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Summer Echo  作者: イワオウギ
III
107/292

107.明くる日の夕暮れ

()くる日の夕()れ、

赤い魚は、

きのうと(おな)じ、サンカク(いわ)のところで()っていました。

(うみ)()こうに(ひろ)がっている(そら)の、きれいなオレンジ色が、

時間(じかん)とともに、(すこ)しずつ(くろ)へと()わっていくのを見上げたまま、

1ぴきで、

(しず)かに()っていました。



()もなく、(よる)(おとず)れました。

小さな(ほし)たちが、すっかり(くら)くなった(そら)いっぱいに(かがや)いています。

そして、(すこ)しすると、

その(うつく)しい星空(ほしぞら)の、はるか下の(ほう)

まっ(くろ)(うみ)との(さかい)()に、

白色の、ぽおっとした()かりが(あらわ)れました。


月です。


今日(きょう)は、まん(まる)ではありません。

きのうより、

ほんのちょっとだけ、ほっそりとしています。

月は、夜空(よぞら)をゆっくりと上がっていきます。


(うみ)(そこ)の、赤い魚は、

その、次第(しだい)に上がっていく月を見ていました。

片時(かたとき)も目を(はな)すことなく、

いっしょうけんめい見ています。



月が、だいぶ(たか)くなってきた(ころ)

