96.天空にあらわれたレムリア
天空にあらわれたレムリア
それほど大きな宇宙船には見えなかった。それは外宇宙から飛来したものにしては、外装の合金もまだ輝きを失っていない。よく見るとさらに小型の、半ば壊れていて使い物にならない宇宙船を曳航していた。
「火星でとうとう動かなくなったナチュズン号だ、捨て去るには忍びない。あの星に連れて行ってやろう」
ゴラゾム亡き後、虫人たちを率いたのはルノクスの三騎士の通信を信じ、レムリアにまっすぐ火星に向かう指示を出した「ビートラ」だった。三騎士は火星に立ち寄ったビートラを叱った。なかば泣きながらだ。
「何と、一刻も早く地球へ向かうお約束でしたのに、そんなことで今後どういたしますかっ!」
レムリアが着陸したときに、シュラのリードが艦底に吸着した。そしてそのとき、出芽したヒドラが曳航される「ナチュズン号」に滑り込んだ。
オロスから、飛来したレムリアがモンゴルの天空に現れた。そこはヒメカの奥義により、再び草原に戻っていた。
「何と、美しい草原だ。リカーナ、そうは思わないか?」
「はい、この草原の上を歩くと、ルノクスを思い出します」
艦内で母となったリカーナが答えた。王女マンジュは三騎士からのメッセージを受け取り、レムリアの進路を決めてのち、力尽きたのかずっと眠り続けていた。ようやく目覚めたのは、先ほどのことだった。つないだ手を離すと、マンジュは草むらにしゃがみ込み、大地に手を押し当てると母を見上げた、しかしそれは少し沈んだ顔だ。
「母様、何一つ生き物がいない。この大地は眠ったまま……」
「ええ、そうね。この草原には遠いルノクスと似たところがあるわ。マンジュ、あなたのお祖母様に似た不思議な感じ……」
「リリナおばあ様?」
リカーナにも不思議だった。この星に、リリナが来たことなどあろうはずがない。しかし、彼女の直感は正しかった。ヒメカの「ツチムスビ」は再誕術に似たものだったのだ。今、リカーナとマンジュの話しを続けるのはやめておこう。ただ、この草原共々レムリアはリカーナの持つ「マナ」の力により後に異界に運ばれた。それが虫人の国「レムリア王国」となったことは事実である。そして再び剥ぎ取られた大地を晒すモンゴルに、サクヤは着陸したのである。
「この、酷く傷ついた大地は、シュラのせいに違いない。でもここにも虫人の気配はないわ、シュラの気配もない。そのシュラを破壊したのはいったい誰?」
不完全だったとしても、シュラを破壊出来るほどの先住民がこの地球にいることはサクヤにとり、想定外のことだった。モンゴルで切り離された小型の宇宙船「ナチュズン号」をサクヤは初めて見た。半壊したそれに近づいたナナは、小声でささやいた。
「そう、あなたは虫人達を守ろうとして、慌てて彼等と一緒に来たのね。可哀想に、『力』もそれほど残っていない。私があなたの思いを引き継ぐわ、この地に宿りなさい。そしておやすみ、ヒドラ……」
ナナの言葉を待っていたかのように、ヒドラが地中に沈む。それが「シャングリラ」、最初に出芽したヒドラだ。ナナとヒドラ・シャングリラに言葉は不要だった。