渉様!?」
渉は落胆して叫びました。
「こんな色じゃない!」
渉はいきなりツツジの髪飾りを、ゴミ箱に捨ててしまいました。葛城は勿体ないとばかりに『あっ!』と声を上げました。
「もっと美しかったんだ! 葛城山のツツジは、こんなにくすんだ色じゃない!」
「こんなに・・・・・・ くすんだ色じゃない ?」
渉の言葉を、葛城は繰り返します。そして葛城の周囲に咲いたツツジを見渡すと、さっきは美しいと思ったツツジが、今はくすんで、枯れていくのでした。
「はっ! どうして!?」
渉は、また最初から髪飾りを作り直し始めていました。
「今度こそ作るんだ。本物に負けない物を。 新しい命を」
葛城は目をパチパチさせて、考えました。
「(新しい・・・・・・ 命?)」
ヤッカイが剣を振りかざしました。雷の発光で光と闇が交錯する中、葛城はハッと目を開けました。そして、その時、葛城の髪を束ねていたツツジの髪飾りが、すっと飛び立つように葛城の髪から離れて行きました。まるでお別れを言うように、鮮やかに赤く輝いていました。雷は真っ直ぐに葛城を打ち抜く・・・・・・ はずでした。
数十年前。ようやく渉が髪飾りを仕上げた時、それを見た渉の母親が尋ねました。
「良くできたわね」
「そうかな? まだまだだけど。でも頑張って作ったんだ」
「どうするの、それ」
「それは秘密」
「そう? 教えてくれないの?」
母親は笑いました。渉は窓から漏れる日の光にかざすと、髪飾りは赤く輝きました。
「(プレゼントするんだ・・・・・・)」
かつて葛城の高原で始めて葛城を双眼鏡越しに見た青年、渉。彼の目に映った葛城の姿はオオカミ少女などではなく、天真爛漫なかわいらしい少女だったのです。
「(僕の初恋の人に・・・・・・)」
葛城の目の前で雷は曲がりました。まるで竜のようでした。竜は口に葛城の髪飾りをくわえて空に昇ったのです。上空でわずかに脆い音が聞こえました。そして葛城の頭上から紅に輝く一握りの砂が降り注ぎました。赤い輝きの正体を葛城はすぐに分かりました。葛城にとって、その赤い色は、どんな色も真似の出来ない『愛の色』だったのです。目には見えない愛の欠片を詰め込んで出来上がった物を、他ならぬ大好きな人間様にもらったのです。愛することの喜びと大切さを教えてくれた物でした。その愛がたくさんの『人間様』に伝わることも。渉からもらった髪飾りは葛城の身代わりとなったように、雷を受けて粉々に砕けたのでした。




