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Summer Echo  作者: イワオウギ
III
117/304

115.広々としていた会場は、今は

広々(ひろびろ)としていた会場(かいじょう)は、(いま)は、

さまざまな(うみ)の生き(もの)たちで、にぎわっていました。

ガヤガヤとしています。


「さっきの、おもしろかったね」


「うん、おもしろかった」


2ひきのヤドカリたちが、(はなし)をしています。

会場(かいじょう)のあちこちに()らばっていたヒトデたちが、

 みんな(うご)きをピッタリ()わせて、5本の手を順番(じゅんばん)()かせて(おど)っていて・・・。

 あれ、すごかったね」


「うん、すごかった。

 でも、

 その(つぎ)(ほう)が、もっとすごかった。

 たくさんのヒトデたちが、うずを()くようにして(あつ)まり(はじ)めてさぁ」


「そうそう。

 (なに)をするのかなぁ・・・って(おも)って見ていたら、

 2本の手を、こーんな(かん)じで左右に大きく(ひろ)げたまま、

 次々(つぎつぎ)と立ち上がって、

 (となり)どうしで手をつないで()っかを(つく)って、

 そこに(べつ)のヒトデたちがよじ(のぼ)って、

 上で、また()っかを(つく)って・・・」


「5(だん)(がさ)ねだったよね」


「そうそう、5(だん)(がさ)ね。

 それで、

 最後(さいご)のヒトデが、その5(だん)()っかのテッペンによじ(のぼ)っていって、

 立ったまま(おど)りだして・・・。

 あれはすごかったね」


「うんうん、すごかった。

 途中(とちゅう)(しお)がゆるく(なが)れて、()っかが全部(ぜんぶ)グラグラしてたけど、

 みんなで、なんとか()えて、

 テッペンのヒトデも、最後(さいご)まで(おど)りきってさ。

 (まわ)りの歓声(かんせい)もすごくて、

 (わたし)も、(おも)わず(こえ)を上げちゃった」


「アタシもアタシも~。

 で、

 テッペンで(おど)ってたヒトデがポーズを()めた・・・と(おも)ったら、

 (きゅう)()っかが(くず)れて、

 みんな、一斉(いっせい)にヒラヒラと()ちていって・・・」


「あのときも、歓声(かんせい)が上がったよね」


「うん、上がってた上がってた。

 海底(かいてい)にできたヒトデの山を見ながら、

 (つぎ)は、どんなダンスを見せてくれるのかなぁ・・・って期待(きたい)して()っていたら、

 すぐにモソモソと(うご)(はじ)めて、

 今度(こんど)は、みんなで(たが)いに()きつき(はじ)めてさ・・・。

 社交(しゃこう)ダンスでも(はじ)まるのかなぁ・・・って(おも)ったよ」


(わたし)(わたし)も~。

 でも、いつまでたっても()きつくのが()わらなくて、

 ヘンだよね・・・って、お(となり)さんとも(はなし)をしていたら・・・」


「そしたら、(じつ)は、

 ただ(たん)に、みんなで()()()いのケンカをしてただけ、っていう。

 ヒトデはみんな無口(むくち)だから、わからないけどさ、

 たぶん、

 お(まえ)のせいだ、お(まえ)のせいだ・・・って、

 やってたんじゃない?」


「あれ、本当(ほんとう)は、

 上のヒトデが()()りてから(くず)れる予定(よてい)だったらしいよ。

 ()()いのカニさんに、さっき(おし)えてもらった~」


「あら、そうだったの。

 アタシ、さっきの失敗(しっぱい)のヤツの(ほう)()きだけど」


(わたし)も~。

 でも、本当(ほんとう)はそうなんだってさ。

 それで、そのあとがおもしろかったよね」


「そうそう、おもしろかった。

 大イカさんがあわててケンカを()めに入ったんだけど、ちっとも(おさ)まらなくってさ。

 正直(しょうじき)

