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Summer Echo  作者: イワオウギ
III
109/293

109.「さっきのオオワライ岩、すごかったね」

「さっきのオオワライ(いわ)、すごかったね」


ニライカナイの(あさ)(うみ)を、ポンポン・・・と(およ)ぎながら、

赤い魚は、

興奮(こうふん)した様子(ようす)で、さらに(つづ)けます。


(なに)かの(おも)たい音が、海中(かいちゅう)(ひび)いたと(おも)ったら、

 (いわ)の下から、(きゅう)にたくさんのあぶくが出てきて、

 それで(いわ)片側(かたがわ)が、

 パカッパカッて、何度(なんど)()ち上がって・・・。

 だからあの(いわ)、オオワライ(いわ)って()ばれてたのね。

 ワタシ、ちっとも()らなかったわ」


ヒカリの魚は(かお)を上げると、

赤い魚のすぐ(となり)で、左にクルリと(まわ)りました。


(つぎ)は、どこがいいかしら。

 オバケウオのねぐらか、(しお)のマヨイミチか、

 それとも・・・」


そう()って、

ヒカリの魚の(ほう)()()こうとした赤い魚でしたが、

すぐさま、

(かお)を、正面(しょうめん)(もど)してしまいました。

そのまま(だま)って(およ)いで、

しばらくしてから、(なに)()わずに()まります。

その()で、

ゆっくりと(かお)をうつむけていきます。


「・・・(からだ)、すけてきてるよ」


赤い魚が、

(すこ)ししてから、

ポツリ・・・と、そう()うと、

(よこ)から、

赤い魚の(かお)を、心配(しんぱい)そうにのぞきこんでいたヒカリの魚は、

(かお)を上げ、

それから、自分(じぶん)()ビレを()(かえ)りました。

そうして、(つぎ)に上を()き、

夜空(よぞら)の月が、

(うみ)()こうに、だんだんと(しず)んでいっているのを(たし)かめると、

また、赤い魚の(ほう)()(なお)しました。

小さく、うなずき、

(かお)を上に()け、

そのまま、空へと(およ)いでいきます。


()って!」


赤い魚は(きゅう)(こえ)を出し、()()めました。

ヒカリの魚は、

(うみ)()び出し、

(しず)みかけの月の(ほう)へと、()をひるがえしたのですが、

すぐに、赤い魚の(ほう)()(なお)しました。

じっと見ています。

赤い魚は、

その、空に(とど)まっているヒカリの魚へ目を()けたまま、

口を(ひら)きました。


「・・・」


でも、(すこ)しすると、

せっかく()けた口を、また()じてしまいました。

(かお)を下にうつむけます。

ヒカリの魚は、

(あさ)(うみ)(そこ)の、砂地(すなち)の上の赤い魚を、

(うみ)の上から、じぃっと見ています。

月は、刻々(こくこく)(しず)んでいきます。



ヒカリの魚が、

突然(とつぜん)、ハッと(かお)を上げました。

(しま)(ほう)へと()きを()えると、

そのまま、

(もう)スピードで、空を(およ)いでいきます。


「・・・あ!、どこ()くのー?。

 ()ってー」


ちょっと(おく)れて気づいた赤い魚は、

ヒカリの魚を、あわてて()(はじ)めました。

空を(およ)ぐヒカリの魚は、マングローブの森に入っていき、

その中を(すす)んでいき、

ひときわ大きなマングローブの手前(てまえ)まで()ると、

そこで、(うみ)()びこみました。

木の根元(ねもと)にあるくぼみの中へと、もぐっていきます。

おそらく、

いっしょに(にじ)を見た、あのタテ(あな)(もど)るつもりなのでしょう。


ヒカリの魚から、だいぶ(おく)れて、

くぼみのフチに、たどり()いた赤い魚は、

()ビレを海底(かいてい)(おも)いっきり(たた)きつけ、大きくジャンプしました。

くぼみの中心を目指(めざ)して、いっきに下りていきます。


()って。

 まだ()かないで。

 あなたに()いたいことがあるの。

 (つた)えたいことがあるの。

 今度(こんど)こそ、

 ワタシ、がんばってそれを()うの。

 だから・・・、だから・・・、

 まだ・・・)



