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Summer Echo  作者: イワオウギ
III
118/292

118.「その次の日」

「その次の日」


「いつも通りフリースクールに・・・って、

 あぁ、そうか。言い忘れてた」


「フリースクールには、

 高校に退学届を出す10日ぐらい前から、既に通っていたんだ」


「見学という形で、ほとんど毎日」



「引きこもっていた私が、

 8月の中旬になって自分の部屋を出て電話したのが、そこのフリースクールだったんだけど、

 そのときに、

 向こうのスタッフの人に、こう言われたんだ」


「だいたいの事情は分かりました。

 出来れば親御さんと一緒に、改めてお話を伺いたいのですが、

 こちらまでお越し頂くことは出来そうですか?」


「多分、大丈夫だと思います・・・って答えたら、

 もし、お越し頂くことが難しいようでしたら、

 そのときには、またお電話ください。

 担当のスタッフが、話を聞きにそちらにお伺い致しますので・・・って言われてね」


「その、さり気ない気遣いの言葉を電話で聞いて、

 思わず目頭が熱くなってしまったのを、私は今でも覚えている」



「それで、

 後日、母親と一緒にそのフリースクールに行って、

 私のこれまでの事情と、これからの希望を改めて説明したら、

 話を聞いてくれた年配の女性スタッフが、

 最後に、こう言ってくれたんだ」


「当スクールへの入学は高校を辞められたあとがご希望、とのことですが、

 でしたら、それまでの間は見学という形で来てみませんか?。

 その方が、ここの雰囲気にも早く慣れるでしょうし・・・って」


「私は、

 そのスタッフの好意に、甘えさせてもらうことにした」


「それから、

 ほぼ毎日、そこに通ったんだ」


「自転車でね」


「ちょっと遠かったけど、

 でも、電車やバスは使いたくなかった」


「顔見知りの人には、出来るだけ会いたくなかった」



「で、さっきの話に戻るけど、

 高校に行った次の日、

 フリースクールに見学のために顔を出して、その帰りの道、

 私は、文房具の店に立ち寄った」


便箋(びんせん)や封筒、切手を買った」


「そして、

 自分の部屋に戻ってくるなり、机の上のノートパソコンを開いた」


「彼女に送る文章を考え始めたんだ」



「お久し振りです。お元気でしたか?」


「いや、

 その前に、まずは自分が誰なのか名乗らないと」


「待てよ、

 でも、相談サイトで使っていたニックネームを書いたところで、

 彼女は、それを信じてくれるだろうか」


「怪しまれるのではないのだろうか」


「だったら、手紙を送ったあと相談サイトに行って、

 そこで、

 何かの投稿に、その手紙の内容をさりげなく忍ばせておけば・・・」


「いやいや、

 そんなの、私と同じニックネームを登録すれば誰にでも出来てしまう」


「意味が無い」


「そもそも、

 お元気でしたか?・・・なんて、書いて良いのか」


「それを書く資格が、私にはあるのか」


「彼女を傷付けてしまった私が、

 他人事のように、それを書いて良いのか」


「だいたい、元気でいるはずがないじゃないか」


「私に裏切られ、

 ツライ思いをしているに決まってるじゃないか」


「なら、まずはそれを謝るか」


「見て見ぬフリをした理由を正直に書いて、

 まずは謝るか」


「しかし、彼女に謝るのは・・・」


「だったら、何を書けば・・・」



「いつまで経ってもそんな調子でさ、

 結局、1行も進まなかった」


「で、

 一旦、手紙の文章を考えることを諦め、

 2ヶ月後の高卒認定試験に向け、勉強し始めたんだけど、

 そこで、ふと思ったんだ」


「そうだ。

 認定試験に受かってから送ろう、って」


「もともと、ちょっとだけ抵抗があったんだ」


「今までずっと引きこもりで、

 つい先日、高校も退学しました・・・って書くことに」


「でも、そのフレーズのあとに、

 退学後、頑張って勉強して、

 それで高卒認定試験に合格しました・・・って続ければ、

 ある程度、カッコはつくでしょ?」


「なので、

 それからは、自分の勉強に専念することにしたんだ」


「フリースクールに通って、

 外の世界に少しずつ慣れていきながらね」

一般的には、退学届を提出しただけでは退学にはなりません。

校長の承認が必要になります。

なので、

多くの場合、実際に退学になるのは退学届を提出した何日かあとになります。

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