 あ、ヤバ・・・って(おも)った」


(わたし)(わたし)も~。

 だって、大イカさん、

 途中(とちゅう)から言葉(ことば)が出なくなって、スミしか()かなくなったもん」


(あん)(じょう)、キレた大イカさんが、

 (あた)りにスミをまき()らしながら、(から)まり()ったヒトデたちを、

 10本の足で、次々(つぎつぎ)会場(かいじょう)(そと)へ、

 こんな(かん)じで、

 ぽーん、ぽーん、って1ぴき(のこ)らず(ほう)()(はじ)めて・・・」

そう口にしたヤドカリは、

左右の手を交互(こうご)(うし)ろへ、ブンブンと()(まわ)します。

それを見た、もう1ぴきのヤドカリは、

片方(かたほう)のハサミで口元(くちもと)()さえて、(たの)しそうに(わら)いました。

「そうそう、()てる()てる~。

 あーあ、やっちゃった・・・って、

 (わたし)(おも)った。

 それで、

 そのあとの大イカさんが、もっとおもしろかったんだよね~」


左右の手を()(まわ)していたヤドカリは、(うご)きを()めました。

(すこ)ししてから(かお)(となり)()け、(たず)ねます。

「え?、そうだっけ?」


「そうだよぅ。

 (しず)まり(かえ)った会場(かいじょう)を、

 1ぴきで、ぼーっと見ていた大イカさんが、

 しばらくしてから(うみ)(あるじ)さまの(ほう)()()いて、()ったじゃない」


「・・・(なん)()ったんだっけ?」


(あるじ)さま、

 ご(らん)のとおり、みんないなくなってしまいました。

 これにて終了(しゅうりょう)です・・・って」


「あぁ、()ってた()ってた」

(となり)を見ていたヤドカリは、(かお)正面(しょうめん)(もど)しました。


「いなくなった、って()うか、

 アンタが1ぴき(のこ)らず会場(かいじょう)(そと)(ほう)()げたんじゃない。

 (うみ)(あるじ)さまも、

 (なに)()わずに、大イカさんの(かお)をじーって見てるし。

 (わたし)、もう、

 おかしくって、おかしくって・・・」

そう()ったヤドカリは、

今度(こんど)両方(りょうほう)のハサミを使(つか)って口元(くちもと)()さえて、(たの)しそうに(わら)いました。

もう1ぴきのヤドカリは、

その、(わら)っているヤドカリをチラリと見ると、

また(まえ)()いて()いました。

「それ、そんなにおもしろかったかなぁ・・・って、

 あ!、見て見て。

 大イカさんが、ヒトデのところから(かえ)ってくるよ。

 たぶん、そろそろ(はじ)まるよ、

 優勝(ゆうしょう)発表(はっぴょう)が」


「え?。あ、ホントだ」


今回(こんかい)優勝(ゆうしょう)は、だれだろうね」


「だれだろうね」



大イカは、

ちょっとの(あいだ)(うみ)(あるじ)(なに)かの(はなし)をしていました。

しかし、

やがて、会場(かいじょう)(ほう)()(なお)すと、

足を何本(なんぼん)()ち上げ、

その足の先っぽで、周囲(しゅうい)岩盤(がんばん)()さえつけるような(うご)きをしました。

ゆっくり何度(なんど)もくり(かえ)しています。

「せいしゅくに!、せいしゅくに!。

 これから、

 (うみ)(あるじ)さまが、ダンス大会(たいかい)優勝(ゆうしょう)発表(はっぴょう)なさる。

 せいしゅくに!」


ザワザワとしていた会場(かいじょう)が、

(すこ)ししてから、(しず)かになりました。

大イカは、

そのまま、ちょっとだけ様子(ようす)を見たあと、

()ち上げていた足を、そっと下ろしました。

(あるじ)(ほう)()(なお)し、

(あたま)を下げました。

(あるじ)さま、

 では、お(ねが)いします」


「うむ」

うなずいた(うみ)(あるじ)は、

そのギョロっとした2つの目を、会場(かいじょう)居並(いなら)(うみ)の生き(もの)たちへ()けました。

重々(おもおも)しい(こえ)(あた)りに(ひび)かせ、(はな)(はじ)めます。

(みな)のモノ、ご苦労(くろう)であった。

 (みな)のおかげで、

 今回(こんかい)もダンス大会(たいかい)を、こうして無事(ぶじ)・・・どうにか()わらせることができた。

 会場(かいじょう)準備(じゅんび)をしてくれたモノ、

 ダンスを(おど)ってくれたモノ、

 そのダンスを見(まも)り、声援(せいえん)(おく)っていたモノ、

 あらためて(れい)()う。

 ありがとう」


(うみ)(あるじ)(あたま)深々(ふかぶか)と下げると、

みんなも、(あたま)深々(ふかぶか)と下げました。

会場(かいじょう)(すみ)にいるヒトデたちも、

1本だけ()かせた手の先っぽを、(あるじ)()かって()()げています。


(うみ)(あるじ)は、(あたま)をゆっくりと()こすと、

みんなが(あたま)を上げるのを(すこ)しだけ()ってから、

重々(おもおも)しい(こえ)で、また(はな)(はじ)めました。

(いま)から優勝(ゆうしょう)したモノを発表(はっぴょう)する。

 だが、このモノのダンスだけが()かったわけではない。

 すべてのダンスが、それぞれ素晴(すば)らしかった。

 ただ、