ふいに、夜空(よぞら)(なに)()いところで、

一瞬(いっしゅん)だけ、(なに)かが小さく(ひか)りました。

月の、ちょっと下の(あた)りです。

赤い魚は、(あたま)(ひく)くしました。

じぃっと目をこらします。


(おも)ったとおり、

きのうの、あのヒカリの魚でした。

(そら)をスイスイと(およ)いで、こちらの(ほう)へと()かって()ています。


赤い魚は、

(ひく)くしていた(あたま)を、パッと上げました。

口を小さく()けたまま、

その大きな目を、まっすぐヒカリの魚へ()けています。


ヒカリの魚は、

やがて、

()かりの()しこむ、とう(めい)(うみ)の中に、

そのまま()びこみました。

海面(かいめん)(ちか)いところを、

あっちこっち、ウロウロと、

機嫌(きげん)()さそうにして(およ)いでいます。


そのヒカリの魚の、(およ)(まわ)っている姿(すがた)を、

大きな2つの目で、ずうっと()っていた赤い魚は、

ちょっとしてから、

口を大きく()けました。

そうして、

(おも)いきり(こえ)を出そうとしたところで、(うご)きをピタッと()め、

しばらくして、

せっかく()けた口を、

また、ゆっくりと()じていきました。


上の(ほう)元気(げんき)(およ)(まわ)っているヒカリの魚を、

うす(ぐら)(うみ)(そこ)から、

ただ、じぃっと見上げています。



ヒカリの魚が、

ふいに、赤い魚の(ほう)(かお)()けました。

気づいたようです。

(かお)を上げ、左にクルリと(まわ)ると、

そのまま(うみ)(そこ)へと、(いそ)いで下りてきました。


「あ、あの・・・、

 は、は、はじめまして」


赤い魚は、自分(じぶん)の目の(まえ)()たヒカリの魚に、

そう、あいさつをしました。

(こえ)(すこ)し、裏返(うらがえ)っていました。


ヒカリの魚は、

まっ白い、のっぺらぼうの(かお)で、

じっと、赤い魚の様子(ようす)をうかがっていましたが、

ちょっとしてから、

(かお)(よこ)に、小さく(かたむ)けました。


「・・・あ!、間違(まちが)えた。こんばんは、だった。

 こ、こんばんは」


赤い魚が、あわてて()(なお)すと、

ヒカリの魚は、すぐさま(かお)を上げ、

左にクルリと(まわ)りました。

赤い魚は、

それを見て、ホッとしました。

そして、


「あのね、プレゼントがあるの。

 ほら、

 きのうと、その(まえ)の日、

 あなたが海草(かいそう)()()ってきてくれたでしょ?。

 そのお(れい)よ」


()って、

(よこ)に、ちょこんと移動(いどう)しました。

赤い魚のいた場所(ばしょ)の、サラサラとした砂地(すなち)の上には、

小さな海草(かいそう)()が、1つだけ()ちていました。

でも、それは、

ふつうの()とは、ちょっとだけ(ちが)っていました。

(みどり)色の、ちっちゃなシッポが1本、

にょきっと()えていました。


海草(かいそう)の、出たばかりの新芽(しんめ)よ。

 ふんわりしてて、とってもおいしいの。

 どうぞ、めし上がれ」


その新芽(しんめ)は、

赤い魚が、

(あさ)から、(ひろ)(うみ)(そこ)を1ぴきで(さが)(つづ)けて、

それで、

夕方(ゆうがた)(ちか)くになって、ようやく見つけたものでした。


ヒカリの魚は、(かお)を上げ、

左に、

クルリ、クルリ、クルリ・・・と、

(いきお)いよく、3(かい)()(えが)きました。

それから、

海草(かいそう)新芽(しんめ)(ほう)(かお)()け、口をパクパクと(うご)かすと、

そのまま、

すばやく、サッと(うし)ろに宙返(ちゅうがえ)りしました。

新芽(しんめ)が、

たちまち、まぶしい白い()かりに(つつ)まれ、

()き上がっていきます。


ヒカリの魚は、

その、

次第(しだい)(たか)くなっていく、まぶしい()かりに()わせて、

(かお)を、上に()けていきます。

そうして、()かりが、

ちょうど、自分(じぶん)真上(まうえ)()たところで、

()ビレを、スッと(かる)()りました。


まぶしい()かりが、

突然(とつぜん)、フッ・・・と()え、

中から(あらわ)れた新芽(しんめ)が、

下で()(かま)えているヒカリの魚の(ほう)へと、

ゆっくり()ちていきます。

ヒカリの魚は、口を大きく()けました。


・・・、

・・・、

・・・パクッ。


ヒカリの魚は、

まっ白い(からだ)を、ちょっとだけ上に(なが)()ばして、

(いきお)いよく、()いつきました。

新芽(しんめ)は、