すき()(おく)の、まっ(くら)(ほそ)(みち)を、

(かべ)何度(なんど)もぶつかりながらも、(なん)とか()けて、

出口にたどり()きました。

ヘリから(かお)を出し、下をのぞきこむと、

ヒカリの魚は、

穴底(あなぞこ)を、

あっちこっち、せわしなくウロウロと(うご)(まわ)っていました。

その(からだ)は、

先ほどよりも、

ずいぶんと、すけてきています。


「ねぇ、どうしたのー?」


上から(こえ)をかけましたが、

ヒカリの魚は、(かお)を上げません。

(いま)にも()えそうな(からだ)で、

必死(ひっし)に、(なに)かを(さが)しています。


赤い魚が、

もう一度(いちど)(こえ)をかけてみようと(おも)ったところで、

ヒカリの魚は、

穴底(あなぞこ)の一点を見つめて、そのまま(うご)きを()めました。

口をパクパクと、すばやく(うご)かし、

サッと、(うし)ろに宙返(ちゅうがえ)りします。


穴底(あなぞこ)から、

うす()かりに(つつ)まれた、海草(かいそう)新芽(しんめ)が、

かすかな(にじ)()とともに、()かび上がりました。


ヒカリの魚は、

すぐさま、(かお)を上に()けました。

そして、そのまま、

()かりで(つつ)んだ海草(かいそう)新芽(しんめ)()()れて、

(いそ)いでタテ(あな)を上り(はじ)めます。


()って!」


(もう)スピードで上がってくるヒカリの魚に()かって、(こえ)をかけると、

ヒカリの魚は、

(すこ)()()ぎてから(うご)きを()め、赤い魚の(ほう)()(かえ)りました。

赤い魚は、

そのヒカリの魚を見上げたまま、

口を、おそるおそる(ひら)いていきました。


「・・・またね」


ヒカリの魚は、

赤い魚の、

その、せいいっぱいの(こえ)()くと、

すぐさま、左にクルリと(まわ)りました。

そうして、あらためて上に()(なお)し、

海草(かいそう)新芽(しんめ)とともに、タテ(あな)を上っていき、

出口の()こうに(ひろ)がる、きれいな星空(ほしぞら)へと(かえ)っていきました。


赤い魚は、

その、(とお)ざかっていく姿(すがた)を、

タテ(あな)途中(とちゅう)にあるヘリから、ずうっと見上げていました。

ヒカリの魚の(うし)姿(すがた)が見えなくなっても、

空が、

やがて、うっすらと(あか)るくなり(はじ)めても、

ずうっと、ずうっと、

いつまでも見上げていました。



赤い魚とヒカリの魚は、

それからは、

ほぼ毎日(まいにち)()うようになりました。

(よる)

月が上がり(はじ)めるとやって()るヒカリの魚を、

サンカク(いわ)のところで赤い魚が()っていて、()()って、

そうして、

()かりの()す、(しず)かな(よる)(うみ)を2ひきで(およ)いで、

ときどき()いかけっこをしたり、(うみ)の生き(もの)たちのモノマネをし()ったりして(あそ)んで、

やがて、ヒカリの魚の(からだ)がすけてくると、


「またね」


と、名残(なごり)()しそうに()って、

月に(かえ)っていくヒカリの魚を、赤い魚は(うみ)(そこ)から見(おく)って・・・、

そんな生活(せいかつ)を、(つづ)けるようになりました。



あるとき、

ヒカリの魚が、だいぶ遅刻(ちこく)した日がありました。

月が(かたむ)(はじ)めてから、

ようやく、

赤い魚の()つ、サンカク(いわ)のところに(あらわ)れたのです。


今夜(こんや)は、もう()えないかと(おも)った。

 月が(しず)(まえ)(くも)()れてくれて、ホッとしたわ」


赤い魚が、ニッコリと(わら)って(こえ)をかけると、

ヒカリの魚も、

うれしそうに、左にクルリと(まわ)りました。



ヒカリの魚のやって()時間(じかん)は、

徐々(じょじょ)に、(おそ)くなっていきました。

月が空に(あらわ)れる時間(じかん)が、

日に日に、(すこ)しずつ(おそ)くなっていったからです。


そして、

そうやって、

月の出る時間(じかん)が、だんだんと(おそ)くなっていくと、

ヒカリの魚は、

月が、まだ空(たか)くにあるにも(かか)わらず、

(かえ)ってしまうようになりました。


次第(しだい)に小さくなっていく、ヒカリの魚を見ていた赤い魚が、

(うし)ろを()(かえ)り、月とは反対側(はんたいがわ)の空を見上げると、

まっ(くら)だった空が、

下の(ほう)から、ちょっとずつ(あか)るくなり(はじ)めていました。

ヒカリの魚は、

(よる)(あいだ)しか、こちらにはいられないようでした。


さらに何日(なんにち)()って、

ふっくらとしていた月が、(せん)のように(ほそ)くしぼんだ(ころ)