 その中でも(とく)素晴(すば)らしかったダンス、ワシが心()たれたダンスを、

 これから発表(はっぴょう)するということだ。

 そのことを、どうか(わす)れずにいてほしい」

(うみ)(あるじ)は、

自分(じぶん)(まえ)(あつ)まった、数百(すうひゃっ)ぴきの(うみ)の生き(もの)たちの(かお)を、

(はし)から(はし)まで、ずうっと見ていきます。

そうして、それが()わると、

ふたたび正面(しょうめん)()いて、()いました。

「では、発表(はっぴょう)する」


(うみ)(あるじ)は、

その、吸盤(きゅうばん)のたくさん()いた立派(りっぱ)(なが)い足を、

1本だけ、真上(まうえ)(たか)()ばしました。

(しず)かに目を()じていき、

(すこ)()()いてから、

また、ゆっくりと目を(ひら)きます。

優勝(ゆうしょう)は・・・、」

そう()って、

まっすぐ上げていた足を途中(とちゅう)()()げ、

その先っぽで会場(かいじょう)(おく)()した(あるじ)は、

言葉(ことば)(つづ)けました。

優勝(ゆうしょう)は・・・、このモノだ」


「えっ、オイラ?」


(あるじ)(なが)い足と、

()(かえ)った(うみ)の生き(もの)たちの、何百(なんびゃく)もの視線(しせん)の先には、

1ぴきのカニが、(いわ)(まえ)で立ち()くしていました。

カニは、やがて、

両手(りょうて)のハサミを、(あたま)の上で(はげ)しく左右に()って、

早口でしゃべり出しました。

「な、なんでオイラが。

 オイラ、

 たった(いま)、こっちに()たばっかりで、

 それで、なん・・・え?」


(うみ)(あるじ)は、

足の先っぽで会場(かいじょう)(おく)()したまま、(かお)を左右に()りました。

勘違(かんちが)いするでない。

 優勝(ゆうしょう)したのは、そなたの(うし)ろにいるモノだ」


「オイラの(うし)ろ?。

 え、ということは・・・」

カニは、

バンザイをした格好(かっこう)のまま、ゆっくりと(うし)ろを()きます。

その、(うし)ろを()いたカニの視線(しせん)の先には、

大きな目をよりいっそう大きくし、

口をちょっと()け、

(おどろ)いた表情(ひょうじょう)をして、

(いわ)()りかかったまま1ぴきで(かた)まっている、小さな赤い魚の姿(すがた)がありました。



「ちょっと()ってくれよ!」

だれかの(こえ)が、会場(かいじょう)(ひび)きました。

(われ)(かえ)った赤い魚は、

すぐに、そちらを見ました。

1ぴきの青い魚が、(あるじ)(まえ)へと(およ)いでいきます。

オシャレなチョッキを()ています。


(あるじ)さま、

 オレ、納得(なっとく)できねぇよ。

 どうしてアイツが・・・」

チョッキの魚は、

(うみ)(あるじ)の、巨大(きょだい)(かお)(まえ)()くなり、

興奮(こうふん)した様子(ようす)で、文句(もんく)()(はじ)めましたが、

(きゅう)言葉(ことば)()めました。

目の(まえ)に、

大イカの足の先っぽが、ぬうっと(あらわ)れたからです。


チョッキの魚は、大イカを見ました。

大イカは、

(なに)()わずに、うなずきました。

()ばしていた足を、ゆっくりと(もど)していきます。


チョッキの魚は、ハッとしました。

あわてて、(あるじ)(ほう)へと()(なお)します。

そして、

(あたま)をペコリと下げてから、

あらためて、文句(もんく)()い出しました。

(あるじ)さま、

 どうしてアイツが優勝(ゆうしょう)なんですか。

 だって、アイツは自由(じゆう)(およ)げないじゃないですか。

 うまく(およ)げないじゃないですか。

 さっき、大会(たいかい)でアイツが(おど)ったダンスだって、

 あんなにカッコ(わる)かったじゃないですか。

 (うみ)(そこ)をはいつくばって(およ)いだり、()(まわ)ったり・・・、

 魚のくせに、そんなことしかできないんですよ。

 アイツは、

 普通(ふつう)(およ)げるオレたちと(くら)べて(あき)らかに(おと)っている、()ちこぼれの魚なんですよ。

 (なさ)けない、ダメな魚なんですよ!」

一気にまくし立てたチョッキの魚は、

そこで、(かお)をうつむけました。

(すこ)()()いてから、(つづ)けます。

「・・・オレ、

 今回(こんかい)のダンス大会(たいかい)のために、いっしょうけんめい練習(れんしゅう)してきたんだ。

 毎日(まいにち)毎日(まいにち)(あさ)から(ばん)まで、

 ずうっとずうっと練習(れんしゅう)してきた。

 (つか)れてクタクタになっても、

 ちょっと休んでから、また(およ)(つづ)けた。

 練習(れんしゅう)していて、

 いつの()にか()ていたことも、しょっちゅうだった。

 それなのに、どうしてアイツなんですか。

 オレじゃないんですか。

 あんな出来損(できそこ)ないのダンスの、どこが()かったんですか」

チョッキの魚は、

そこまで口にすると(かお)を上げ、(あるじ)を見て、

(こえ)をさらに大きくして、最後(さいご)()いました。

(あるじ)さま、

 (おし)えてください!、どうしてアイツが優勝(ゆうしょう)なんですか!。