ヒカリの魚の、口の中へと()えました。


「どう?、おいしい?」


感想(かんそう)()かれたヒカリの魚は、

(かお)を、赤い魚の(ほう)()けました。

そうして、

(つづ)けて左にクルリ・・・と、半分(はんぶん)だけ(まわ)ったところで、

(きゅう)に、(うご)きを()めてしまいました。

(かお)を、そうっと下へ()けていきます。


まっ白い砂地(すなち)に、

()べたはずの海草(かいそう)新芽(しんめ)(ころ)がっていました。



ヒカリの魚は、

また、口をパクパクと(うご)かし、

サッと(うし)ろに宙返(ちゅうがえ)りをしました。

新芽(しんめ)が、まぶしい()かりに(つつ)まれ、

(たか)()き上がっていきます。

ヒカリの魚は、

ちょっと()ってから、

()ビレを、スッと(かる)()りました。


・・・、

・・・、

・・・パクッ。


海草(かいそう)新芽(しんめ)は、

しかし、

ヒカリの魚の、ぽおっと(あか)るい(からだ)(とお)()け、

ふたたび、(すな)の上に()ちてしまいました。


ヒカリの魚は、(うみ)(そこ)()(かえ)りました。

自分(じぶん)真下(ました)(ころ)がっている新芽(しんめ)確認(かくにん)すると、

(すこ)ししてから、

そこへ、ゆっくりと(かお)(ちか)づけていきました。

そのまま、じぃっと(うご)きを()めています。


「ごめんね。

 あなたが()べられないこと、()らなかったの・・・」


赤い魚が、

それを見て、(もう)(わけ)なさそうに()いました。


ヒカリの魚は、新芽(しんめ)(かお)(ちか)づけたまま、

まだ、じぃっとしています。

そして、しばらくすると、

口を、またパクパクと(うご)かし(はじ)めました。

新芽(しんめ)が、まぶしい()かりに(つつ)まれ、

()き上がり(はじ)める・・・と同時(どうじ)に、

ヒカリの魚は、

すばやく(からだ)()ばし、()いつきました。


パクッ。


・・・、

・・・、

・・・。


新芽(しんめ)()いついたまま、

その()で、ピタッと(うご)きを()めているヒカリの魚を、

赤い魚は、

(だま)って見つめています。

大きな2つの目を、ちょっとしてから下へ()け、

すぐに、ヒカリの魚に(もど)します。

(ねん)のため、

様子(ようす)を、もうしばらく見てみます。

海草(かいそう)新芽(しんめ)は、

でも、

いくら()っても()ちてきませんでした。


「やったぁ!。

 ちゃんと()べれてるー。

 やったぁ、やったぁ!」


赤い魚が、

海底(かいてい)()(まわ)って、(よろこ)ぶと、

ヒカリの魚は(かお)を上げ、

うれしそうに、左にクルリと(まわ)りました。

そのとき、


「あっ」


赤い魚は、(こえ)を上げました。

ヒカリの魚が(うご)いたあとの場所(ばしょ)に、

まぶしい()かりに(つつ)まれた新芽(しんめ)が、プカプカと()いていました。


ヒカリの魚は、あわてて新芽(しんめ)(ほう)()(かえ)ります。

そうして、

また、パクッと()いつくと、

口を()じたまま、

そうっと、そうっと移動(いどう)していきました。

(すこ)ししてから、

あらためて、(うし)ろを()(かえ)ります。


だいじょうぶでした。

()かりに(つつ)まれた新芽(しんめ)は、

今度(こんど)は、

ヒカリの魚が(うご)くのに()わせて、ちゃんといっしょに(うご)いているようです。


ヒカリの魚は、

ときどき(うし)ろを()(かえ)りつつ、ウロウロと(およ)(まわ)りました。

そして、問題(もんだい)()いことを(たし)かめると、

赤い魚のところに、ふたたび(もど)ってきました。


海草(かいそう)新芽(しんめ)、ずうっと()ってるの大変(たいへん)そうだから、

 ワタシが()べてあげようか?」


赤い魚が、

いたずらっぽい()みを()かべて、そう(たず)ねると、

ヒカリの魚は、

まっ白い(かお)を、プイッ・・・と(よこ)にそむけました。


「じょうだんよ、じょうだん。

 あなたへのお(れい)(しな)だもの。

 (よこ)()りなんてしないわ」


赤い魚は、クスクスと(わら)いました。


海草(かいそう)新芽(しんめ)(よろこ)んでくれた?」


赤い魚が()いてみると、

ヒカリの魚は、すぐに(かお)を上げました。

左に、

クルリ、クルリと(まわ)ります。

そうして、そのまま、

赤い魚の(からだ)(よこ)へと、気分(きぶん)()さそうに(およ)いでいき、

()けた()ビレに(かお)(ちか)づけ、