そして、

その月が、()(がた)とともに空を上り(はじ)め、

(よる)(おとず)れるちょっと(まえ)夕方(ゆうがた)に、(うみ)()こうへ(しず)むようになると、

ヒカリの魚は、ピタリと()なくなってしまいました。


赤い魚は、

一日中、

(いわ)のカゲに、こもるようになりました。

(ほか)の魚たちが、(たの)しそうに(うみ)(およ)(まわ)る中、

1ぴきで、

おとなしく()っていました。

月が、また夜空(よぞら)(あらわ)れる日を、

ヒカリの魚にふたたび()える日を、

ただ(しず)かに(つよ)(おも)って、()(つづ)けました。


しかし、

あるとき、ふと気づきました。

よくよく(おも)い出してみると、

これからは、雨の季節(きせつ)です。

月が、またふくらみ(はじ)めて、

(よる)に上るようになっても、

その空が、ぶ(あつ)(くも)でおおわれていては、

ヒカリの魚には、()うことができません。

うす(ぐら)(いわ)カゲにこもり、

空が()れるのを1ぴきで()つ日が、

何日(なんにち)何日(なんにち)(つづ)くことになります。


赤い魚は、(かお)を下に()けました。

()()んでいるのではありません。

じぃっと(かんが)えています。

そうして、

やがて、()せていた(かお)をゆっくり()こすと、

まっすぐ(まえ)を見て、

(いわ)カゲから()け出していきました。


海底(かいてい)の、広々(ひろびろ)とした砂地(すなち)へと(すす)み出た赤い魚は、

自分(じぶん)の口先を器用(きよう)使(つか)って、

(すな)の上に、

次々(つぎつぎ)と、様々(さまざま)な大きさの円を(えが)いていきます。

そして、

しばらくして、いちばん大きな円のところに(もど)ってくると、

今度(こんど)は、

その(せん)沿()って、ポンポンと(およ)(はじ)めました。


赤い魚は、

円から円へと(うつ)っていきながら、砂地(すなち)の上をせっせと(およ)(まわ)ります。

けれども、

(すこ)しすると、()まってしまいました。

(かお)真上(まうえ)()けています。

(なに)かを(かんが)えています。


やがて、

赤い魚は、(すな)の上に()そべりました。

()ビレを(おも)いきり(たた)きつけ、まっすぐ(たか)くジャンプして、

その()

うずを()くように小さく(まわ)りながら、クルクルと下りていきます。

でも、そのクルクルは、

途中(とちゅう)であっちに()ったり、こっちに()ったりして、

ちっともきれいに(まわ)れませんでした。


砂地(すなち)に下りた赤い魚は、

すぐに、(うえ)()きました。

目を(うご)かし、

(うみ)の中に、小さな()(えが)きます。

何度(なんど)何度(なんど)(えが)きます。

そうして、しばらくすると、

また、(すな)の上に()そべりました。

ふたたび、()ビレを(おも)いきり(たた)きつけ、

(たか)くジャンプし、

また、

あっちに()ったり、こっちに()ったりしながら、

クルクルと下りてきました。


赤い魚は、その日、

一日中、そのジャンプをくり(かえ)しました。



あくる日の(あさ)