 オレ、納得(なっとく)できません!」


会場(かいじょう)(じゅう)が、シーンと(しず)まりました。

でも、それは、

ほんのちょっとの(あいだ)だけでした。

あちこちから、次々(つぎつぎ)(こえ)が上がりました。

不満(ふまん)(こえ)でした。


「そうよそうよ、納得(なっとく)できないわ」


「あんな(おど)り、どこが()かったんだ」


(なに)かの間違(まちが)いじゃないのか」


八百長(やおちょう)だ」


(うみ)の生き(もの)たちは、口々に(さわ)(はじ)めました。

大イカが、足を10本とも(うご)かし、

せいしゅくに!、せいしゅくに!・・・と、

必死(ひっし)に、くり(かえ)しています。

けれども、

(さわ)ぎは、いっこうに(おさ)まりません。

それどころか、

ますます大きくなっていきます。


(うみ)(あるじ)は、

目をつむったまま、

そうした不満(ふまん)(こえ)を、じっと()いていましたが、

しばらくすると、目をゆっくり(ひら)きました。

吸盤(きゅうばん)のたくさん()いた足を1本、()ち上げて、

その先っぽを、

海底(かいてい)(よこ)になって()そべっている、茶色(ちゃいろ)くて(ひら)べったい魚へ()けました。

「そなたは、

 あの赤きモノのダンス、どう(おも)った?」


「え?、アッシですかい?」


(うみ)(あるじ)は、(なに)()わずにうなずきました。

()けていた足を(もど)します。

(さわ)いでいた(うみ)の生き(もの)たちも、(しず)かになりました。

みんな、茶色(ちゃいろ)い魚を見ています。

その茶色(ちゃいろ)い魚は、ちょっと()わった魚でした。

砂地(すなち)()そべっている、(ひら)べったい(からだ)の、

上になっている(ほう)の、片側(かたがわ)(めん)に、

目が2つとも()いていました。


茶色(ちゃいろ)い魚は、

()ビレで海底(かいてい)をけとばし、ふわっと()き上がると、

(うし)ろへ()きを()えました。

赤い魚の姿(すがた)確認(かくにん)したあと、そのまま海底(かいてい)に下りて、

また、ふわっと()いて、

()きを(あるじ)(ほう)(もど)しました。

そして、

(かた)岩盤(がんばん)()そべったまま、

(からだ)の、上になってる(がわ)の、2つの目で、

大きな(うみ)(あるじ)を見上げて、

先ほど()かれた、赤い魚のダンスの感想(かんそう)について(こた)えました。

「アッシは、

 あの(おど)り、()かったと(おも)いますがねぇ」


「・・・わけを(もう)してみよ」

(あるじ)がそう()うと、

茶色(ちゃいろ)い魚は、ベラベラと(はな)(はじ)めました。

「いやね、見ていて(たの)しかったんですわ。

 ()ねたり、立ったり、クルクル(まわ)ったり・・・、

 あんな(おど)り、(はじ)めて見やした。

 海底(かいてい)のスレスレを(およ)ぐのは、さすがにアッシのが上手(じょうず)ですがね、

 でも気()()さそうに、

 びゅーん、びゅーん・・・と、かっ()んでるのを見てたら、

 (なん)だか、こっちまで気()()くなっちまって。

 (つぎ)は、どんな(おど)りをひろうしてくれるんだろう・・・って(おも)って、

 アッシは、ワクワクしながら見てやしたよ」


(うみ)(あるじ)は、

それを()いて、うなずきました。

足を1本、また()ち上げて、

(たか)いところでプカプカと()いてる、

ぼーっとした(かお)の3ひきのマンボウたちへ、その足の先っぽを()けました。

「そなたらは、

 あの赤きモノのダンス、どう(おも)った?」


()かれたマンボウたちは、(たが)いに(かお)を見()わせてから、

また、(あるじ)(ほう)()(なお)しました。

(たの)しかった」

(たの)しかったです」

まん中と右(がわ)のマンボウが、ほとんど同時(どうじ)(こた)えました。

(がわ)のマンボウは、

ぼーっとした(かお)のまま、小さくうなずいてます。


「・・・わけを(もう)してみよ」

(あるじ)が、そう()いました。

まん中と右(がわ)のマンボウは、ふたたび(かお)を見()わせました。

「わけ?。

 (たの)しかったことに、わけなんてあるのかなぁ」


「でも、(あるじ)さまに()かれてるし、

 (なに)(こた)えないと・・・」


「えー、(おも)いつかないよぅ」


(こま)ったなぁ・・・」

2ひきで、コソコソと(はな)()っていると、

(がわ)の1ぴきが、

ぼーっとした(かお)のまま、口だけをちょっと(うご)かし、

ボソボソと(こた)えました。

笑顔(えがお)。ずっと笑顔(えがお)だった。

 (わら)ってた。

 ダンスの最中(さいちゅう)(たの)しそうに(わら)ってた。

 ずっとずっと(わら)ってた。

 こっちも(たの)しくなった。

 だから」


それを()いた(うみ)(あるじ)は、何回(なんかい)かうなずくと、

会場(かいじょう)(すみ)っこにいるヒトデたちの(ほう)を見て、足の先を()け、

(たず)ねました。

「そなたらは、

 あの赤きモノのダンス、どう(おも)った?」


ヒトデたちは、しばらくの(あいだ)