口をパクパクと(うご)かし(はじ)めました。


けれども、その途中(とちゅう)で、

ヒカリの魚は、口を(うご)かすことをやめてしまいました。

(かお)を下に()け、

じっと、うなだれています。


「・・・どうしたの?」


赤い魚が(たず)ねてみると、

ヒカリの魚は、(かお)を赤い魚の(ほう)()け、

それから、

(つぎ)に、上へと()けました。

赤い魚も、(かお)を上へと()けました。

そちらを見てみます。


月がありました。

(うみ)の上に(ひろ)がる、(ほし)いっぱいの夜空(よぞら)の中で、

月が、

ひときわ(あか)るく、ぽおっと(かがや)いています。


赤い魚は、見上げるのをやめて、

ヒカリの魚の(ほう)()(なお)しました。

ヒカリの魚は、

まだ、しょんぼりとしています。


「・・・(おこ)られちゃったの?」


(たず)ねてみると、ヒカリの魚は、

うなだれたまま、

小さく、うなずきました。


「だいじょうぶ。ワタシ、このままでも平気(へいき)よ。

 こうやって、ちゃんと(およ)げるんだから」


赤い魚は、ヒカリの魚の(まわ)りを、

ポンポン・・・と、元気(げんき)(およ)(まわ)りました。

ヒカリの魚は、

いったん、(かお)を上げましたが、

また、すぐに下を()いてしまいました。


「ほらほら、元気(げんき)出して。

 (いま)からワタシが、おもしろい場所(ばしょ)()れていってあげるから」


赤い魚が、(およ)ぐのをやめて(こえ)をかけると、

ヒカリの魚は、

(かお)を、パッと上げました。

そのまま、赤い魚の様子(ようす)を、

じぃっと、うかがっています。


「・・・()きたい?」


ちょっと()()いてから、赤い魚が(たず)ねてみると、

ヒカリの魚は、

こくんこくん・・・と、

(かい)も、うなずきました。


「わかったわ。

 じゃあ、さっそく()かいましょ」


赤い魚は、(うし)ろを()(かえ)り、

ポンポン・・・と、

()ビレで海底(かいてい)をけとばして、(すな)の上を(およ)(はじ)めます。

ヒカリの魚は(かお)を上げると、すばやく左にクルリと(まわ)りました。

すぐさま、赤い魚に()いつき、

(よこ)(なら)んで、いっしょに(およ)いでいきます。


「そこはね、すっごくきれいなところでね、

 ワタシだけが()ってる、とっておきの秘密(ひみつ)場所(ばしょ)なの。

 海底(かいてい)のそこら(じゅう)に、

 サラサラの(すな)やジャリの()わりに、

 とっても小さなガラス(だま)が、いっぱい()もっていてね、

 それで・・・」


そう()って、チラリと(よこ)を見たのですが、

ヒカリの魚の姿(すがた)がありませんでした。

赤い魚は、あわてて(うし)ろを()(かえ)ります。

ヒカリの魚は、

(すこ)(はな)れたところで()まっていました。

口をパクパクと(うご)かしています。


赤い魚が、(だま)って様子(ようす)を見ていると、

ヒカリの魚は、

やがて、

サッと、(うし)ろに宙返(ちゅうがえ)りをしました。

そのまま、

赤い魚が()っている場所(ばしょ)へと、(およ)ぎ出します。

その、(ちか)づいてくるヒカリの魚の(かお)には、

まっ(くろ)い、2つの大きな目が()いていました。



ヒカリの魚が、赤い魚の(まえ)にやって()ました。

しかし、

赤い魚は、(およ)ぎ出そうとしませんでした。

(かお)を下に()けたまま、

じぃっとしています。


ヒカリの魚は、(かお)(よこ)(かたむ)けました。

赤い魚に、(すこ)しずつ(ちか)づいていきます。

そして、その表情(ひょうじょう)を、

そうっと、のぞきこんだところで、

ヒカリの魚は、

ハッと、(かお)を上げました。

すぐさま、口をパクパク(うご)かすと、

サッと(うし)ろに宙返(ちゅうがえ)りし、

自分(じぶん)の目を、あわてて(つく)(なお)しました。


ヒカリの魚の(かお)には、

さっきまでと(おな)じ、

宇宙(うちゅう)のような、まっ(くろ)い大きな目。

でも、その大きな目の中に、

今度(こんど)は、

きれいな(ほし)が、またたいていました。


赤い魚は、

下に()けていた(かお)を、ゆっくりと()こしました。

そうして、

自分(じぶん)のすぐ目の(まえ)の、

心配(しんぱい)そうにしているヒカリの魚の、キラキラとした大きな目を見て、

(なに)()わずに、

ただ(やさ)しく、ほほ()みました。

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