赤い魚は、

きょうも、たくさんの円が(えが)かれた砂地(すなち)にいました。

円から円へと(うつ)りつつ、

(せん)の上を、ひたすらポンポンと(およ)いでいます。


あのジャンプは、

結局(けっきょく)、1(かい)成功(せいこう)しませんでした。

()ビレの(いた)みが、しばらくして()いたときに、

あらためて挑戦(ちょうせん)してみよう・・・と、(おも)っていました。



夕方(ゆうがた)になると、

2ひきの(くろ)い魚たちが、上を(とお)りかかりました。

砂地(すなち)の上で、

1ぴきで、せっせと(うご)(まわ)っている赤い魚を見て、

(くろ)い魚の片方(かたほう)が、()いました。


「アイツ、

 あんなところで(なに)やってんだ?」


すぐに、もう片方(かたほう)()いました。


「さぁ?。

 ダンスでも(おど)ってるんじゃないの?」


「あれでダンス?。

 (すな)の上をはいつくばって(およ)いでいるアレが?」


「たぶん」


「まさかアイツ、

 (つぎ)のダンス大会(たいかい)に、あんなカッコ(わる)(おど)りで出るつもりなのか?。

 アレで、優勝(ゆうしょう)するつもりなのか?」


「たぶん。

 アイツ、オレたちみたいに(うみ)自由(じゆう)(およ)げないから、

 アレしかできないんだ。

 アレが、せいいっぱいなんだ」


「あんなダンスじゃ、だれにも()てっこないぜ。

 生まれたての、オレの子どもにだって()てないぜ」


(くろ)い魚たちは、

2ひきで、大いに(わら)いました。


「おっと、早くダンスの練習(れんしゅう)()こうぜ。

 アイツには()けないが、(ほか)のヤツには()けるかもしれない」


「お(まえ)

 優勝(ゆうしょう)したときの、(うみ)(あるじ)さまに(かな)えてもらう(ねが)い、

 もう()めたのか?」


「いや、まだだ。

 お(まえ)は?」


「オレも、まだ。

 まぁ、

 ダンス大会(たいかい)まで、あと20日以上(いじょう)(のこ)ってるんだ。

 ゆっくり()めるさ。

 さぁ、早く練習(れんしゅう)()かおうぜ」


「おっと、そうだった。

 こんな、できの(わる)いダンスを見ているヒマなんか()かった。

 ()こう()こう」


(くろ)い魚たちは、そう()って(およ)()りました。

赤い魚には、

その、(くろ)い魚たちの会話(かいわ)()こえていました。

でも、関係(かんけい)ありませんでした。

ただひたすらに、

いっしょうけんめい、ダンスの練習(れんしゅう)をし(つづ)けました。



数日(すうじつ)()ちました。

月がまたふくらみ(はじ)めて、三日月(みかづき)(もど)ると、

太陽(たいよう)(しず)んだあとの夜空(よぞら)に、月が(のこ)るようになりました。

その、空に(のこ)った三日月(みかづき)は、

太陽(たいよう)()って、

すでに、だいぶ(かたむ)いてきていました。

あと(すこ)しで、(しず)んでしまいます。

それでも、

サンカク(いわ)のところで、月を見上げて()っていると、

ヒカリの魚は空を(およ)いで、

赤い魚のところへと、やって()ました。


「ワタシのこと、

 ちゃんと(おぼ)えていてくれたのね。

 ()かった・・・。

 ひさしぶり。元気(げんき)だった?」


赤い魚が、そう(こえ)をかけると、

ヒカリの魚は、

(かお)を上げ、左にクルリと(まわ)りました。

そして、

口をパクパクさせ、サッと(うし)ろに宙返(ちゅうがえ)りし、

自分(じぶん)(かお)に、

赤い魚と(おな)じ、大きな目を(つく)りました。

(ほし)が、

きれいに、またたいていました。



それからは、

(よる)(あいだ)はヒカリの魚と(あそ)んで、

そのあと、

砂地(すなち)の上で、

1ぴきでダンスの練習(れんしゅう)をする生活(せいかつ)(はじ)まりました。


ヒカリの魚とは、

(はじ)めの1週間(しゅうかん)くらいは、ほぼ毎日(まいにち)のように()えていましたが、

月が半月(はんげつ)()ぎた(ころ)から、(くも)りや雨の日が()えていき、

だんだんと()えなくなっていきました。


そんな日は、

赤い魚は、

一日中、ダンスの練習(れんしゅう)(はげ)みました。

自分(じぶん)優勝(ゆうしょう)できるとは、(すこ)しも(おも)っていませんでした。

それでも赤い魚は、

(なに)かをやらずには、いられませんでした。

(うご)かずには、いられなかったのです。


ダメだったときは、(べつ)方法(ほうほう)(かんが)えよう。

(いま)は、

ただ、ひたすらにがんばろう。

()いのないよう、

(いま)自分(じぶん)にできる、せいいっぱいのことをしよう。


そう(おも)って、

()る日も()る日も、ダンスの練習(れんしゅう)(つづ)けました。



そして、

月が(ふと)くなっていき、

やがて、まん(まる)満月(まんげつ)へと()わって、

それから、ふたたび(ほそ)くなっていき、

また、半月(はんげつ)(もど)った(ころ)

ついに、

その日が、やって()ました。


ダンス大会(たいかい)の日が、やって()たのです。

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