(からだ)のまん中を(たか)くしたり(ひく)くしたりして、その()でモゾモゾしていましたが、

やがて、

1ぴきが海中(かいちゅう)()き上がって、くるりん・・・と(まわ)ってから岩盤(がんばん)に下りると、

ほかのヒトデたちも次々(つぎつぎ)海中(かいちゅう)()き上がって、

あっちでも、こっちでも、

くるりん・・・くるりん・・・と(まわ)(はじ)めました。


(うみ)(あるじ)は、

みんなでせっせと()(つづ)けているヒトデたちを見て、

また、何回(なんかい)かうなずきます。

そして、

ギョロッとした大きな目を、ふたたびチョッキの魚へ()けると、

その重々(おもおも)しい(こえ)(ひび)かせ、(はなし)(はじ)めました。

「わかったであろう。

 あの赤きモノは、

 優勝(ゆうしょう)するための、上手(じょうず)なダンスを(おど)ろうとしたのではない。

 (みな)(たの)しんでもらうための、(たの)しいダンスを(おど)っていたのだ」


「・・・」


「チョッキのモノよ」


(あるじ)(きゅう)()ばれたチョッキの魚は、

あわてて(かお)を上げ、返事(へんじ)をします。

「は、はい」


「そなたに、ひとつ(たず)ねよう」


「はい」


「先ほどワシは、

 あの赤きモノは、(みな)(たの)しんでもらうための、(たの)しいダンスを・・・と(かた)った。

 (みな)とはだれのことか、わかるか」


「はい、わかります。

 ここにいる、みんなです」


(うみ)(あるじ)は、うなずきました。

「そうだ。ここにいる(みな)だ。

 心()言葉(ことば)()げていたモノたちを(ふく)めて、な」


「・・・」

チョッキの魚は、(だま)って下を()きました。

会場(かいじょう)にいる(うみ)の生き(もの)たちも、下を()いています。


(うみ)(あるじ)は、

(すこ)()()いてから、ふたたび(はなし)(はじ)めました。

「ワシは、あの赤きモノをずっと見ていた。

 (おど)っているときも、途中(とちゅう)で休んでいるときも、

 ずっと見ていた。

 目を(はな)すことができなかったのだ」


「・・・」


大勢(おおぜい)から、どんなにイヤなことを()われようとも、

 どんなにツライ言葉(ことば)()かれようとも、

 いっしょうけんめい(わら)っておったし、いっしょうけんめい(おど)っていた。

 (みな)(たの)しんでもらおう・・・と、

 ただ、それだけを(かんが)えていた。

 心の(いた)みに()えつつも、

 (みな)のためを(かんが)え、必死(ひっし)(わら)って(おど)(つづ)けていた」


「・・・」


「ワシは、目を(はな)すことができなかった。

 (いた)みに()けぬ、(つよ)い心と、

 他者(たしゃ)(おも)いやる、(きよ)い心、

 その2つの心から生み出される、(とうと)(うつく)しいダンスから、

 ワシは、

 一瞬(いっしゅん)たりとも、目を(はな)すことができなかったのだ」


「・・・」


「ダンスが()わって、

 赤きモノがおじぎをし、()っていくとき、

 その、小さな(うし)姿(すがた)を見(おく)りながら、

 ワシの心は、

 なんとも()えない、ふしぎな(あつ)感情(かんじょう)に、

 ただただ()(ふる)えておったよ」


「・・・」


感動(かんどう)しておったのだ」


「・・・」


(みな)も、そうだったのではないのか。

 だからこそ、

 その()(ぎわ)に、あたたかい(ねぎら)いの言葉(ことば)(おく)っていたのではないのか」


「・・・」


「あの赤きモノは、(たし)かに自由(じゆう)(およ)げないかもしれぬ。

 ほかとは(すこ)(こと)なる、()わった見た目をしておるかもしれぬ。

 だがな・・・」


「・・・」


(おぼ)えておくがよい。

 それらは、ダンスの(うつく)しさには(なん)影響(えいきょう)もないのだ。

 他者(たしゃ)の心を(うご)かすことに、他者(たしゃ)感動(かんどう)させることに、

 それらは(なん)障害(しょうがい)にもならぬのだ」


「・・・」


「あの赤きモノは、(けっ)して(おと)ってはいない。

 (なさ)けない魚でもないし、ダメな魚でもない」


「・・・」


素晴(すば)らしい魚だ」


