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守護山娘シリーズ  作者: 白上 しろ
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葛城は咲く⑩

葛城町。

上空の雲に異変が起き始めました。ドンヨリと大きな雲が町の空を覆い、ゴロゴロと雷音が轟き始めました。黒い雲は更に大きく、大きくなっていきます。雷音が至る所で響き、そしてその音も増していきます。葛城は一人静かに山頂で空を見張っていました。

「雨も降っていないのに、雷雲が妙な動きをしています」

葛城山を覆うように広がる分厚い雲の間から、守護山娘と同じ人の姿をした、しかし異様な悪鬼を発している『雷のヤッカイ』が現れました。まるで葛城の不調を見越して現れたかのようなタイミングです。

「やはり、ヤッカイの仕業!」

ヤッカイは腕組みをしたまま、上空に浮いています。雷鳴の轟く中、雷のヤッカイの目が不気味に光っていました。

葛城は山頂の人々に避難を呼びかけました。人々は慌ててロープウェイで下山したり、近くの宿泊所に避難しました。

空中からヤッカイが宣戦布告します。

「葛城よ。我が雷により破壊してくれる」

ヤッカイはニヤリと笑うと、上空を指さしました。するとくすぶっていた雷音が雲のあちらこちらから火花が散るような光が発生しました。葛城も両手の平を空に向けると、葛城山全体が攻撃の構えを作ります。ツツジの花々や笹、山を覆うすべての木々に至るまでヤッカイとの戦いにおいては山全体が武器のような性格を持つのです。

「食らえ!」

ヤッカイが叫ぶと、無数の落雷が葛城山を襲いました。葛城は台地から得たエネルギーでバリアを張りますが、あっさりと破られ、葛城山の植物は自らが盾となるように雷を受けます。圧倒的な威力の雷を前に、植物達はあっという間に破壊されていきます。

「あはははは! 脆い! 脆い! 脆い!!」

高笑いをするヤッカイに、葛城は悔しそうでした。

「クジラさん! 出撃してください!」

『ホエ~ル!』という大きな鳴き声が聞こえると、ヤッカイの笑いが止まりました。葛城山の登山途中にある滝。岩が左右二つに開くと、巨大な機械仕掛けのクジラが現れました。巨大クジラが背中から上空にまで伸びる水を発射すると、あたりにあった黒い雲が消し去られていきます。巨大クジラは飛行船のように宙に浮き、山頂に向かっていきました。ヤッカイの無数の子分とも言える黒い雲の分子を、巨大クジラは勇ましい鳴き声を上げて体のあちこちから様々なミサイルを発射して破壊していきます。

「何だ、あれは!?」

驚くヤッカイに葛城も攻撃を仕掛けます。ススキのようなムチと、大きなツツジのような形をした盾を持って雷のヤッカイに飛びかかりました。葛城はヤッカイにムチを打ちました。ヤッカイは腕でガードします。しかし、煙のようなもので周囲が見えなくなってしまいました。

「何も見えない!?」

「これはただのムチではありません!」

「小賢しい!」

ヤッカイが指をさすと、雷が葛城に落ちてきました。葛城はツツジの盾で防ぎます。すると衝撃を受けた盾が震動して甘い匂いが発生しました。ヤッカイは匂いを嗅ぐと、目が回りました。

「今度は何だ!?」

「この甘い匂いは幻覚を引き起こす作用があります。でも安心してください。ヤッカイにしか効き目がありません」

微笑む葛城に、ヤッカイは怒りました。

「ふざけるな!」

ヤッカイが葛城を蹴飛ばそうとしましたが、葛城はまた盾で防ぎます。盾が震動し甘い匂いによって更に感覚を失ったヤッカイの攻撃は、まるでデタラメになっていきました。

「あなたの負けです!」

しかし、ヤッカイは笑っていました。

「幻覚か。なるほど。想像以上にくだらん! 見ろ、時間が経てば感覚が戻ってきている。こんな子どもだましの技で、実力者と謳われたこの『雷のヤッカイ様』を退けるなど出来る訳がない! 私の本当の恐ろしさを教えてやる!」

ヤッカイは両手両足を大きく広げました。

「食らうがいい! 天空の怒りを!」

ヤッカイが叫ぶとこれまでにはない巨大な雷が空から落ちてきました。雷は巨大クジラに直撃しました。

「クジラさん!」

葛城は叫びますが、時すでに遅く巨大クジラは雷の直撃で大破してしまいました。巨大クジラの体から煙がモクモクと発生し、『ホエ~ル』と悲しそうな鳴き声をあげながら、ゆっくりと墜落するように、元の住み処である滝の中へと退却していきました。

「あのクジラさんを、たったの一撃で!?」

驚く葛城に、ヤッカイは余裕の笑みを浮かべました。

「これはまだ序の口である。それに私の子分達もまだまだ動いてくれる」

巨大クジラの攻撃から逃れていたヤッカイの分子達が息を吹き返したように再び葛城山を攻撃し始めます。葛城は右手を天に向けて叫びました。

「白鳥さん! 舞い降りてください!」


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