「・・・」


(あた)りは、シーンとしています。

()こえてくるのは、

いつもと()わらぬ、(しお)(なが)れる音だけでした。

ときどき(おだ)やかに、会場(かいじょう)全体(ぜんたい)(ひび)いてます。

くり(かえ)し、くり(かえ)し、

(ひび)いてます。



「エビたちのラインダンスのあと・・・だったと(おも)うが」

(うみ)(あるじ)が、

しばらくしてから、そう()いました。


(すこ)(おく)れて、

チョッキの魚が、

「・・・え?」と小さく(こえ)()らして、(かお)を上げました。

その口をわずかに()けたまま、目を大きくしています。

(あるじ)(はなし)(つづ)けます。

「そなたは、

 あのときも、(いま)(おな)じチョッキを()て、

 ダンスをひろうした」


「・・・」


「チョッキを見せびらかすだけのダンスだった」


「・・・」


今回(こんかい)(ちが)った」


「・・・」


「ひと目でわかった」


「・・・」


素晴(すば)らしいダンスだった」


「・・・」


「ただ、心だけが()りてなかった」


「・・・」


「それだけだ」


「・・・」


次回(じかい)も、(たの)しみにしている」


「・・・はい」

チョッキの魚は、

(あたま)をペコリと下げると、(うし)ろを()()きました。

(かお)をうつむけ、

その()で、じっとしていましたが、

やがて、

そのまま、(かお)を上げずに(およ)(はじ)めます。

会場(かいじょう)にいる魚たちが、(みち)次々(つぎつぎ)()けていきます。


赤い魚の(まえ)に、たどり()きました。

(いわ)()りかかっている赤い魚は、チョッキの魚を見ています。

チョッキの魚は、うつむいたままでした。

(だま)っています。

赤い魚も、(だま)っています。

(しず)かに見ています。


チョッキの魚は、

(すこ)ししてから、(かお)を上げました。

そして、

「アンタが優勝(ゆうしょう)だ」と()って、

ニッコリと(わら)いました。


赤い魚は、ビックリしました。

「え?。

 は、はい、ありがとうございます」

そう()って、あわてて(あたま)を下げると、

チョッキの魚は(わら)いました。

「・・・どうして、オレなんかにお(れい)()うんだ?」


「え?。あ、そうか、

 (たし)かにそうよね、ごめんなさい」

赤い魚は、

また、あわてて(あたま)を下げました。

それを見たチョッキの魚は、また(わら)いました。

「・・・ほら、早く()けよ。

 (あるじ)さまが()ってる」


チョッキの魚が、そう(こえ)をかけると、

赤い魚は、

「あ!、そうだった。

 ワタシ、早く()かなきゃ」

()って、()りかかっていた(いわ)から(はな)れました。

(からだ)(なな)めに(かたむ)けたまま、

1ぴきで、ポンポン・・・と(およ)(はじ)めました。


「おーい」

チョッキの魚の(こえ)が、(うし)ろから()こえました。

赤い魚は、海底(かいてい)をけとばすのやめました。

すぐに()()きます。

「なーに?」


「イチャモンつけて(わる)かったよ。

 (つぎ)は、絶対(ぜったい)オレが優勝(ゆうしょう)するからなー」


赤い魚は、笑顔(えがお)になりました。

チョッキの魚に(あたま)を下げると、(あるじ)(ほう)()(なお)し、

ふたたび、ポンポンと(およ)いでいきます。



(うみ)(あるじ)の、まん(まえ)まで()ました。

赤い魚は、巨大(きょだい)(あるじ)(かお)を見上げました。

(あたま)をペコリと下げ、一礼(いちれい)します。

そして、

(すこ)ししてから(あたま)を上げ、

巨大(きょだい)(あるじ)(かお)を、あらためて見上げました。


(うみ)(あるじ)は、

小さな赤い魚を見て、ゆっくりと2(かい)うなずき、

その大きな目を(ほそ)めて()いました。

()いダンスを見せてもらった」


「は、はい。

 ありがたきしやわ、しやわ・・・ん?、」

(あたま)を下げた赤い魚は、

そのまま、(かお)をちょっと(よこ)(かたむ)けました。

じっと(かんが)えています。

しかし、

ハッ・・・とした表情になると、あわてて(あたま)を上げて、

「あ!、間違(まちが)えた!。

 ありがたき(しあわ)せ、だった!。

 ありがたきしやわせー」

と、すぐさま()(なお)して、

また、深々(ふかぶか)(あたま)を下げました。

(あるじ)は、

(ほそ)めていた目をますます(ほそ)めて、大いに(わら)いました。

そうして、(すこ)ししてから(わら)うのをやめると、

表情(ひょうじょう)(もど)し、真剣(しんけん)(かお)つきになり、

海底(かいてい)にいる、小さな赤い魚を、

そのギョロッとした目で、あらためて見つめました。

赤い魚も、

自分(じぶん)正面(しょうめん)にそびえ立つ、はるかに巨大(きょだい)(あるじ)(かお)を、

(しず)かに見上げます。


「・・・では、そなたに優勝(ゆうしょう)のほうびを()らす。

 (ねが)いを()うがよい」

重々(おもおも)しい(こえ)が、(あた)りに(ひび)きました。

赤い魚は、(かお)を下に()けました。

岩盤(がんばん)をじっと見ています。

そうして、

()せていた(かお)を、(すこ)ししてからゆっくりと()こすと、

(あるじ)の大きな(かお)を見上げて、

口を(ひら)きました。

「ワタシ・・・、

 ワタシ、自由(じゆう)(およ)げるようになりたい」


自由(じゆう)に、とな」

(あるじ)が、その言葉(ことば)をくり(かえ)すと、

赤い魚は、

「はい」と、うなずきました。

そして、ふたたび口を(ひら)くと、

自分(じぶん)(ねが)いを、自分(じぶん)(おも)いを、

(うみ)(あるじ)に、

はっきりとした(こえ)(つた)えました。

「ワタシ、自由(じゆう)(およ)げるようになりたい。

 空を、

 この(うみ)の上に(ひろ)がる()てしない空を、自由(じゆう)(およ)げるようになりたい」


会場(かいじょう)が、ザワッとしました。

(すこ)()()いて、

(あるじ)の、重々(おもおも)しい(こえ)(ひび)きました。

「空を、とな」


「はい」


可能(かのう)だ。だが・・・」


「・・・」


「空を(およ)ぐ魚となったあかつきには、

 そなたは、

 この(うみ)には、もう二度(にど)(もど)ってきてはならぬ。

 そういう()まりなのだ。

 (のこ)りの一生(いっしょう)を、空で()ごすことになろう。

 それでも(かま)わぬか?」


会場(かいじょう)が、

また、ザワッとしました。


「・・・(かま)いません」


赤い魚の、りんとした(こえ)が、

(すこ)ししてから、(あた)りの(うみ)(ひび)きました。

大きな(あるじ)は、

赤い魚を、じっと見つめます。

それは、

1ぴきの、ちっぽけな魚でした。

自分(じぶん)の足先に()いた、一番(いちばん)小さな吸盤(きゅうばん)よりもさらにさらに小さい(からだ)の、

とてもちっぽけな魚でした。

でも、

その、ちっぽけな魚は、

自分(じぶん)の大きな2つの目を、

(すこ)しも(ひる)むことなく、まっすぐ(あるじ)()(つづ)けています。

とても力(づよ)い、決意(けつい)()ちた目です。

(よわ)さや(まよ)いは、どこにも見()たりません。


「・・・わかった。

 そなたの(ねが)い、()()れよう」

(うみ)(あるじ)は、そう口にしてから、

足を1本、()ち上げました。

(なに)かのじゅもんを(とな)える(こえ)が、ボソボソと(ひび)(はじ)めます。

そうして、

やがて、そのボソボソ(ごえ)()まると、

(あるじ)は、

()ち上げていた足の先っぽを、赤い魚のおでこにゆっくりと(ちか)づけました。

赤い魚の(からだ)が、ぽおっと白く(かがや)きます。

でも、

その白い(かがや)きは、すぐに()えてしまいました。

(あるじ)は、

赤い魚に(ちか)づけていた足を(もど)してから、()いました。

「・・・満月(まんげつ)()かぶ(よる)、ダンスを(おど)るがよい」


赤い魚は、

自分(じぶん)(からだ)をせっせと見(まわ)し、

どこが()わったのか、いっしょうけんめい(たし)かめていましたが、

その(あるじ)言葉(ことば)()いて、(うご)きを()めました。

(あるじ)(かお)をふたたび見上げて、(たず)ねます。

「ダンス、ですか?」


(あるじ)は、うなずきました。

「そうだ。

 空に満月(まんげつ)()かぶ(よる)

 その月()かりのもと、ダンスを(おど)るがよい。

 さすれば、

 そなたは月に(みと)められ、月の(たみ)となり、

 空を自由(じゆう)(およ)(まわ)る、1ぴきの(ひか)(かがや)く魚となろう。

 ただし、ゆめゆめ(わす)れるな。

 この(うみ)には、もう二度(にど)(もど)ってきてはならぬ。

 よいな?」


赤い魚は、うなずきました。

「はい、(あるじ)さま」



(よる)になりました。

会場(かいじょう)は、(いま)(くら)く、

ひっそりと(しず)まり(かえ)っています。


「だいぶ()たせてしまったな」

重々(おもおも)しい(こえ)()こえました。

1ぴきで空を見上げていた赤い魚は、

すぐに、そちらを()(かえ)ります。

(うみ)(あるじ)が、

何本(なんぼん)かの足で、(かた)岩盤(がんばん)(まわ)りの大岩(おおいわ)次々(つぎつぎ)とつかみながら、

こちらへ(ちか)づいてきます。


「いえ、

 ワタシも、ちょっと休んでいきたかったので、

 ちょうど()かったです」

そう(かえ)した赤い魚は、

自分(じぶん)の目の(まえ)()た、大きな(からだ)(うみ)(あるじ)を見上げました。

(あるじ)は、赤い魚を見て()いました。

「そうか・・・」


「それで、ワタシに(よう)とは(なん)でしょうか」

赤い魚が(たず)ねると、

(うみ)(あるじ)は、

自分(じぶん)の大きな(あたま)を、赤い魚に()かって深々(ふかぶか)と下げました。

「すまなかった」


赤い魚は、ビックリしました。

「え?、え?、

 どうして・・・」


あわてふためき、目を白黒(しろくろ)させている赤い魚に、

(うみ)(あるじ)は、

(あたま)を下げたままで、(こた)えました。

「あのとき、

 本当(ほんとう)はダンスを()めるべきだったのに、ワシは()めなかった。

 それを(あやま)りたい。

 すまなかった」


「・・・あのとき、ですか?」


「ケガをしているのだろう?」


「!」


「あれは(つか)れて休んでいたのではない。

 (いた)みで(うご)けなかったのであろう。

 (ちが)うか?」


「・・・」


「その()も、

 (かた)岩盤(がんばん)(からだ)をこすりつけ、(まわ)っていたおかげで、

 ウロコが、何枚(なんまい)かはがれ()ちてしまったのだろう?。

 赤い(からだ)で目立たぬが、

 ()も、にじんでいるのだろう?」


「・・・」


本当(ほんとう)は、あのときに()めるべきだった。

 だが、ワシはそれをしなかった。

 そなたのダンスを、もっと見ていたかったのだ。

 最後(さいご)まで見ていたかったのだ」


「・・・」


「すまなかった」

(うみ)(あるじ)が、

(あたま)を下げたまま、あらためて(あやま)りの言葉(ことば)を口にすると、

赤い魚は、あわてて()いました。

「いえいえ!、どうか(あやま)らないでください。

 (わる)いのはワタシです。

 あのとき、

 ケガしたことを()らせずに、ムリして(おど)(つづ)けたワタシが(わる)いんです。

 おかげで、(あるじ)さまにご心配(しんぱい)を・・・、」

そこまで口にして、ハッと気づきました。

赤い魚も、すぐさま(あたま)を下げます。

「すみませんでした!。

 (あるじ)さまに、余計(よけい)心配(しんぱい)をさせてしまいました。

 ワタシは、ワタシは・・・。

 すみませんでした!」


(うみ)(あるじ)は、

それを()き、(あたま)()こしました。

「そなたも、おもてを上げなさい」


「・・・」

赤い魚は、

(すこ)ししてから、(あたま)をゆっくりと()こしました。

()いています。


「これからは、ちゃんと()いなさい」


「・・・はい、(あるじ)さま」


無事(ぶじ)()かった」

そう()った(うみ)(あるじ)は、目を(ほそ)めて(わら)いかけました。

赤い魚は、(かお)をうつむけたまま、

弱々(よわよわ)しい(こえ)で、

「はい、ありがとうございます・・・」

と、お(れい)()いました。

(うみ)(あるじ)は、

()ちこんだ様子(ようす)の赤い魚を、

しばらくの(あいだ)

(なに)()わずに、じぃっと見ていました。



やがて、(あるじ)が、

自分(じぶん)()()(ほう)へと()きを()えつつ、

()いました。

(きず)(なお)るまで、この(ちか)くで休んでいくがよかろう」


赤い魚は、

「はい。でも・・・」

と口にして、(かお)を上へ()けました。


真夜中(まよなか)の、(しず)かな(うみ)()こうには、

まっ(くら)な空だけが、その一面(いちめん)(ひろ)がっています。

(ほし)も月も、どこにも見()たりません。


心配(しんぱい)せずともよい。

 ここ数日(すうじつ)(あいだ)は、ずっと(あめ)(くも)りだ」


赤い魚は(おどろ)きました。

(あるじ)(ほう)をあわてて()(かえ)り、(たず)ねます。

()っていらしたんですか」


「さあ?、(なん)のことやら・・・」

そう(こた)えた(あるじ)は、

自分(じぶん)()()(あな)ぐらに、そのまま(からだ)をズルズルと(すべ)りこませていきながら、

さらに、

ポツリと、つぶやきました。

「おー、イテテ。

 古傷(ふるきず)(いた)むわい」


(あな)ぐらの(おく)()えていく、(うみ)(あるじ)の大きな大きな(うし)姿(すがた)を見(おく)りつつ、

赤い魚は、

(おも)わず、クスッと(わら)ってしまいました。

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